「毎日コツコツ努力をしているのに、参考書の内容をすべて理解できない……」
努力が足りないから? それとも頭がよくないから?――いいえ、そんなことはありません。一橋大学名誉教授の野口悠紀雄氏は、成績が伸びないのは頭が悪いからではなく「やり方を間違えていることが多い」からだと語ります。(カギカッコ内引用元:プレジデントオンライン|「成績が悪い学生は、頭が悪いのではない」まじめで長時間努力する人ほど成績が伸びない決定的理由)
視点を変えていままでのやり方を見直せば、あなたの誠実さは報われるはず。
今回の記事では、“まじめにコツコツ” やっていても失敗する理由と改善策をお伝えいたします。
【ライタープロフィール】
青野透子
大学では経営学を専攻。科学的に効果のあるメンタル管理方法への理解が深く、マインドセット・対人関係についての執筆が得意。科学(脳科学・心理学)に基づいた勉強法への関心も強く、執筆を通して得たノウハウをもとに、勉強の習慣化に成功している。
プレジデントオンライン|「成績が悪い学生は、頭が悪いのではない」まじめで長時間努力する人ほど成績が伸びない決定的理由
清水久三子(2017),『一流の学び方―知識&スキルを最速で身につけ稼ぎにつなげる大人の勉強法』, 東洋経済新報社.
日経ビジネス|8割を2割が生み出す「パレートの法則」 企業はどう活用している?
ダイヤモンド・オンライン|【山口周】努力は本当に報われる?「1万時間の法則」がデタラメな理由
東洋経済オンライン|東大生が実践「計画倒れ」をすんなり防げる簡単技
水上颯(2019),『頭を鍛える5つの習慣』,三笠書房.
サンクチュアリ出版 ほんよま|頭の回転が速い人ほど、「ぼーっとする」時間をつくる理由
失敗の理由1.「テキストを完璧に読もう」とするせい
勉強熱心な人ほど、参考書や教科書を最初からすみずみまで読み通したくなるもの。しかし、勉強用のテキストを読むときは ”完璧主義” を捨てていいのです。
「重要なことは全体の2割の部分に含まれ」ると述べるのは、前出の野口氏。これは勉強にも「応用でき」、重要な部分を「最優先に扱」うようすすめています。
方向を正しくすることによって、少ない努力で大きな結果を生み出すことができます。選択して集中することが必要なのです。
(カギカッコ内および枠内引用元:前出の「プレジデントオンライン」記事)
つまり、テキストのすべての章を、一文残さず丁寧に読むのは非効率。思いきって最重要である全体の2割に集中し、あとの補助的な情報は手を抜くのが社会人の勉強法としてベターなのです。
とはいえ、重要な部分の見極めが難しいと感じる人もいるでしょう。
人材育成コンサルタントで『一流の学び方』の著者の清水久三子氏は、次のように述べています。
どこを読むか、何がわかればよしとするのか。あらかじめその辺のアタリをつけておいて、目的をもって読み進めるのがベストです。
(引用元:清水久三子(2017),『一流の学び方―知識&スキルを最速で身につけ稼ぎにつなげる大人の勉強法』,東洋経済新報社. ※太字は編集部が施した)
さらに清水氏が推奨するのが、「最初に目次だけをザーッと見」て、学びたいものを見極めるやり方。アタリをつけたら、あたかも情報を検索するように「目当てのキーワードや使える文章を拾っていく」読み方が好ましいそうです。清水氏はこの読み方を「サーチ読み」と呼ぶのだとか(カギカッコ内引用元:同上)
サーチ読みの方法は以下のとおりです。
- 目次を見て学びたいことを決める
- 読みながら目的と一致するキーワードを拾っていく
- キーワードを拾ったら、ポストイットに箇条書きでまとめる
(枠内参考:同上)
筆者も、行動経済学の学び直しにサーチ読みを活用してみましたよ。
以下の画像をご覧ください。
(※写真は書籍に貼った付箋をはがして一か所にまとめたもの。)
清水氏の推奨する方法を参考に、まず、目次を見て知らない情報や気になる項目にアタリをつけ、付箋にタイトルを書きました。そのあと、サラサラと流し読みしながらキーワードを拾い、簡潔にまとめて付箋に書き出します。そして、そのつど該当箇所に付箋を貼りつけました。読書に要した時間はたったの10分ほど。
速読との違いは、あとでまとめる作業があるため、学習の理解度を下げない点です。キーワードを抜き出しながら自分で要約するうち、テーマを整理して理解できました。
サーチ読みは、 “要点をつかむ” のに適しています。この方法で多読すれば、学びたいテーマに関する複数の視点を得られ、考えや理解を深められるでしょう。ぜひ、勉強用の読書に活用してみてくださいね。
失敗の理由2.「時間」を基準に努力するせい
「朝は1時間勉強しよう」などと、「時間」を基準に努力していないでしょうか。勉強を時間量で測るのは最もわかりやすく達成感も得やすいものですが、まじめな人ほど ”多くの時間を費やすこと” が目的になる恐れも。勉強には「ノルマ」を設け、その達成度で努力の度合いを測るのが効果的ですよ。
才能よりも努力(=練習量)が重要だと示唆する「1万時間の法則」には、「人をミスリードする」欠点があると指摘するのは、『ニュータイプの時代』著者の山口周氏。(カギカッコ内引用元:ダイヤモンド・オンライン|【山口周】努力は本当に報われる?「1万時間の法則」がデタラメな理由)
「1万時間の法則」とは、『天才! 成功する人々の法則』のなかでアメリカの著述家マルコム・グラッドウェルが提唱したもので、まとめると次のとおりです。
- 音楽家やアスリートなどの成功者は、1万時間相当のトレーニング量を費やしている
- 1万時間より少ない努力で世界レベルに達した人はいない/1万時間の努力で世界レベルになれなかった人もいない
(枠内参考:同上)
これを見て、「1万時間努力すれば一流になれる……!」と感じる人もいるかもしれませんが、実際には努力と成果の関係はそう単純ではないようです。
プリンストン大学のメタ分析(2014年)によれば、「練習量の多少によってパフォーマンスの差を説明できる度合い」を各分野出したところ、下記のようになったそう。
・テレビゲーム……26%
・楽器……21%
・スポーツ……18%
・教育……4%
・知的専門職……1%以下
(引用元:同上)
特定の分野には練習量が寄与するものの、教育、知的専門職に関しては影響が小さいことにお気づきでしょうか。つまり、必ずしも時間をかけたぶんだけ成果になるとは限りません。注目すべきは勉強 “時間” ではなく 勉強 ”内容” なのです。
また、教育事業を行なう株式会社カルペ・ディエムで講師を務める、現役東大生の相生昌悟氏は、東大生は「計画スケジュール」をつくることはあまりなく、代わりに「ノルマをしっかり作っている」と語ります。その理由は、ノルマは「スケジュールよりも具体的に考え」る必要があるから。(カギカッコ内引用元:東洋経済オンライン|東大生が実践「計画倒れ」をすんなり防げる簡単技)
たしかに、「1時間語学の勉強」とだけ設定したら、漠然と問題集を解いたりリスニングしたりするだけで終えてしまう可能性があります。ですが、「問題を30問解く」「単語を50語復習する」とノルマを決めると目的が明確化され、より計画的に取り組むことができるのです。
加えて、ノルマを決めれば「リカバリーができる」利点もあると言う相生氏。(カギカッコ内引用元:同上)終わらなかったぶんが具体的な数字でわかるため、「今朝できなかった単語20語は10分の隙間時間に終わらせよう」と調整できるわけですね。
筆者も、日頃の勉強にノルマを設定することに。今回はリマインダー機能も使い、一日のノルマを細かく洗い出しました。以下の画像をご覧ください。
たとえば、「英単語30語」「英文法問題30問」……などのノルマを達成したらチェックして消します(1)。初日に残ったのは、「発達心理学」と「経済思想史」の読書のみ(2)。終わらなかったノルマは翌日の最優先事項として繰り越し、さらに新たなノルマも追加する(3)――このような具合です。
驚いたのは、ノルマを決めると、通常は1時間を要していた英語学習が40分ほどで終わった点。やるべき範囲を明確にしたおかげで、集中して取り組めたわけですね。みなさんもぜひ活用してみてください。
失敗の理由3.「チートデイ」を設けていないせい
毎日コツコツ勉強しているのに成果が望めないのなら、あえて「チートデイ」――怠ける日を設けて、メリハリをつけてみてはいかがでしょう。
クイズ番組東大王に出演する東大医学部卒の水上颯氏は、著書『頭を鍛える5つの習慣』のなかで「『才能』でも『素質』でもなく、『習慣』で僕はここまできた」と述べています。その習慣のひとつとして挙げているのが、勉強を「やらない日を決める」という意外なもの。(カギカッコ内引用元:水上颯(2019),『頭を鍛える5つの習慣』, 三笠書房.)
毎日平板に勉強するのではなく、メリハリをつけて学習効果を上げてきたというわけですね。
とはいえ、“怠ける” ことに罪悪感を覚える人もいるかもしれません。ですが脳科学の観点からすると、休息時間も脳は ”記憶の整理” をするために働いています。
精神科医の樺沢紫苑氏によれば、「『ぼーっとした状態』のとき、脳内では『デフォルト・モード・ネットワーク』(DMN)が活発に稼働」するとのこと。
脳はこれからの自分の身に起こりうることをシミュレーションしたり、自分の過去の経験や記憶を整理・統合したりしています。今の自分が置かれている状況を分析し、イメージや記憶を想起しながら、脳内で準備を整えているのです。
(カギカッコ内および枠内引用元:サンクチュアリ出版 ほんよま|頭の回転が速い人ほど、「ぼーっとする」時間をつくる理由)
休息のあいだ、脳はインプットした知識を整理したりつなげたりしながら、学習内容を定着させているわけですね。
勉強にのめり込む人ほど ”知識の整理時間” を意識し、勉強しない日を決めるのも大切。そのときの気分で休むのもいいですが、「日曜は美術や映画を鑑賞し、あとは勉強に集中しよう」「木曜は友人と遊んで、帰宅後に1時間勉強をしよう」などと計画を立ててみては。メリハリがつき、次の勉強にも取り組みやすくなるはずですよ。
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頭のよしあしは努力した時間や能力のみで決まるわけではありません。着目すべきは、努力の方法。正しいやり方で取り組めば、より賢く成長できるはずですよ。