朝のルーティン多すぎ問題。良い習慣を積み上げるほど、失っているものがある

朝、ベッドから起き上がり伸びをする人の後ろ姿

早起きをして読書や勉強、トレーニング、瞑想——。

良いと聞いたことを、ひとつ、またひとつと朝に足していく——。気づけば、ルーティンは増える一方です。

充実した朝時間には満足感があります。ただその一方で、ふと「なんだかきついかも」と感じる瞬間はないでしょうか。

その原因は、「得られるもの」ばかりを数えて、「失っているもの」を見ていない点にあります。

何かを得るには、何かを手放さなければならない——。それはモーニングルーティンでも同じです。

本記事では、「見えない損失」に目を向けながら、習慣を戦略的に管理する方法について考えます。

「良いこと」を足し続けると、なぜきつくなるのか

AIについて学べば仕事が効率化できる。読書をすれば教養が蓄えられる——

このように、私たちは新しい習慣を始めるとき、その効果を期待して行動します。

もちろん、その期待される効果は価値のあるものでしょう。しかし、「得られるもの」の足し算だけをしていると、失っているものが見えなくなりがちです。

では、私たちは何を失っているのでしょうか?

東京未来大学モチベーション行動科学部講師の岩﨑智史氏は、「認知資源」の消費を指摘しています。*1

認知心理学では、注意や思考、判断を行うためにはエネルギーが必要だと考えます。このエネルギーのことを認知資源といい、使っていくと減っていきます。認知資源が減ってくると注意力が散漫になったり、疲労したりします。

つまり、朝のルーティンをひとつ増やすごとに、時間だけでなく、注意・判断・エネルギーといった認知資源も消費しているのです。

これは朝に限った話ではありません。仕事終わりにジムへ行き、体にいい食事を作り、入浴し、ストレッチをして、寝る前に勉強する——。そんな「良い習慣」も同じです。

どれだけ良い習慣でも、コストは必ずかかる。その視点を忘れないことが重要です。

手のひらに「コスト」と「ベネフィット」を載せた様子を表す画像

損失には2種類ある——コントロールできるものとできないもの

良い習慣にかかるコスト(損失)には、大きく分けて2種類あります。

  • コントロールできない損失:習慣を行なう以上、必ず消費される「時間」や「認知資源」
  • コントロールできる損失:その時間で「代わりに何をあきらめるか」——どの習慣を選ぶかで変えられるもの

たとえば、朝30分勉強をするとき、その時間があれば別のこともできたはずです。

コンサルティング企業Shikumu代表取締役の本山裕輔氏は、これを「機会費用」という言葉で説明しています。*2

機会費用とは、「本を読む時間を別の時間にあてたときに、得られたであろうお金」をさします。
たとえば、本を1冊読むのに2時間かかったとしましょう。その2時間を時給2500円の副業にあてていれば、5000円を得られたはずです。本の価格に目がいきがちですが、機会費用にも注意しておかねばなりません。

これは読書に限った話ではありません。朝の習慣ひとつひとつにも、「その時間で別の何ができたか」という機会費用が存在しています。

無自覚なまま習慣を積み上げると、何を失っているのかわからないまま消耗してしまうのです。

一方、「この習慣にはこれだけコストがかかる」と理解したうえで選択すれば、同じ損失でも納得感は大きく変わります。

無自覚な損失と、意識的な損失は別物です。自分で損失をコントロールすることが、「なんだかしんどい」を解決するヒントになるでしょう。

朝、部屋で伸びをする女性

損失を冷静に見るために必要なこと

では、どのように損失をコントロールすればいいのでしょうか。

そもそも私たちには、一度自分の意思で始めたことを、たとえ損失があったとしても継続しようとする傾向があります。

これは「サンクコストの誤謬」と呼ばれる心理現象です。

意思決定を専門とするTHE DECISION LABは、次のように定義しています。*3

サンクコストの誤謬とは、たとえ諦める方が明らかに賢明な選択であっても、すでに多大な投資(時間、お金、労力、感情的なエネルギーなど)をしてしまったことに対して、最後までやり遂げようとする傾向のことである。(※日本語訳は筆者が補った)

私たちは、すでに時間やエネルギーを投資したものに対して、論理的に損益判断をしにくくなってしまうのです。

たとえば、お金を出して教材を買い、1か月続けたプログラミング学習を「やめる」と決めるのは、どこか罪悪感がありますよね。

だからこそ、「何を失っているか」を可視化する仕組みが必要になります。

そこで参考になるのが、医師・起業家のアリ・アブダール氏が提案する「エネルギー投資ポートフォリオ」です。*4

これは投資のように、「何にどれだけのエネルギーを注いでいるか」を整理する方法です。

アブダール氏は、エネルギー投資ポートフォリオをつくっておくことは、次々と目の前に現れる「やりたいこと」の誘惑に抗うために極めて重要だとしています。*4

やみくもに良い習慣を積み上げるのではなく、自分の時間・エネルギー・認知資源を確認しながら、本当にやるべきことを選ぶことが大切なのです。

実際に「エネルギーポートフォリオ」を書いてみた

実際に、筆者もエネルギーポートフォリオを書いてみました。

アブダール氏がすすめる書き方は、次の通りです。*4

  1. 2列のリストをつくる
  2. 左側(リストA)に、将来の夢ややってみたいことを書き出す
  3. 右側(リストB)に、今エネルギーを投資している対象を書き出す

右側のリストBを書くときは、今投資できる時間とエネルギーに基づいて絞り込む必要があるとアブダール氏は言います。*4

筆者は、次のような視点を意識しながらリストを書きました。

  • これをするのに必要な時間とエネルギーはどのくらいか?
  • 同じ時間で、よりリターンの大きい習慣はあるか?
  • 同じ時間で、より少ないエネルギーでできる方法はあるか?
  • これをしなかった場合、代わりに何ができるか?

これらを余白にメモしながら、リストを書き進めました。

筆者が書いた「エネルギーポートフォリオ」

筆者が書いた「エネルギーポートフォリオ」
※画像は筆者が作成した

筆者が作成した「エネルギーポートフォリオ」の続き

筆者が作成した「エネルギーポートフォリオ」の続き
※この画像も筆者が作成した

筆者は夜に習慣を詰め込んでいるので、今回は「ナイトルーティン」について書き出しています。

こうしてエネルギーポートフォリオを書いてみたことで、筆者には気づきがありました。それは「家族との時間」という大きな損失を見落としていたことです。

そこで、一部の習慣を朝に回したり、ルーティンの頻度を毎日から週1回へ調整したりして、習慣を見直すことに。

これで「家族との時間」という損失を埋められたかというと、そんなに単純な話ではありませんが……エネルギーポートフォリオを書くことで、習慣にかかるコストや機会費用を把握しやすくなったと感じています。

何かを得るためには、必ず時間や認知資源などのコストがかかります。

その損失から目をそらさず、意識的に選ぶこと——。それが、無理なく習慣を続けるためのコツなのかもしれません。

FAQ|よくある質問

Q. 良い習慣なのに、なぜ続けるのが苦しくなるのでしょうか?

良い習慣には効果がある一方で、時間や認知資源といったコストも発生します。「得られるもの」だけに注目すると、無意識のうちにエネルギーを使いすぎてしまい、疲労感やストレスにつながることがあります。

Q. 認知資源とは何ですか?

認知資源とは、注意・思考・判断などに使われる脳のエネルギーのことです。習慣を増やすほど、「何をするか」を考える機会も増えるため、知らないうちに認知資源を消耗してしまいます。

Q. 習慣を減らすことに罪悪感があります。どうすればいいですか?

それは「サンクコストの誤謬」が影響している可能性があります。すでに時間や労力をかけたものほど、「やめる=無駄になる」と感じやすいためです。ただし、現在の自分に合っているかを定期的に見直すことも重要です。

Q. エネルギーポートフォリオはどのように作ればいいですか?

まず、「将来やりたいこと」と「現在エネルギーを使っていること」を書き出します。そのうえで、「どれくらい時間や認知資源を使うか」「本当に優先順位が高いか」を確認しながら整理すると、習慣の最適化につながります。

【ライタープロフィール】
藤真唯

大学では日本古典文学を専攻。現在も古典文学や近代文学を読み勉強中。効率のよい学び方にも関心が高く、日々情報収集に努めている。ライターとしては、仕事術・コミュニケーション術に関する執筆経験が豊富。丁寧なリサーチに基づいて分かりやすく伝えることを得意とする。