「ギリギリになるまで作業に取りかかれない……」
「何でも後回しにしてしまう……」
こうした先延ばし癖がある人の中には、「自分はなんて意志が弱いのだろう……」と落ち込む人も多いかもしれません。
しかし、医学博士の吉田たかよし氏は、「先延ばし癖は心の弱さから来るものではない」と言います。“癖” という言葉のとおり、先延ばしをしてしまう癖が脳に染みついているだけなのです。
であるならば、先延ばしをする脳の癖をなくせばいいのですが……こうした人たちの脳は意欲が低下している傾向にあるため、「○○しよう」「○○すべき」という言葉が重荷に感じられる可能性があります。
そこで注目すべきは、しないことをピックアップする「しないことリスト」。先延ばし癖を改善するために、何を “しない” べきなのか――これだったら、もっと楽な気持ちで自分を変えていけそうですよね。先延ばし癖を改善するためのヒントを説明していきましょう。
先延ばしする脳には “4つのタイプ” がある
前出の吉田氏は、先延ばしする脳を「先送り脳」と呼び、4つのタイプがあると分析しています。
- つい後回しにする「めんどうくさい脳」
- 完璧を目指してしまう「キチキチ脳」
- 自分を過信する「なんとかなるさ脳」
- 心配しすぎの「ネガティブ脳」
単純に「なんだかめんどうくさいな」という思いから先延ばししてしまうのか、「初めからパーフェクトにこなしていかないといけない」という重圧から行動が後手にまわるのか、「いざとなったら間に合うさ」という過剰な自信が先延ばしさせているのか、「うまくいくだろうか……」という不安が億劫にさせているのか……。
ただし、必ずしもひとつのタイプに限定されるわけではないとのこと。先延ばしする対象や自分が置かれている状況によって、複数のタイプが表れることもあります。たとえば、プライベートに関しては「めんどうくさい脳」だが、仕事に関しては「キチキチ脳」など。
みなさんはどのタイプでしょうか?
先延ばし癖を改善するための「10のしないこと」
というわけで、4つのタイプを網羅した、先延ばし癖を改善するための「10のしないこと」を考えてみました。
先延ばし癖を改善するヒントがここにある!
1つめ「夜更かしをしない」は、すべての脳タイプに共通する対策です。アムステルダム大学の研究のより、「睡眠の質」が翌日の先延ばし度に大きな影響をもたらすことが判明しています。根を詰める作業をしたりスマートフォンをいじったりして夜遅くまで起きてしまい、充分な睡眠をとらないまま朝を迎えることにはこんな弊害もあったのですね。睡眠不足の自覚がある人は、まずは生活習慣を改めて夜更かしをやめるところから始めましょう。
2つめと3つめ「やる気が湧くのを待たない」「最初から長時間頑張ろうとしない」は、「めんどうくさい脳」の対策としてリストアップしました。
脳神経外科医の築山節氏によれば、脳は基本的に変化に対応して動くとのこと。何もしていない状態では脳の活動が低下するので、ボーっとしてやる気が起こるのを待っていたところで、その時は来ないのです。
また、「めんどうくさい脳」の人が最初から長時間の作業に挑むのはNGとのこと。「まずは10分だけやってみよう」くらいの気持ちで取りかかるのがポイントです。なぜならば、やる気に関わる脳の側坐核は、実際に行動を起こしたときにこそ活性化するから。とりあえず手をつければ、やる気は自然と湧き出てくるものなのです。
4つめと5つめ「いきなり難しい課題に取り組まない」「『できて当たり前』と自分に厳しくしすぎない」は、完璧主義の人に多い「キチキチ脳」向けにリストアップしました。
築山氏によれば、脳は簡単なことをしようとするときによく動くのだそう。逆に「できそうもない」「何から手をつけたらいいのかわからない」と思ったら、意欲が起こらないのも当然。だからこそタスクを細分化して、小さな成功をひとつひとつ積み重ねましょう。たとえば、レポート作成ならば「資料のピックアップ」や「構成の考案」と細分化して考えるのがよさそうですね。
また、先延ばしていたことをやりきったら、「よく頑張った」と自分をほめるのも有効です。なぜならば、自分をほめると、やる気を高めるドーパミンという神経伝達物質が放出されるから。そのため、ご褒美を用意するのもひとつの手だと、築山氏は言います。
6つめと7つめ「デスク周りを散らかさない」「すぐにSNSやネットを見ない」は、「なんとかなるさ脳」の対策にリストアップしました。勉強しようと思ったものの、急に部屋の汚さが気になり掃除を始めてしまう……など、やるべきことを前にしながら時間を浪費する行動は、心理学では「逃避行動」と呼ばれています。そうならないための整理整頓ですね。
8~10個めの「失敗したときのことを考えない」「日頃から愚痴や悩みをひとりで抱え込まない」「新しいことへの挑戦をためらわない」は、「ネガティブ脳」の対策にリストアップしました。
吉田氏は、「ネガティブ脳の人は失敗を引きずりやすく、愚痴や悩みをため込みがち」と言います。適度に周囲に打ち明けて感情を整理する習慣をつくるのがおすすめですよ。
また、精神科医の西多昌規氏によると、マンネリ化はやる気を削ぐ原因になるとのこと。ある刺激に対する反応が徐々に減少していくことを、心理学では「馴化(じゅんか)」と言います。仕事で先延ばし癖が出たときは、もっとできることはないか探したり、知識を深めるために本を読んだり……といった工夫で刺激を与えてみてはいかがでしょうか。
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先延ばし癖を改善するコツは、毎日の睡眠や思考法など、身近なところにあります。とはいえ、今回ご紹介した「しないこと」は、「しなければならない」というプレッシャーとは無縁なため、より気軽に試してみることができるはず。先延ばし癖を治したい人は、ぜひ参考にしてみてください。
(参考)
吉田たかよし(2019),『「ついつい先送りしてしまう」がなくなる本』, 青春出版社.
Frontiers | A Daily Diary Study on Sleep Quality and Procrastination at Work: The Moderating Role of Trait Self-Control
築山節(2009),『脳から変えるダメな自分「やる気」と「自信」を取り戻す』, NHK出版.
西多昌規(2013),『「すぐやる! 」コツ』, ソフトバンククリエイティブ.
【ライタープロフィール】
かのえ かな
大学では西洋史を専攻。社会人の資格勉強に関心があり、自身も一般用医薬品に関わる登録販売者試験に合格した。教養を高めるための学び直しにも意欲があり、ビジネス書、歴史書など毎月20冊以上読む。豊富な執筆経験を通じて得た読書法の知識を原動力に、多読習慣を続けている。