「なぜ?」は人ではなくプロセスに向ける。成果に直結する「なぜなぜ分析」のコツ

考えているイメージ

「なぜ?」を5回繰り返すことで問題の根本原因を特定し、解決策や再発防止策を導き出す分析手法とされる「なぜなぜ分析」は、日本が誇る世界的大企業・トヨタ自動車の仕事術として広く知られています。しかし、ただ単に「なぜ?」と繰り返すだけでは不十分だと言うのは、かつて自身もトヨタグループに所属し、現在は経営コンサルタントとして活躍する森琢也さん。実践経験に基づく、「なぜなぜ分析」を効果的に活用するコツを教えてくれました。

構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人

【プロフィール】
森琢也(もり・たくや)
1984年7月11日生まれ、東京都出身。株式会社クック・ビジネスラボ代表取締役。中小企業診断士。2007年に明治大学商学部卒後、トヨタグループの大手自動車部品会社(デンソー)に入社。配属された経営企画部署では、製造現場でのトヨタ生産方式の浸透、グループ会社支援など、数千億円ビジネスの全体像を学ぶ。事業企画に異動後は、採算改善プロジェクトのリーダーとして、世界5拠点で生産する新製品の採算V字回復などに携わる。約10年の勤務後、リクルートマネジメントソリューションズに転職し、研修講師の採用・育成を担当。トヨタグループでの経験を活かして、コストと工数を大幅に削減しつつ、3年間で延べ8,000人を超える40代以上ハイクラス人材の選考を行なう。2020年に独立後は、経営コンサル事業にて、中小企業向け事業計画作成・実行支援を行ない、補助金獲得総額5億円超、採択率90%以上を達成。また、研修事業では、大企業からの直接受注を中心に累計100社以上、参加者数6,000人以上に研修を実施。複数の仕事(事業)に同時に取り組んできた経験もふまえ、組織や個人の仕事の生産性向上を支援している。

仕事ができないのは、「目的」が見えていないから

経営コンサルタントとして多くのビジネスパーソンを見てきたなかで、「自分なりに頑張っているつもりなのに、思ったように成果を挙げられない」と悩んでいる人に数多く出会ってきました。その原因はさまざまですが、特に目立つのが「目的を明確に認識できていない」というケースです。

この「目的意識の欠如」が招く問題を示す一例として、私が行なっている研修のエピソードを紹介しましょう。私の研修では、参加者に自分の名札をつくってもらうというのをよく行ないます。A4の紙を立体の三角柱のかたちに折って、自分の名前を書き入れるだけの簡単な作業ですが、そうしてできあがる名札は人それぞれで、興味深いものがあります。三角柱の3面すべてに大きく名前を書いたうえでふりがなまで振っている人もいれば、1面にしか名前を書いていない人、字が小さい人、読むのが難しい名前なのにふりがなを書かない人もいます。

ここで大事なポイントは、名札は自分のためにあるものではないということです。周囲の人に自分を知ってもらうという目的を果たさなければ意味がありません。その目的を意識できていれば、「3面のすべてに大きく名前を書いたうえでふりがなも振ったほうがいいだろう」という判断がすぐにできます。そのような人が、仕事で成果を挙げられる人です。

対して、1面にしか名前を書いていない人や字が小さい人、読むのが難しい名前なのにふりがなを書いていない人は、私から「名札をつくってください」と言われたからそうしただけに過ぎず、名札をつくる本当の目的にまで考えが及んでいないわけです。

これを仕事の場で考えると、それらの人たちは「なにも考えずに上司の指示に従う人」です。指示の目的をきちんと認識できていませんから、状況が変化したりトラブルが起きたりしたときに、臨機応変に対応することもできないでしょう。すると、間違いなく、成果から遠ざかることになります。

仕事ができないのは、「目的」が見えていないからだと語る森琢也さん

「なぜ?」に「ほかには?」も加え、思考に広がりをもたせる

その目的を明確化するために有効なのが、「『なぜ?』を5回繰り返す」という「なぜなぜ分析」です。私がかつて所属していたトヨタグループの仕事術として有名なので、知っている人も多いでしょう。先の例で言えば、事象に対して「なぜ?」と問いかける癖がついている人は、「なぜ名札をつくるのか?」と問いかけることができ、そこにある目的を明確に認識できるので、周囲の人に自分の名前を効果的に伝えることができます。それこそが、成果です。

なぜなぜ分析は、仕事の目的を明確化する、あるいはなんらかのトラブルの原因を探るような場合にとても有効なものです。しかし、なぜなぜ分析を実践するにも、やみくもに「なぜ?」を繰り返せばいいわけではありません

その理由は、日本語の「なぜ?」「どうして?」「なんで?」という言葉には、「人を責める」ニュアンスが多分に含まれるからです。特にトラブルの原因を探るケースにおいては、このニュアンスの「なぜ?」が自分に向かえば自分を責めることになりますし、他人に向かえば他人を責めることになります。組織レベルで言えば、異なる部署間で責任を押しつけ合うことにもなりかねません。トラブルの原因を突き止めて再発を防止する目的を果たせないのです。

ですから、「なぜ?」を向ける対象を明確にする必要があり、その対象は、「やり方」「進め方」など仕事のプロセスにするのが基本です。上司の指示になぜなぜ分析を当てはめるなら、「なぜこの指示があったのか?」「なぜこのやり方なのか?」といった具合です。

加えて、「水平思考」を意識するのも大切なポイントです。「なぜ?」を繰り返すのは、ひとつのことについて深掘りしていく「垂直思考」にあたります。もちろん垂直思考も大切なのですが、それだけでは広がりがなく重要な事柄を見逃してしまう可能性もあります。そこで、「ほかのやり方はないか?」など、「ほかには?」という問いかけも加えることで思考に広がりが生まれ、真の目的や真の原因に到達しやすくなるのです。

なぜなぜ分析と水平思考の図

「都合の悪い情報」を積極的に集める

また、「都合の悪い情報」から目を逸らさないことも、なぜなぜ分析を活用するうえで忘れてほしくないポイントです。「なぜ自社製品の売れ行きはよくないのか?」というトピックについて考えるケースなら、たとえば「開発費が足りないから」「人員が足りないから」といった原因らしきものがいくつも挙がるはずです。

でも、自社よりもずっと小規模で開発費も人員も十分とは言えない他社が、しっかりとヒット製品を世に送り出している事実があったとしたらどうですか? それは、「開発費が足りないから」「人員が足りないから」ということを原因とするには、まさしく都合の悪い情報です。

ただ、私たち人間には「自分に都合のいい情報ばかりを集めようとする」というバイアスがそもそも備わっているため、逆に都合の悪い情報からは目を逸らしたくなるのです。しかし、そうした情報を無視しているようでは真因に達するのは難しくなりますから、むしろ都合の悪い情報を積極的に集めるくらいの姿勢がちょうどいいでしょう。

そして、「他人を頼る」ことも忘れないでください。なぜなぜ分析がいかに優れたメソッドだとしても、自分ひとりで「なぜ?」を繰り返すだけでは思考が行き詰まって当然です。仕事の目的を明確化するにせよトラブルの原因を探るにせよ、「私の考えに対して、あなたはどう思う?」と周囲に聞いてみましょう。自分だけで考えていたときには思いもよらなかった視点からの意見を得られ、なぜなぜ分析の精度も飛躍的に上がっていくはずです。

成果に直結する「なぜなぜ分析」のコツについてお話しくださった森琢也さん

【森琢也さん ほかのインタビュー記事はこちら】
成果を出す人は「まじめに手を抜く」。トヨタ式マネジメントに学ぶ無駄ゼロの仕事術
世界のトヨタが実践する「捨てる技術」。仕事ができる・できないは、デスクを見ればわかる

トヨタで学んだハイブリッド仕事術
【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)

1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。

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