仕事で完璧を求めすぎていませんか?
締切までまだ時間があるのに、気になる箇所が見つかるたび修正してしまう。プレゼン資料の体裁を整えることに予想以上の時間を使い、肝心の準備が後回しになることもある。完璧な成果を目指すあまり、優先順位が狂ってしまう。
メールの文面も、議事録も。ちょっとした表現の揺れが気になって、送信前に何度も見直している。理想の完成度を追求するほど、仕事の効率は落ちていく。
仕事における完璧主義の特徴は、一見するとビジネスの美徳のように思えます。しかし、それがあなたの成長を妨げ、パフォーマンスを下げている可能性もあるのです。本記事では、完璧主義の傾向がある方に向けて、その長所を活かしながら成果を上げる具体的な方法をお伝えします。
仕事の質を下げる「完璧主義」の落とし穴
締切までの時間を気にしながらも、ついつい細部にこだわってしまう。そんな完璧主義的な仕事の進め方は、一見するとまじめで誠実な印象を与えます。しかし、この特徴が仕事の質を低下させる原因になっているかもしれません。
ラモン・リュイ大学 ESADEビジネススクール 助教授のアンナ・カルメラ G. オカンポ氏は、「完璧主義の特徴は、単に完璧を求める非合理的な欲求ではなく、成功しても不満が持続すること」と指摘します。高い成果を上げても、もっとできたはずだという自責の念から解放されないのです。「さらに悪いことに、成功を妨げることさえある」と同氏は警鐘を鳴らします。*1
仕事における完璧主義は、細部へのこだわりが強すぎて締切に追われたり、本質的な作業が後回しになったりする事態を引き起こします。自分の仕事に不安を感じ続け、新しい挑戦を避けるようになってしまうケースも。
では、この完璧主義とどう付き合えばいいのでしょうか。おおかみこころのクリニックの浅田慎太郎氏は、以下の4つの方法を提案しています。*2
- 「理想」と「現実」を分ける
- 「まあいいか」のマインドを持つ
- 「できなかったらどうなる」を想像する
- 完璧主義ではなく「最善主義」を意識する *2
それぞれの方法について、具体的な実践例とともに見ていきましょう。
1.「理想」と「現実」を分ける
【悪い例】
プロジェクトの計画段階で予測できない変更も完璧に対応しようとする
【よい例】
- 計画段階で20%程度の余裕を持たせる
- 想定外の事態への対応時間も確保する
- チーム全員で「理想の状態」と「許容できる範囲」を共有する
2.「まあいいか」のマインドを持つ
【悪い例】
報告書の体裁を何度も修正し、締切直前まで作業を続ける
【よい例】
- 最初に「これだけは必須」という項目を決める
- 作業時間に上限を設定する
- 完成度80%で提出し、フィードバックをもらう
3.「できなかったらどうなる」を想像する
【悪い例】
失敗を過度に恐れ、決断を先延ばしにする
【よい例】
- 最悪のケースを具体的に書き出す
- 実際の影響を客観的に評価する
- リカバリープランを準備する
4.完璧主義ではなく「最善主義」を意識する
【悪い例】
部下の仕事を自分の基準ですべて修正する
【よい例】
- 相手の成長段階に応じた期待値を設定する
- 努力のプロセスを評価する
- 改善点は建設的なアドバイスとして伝える
この4つの方法は、一見すると「手を抜く」ことのように感じるかもしれません。でも、これは限られた時間とエネルギーを最適に配分し、より本質的な価値を生み出すための戦略です。
たとえば、報告書作成において完璧な体裁を追求することと、その内容の本質を磨くことは、必ずしも比例しません。むしろ、形式面での完璧主義が、本来の目的達成の妨げになることもあります。締切に余裕を持たせることで生まれる時間的な余裕、他者に任せることで得られる新しい視点、80%の完成度で共有することで可能になる早期のフィードバック——。こうした「完璧ではない」選択が、結果として仕事の質を高めるのです。
では、これらの方法を具体的にどう実践すればよいのでしょうか。
完璧主義の悪影響に関するチェックリスト
精神科医のTomy氏は「以下の項目に一つでも心当たりがある人は、完璧主義だと考えてください」*3 と述べています。
- NOと言えない
- 期限は絶対守る
- キリのいいところまでやらないと気が済まない
- 自分がやらなくていい仕事も、いつの間にか自分がやっている
- 相手が期待した以上のことをやる *3
筆者は5つのうちすべて当てはまっていました。うすうす感じてはいましたが、自分はやはり完璧主義者だと認識しました。
完璧主義を手放すために「1週間チャレンジ」をやってみた
そこで、同氏の紹介する項目をもとにチェックリストを作成し、変化を記録してみることにしました。
【完璧主義緩和 1週間チャレンジ】
記録に使用したノート紙面がこちらです。
完璧主義緩和チャレンジ
12/2(月)
Today's challenge:メールを1日だけチェックし返信する。
初めは不安だったけど、問題なし。
12/3(火)
Today's challenge:いつも自分でやっている資料作成を部下に依頼。
予想以上の出来栄えにおどろく。
12/4(水)
Today's challenge:従来期限の2日前に資料を完成させる。
余裕をもって最終確認ができて、質が上がった気がする。
12/5(木)
Today's challenge:80%の完成度で提出する。
細かい体裁の調整は最小限に。追加のルールなし。
時間の使い方が賢くなった。
12/6(金)
Today's challenge:新規案件の依頼を断る。
緊張したけど、相手も理解してくれた。
自分の役割を守る大切さを学んだ。
★振り返り
・仕事の速度が上がった!
・チームの笑顔◎
・心にゆとりが生まれた
★今週のスキルレベル
・仕事を任せる機会を増やす
1週間のチャレンジを終えて、嬉しい発見がありました。当初は完璧主義を緩和することで仕事の質が下がるのではと心配でしたが、実際にやってみると違った効果が表れています。
メール処理を効率化し、部下に仕事を任せ、前倒しで締切に対応する。ひとつひとつの「手放す」選択が、新しい可能性を開いてくれました。
振り返りに書いた通り、「仕事の速度が上がった!」「チームの笑顔◎」「心にゆとりが生まれた」という変化は、私自身が予想もしていなかったものです。完璧主義を手放すことは、決して妥協ではなく、よりよい働き方への一歩になるのだと実感しています。
***
完璧主義は、本来、プロフェッショナルとしての誇りと責任感の表れです。だからこそ、その真摯な姿勢は大切にしたいところ。ただし、それを活かす方法はひとつではありません。
時には「これで十分」と決める判断力、いい意味で「まあいいや」と言える勇気を持ち、時には他者を信頼して任せる。そんなしなやかさを備えた完璧主義者こそが、今の時代に求められているのかもしれません。
今日から、どこかひとつ「これでいい」と決められる場面を探してみませんか? その小さな一歩が、あなたの仕事の可能性を広げていくはずです。
*1 DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー|完璧主義が仕事にもたらす負の影響に気づいているか
*2 おのかみこころのクリニック|完璧主義の人はうつになりやすい【やめたい人向け】治し方4ステップ
*3 東洋経済オンライン|完璧主義の人が陥る「超危険なサイン」重大な5つ </a
橋本麻理香
大学では経営学を専攻。13年間の演劇経験から非言語コミュニケーションの知見があり、仕事での信頼関係の構築に役立てている。思考法や勉強法への関心が高く、最近はシステム思考を取り入れ、多角的な視点で仕事や勉強における課題を根本から解決している。