社会人として勉強不足を感じつつも、具体的な行動に移せない方は多いはず。学生のように授業への参加や課題の提出が強制されるわけではないので、不勉強になってしまうのは当然です。
2019年、文具メーカー・ゼブラ株式会社が40~50代の正社員3,692名に行なったアンケート調査でも、「仕事のための新たな勉強が必要」と感じているビジネスパーソンは73.2%にものぼりました。しかし、実際に勉強習慣を継続している人は、たった31.2%だったのです。
今回は、勉強不足から生じるデメリットと、社会人が勉強するにあたって意識しておきたいことをご紹介します。本記事が、勉強不足を脱却する手助けになれば幸いです。
勉強不足な社会人はこうなる
学生でもないのに、社会人が勉強不足だと、どのような問題が生じるというのでしょうか?
時代の変化についていけない
学び続ける姿勢がないビジネスパーソンは、いずれ「時代遅れ」の存在になってしまうかもしれません。市場のトレンドやテクノロジーはどんどん変化していくもの。新しい情報に対して常にアンテナを張り、時勢を把握し続けることは、どんな職種にとっても不可欠です。
AIをはじめとする新技術がどんどん台頭し、さまざまな仕事が機械に代替されつつあります。セルフレジや自動音声案内、自動運転車など、「人間の仕事が減りつつあるな」と実感できる例はいたるところに見られますね。
現在あなたが就いている仕事は、10年後も変わらず存在していると言いきれるでしょうか? 人工知能研究者のマイケル・A・オズボーン氏は、「2040年頃までになくなるかもしれない職業」を以下のように挙げています。
- 銀行の融資担当者
- 不動産ブローカー
- 保険の審査担当者
- 簿記や会計の事務員 など
かつては人の手で行なわれていた証券取引が1980年代に完全自動化された例などを踏まえると、絵空事とは言えないでしょう。AI時代に対応するには、新しいテクノロジーへの理解を深めるのはもちろん、AIにできない仕事をこなせるビジネスパーソンとしてスキルアップし続けることが大切なのです。
人材価値が高まらない
勉強不足だと、ビジネスパーソンとしての「人材価値」が上がらないままになってしまいます。ここで言う人材価値とは、「社内における価値」および「社外における価値」です。
「社内における人材価値」とは、社内での成績や評価のこと。与えられた仕事をこなすだけでなく、業務に利用できるスキル・知識を主体的に学ぶことにより、仕事の質を上げ/幅を広げれば、昇給・昇進の可能性を高められます。
「社外における人材価値」とは、転職市場での価値です。いまの会社で使っているスキルや知識は、ほかの会社でも通用するとは限りません。社内で高く評価されているとしても、その評価に甘んじることなく、「もし他社へ移ることになった場合、自分のスキルはどれくらい通用するのだろうか?」と客観的に考えてみましょう。
現代において、終身雇用制度はほとんど崩壊しており、「会社に骨を埋める」ことが困難になっています。先述したように、技術やトレンドの移り変わりが激しいこともあり、会社そのものが突然なくなる可能性も考えなくてはなりません。いまの会社を離れる予定がなくても、「人生において転職は数回あるものだ」という前提に立ち、いまの会社だけでなく労働市場全体で通用する普遍的なスキル(ポータブルスキル)の形成を心がけましょう。
独立行政法人・情報処理推進機構が2017年に行なった、IT関連企業を対象にした調査では、勉強に時間を割いている人ほど年収が高い傾向があるとわかりました。年収は、ビジネスパーソンとしての価値を表す指標のひとつに過ぎません。しかし、ビジネスパーソンとして高みを目指すには、仕事以外の時間をどれだけ勉強にあてられるかが重要なようです。
視野が狭くなる
『東大合格者が実践している 絶対飽きない勉強法』(大和書房、2017年)などの著書をもつ弁護士・鬼頭政人氏は、勉強とは「他人の経験・思考を借用すること」であると述べています。
本を読むと、書かれていることを自分で体験したように感じられたり、自分ではとても思いつかない考え方に出会えたりしますよね。私たちが実際に経験でき、自力で考えられる範囲はごく狭いもの。しかし、勉強を通して多くの人の知恵をインプットすれば、自分の視野が拡張されていきます。
反対に、勉強不足だと、自分の経験に基づく限られたデータしか参照できないため、物事の判断が独断的になりがち。 たとえば、マーケティング戦略を立てるとき、「3C分析」「SWOT分析」といった分析手法を知らないと、「そもそもどうやって分析しよう?」と一から考えねばならず、途方もない時間・労力がかかるでしょう。なんとか結論を導けたとしても、そのような「自己流」の判断は、どれだけ正確なのでしょうか。
ビジネスパーソンとして見識を広げたい、スピーディに成長したいと望むなら、自分の経験則だけに頼らず、素直に先人の知恵をインプットしましょう。「実践で学ぶタイプだから」などと自分の勉強不足を正当化せず、貪欲に知識を吸収し続けるのが大切です。
勉強不足で悩む人におすすめのスキル
勉強不足だとは思うけれど、具体的に何を学ぶべきかわからない……。そんな人のため、社会人として学ぶべきスキルをご紹介しましょう。経営学者のロバート・L・カッツ氏は、ビジネスパーソン、特に管理職に求められるスキルとして、以下の3つを挙げています。
- テクニカルスキル :専門的な知識・スキル
- コンセプチュアルスキル :物事の本質をとらえるスキル
- ヒューマンスキル :対人関係のスキル
カッツ氏の理論に基づき、3つのスキルを磨くヒントをご紹介しましょう。
テクニカルスキル
テクニカルスキルとは、業務の遂行に直接必要なスキル・知識のこと。プログラマーならプログラミングのスキル、営業職なら商品についての知識などです。
テクニカルスキルを高める方法は、技術の解説書などを読んで勉強すること。資格や検定が存在するなら、資格の取得や検定試験の合格を目標に設定すると、勉強の方向性が明確になります。
業界専門の新聞や雑誌を読むこともおすすめです。業界における最新の情報がいち早く掲載されるため、テクニカルスキルがある程度身についている人はもちろん、これから高めていきたい人にとっても、学習の手がかりとして最適です。会社で購読されている専門紙(誌)があれば、最新号には目を通しておきましょう。
テクニカルスキルには、PCのソフトに関する知識・技術も含まれます。仕事でExcelやPowerPointといったOfficeシリーズのソフトを使いつつも、機能をフル活用できてない人は多いはず。テクニカルスキルを高める第一歩として、普段使っているソフトについて勉強し直すことから始めるのもいいですね。
【テクニカルスキルを勉強する方法】
- 解説書・専門書を読み込む
- 資格の取得を目指す
- 業界誌(紙)・専門誌を読んでみる
- 普段使っているPCソフトについて勉強し直す
【テクニカルスキル向上につながる一般的な資格の例】
資格 | 概要 |
---|---|
MOS | 「マイクロソフト オフィス スペシャリスト」の略。ExcelやPowerPointなどOfficeソフトを究めたい人に |
TOEIC/TOEFL | 英語力を測る資格。TOEICはビジネスで英語を使いたい人に、TOEFLは海外留学したい人に |
日商簿記検定 | 社内のお金の動きを記帳する、簿記能力の検定。経理・会計に携わる人のみならず、会社の仕組みや経営にを学びたい人にも |
中小企業診断士 | 企業の経営状況を診断し助言する、企業コンサルタントの資格。経営知識を身につけたい人にも |
販売士 | マーケティングや流通・小売に関する資格。小売業に携わる人に |
コンセプチュアルスキル
コンセプチュアルスキルとは、日本語に訳すと「概念化能力」。事象を分析して本質を取り出す能力です。あなたがカレー屋を営むなら、先述したテクニカルスキルは「カレーをつくるスキル」、コンセプチュアルスキルは「おいしいカレーの法則を導き出すスキル」だと言えるでしょう。
コンセプチュアルスキルが特に必要なのは、未経験の問題に対処するときや、まったく新しいものをつくりたいときなど。既知の問題なら誰かに対処法を教われますが、誰もが未経験の問題だとそうはいきません。問題の本質を分析し、自力で答えを導く能力が必要になるのです。
【コンセプチュアルスキルの活用例】
- 「商品Aがヒットした理由は○○である」と分析する
- 組織全体の状況や問題点を把握し、解決策を考える
- 分析から得た結果をもとに、新しいものをつくる など
経営コンサルタントの鳥潟幸志氏は、コンセプチュアルスキルを身につける方法として、「フレームワーク」を学ぶことをすすめています。フレームワークとは、マーケティング戦略や企業戦略などを考えるときに使う分析手法のこと。数学における公式のようなものです。
フレームワークを知っておくと、スムーズかつ高精度な分析が可能となります。ビジネスでよく使われるフレームワークは、以下のようなものです。
- 3C分析:「顧客」「自社」「競合」の観点でマーケティング戦略を立てる
- 4C分析:「顧客価値」「顧客にとってのコスト」「顧客利便性」「顧客とのコミュニケーション」の観点で製品の開発・改善策を考える
- SWOT分析:自社を「強み」「弱み」「機会」「脅威」の観点で分析する
- AIDMA:顧客の購買プロセスを「注意」「関心」「欲求」「記憶」「行動」の5段階で設計する
- ロジックツリー:問題を発見・解決する
- ピラミッドストラクチャー:論理的な思考を構築する
コンセプチュアルスキルを高めるには、上記のようなフレームワークを理解し、使いこなすことが第一歩です。フレームワークについてもっと知りたい方は「ビジネスに便利なフレームワーク18選【図解つき】」を、コンセプチュアルスキルをより深く知りたい方は「『概念化』の意味とは? 概念化能力のトレーニング法3選」を参考にしてみてください。
ヒューマンスキル
ヒューマンスキルとは、社内外の人と良好な関係を築き、仕事をスムーズに進める能力です。
すべての仕事は、同僚・上司・顧客など、ほかの人との関係で成り立っています。いくら優れた技術や知識をもっていても、ヒューマンスキルが欠如していれば、仕事でよい結果を出すことは不可能です。
ヒューマンスキルは、以下に挙げる7つの能力で構成されています。
- コミュニケーション力:人間関係を維持する
- ヒアリング力:相手の話を上手に聞き、理解する
- 交渉力:他者と交渉する
- プレゼンテーション力:伝えたいことを説明する
- 動機づけ:目標を設定し、自分の意欲を引き出す
- 向上心:高みを目指して努力を続ける
- リーダーシップ:組織を率いる
ヒューマンスキルを磨くには、仕事で実践経験を積むだけでなく、本などから学びを得ることも大切。もちろん、実践を通して成長できますが、本などで「正解」を知っておき、そのうえでトライ&エラーを繰り返すほうが速く成長できます。
以下では、ヒューマンスキルを構成する能力別のおすすめ書籍を紹介します。
コミュニケーション力
ヒアリング力
交渉力
プレゼンテーション力
動機づけ
向上心
リーダーシップ
社会人として勉強不足を感じている方は、テクニカルスキル・コンセプチュアルスキル・ヒューマンスキルの3つを意識し、勉強を進めてみてくださいね。
勉強不足を脱却するためのアドバイス
最後に、勉強不足の状態を脱却したい方に向けたアドバイスをご紹介しましょう。教育コンサルタントの小林正弥氏は、社会人が勉強に取り組む際の注意点を、以下のように挙げています。
顧客から逆算して勉強しよう
勉強の優先順位は、自分にとっての「顧客」から逆算して決めましょう。
基本的に、社会人の勉強における「ゴール」は、仕事の成果を向上することです。仕事の成果は、顧客をどのくらい満足させられたかにかかっています。一生懸命スキルを磨いても、そのスキルが顧客にとって無価値なら、社会人の勉強として意味がないのです。
たとえば、プログラマーであるAさんが簿記のスキルを磨いたとしても、業績アップにつながることはほとんどないはず。顧客がAさんに求めていることは「いいプログラムを組むこと」であって、簿記ではないからです(簿記ソフトのプログラムを組んでいるなどの場合は別)。
「これを勉強することで、顧客に何を与えられるだろう?」と、顧客中心で考えれば、何を学ぶべきか正しく判断できるはずです。
勉強法は人から教わろう
社会人の場合、勉強法は自分で考えるより、信頼できる人に聞いてみるのがおすすめです。自分が目指している目標をすでに達成した人、つまり会社の先輩や上司に話を聞いたり、目標とする人物の著書を読んだりするといいでしょう。
その理由は、勉強の目的が変われば勉強法も異なるから。たとえば、英語を勉強する場合でも、ビジネス会話で使いたい、留学したい、翻訳業に携わりたい……など、考えられる目的はさまざまです。商談で英語を使いたい人と、英語の小説を翻訳したい人では、目指す目標も勉強の内容も違うはずですよね。
それに、社会人が勉強に使える時間は少ないもの。自己流の勉強法を確立するまでに試行錯誤する時間は惜しいですよね。そんなとき、自分と同じ目標を達成した先人の勉強法を参考にすれば、効率よく進められるはずです。
安直なセミナー通いはNG
社会人の学習者が陥りがちなのが、安直な「セミナー通い」。明確な目的意識をもっているならいいのですが、「とりあえず行ってみよう」という漠然とした気持ちでは、お金や時間が無駄になってしまう場合が多いものです。
セミナーの利用価値は、自力ではどうしてもわからないことが出てきたときに生まれます。「人に教えてもらおう」と最初から受け身にならず、まずは独力でできる範囲のことを頑張ってみましょう。
勉強仲間をつくろう
ひとりで勉強していると、どうしても自分に甘くなり、妥協しがち。そこでおすすめなのが、一緒に勉強してくれる仲間をもつことです。
意欲の高い仲間と集まって勉強すると、サボりづらくなり、ひとりで勉強するより能率が上がります。頑張っている仲間の姿に刺激され、「自分も頑張らなきゃ!」とモチベーションが高まる効果もありますよ。
目的をもって読書しよう
読書するときは、「この本から何を学ぶか」という目標を決めておくことが大切です。ただ読むだけでは、「せっかく読み通したのに何も身につかなかった」ということになりかねません。また、学びたいことが明確でないと、重要性の低い本に多くの時間を奪われてしまう恐れもあります。
本を読んだときは、ただ満足を感じて終わるのではなく、「ノートにまとめる」「アドバイスを実行する」など、なんらかのかたちでアウトプットすることも心がけてください。
勉強不足の自分を変えたい方は、以上の5項目を意識しつつ、目的と手段を適切に対応させましょう。
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社会人は日々の仕事で忙しく、勉強不足になりがち。スキルアップ・キャリアアップを目指している方は、今回ご紹介した「3つのスキル」と「5つのアドバイス」を、ぜひ参考にしてみてくださいね。
(参考)
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佐藤舜
大学で哲学を専攻し、人文科学系の読書経験が豊富。特に心理学や脳科学分野での執筆を得意としており、200本以上の執筆実績をもつ。幅広いリサーチ経験から記憶術・文章術のノウハウを獲得。「読者の知的好奇心を刺激できるライター」をモットーに、教養を広げるよう努めている。