「どんなに頑張っても結果が出ない。ものすごく努力したのに……」
――そんなに落ち込まないでください。ベストセラーをもつ精神科医の Tomy 氏は、頑張っている事実を「将来の幸せ貯金」と呼びます。それに、頑張ることは “やり方” さえ間違わなければ「いまの財産」にもなりえるのです。
いつも健気で頑張り屋さんのあなたに、「頑張りどころ」を間違って損をしないための方法を3つ紹介しましょう。
1.「頑張る」を具体化
金銭的余裕がなく予備校に通えないまま、お金と時間を節約する独自の勉強法で東大に合格した布施川天馬氏によれば、東大生は「頑張る」という言葉をあまり使わないそうです。なぜならば、結果を出すには明確な目的・行動・最終目標が必要であるのに対し、「頑張る」という言葉は漠然として抽象的だから。
そうした不明確さは【時間】と【目的】の落とし穴になりやすいのだとか。たとえば、長い時間をかけて勉強しただけなのに「成果を出せるくらいたくさん頑張った」と感じてしまうこと。あるいは、どの科目で何点とりたいのか目的をハッキリさせないまま頑張ってしまい、要を得ない勉強になってしまうことなどです。これは仕事にも通じるはず。
そのため布施川氏は、次のように「頑張る」を具体化するようすすめています。
◎ 「頑張っている」を測る
「本気が出てきた」と感じたら、ストップウォッチを押して時間を測るだけ。こうすることで「長時間机に向かった=頑張った」という曖昧な感覚が消え、「いかに凝縮された時間を過ごすか」に意識が向くでしょう。頑張っているつもりだったが、じつは身が入っていなかった状況にも気づけるはず。集中できた時間のデータは、のちの勉強計画や、仕事のタイムマネジメントにも役立てられます。
◎ 「頑張るゴール」を言語化
たとえば勉強なら「今日は参考書を30分だけザッと読み、1時間で要約して、30分だけ練習問題を解く」、仕事なら「今日はタスクAを2時間で完了させ、タスクBは5割進める」といった具合に、数字を含んだ具体的なゴールを文字にします。ゴールが明確になれば、ムダなく効率よく努力を注げるとのこと。
2. いまの「頑張り」を疑う
異色のベストセラー『勉強の哲学』の著者で、立命館大学大学院教授の千葉雅也氏によると、私たちは会社や学校、家族や友人たちといった周囲のノリに合わせて生きているそうです。“ノリ” とは、周囲と同じようにするべきといった同調圧力の影響のこと。それは私たちの思考や行動の範囲を狭め、不自由にしているのだとか。
自分の意図だと勘違いして、「〇〇を学ぶべき」「△△を読むべき」「◇◇の順番でやるべき」などと周囲のノリで頑張っていると、他者には正解でも、自分にとっては間違った「頑張りどころ」に注力してしまうかもしれません。
そうならないよう、常にもうひとつの意識をもち、いつでも普段のノリ(習慣など)から抜けられるようにしておきましょう。それにはクリティカル・シンキング(批判的思考)が役立ちます。
グロービス経営大学院によれば、クリティカル・シンキングとは「客観的な視点・疑う姿勢」で考える力のこと。自分の思考や行動に対して懐疑的になりながら、自問を続けるのです。
- このやり方でいいのか?
- これが最適か?
- 見込みはあるのか?
千葉氏流に言えば、流れのなかで立ち止まり(疑って)、ノリを悪くすることで(同調圧力に影響されないことで)、自由になれます。それから目的とゴールを明確にして頑張れば、決して損はしないでしょう。
3.「頑張れる」を探す
安田女子大学准教授の川岸克己氏は、「頑張る」という言葉に以下ふたつの要素があると伝えています(※1. 参考にした紀要論文:「頑張る」における構造と変化, 2011/「がんばる」における新旧の意味要素, 2015)。
- 力を発揮する
- 困難に耐えて諦めない
さらに川岸氏は、下のような図を使い「頑張る」という言葉の意味を示しています。これによると、「頑張る」は “活発だけど不快(不快ながら活発に行動する)” という意味。そして、最も理想的な “活発で快” な状態を指すものとして「頑張れる=フロー状態」という言葉が当てはめられています。
フロー状態とは、何かに自然と没入し、好ましい結果を生む状態のこと。心理学者のミハイ・チクセントミハイ氏が提唱しました。
(※上の図は、STUDY HACKER|頑張って「バカを見る人」と「見ない人」の決定的違い。“4つのコツ” で正しい頑張りができるようになる。内の図に文字を書き足したもの。元図は、川岸克己(2011),「『頑張る』における構造と変化」, 安田女子大学紀要, Vol. 39, pp.11-19内の図を参考に作成)
川岸氏は、「苦しい『頑張る』」と「快適な『頑張れる』」の混同した使用が、人々に違和感を生じさせたと述べます。好意的に励まそうとしても、頑張りすぎて息切れしている人に「頑張って」と言えば、意図せず相手を追い詰めてしまうからです。
でも逆に、「頑張って」と言われた人が快適なら違和感は生じません。自分自身も快適であるよう心がけて頑張れば、「損をした」とは思わないでしょう。楽しく頑張る人を見て「ムダなことをしている」とは誰も思わないはず。
それに、仕事が楽しければ成果も上がると識者は言います。
『リモートワーク段取り仕事術』(明日香出版社)の著者で株式会社ビジネスウォリアーズ代表取締役の相原秀哉氏によれば、楽しい気持ちは視野を広げ、チャレンジ精神を高めるそうです。なおかつ楽しい気持ちは周囲に好影響を与えるので、評価も上々になるとのこと。勉強の場でも同じはずです。
だから、仕事にしても、勉強にしても、
- どんな環境なら自分は気分よく活動できるか?
- どう段取りすれば自分は快適に活動できるか?
- 何を目的にすれば自分は楽しく活動できるか?
といったことを探求し、誰が見ても楽しそうな “頑張り屋さん” になりましょう!
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「頑張りどころ」を間違って損をしないための方法を3つ紹介しました。頑張るあなたに、いいことがありますように。
(参考)
本の話 WEB|歴史に残る「哲学の古典」にして「究極のビジネス書」 『勉強の哲学』(千葉 雅也)
STUDY HACKER|頑張って「バカを見る人」と「見ない人」の決定的違い。“4つのコツ” で正しい頑張りができるようになる。
マイナビニュース|成果を上げながら定時で帰る仕事術(58) 仕事を楽しめば成果は後からついてくる
文春オンライン|勉強とは、自己破壊である――気鋭の哲学者・千葉雅也による本格的勉強論1
東洋経済オンライン|東大生断言!頭いい人ほど「頑張る」と言わない訳
ダイヤモンド・オンライン|努力が報われないときは、こう考えて!
グロービス経営大学院|【超図解】クリティカル・シンキングとは
川岸克己(2015),「「がんばる」における新旧の意味要素」, 安田女子大学紀要, Vol. 44, pp.1-9.
川岸克己(2011),「『頑張る』における構造と変化」, 安田女子大学紀要, Vol. 39, pp. 11-19.
Wikipedia|フロー (心理学)
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