「さっきのメールで言いたかったのって、こういうこと?」と相手から口頭で確認された。
「報告書読んだよ。まとめるとどういうことかな?」と上司に言われた。
「昨日の取引先へのメール、返事もらえないかもよ?」とCCに入れていた先輩から指摘された。
こんな経験があるなら、もしかするとあなたの文章は、相手にとって読む気になれない “二流以下の文章” なのかもしれません。自分では上出来だと思っていたならなおさら、低評価を受けるのはつらいもの。
では、一流の書き手たちはどのようにして、伝わりやすく読みやすい文章を書いているのでしょうか。今回は、彼らが実際に行なっている、文章力を向上させるテクニックを3つご紹介します。
【1】超一流は、主語を「あなた」にしている
相手が読む気になれないような文章を書く人は、文章の主語を「私」にしがち。でも、一流が書く文章は、主語が「あなた」になっています。
こう語るのは、『売れる文章術』著者で、これまで5万人以上にライティング指導をしてきた中野巧氏。多くのビジネスパーソンがメールのなかで書きがちな「私」目線の文章は、読み手に優しくないと指摘します。
たとえば、自社の製品を売り込みたい企業あてに、次のようなメールを送るとしましょう。
- 初めてメールを送らせていただきます。
- 株式会社〇〇の〇〇と申します。
- 弊社は、新製品「〇〇」をこのたび開発いたしました。
- 弊社としましては、こちらの製品は貴社との親和性が高いと考えております。
- もしよろしければ貴社へお伺いし、弊社の社員が製品についてご説明をいたします。
- (弊社は)ご返信をお待ちしております。
全体が「私(弊社)」を基準とした文章です。たとえ表現は丁寧であっても、こうした「私(弊社)」が中心の文章は、読み手の立場を考えずに自分の要望を押しつける印象を与えてしまうもの。
そんな不快感を解消し、読まれやすくて意図の届きやすい文章を書くには、主語を「あなた」にするとよいと中野氏は言います。
先ほどのメールを「あなた(貴社)」目線に書き換えてみましょう。
- 初めてメールを送らせていただきます。
- 株式会社〇〇の〇〇と申します。
- 貴社は、弊社の新製品「〇〇」にご関心はありませんか。
- もし貴社が〇〇といった状況にお困りでしたら、(貴社が)こちらの製品をご活用いただければきっと解決できます。
- 製品の導入を(貴社が)ご検討いただける場合は、ぜひご返信いただけますと幸いです。
「私(弊社)」を「あなた(貴社)」に変えただけですが、押しつけがましい印象は消えましたよね。相手に心地よく文章を読んでもらうには、こうした配慮が大切なのです。
【2】超一流は、他者の文章を徹底的に「まねている」
「“デキる” 印象を与えよう」「人とは違う報告書にするぞ」と意気込んで個性的な文章を書こうとするのも、二流のやり方。一流は、他者の文章をひたすらまねることが、質の高い文章への近道だと知っています。
書評家・オープンソース開発者の小飼弾氏は、プログラミングを上達させるプロセスになぞらえつつ、シンプルでロジカルな文章を書くコツは「模倣」であると言います。
ただし、文章を単にコピーしさえすればいいのではありません。まねて書くうち、よく使われるフレーズや構成があることに気づくもの。そこに自分なりのアレンジを加えることで、「自分ならこう書く」という個性が生まれるのだそうです。
また、『使える! 作家の名文方程式』著者で京都大学名誉教授の鎌田浩毅氏も、先人の名文を無視してオリジナルの文章を追求すると、かえって遠回りになると伝えています。
たとえば報告書を作成するなら、まずは尊敬する上司の書き方をまねてみましょう。続けるうち、「上司は毎回、箇条書きで短くまとめている」と気づいたら、「箇条書きにしたうえで、特に重要部分を枠で囲む」など自分なりの工夫を加えるのです。
企画書であれば、企画を何本も実現させている先輩を。メールなら、いつも丁寧なメールをくれる取引先の人を。お手本にしたい人たちの文章をまねつつ、どんどんアレンジしていけば、自分ならではの質の高い文章が書けるようになりますよ。
【3】超一流は、「インプット」を重視する
アウトプットが大事だからと、必要な情報のインプットはそこそこに、文体や構成ばかりにこだわるのは二流の書き方。超一流は、質の高い情報をインプットしているからいい文章が書けるのです。
超一流の文章を書く人の特徴に「インプットの能力が長けている」ことを挙げるのは、伝える力【話す・書く】研究所所長の山口拓朗氏。3,300件以上の取材・執筆経験をもつ山口氏は、価値のある情報を仕入れてこそ、魅力的な文章が書けると述べます。
反対に、信憑性のない情報をもとに書かれた企画書には誰も納得できないように、どれだけ技術的に文章を書くことが上手でも、情報の質が低ければおのずと文章の質も悪くなるとのこと。
そういった状況を避けるには、以下の3点を押さえて質の高い情報をインプットすることが重要なのだそう。ぜひマスターして、情報価値の高い文章を目指しましょう。
1. 誰に聞くか
まずは、文章に盛り込むべき情報をもっている人に話を聞くこと。
あなたが、自社の製品について報告書を書くとします。「機能」を重視した報告書を書きたいなら開発担当者に、「売れ行き」を重視するなら販売店のスタッフに話を聞きに行って、情報を仕入れましょう。
つまり、本当に有益な情報を教えてくれる人を見極めることが、いい文章を書くには不可欠なのです。もしかしたら、思いもよらない深い情報が得られるかもしれませんよ。
2. 何を聞くか
誰に聞くかが決まったら、次は「何を聞くか」。以下の手順を踏むと、うまく情報収集できるそうです。
- 文章のテーマに沿った質問をあらかじめ用意する。
- 上の質問に対し、仮定の答えを考えておく。
- 実際に聞けた話が自分の仮定していた答えと違ったら、「5W3H」で話を掘り下げる。
- When(いつ)
- Where(どこで)
- Who(誰が)
- What(何を)
- Why(なぜ)
- How(どのように)
- How many(どのくらい)
- How much(いくら)
「製品に新たに追加された機能」について文章を書くために、製品の開発担当者と話す場合であれば、次のような流れが考えられます。
- 「新たにこの機能を追加したのはなぜか?」という質問を用意。
- 「顧客がずっと求めていた機能だったから」という答えを想定。
- 開発担当者の実際の答えは、想定とは違った「競合他社との差別化を図るため」。
→「なぜ差別化が必要だったのでしょうか?」「どのくらい差別化できたのでしょうか?」などと深堀りする
こうして集めた情報は、いい文章の材料になることでしょう。
3. どう聞くか
山口氏によれば、以下の2点を意識すると、有益な情報をより得やすくなるそう。
- 相手に興味をもって聞く
相づちを打つ。笑顔で話を聞く。 - テンポと声のトーンを相手に合わせる
相手の声が大きければ、自分も声を張る。相手がゆっくり話すなら、自分もゆっくり話す。
当たり前に思えるかもしれませんが、相手から有益な情報を引き出すには、相手が心地よく話せるような雰囲気づくりも大切なのです。
***
「超一流」が書く文章と「二流どまりの人」の文章の違いを3つ紹介しました。超一流のやり方を参考にすれば、伝わりやすい文章をより上手に書くことができるでしょう。二流に留まらない文章術を、みなさんもぜひ身につけてください。
(参考)
プレジデントオンライン|文末に「よろしくお願いします」とだけ書く人は仕事がデキない「伝わる文章」を書く5つのポイント
プレジデントオンライン|個性~人の文章を徹底的に真似る~「理数脳式」多忙人、手強い相手も落とす文章術【2】
リクナビNEXTジャーナル|「文章力がない」人こそ磨くべき、たった一つのスキルとは?
【ライタープロフィール】
YG
大学では日韓比較文学を専攻し、自身の研究分野に関する論文収集に没頭している。言語学にも関心があり、文法を中心に日々勉強中。これまでに実践報告型の記事を多数執筆。効果的で再現性の高い勉強法や読書術を伝えるべく、自らノート術や多読の実践を深めている。