音楽は勉強に効果的ってホント?

音楽が勉強にもたらす効果1

勉強中にBGMを流す方は多いと思いますが、「何か効果はあるのだろうか」「むしろ音楽のせいで集中力が低下していないか」と気になっていませんか?

音楽は、やる気を高めたりリラックスしたりする手段として大変役立つものの、個人差が大きく、逆効果になってしまう場合も。特に、歌詞のある曲は要注意です。

勉強中に音楽を流すメリット&デメリットを解説したうえで、勉強に効果的な音楽をご紹介しましょう。

音楽が勉強にもたらす効果

音楽が勉強にもたらす効果として、以下の3つが挙げられます。

やる気の向上

勉強や仕事の前に音楽を聴き、自分を奮い立たせている方は多いのではないでしょうか? 音楽を聴くとテンションが上がり、やる気が高まるのを感じますよね。

カナダ・マギル大学などの研究により、音楽を聴くと神経伝達物質の一種「ドーパミン」が増加すると判明しています。ドーパミンには意欲をかき立てる作用があるので、「勉強の内容を理解したい」「新しいことを学びたい」「試験に合格したい」という学習意欲の向上も期待できるのです。やる気を出すために音楽を聴くのは、脳科学的に合理的だと言えるでしょう。

このように、音楽を「精神的な活力剤」として利用することは、いまに始まったわけではありません。働きながら歌って元気を出す「労働歌」の風習は、古来から世界各地でみられます。「ソーラン節」や「ヨイトマケ」などの民謡、ブルースのルーツとなった「フィールドハラー」も、農業や漁業の作業中にうたわれた労働歌でした。作業中にイヤホンやスピーカーで流す音楽は、現代版の「労働歌」かもしれませんね。

ストレスの緩和

勉強にともなうストレスを減らし、気分をリラックスさせてくれるのも、音楽のパワー。勉強するのがつらいとき、疲れを感じたときは、好きな音楽を流すことで気分が軽くなるはずです。

音楽のストレス緩和効果には、科学的な裏づけがあります。シモーヌ・ダラ・ベラ教授(カナダ・モントリオール心理学部)らが2003年に発表した実験では、被験者に人前でスピーチと暗算の課題をさせ、ストレスホルモン「コルチゾール」を測定。課題後に音楽を聞かなかったグループはコルチゾールが増加し続けた一方、音楽を聞いたグループではコルチゾールの増加が止まったのです。

音楽のストレス緩和効果は、病院の手術室でも活用されています。心臓外科医の手取屋岳夫氏によると、気持ちを落ち着かせるなどの目的で手術中にBGMを流す外科医が多いそうです。

集中力の維持

あまりにも静かな環境だと、じつは気が散りやすいもの。適度に音のある環境のほうが集中できるのです。シンと静まり返った図書館で、息が詰まるように感じ落ち着かなくなった経験はありませんか?

心理音響学などを専門とする辻村壮平・准教授(茨城大学)によると、静かすぎる環境では、

  • 紙をめくる音
  • 椅子を引く音
  • せき払い

など、自分の出す音が大きく聞こえるので、「うるさくないかな」「静かにしなきゃ」と気にすることになります。脳の容量の一部が気づかいに割かれるので、集中力が下がってしまう場合があるのです。もちろん、ほかの人が出す音や声、時計の秒針など些細な物音も耳につきやすくなります。

その点、音楽や物音が常に聞こえる環境なら、音が音に紛れるため、ノイズが気になりにくいもの(マスキング効果)。にぎやかなカフェで自分や他人がクシャミをしても、図書館よりは気になりませんよね。

静かすぎて落ち着かないときは、うるさくない程度の音楽を流すことが、勉強への集中に効果的です。

音楽が勉強にもたらす効果2

勉強中に音楽を流す問題点

音楽には勉強をはかどらせる効果が期待できますが、いくつかの注意点もあります。

効果にムラがある

音楽の効果には個人差があります。集中できる人もいれば、気が散る人も。「どのくらいの頻度で音楽を聴くか」「そもそも音楽が好きか」などで変わるのです。もちろん、状況によっても左右されます。

専門家らの研究でも、一定の結論は得られていません。「音楽を流すと作業効率が上がる」という論文も「下がる」とする論文もあり、手法によってさまざまな結果が出るようです。

そのため、音楽の効果を勉強に活用するには、ある程度の経験も必要。「この曲を聞くと効率が上がる」「この作業では、このジャンルの音楽だとはかどりやすい」など、自分の傾向を確認しておきましょう。

ちなみに、筆者は「アップテンポな曲を1曲リピート再生すると集中しやすい」という経験則にのっとり、集中力がないと感じたときは、このやり方で気分を変えています。

複雑な勉強には向かない

脳神経科学などを研究する池谷裕二教授(東京大学)によると、音楽の効果は単純作業でのみ発揮されるのだそう。「数学の難問を解く」「論文を書く」のように複雑なことをしているときは、心理リソースが「音楽を聞く」ことにも割かれてしまい、集中力が低下するとのことです。

ほかにも、以下のように思考力が必要な作業では、BGMが邪魔になってしまいそうですね。

  • 本や参考書で新しい知識を吸収する
  • 外国語を読む
  • 複雑な問題を解く

集中の具合や勉強の内容に合わせ、BGMの有無を切り替えましょう。

脳が疲れる恐れがある

勉強中に音楽を流すと「マルチタスク」状態になり、脳の負担が増えるリスクがあります。マルチタスクとは、複数の作業を同時にこなす「ながら作業」のこと。以下のように、ふたつ以上のタスクを同時に処理している状態です。

  • 音楽を聞きながら勉強する
  • テレビを見ながらネットサーフィンする
  • ラジオを流しつつテレビゲームで遊ぶ

脳科学を研究する枝川義邦教授(早稲田大学)によると、マルチタスクは脳にダメージを与え、脳機能の低下につながるそう。音楽に意識を奪われることが多い場合、マルチタスク状態になっている可能性が高いため、曲を変えるか止めましょう。

勉強中に流すなら、脳で処理する情報がなるべく少ないような音楽です。筆者の経験では、同じフレーズが繰り返されるヒップホップのような曲や、もう何十回も聞いた曲が向いているように思います。逆に、以下のような曲は不向きでしょう。

  • 感動して聴き入ってしまう曲
  • つい耳を傾けてしまう大好きな曲
  • 歌詞がある曲

このように、音楽の聞き方や選び方が適切でないと、勉強がはかどるどころか逆効果になる場合もあるので、十分に注意してください。

音楽が勉強にもたらす効果3

勉強に効果的な音楽

では、勉強にはどんな音楽が効果的なのでしょうか? 目的・状況別にご紹介します。

勉強前の「重低音系」

勉強を始める前にテンションを上げたいなら、ハードロックやヒップホップなどの「重低音の音楽」がおすすめ。ベースやドラムの音が強く、ズンズンと低音が響くタイプです。

おすすめする根拠は、消費者行動などを研究するデリク・ラッカー教授(米ノースウェスタン大学)らによる2014年の研究。楽曲の低音部を調整し、同じ曲の「重低音バージョン」と「軽低音バージョン」をつくって被験者に聞かせたところ、「重低音バージョン」のほうが、エネルギッシュな心理状態を生みやすかったのです。

同研究の別の実験では、以下の3曲が、被験者を力強い気分にする「ハイパワーな楽曲」とされました。参考にしてみてください。

  • Queenの「We Will Rock You
  • 2 Unlimitedの「Get Ready for This
  • 50 Centの「In Da Club

勉強中の「インストゥルメンタル」

勉強中のBGMとして無難なのは、歌詞のない曲。みなさんにも経験があると思いますが、つい耳が歌詞の言葉を拾い、気が散ってしまうためです。

人間工学などを専門とする本多薫教授(山形大学)らによる2009年発表の論文では、歌詞のある音楽を聞くと作業精度が低下する傾向が示されました。

  • 音楽+歌詞
  • 音楽のみ
  • 無音

という3種類の状況下で被験者に文章課題を解かせたところ、「音楽と歌詞」で最も誤答率が高かったのです。勉強中は、楽器のみで構成された歌詞のない曲を流すとよいでしょう。

不安なときは「ヘヴィメタル」

「試験に落ちたらどうしよう……」
「自分には無理なんじゃないかな……」

勉強に関しては、さまざまな不安を感じやすいもの。ネガティブな感情にとらわれ、勉強に身が入らないことはありませんか?

そんなときにはヘヴィメタルがおすすめです。脳科学者の中野信子氏によると、ヘヴィメタルには、プレッシャーを一時的に忘れさせる効果があるそう。モヤモヤした感情に襲われたときは、ヘヴィメタルの爆音に身を委ね、気分をリフレッシュしましょう。

ストレス解消に「気分に合う曲」

心を癒やしたいなら、そのときの気分に合った曲を選ぶのが原則。悲しいときには悲しい曲を、怒っているときには怒りの曲を聞くことで、ストレスを解消できます。

音楽療法士の高本恭子氏によると、この効果は音楽療法における「同質の原理」に基づくもの。心情に合う曲を聴いて「共感」することにより、精神の安らぎを得られるのです。

逆に、自分の感情に反した曲を聞くと、ギャップにイライラしてしまうのだとか。悲しいときに明るい曲を聞けば、「私はこんなに悲しいのに、能天気なことを歌いやがって」と感じるかもしれません。へこんでいるときは無理に気分を高めようとせず、悲しみにひたれる曲を聴いたほうが、ストレスを解消できるのです。

注意力を高める「ホワイトノイズ」

音楽ではありませんが、「ホワイトノイズ」もおすすめです。ホワイトノイズとは、低音から高音まで、さまざまな周波数の音が均等に混じっている雑音。テレビの砂嵐のような「ザーッ」という音です。なぜかずっと聞いていたくなるような心地よさがあります。

このホワイトノイズには、注意力や認知能力を高める効果が期待できます。言語聴覚士のアンソニー・アングウィン准教授(豪クイーンズランド大学)らが2017年に発表した研究によると、被験者にホワイトノイズを聞かせながら単語を覚えてもらったところ、無音の環境よりも記憶の精度が高まる傾向があったそうです。

ホワイトノイズには、新幹線や飛行機に乗っているときの「ゴォーッ」という音も含まれます。「新幹線や飛行機のなかだと、なぜか読書や作業がはかどる」という人は、勉強中のBGMとしてホワイトノイズを試してはいかがでしょうか?

以上、5種類の音楽(音)を紹介しました。音楽の効果を勉強に活かしたい方は参考にしてみてください。

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音楽には、やる気を引き出したりストレスを減らしたりと、勉強に役立つさまざまな効果が期待できます。ご紹介した音楽の選び方・使い方を参考に、BGMを最大限に活用してください。

【ライタープロフィール】
佐藤舜

大学で哲学を専攻し、人文科学系の読書経験が豊富。特に心理学や脳科学分野での執筆を得意としており、200本以上の執筆実績をもつ。幅広いリサーチ経験から記憶術・文章術のノウハウを獲得。「読者の知的好奇心を刺激できるライター」をモットーに、教養を広げるよう努めている。

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