部下を「その気にさせる人」と「萎縮させる人」は何が違うのか。フィードバックの”知識”が作る、チームの未来

部下へのフィードバックに悩む上司

「この分析では、お客様の課題解決には不十分だよね……」

目の前のレポートを見つめながら、あなたはため息をつきます。メンバーの力不足は明らかです。

でも、彼らなりに精いっぱい取り組んできた成果物。先週の努力も知っています。

指摘しなければいけないのはわかっている。でも、どう伝えれば前向きに受け止めてもらえるだろう……。そんな言葉選びに、またしても時間を費やしています。

チームの成果を上げるために必要不可欠な「フィードバック」。言葉を濁せば根本的な改善には至らない。かといって、厳しい指摘は相手の意欲を削ぎ、チーム全体の空気も重くしかねません。

「このあいだの言い方は、もっとよい方法があったんじゃないか」―—そんな後悔を何度も繰り返してきた方も多いのではないでしょうか。

しかし、効果的なフィードバック方法を知り、ちょっとした工夫を加えるだけで、この状況は大きく変わります。相手の成長を本気で願うからこそ、その思いを正しく届ける術が必要なのです。

この記事では、マネージャーやリーダーが日々直面するフィードバックの課題に対して、どうすれば相手の成長につながる前向きな対話にできるのか、具体的な例を交えながらご紹介します。明日のミーティングから、すぐに活かせるヒントが見つかるはずです。

1. なぜフィードバックが難しいのか

日々の現場で直面する課題

相手の成長を願うからこそ、適切なフィードバックを行ないたい―—。しかし実際の現場では、その思いを正しく伝えることの難しさに直面します。

たとえば、こんな場面を想像してみてください。重要なクライアントへのプレゼン資料を確認していると、データの分析が不十分なことに気づきます。

メンバーはたしかに時間をかけて取り組んでいる。でも、このままでは先方に価値を届けられない。改善は必要不可欠です。頭ではわかっているのに、「どう伝えれば前向きに受け止めてもらえるだろう」と、声をかけるタイミングを逃してしまう……。

フィードバックの本質的な難しさ

多くの場合、私たちは改善すべき点を明確に認識しています。伝えなければ問題は解決しないこともわかっています。しかし、適切な伝え方がわからず、結果として曖昧な指摘や一方的な注意に終始してしまいがちです。

こうした状況が続くと、チーム全体にも影響が出始めます。メンバーは必要以上に萎縮し、新しいことへの挑戦を躊躇するようになります。そして、本来あるべき「建設的な対話」の機会が徐々に失われていくのです。

変化への第一歩

しかし、ここで立ち止まる必要はありません。効果的なフィードバックの手法は、じつは明確な方法論として確立されているのです。次章では、すぐに実践できる具体的なフレームワークをご紹介します。

指示を無視される上司

2. 効果的なフィードバックの具体的手法

相手の成長を導く対話のために

改善点を伝えることの必要性は理解しているが、相手のモチベーションを下げたくない―—。この課題を解決するには、ふたつの要素が重要になります。ひとつは相手が前向きに受け止められる「安全な環境」づくり、もうひとつは具体的で建設的な「伝え方」です。

まず重要なのが、「心理的安全性」と呼ばれる信頼関係の土台です。これは難しく聞こえる言葉かもしれませんが、要するに「間違いを恐れずに発言できる関係性」のことです。

日頃から「あなたの成長を心から願っている」という態度を示し、相手が安心して質問や意見を言える環境があれば、改善の提案も自然に受け入れられやすくなります。

具体的で建設的な伝え方とは

そのうえで、フィードバックを具体的なかたちで伝えることが大切です。ビジネスの現場で特に効果を発揮しているのが、シンプルな3つの要素で構成される「SBI」というフレームワークです。

【SBIフレームワーク】

Situation(状況):いつ、どこで
Behavior(行動):具体的に何があったか
Impact(影響):それによってどんな結果が生じたか

このフレームワークを使った具体例を見てみましょう:

<フィードバック例>

「先週の営業会議でのプレゼン資料(状況)については、全体の構成がよく整理されていますね。一方で、データの分析がやや表層的だった(行動)ため、お客様の疑問に十分答えられませんでした(影響)。次回は、あなたの分析力を活かして、業界動向のデータも加えてみてはどうでしょうか?」

このアプローチには、3つの重要な要素が含まれています。まず、相手の努力を認める姿勢。次に、具体的な状況と行動、影響を示すことで「何を」改善すべきかを明確にすること。そして最後に、相手の能力を信じたうえでの具体的な提案です。

実際、このような建設的なフィードバックを実践している職場では、チームメンバーの主体性が高まり、業務の質も向上する傾向にあることが報告されています。相手を傷つけることなく、むしろ成長の機会として受け止めてもらえるのです。

では、このフレームワークを使って、具体的にどのような言い換えができるのでしょうか。次章では、さまざまな場面に応じた実践的な表現例をご紹介します。

建設的なフィードバックをしている

3. 意欲を引き出すフィードバックの具体例

日常的な表現をより効果的に

前章で紹介したSBIの枠組みを活用しながら、相手の意欲を引き出すフィードバックの具体例を見ていきましょう。特に重要なのは、問題の指摘だけで終わらせないことです。

<よくある表現>

「この分析、もう少し深めた方がいいね」
「グラフが分かりづらいので、作り直してください」
「もっと工夫の余地があるはずです」

これらの表現に共通するのは、改善が必要なポイントは示されているものの、具体的な方向性が見えないという点です。具体的な行動指示を加えて、これらを建設的な表現に変えてみましょう。

<建設的な表現への転換例>

例1:データ分析の場合
「顧客別の売上分析が体系的にまとめられていますね。ここに競合との比較分析も加えると、より説得力のある提案になると思います。当社の強みが一層際立つはずです」

例2:資料作成の場合
「情報量が豊富で、よく調べられていますね。ただ、このグラフは数値が多すぎて重要なポイントが埋もれてしまって、伝わりにくいかもしれません。月次の変化に注目して、折れ線グラフに変えてみませんか? 私も一緒に考えさせてください」

例3:企画提案の場合
「市場ニーズの分析が非常に鋭いと感じました。さらに説得力を増すために、成功事例も2、3件加えてみましょうか。一緒に探してみましょう」

効果的な表現の3つのポイント

これらの例に共通する重要な要素があります。

1. まず相手の努力や工夫を具体的に認める
2. 改善点を「よりよくするための提案」として伝える
3. 実現可能な具体的なアクションを示す

特に注目してほしいのは、すべての例で「一緒に改善していこう」と、同じ方向を向いていることを意識している点。

これにより、フィードバックが「指摘」ではなく「支援」として受け止められやすくなります。

次章では、このような建設的なフィードバックを継続的に行い、チーム全体の成長につなげる具体的な方法をご紹介します。

部下を励ます上司

4. フィードバックを成長につなげる継続的支援

一回のフィードバックで終わらせない

ここまで、建設的なフィードバックの具体的な方法を見てきました。しかし、せっかくの効果的なフィードバックも、その場かぎりでは真の成長にはつながりません。大切なのは、その後の継続的な支援です。

では、具体的にどのようなフォローアップが効果的なのでしょうか。次の例を見てみましょう。

<フォローアップの例>

【最初の目標設定】
「プレゼン資料の改善に向けて、具体的な目標を立ててみましょう。まずは来月の商品発表会に向けて、グラフの見せ方を工夫してみませんか? 社内のExcelオンライン講座も活用できますし、私も一緒に考えていきたいと思います」

【1週間後のフォロー】
「Excel講座はいかがでしたか? 基本的なグラフの作り方が分かってきましたね。実際のデータを使って、どんなグラフにすると分かりやすくなるか、一緒に考えてみましょうか」

【成果物に対する反応】
「前回と比べて、データの見せ方がとても工夫されていますね。特に月次推移のグラフは、重要なポイントがひとめで分かるようになりました。この調子でさらに改善していきましょう」

日常的な成長支援の仕組みづくり

このような継続的なフォローアップを効果的に行なうために、以下のような環境づくりを心がけると効果的です。

定期的な対話の機会を設ける
週次の1on1ミーティングなど、気軽に相談や報告ができる場を確保する

具体的な成長の機会を提供する
研修への参加や、新しいプロジェクトへの挑戦など、実践的な学びの場を用意する

小さな進歩も見逃さない
日々の改善や努力を具体的に言語化して伝える

このように、フィードバックを単なる指摘で終わらせず、継続的な成長支援につなげることで、チームメンバーの成長が加速します。次章では、これまでご紹介してきた内容を整理し、すぐに実践できるポイントをまとめます。

継続的なフィードバックで成長していく様子

5. 相手の成長を支えるフィードバックとは

ここまで読んで、「こんなに気を遣って部下を育てるくらいなら、AIと仕事をした方が楽なんじゃないか」と思った方もいらっしゃるでしょう。たしかに、AIは不平も言わず、疲れ知らずで、指示通りに動いてくれます。

しかし、ビジネスの現場で本当に強みとなるのは、想定外の事態における対応力や、指示の意図を理解した上での自発的な行動です。これは、まさに人だからこそ可能になること。AIは与えられた範囲で正確に動きますが、その枠を超えて新しい価値を生み出すことは、人間にしかできません。

効果的なフィードバックは、そう難しくありません。以下の3つを意識するところから始めてみましょう。

1. 具体的な改善案の提示
「このデータにグラフを追加すると、変化が分かりやすくなります」

2. 成長を促す表現の工夫
「ここを改善すると、あなたの分析力がより活きてきます」

3. 継続的なサポート
「次のプレゼンまでに、一緒に改善点を見ていきましょう」

最初はたしかに手間がかかります。しかし、この投資は、時として想定を超えるかたちで返ってきます。メンバーが自ら考え、判断し、新しい価値を生み出していく。そして、その姿勢は組織全体へと広がり、予測できないようなかたちで成果となって現れるのです。

部下への「面倒な」フィードバックは、じつは、あなたのチームに予測不能な可能性をもたらす投資なのかもしれません。

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さあ、明日から、あなたなりのフィードバックで、チームの新たな可能性を引き出してみませんか?

【ライタープロフィール】
STUDY HACKER 編集部

「STUDY HACKER」は、これからの学びを考える、勉強法のハッキングメディアです。「STUDY SMART」をコンセプトに、2014年のサイトオープン以後、効率的な勉強法 / 記憶に残るノート術 / 脳科学に基づく学習テクニック / 身になる読書術 / 文章術 / 思考法など、勉強・仕事に必要な知識やスキルをより合理的に身につけるためのヒントを、多数紹介しています。運営は、英語パーソナルジム「StudyHacker ENGLISH COMPANY」を手がける株式会社スタディーハッカー。

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