"コラム法"で気づいた思考の罠 〜体力の限界を感じていた私が変われたシンプルな方法〜

デスクで考え事をする女性

悩みや不安は誰にでもつきものです。しかし、考えすぎるあまり身動きがとれなくなってしまえば、様々な機会を逃してしまいかねません。
多くの場合、私たちは以下のような「思考の罠」に陥りがちです。

  • 完璧を求めすぎること
  • 論理的になりすぎること
  • 自分の気持ちをないがしろにすること

これらの思考の罠に陥ってしまわないようにするにはどうすればよいのでしょうか。

本記事では、これらの思考の罠について考察し、実践を通して克服する方法をご紹介します。

思考の罠の具体的な影響

先ほど挙げた3つの思考の罠について、具体的に見ていきましょう。

1. 完璧を求めすぎる

完璧を求めすぎると、生産性の低下や意思決定の遅延を招きかねません。 たとえば、以下のような傾向はありませんか?

  • 自己批判が強いがゆえに「自分はまだ力不足で準備が足りない」と考え、挑戦を先送りする
  • 「もっと良い選択肢はないか?」と考え続けるあまり、決断が遅れる
  • 予測できない状況に不安を感じ、柔軟に対応できずにチャンスを逃す

この影響を示す興味深い研究があります。ダルハウジー大学が教授らを対象に行った調査では、「完璧主義だと自己報告していた人は論文の発表数が少なく、ジャーナルで引用されることが同僚よりも少なかった」ということが明らかになりました。*1

この結果は、完璧を求めすぎることで、実際の成果や機会が減少する可能性を示唆しています。

2. 論理的になりすぎる

物事を論理的に考えることは重要ですが、論理的になりすぎることで、かえって様々な問題が生じる可能性があります。

論理的になりすぎると、以下のような困難に直面することがあります:

  • 仕事の流れやスケジュールといった計画に固執し、想定外の状況やチャンスが訪れても柔軟に対応できない
  • 論理的すぎるあまり相手の気持ちに寄り添えず、信頼関係を築けない
  • 常に思考を巡らせているため、心身ともに消耗してしまう

このような場合、「直感」を活用することも有効な選択肢となります。直感は迅速な意思決定が求められる場合に特に役立ち、その精度も熟考した場合と大きな差がないことが分かっています。

例えば、ある興味深い研究では、「慎重な分析のみに基づいて車を購入した人と直感に基づいて購入した人とでは、自分の判断に満足したのは前者が25%、後者が60%だった」という結果が報告されています。*2

このことは、論理的思考と直感的判断のバランスを取ることの重要性を示唆しています。

デスクにて、悩んでいる様子のビジネスパーソン

3. 自分の気持ちをないがしろにする

冷静な判断を行うためには、逆説的ですが、自分の感情をしっかりと認識することが重要です。

以下のような傾向がある場合、自分の気持ちを十分に認識できていない可能性があります。

  • 自分の本心やニーズとはかけ離れた、誤った選択をしてしまう
  • 感情のコントロールができず、爆発してしまう
  • 自分の意見や感覚よりも周りの意見を優先するあまり、他人に振り回されてしまう

東京大学大学院医学系研究科の西大輔教授は、このことについて次のように述べています。「自分の感情をしっかり見ていないと、感情に影響されたものの見方や受け取り方をしがちになり、冷静な判断が難しくなります。反対に、自分の中にこういう感情があるのだということをしっかり分かっていれば、その場に応じた適切な判断をしやすくなります」*3

つまり、自分の気持ちに早めに気づき、それを認識することは、物事を客観的に見て冷静に判断するための重要な要素となるのです。

鏡に映った自分を見る女性

実践! 「思考の罠」を克服するコラム法

思考の罠に陥っているかもしれないと感じたとき、具体的にどのように対処すればよいのでしょうか。ここでは、カウンセリングルームLe:self代表で公認心理師・臨床心理士の藤本志乃氏が推奨する「コラム法」をご紹介します。

コラム法とは

コラム法とは「自分を落ち込ませている考えをつかまえることでモヤモヤした気持ちをやわらげ、物事を柔軟に捉えられるようになることを目指す心理療法の手法の一つ」です。*4

今回は、最も手軽に実践できる「コラム法」を紹介します。これは以下の3項目を記録するシンプルな方法です。

  1. 出来事:思考の罠に当てはまる思考が生まれた状況
  2. 感情(%):そのときの感情の強さを数値で表す
  3. 考え:そのときに生まれた具体的な思考

さっそく実践してみた様子がこちら。

筆者によるワークの実践

筆者によるワークの実践

筆者によるワークの実践

実践の画像は筆者が作成した

実践例と効果

「コラム法」と聞くと難しく感じるかもしれません。しかし、実際に試してみると、思いのほか取り組みやすい方法でした。

筆者が実際にコラム法を実践してみると、思いがけない発見がありました。

項目に沿って書き出していくと、相反する気持ちの存在が浮かび上がりました。仕事やレッスンを通じて「力になりたい」という前向きな思いがある一方で、「休むのがこわい」という不安も強く、その間で板挟みになっている自分がいたのです。そして、その葛藤の中で確実に「体力的なしんどさ」が蓄積していました。

さらに記録を振り返ると、もっと重要な気づきがありました。「自分よりも忙しい人はたくさんいるのに」と自分を責めながら、実は「体力的な限界」という現実に直面していたのです。人の役に立ちたい、期待に応えたいという思いが強いからこそ、限界を感じている自分を受け入れられない。その結果、より一層自分を追い込んでしまう。

その仕組みは、こうでした。

  • 人の役に立ちたい思いが強いから、限界を認められない
  • 限界を認められないから、無理をして頑張り続ける
  • 無理が重なり、疲労が蓄積する
  • 疲れて思うように動けないことが増えると、さらに自己否定的になる

この悪循環を見つけたとき、解決の糸口も見えてきました。「力になりたい」という思いは大切にしながらも、自分の体力的な限界を受け入れ、時には「休息を取る」「無理な仕事は引き受けない」という選択をすること。それは単なる時間管理の問題ではなく、「自分の限界と向き合う」という考え方を受け入れる第一歩だったのです。

このようにコラム法を通じて自分の気持ちとじっくり向き合う中で、私は「自分の気持ちをないがしろにする」という思考の罠に陥っていたことに気づきました。前向きな思いと身体からのシグナル、その両方を大切にする必要性に気づくことができたのです。

たった3つの項目を書き出すだけのシンプルな方法。しかし、それによって見えてきた思考のパターンは、私の仕事との向き合い方を大きく変えるきっかけとなりました。

***

私たちは自分の思考パターンを通して現実を見ています。「完璧でなければならない」「すべてを論理的に説明できなければならない」「感情は押し殺すべきだ」。そんな思い込みが、かえって私たちの可能性を狭めてしまうことがあるのです。

コラム法は、そうした思考パターンに気づき、より柔軟な考え方を取り戻すためのシンプルなツールです。筆者の例のように、自分を縛る思考の正体を理解し、具体的な対処方法を見出すことができます。

悩みや不安を抱えているとき、まずは一度立ち止まって、自分の考えを丁寧に見つめ直してみてはいかがでしょうか。本記事がその最初の一歩となれば幸いです。

※引用部分の太字は筆者が施した

【ライタープロフィール】
澤田みのり

大学では数学を専攻。卒業後はSEとしてIT企業に勤務した。仕事のパフォーマンスアップに不可欠な身体の整え方に関心が高く、働きながらピラティスの国際資格と国際中医師の資格を取得。日々勉強を継続しており、勉強効率を上げるため、脳科学や記憶術についても積極的に学習中。

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