
「ビジネス書でコミュニケーションについて学んでいるのに、職場での人間関係がうまくいかない」
「頭では理解しているつもりなのに、相手の気持ちに寄り添えていない気がする」
そんな経験はありませんか。
神経科学の研究によれば、「文芸小説を読むことは、人々が共感力や心の理論、クリティカル・シンキングを養うのに役立つ」のだそう。*1
(心の理論:相手の立場に立って考える力)*2
ノンフィクションではなく、あえて「フィクション」こそが、ビジネスに必要な心のスキルを育てると研究が示しているのです。
ゴールデンウィークのまとまった時間は、「ただ休む」だけでなく、こうした読書体験にあてる絶好の機会。今回は、ビジネスの現場で活きる気づきを与えてくれる小説を10冊、テーマ別にご紹介します。
▼自分を見直すために
1冊目:北方謙三(2013〜2014),『史記 武帝紀(一)〜(七)』, 角川春樹事務所
漢王朝の最盛期を築いた武帝と、彼を支え続けた将軍たちの人生を描いた歴史小説です。前線で長く活躍し続けることの難しさ、そして不遇な状況のなかでも腐らずに向き合い続ける姿勢には、現代のビジネスパーソンにも深く響くものがあります。
\ここがビジネスに効く!/
「評価されない時期にどう振る舞うか」「組織のなかで信念をもち続けるとはどういうことか」――そのヒントが、武将たちの思考と行動のなかに凝縮されています。長丁場のプロジェクトや組織の変化に直面したときに、自身のあり方を見直すきっかけになる一冊です。全7巻と読み応え充分。ゴールデンウィークのまとまった時間の読書に最適です。
2冊目:ディケンズ(2006),『クリスマス・キャロル』, 光文社
守銭奴の老人スクルージが、クリスマス・イブに「過去」「現在」「未来」の幽霊に案内され、自分の人生を見つめ直す物語。150年以上読み継がれてきた古典的名作です。Kindle Unlimitedでも読めます。
\ここがビジネスに効く!/
仕事に追われるなかで、いつの間にか周囲への思いやりを失っていないか――スクルージの変容を追ううちに、「自分は大丈夫かな?」と振り返りたくなります。「傲慢になっていないか」「部下や同僚を軽んじていないか」そう問いかけてくれる物語です。
筆者は年末の振り返りに読みますが、ゴールデンウィークに読んでも「今年前半の自分」を見直すよいきっかけになりますよ。
3冊目:塩田武士(2025),『踊りつかれて』, 文藝春秋
第173回 直木賞ノミネート作。*3
ここ何年も問題になっているのに改善されることのない、SNSでの炎上や加熱報道といった社会問題を題材にした物語です。
\ここがビジネスに効く!/
「何をどこまで話すか」「言葉をどう選ぶか」「自分の発言がどう受け取られるか」といったコミュニケーションの本質を問いかけてきます。立場が変われば物事の見え方も変わり、人によって「正義」も変わる――どんなに自分が正しいと思っても、それを振りかざすことのリスクを、この物語を通じてリアルに体験できる一冊です。会議での発言、社内外でのコミュニケーションのとり方を見直したいビジネスパーソンにおすすめ。
📖 あわせて読みたい

▼目標に向かって前に進むために
4冊目:逢坂冬馬(2025),『ブレイクショットの軌跡』, 早川書房
第173回 直木賞ノミネート作。*3
社会派小説でもある本作は、ある問題をめぐって複数の視点から物語が交差する構成になっています。
\ここがビジネスに効く!/
「目標に向かっているはずなのに、なぜか目指す場所から遠ざかっている気がする」――そんな感覚を覚えたときに、もう一度自分の“軸”を問い直す機会を与えてくれます。筆者は「過去ではなく、未来についてしっかり考えよう」と思えた一冊でした。
ひとつの問題についてさまざまな視点から物語が展開されていくため、読者それぞれの状況によって受け取るメッセージも変わると思います。チームで読み合うのも面白いかもしれません。
▼チームワークをとらえ直すために
5冊目:池井戸潤(2024),『俺たちの箱根駅伝 上・下』, 文藝春秋
2026年10月に日本テレビ系にてドラマ化が予定されている話題作。*4
箱根駅伝を目指すチームの葛藤と絆を描いた作品です。
\ここがビジネスに効く!/
それぞれ意見が異なるメンバーが、ぶつかりながらも同じ方向を向いていく過程は、まさに職場のチームワークに通じるものがあります。「まとまらないチームをどう動かすか」「異なる価値観をもつ人と、どのようにひとつの目標に向かうか」といったヒントが凝縮された一冊です。マネジャーやリーダーポジションの方に特におすすめ。
6冊目:三浦しをん(2015),『舟を編む』, 光文社
2012年本屋大賞受賞作。*5
新しい辞書『大渡海』の編纂に関わる人々の、長年にわたる奮闘を描いた作品です。ひとりひとりの情熱がチーム全体に伝染していく様子に、胸が熱くなります。
\ここがビジネスに効く!/
仕事で孤独を感じる瞬間も、俯瞰してみれば多くの人が関わっています。「誰かと協力してひとつのものを作り上げる」ことの素晴らしさ、そして長期プロジェクトを最後まで走りきるための「意志のもち方」を考えさせてくれる一冊です。
📖 あわせて読みたい

▼EQを高めるために
ここからの3冊は、さまざまな登場人物を通して「人は一面ではとらえきれない、多面的な存在」と気付かされる作品です。
どんなに苦手な相手でも、自分に見えているのはその人のほんの一部かもしれません。相手も自分と同じように葛藤を抱えながら必死に生きているのだ、と気づくことで、人との関わり方を見直すきっかけを得られます。
7冊目:山本文緒(1998),『絶対泣かない』, 角川書店(角川グループパブリッシング)
世代も職業も価値観も異なる女性たちの人生をのぞける、女性のお仕事短編集。Kindle Unlimitedでも読めます。
\ここがビジネスに効く!/
現実に出会ったら絶対に近づきたくないと思うようなキャラクターでも、物語を通じて彼女の内面に触れると「こんな繊細な面があったのか」「そういう考え方もあるのか」と、新たな発見を得られます。人間関係に疲れを感じたときに読み返したくなる、心の処方箋のような一冊です。働く女性だけでなく、「女性の同僚の考えが理解できない」と感じている男性にもぜひ読んでほしい作品。相手の立場を想像する力を養えます。
8冊目:伊吹有喜(2018),『今はちょっと、ついてないだけ』, 光文社
2022年映画化作品。*6
かつてネイチャリング・フォトグラファーとして大活躍していた主人公が、人との思いがけない出会いを通して再挑戦していく物語です。
\ここがビジネスに効く!/
挫折を経験した人の背中をそっと押してくれる作品です。また、「この人、合わない」と感じる相手に助けられることで、自分には見えなかった相手の別の面に気づける――苦手だからといって拒絶するのはもったいないのでは? と思わされます。職場での人間関係における苦手意識を見直すきっかけになるでしょう。
9冊目:青山美智子(2019),『木曜日にはココアを』, 宝島社
第1回宮崎本大賞受賞作。*7
「マーブル・カフェ」で働く「僕」と、カフェに訪れる客が織りなす短編集です。
\ここがビジネスに効く!/
バリバリのキャリアウーマン、新米の幼稚園教諭、ベテランのお局……さまざまな立場の人物の葛藤と気づきを通じて、自分とは異なる視点を自然に取り込める一冊です。読み終わったとき、「あの人にもこんな事情があるのかもしれない」と思い直すきっかけになります。
10冊目:池井戸潤(2008),『シャイロックの子供たち』, 文藝春秋
銀行で起きた現金紛失事件をきっかけに、行員たちの葛藤と人間模様が浮かび上がる作品です。
\ここがビジネスに効く!/
同じ組織にいても、ひとりひとりがまったく異なる事情や感情を抱えていることを改めて実感させてくれます。EQを高めるうえで、組織や人間の複雑さを物語から学べる秀作です。
📖 あわせて読みたい
***
小説を読むことで「共感力」や「多角的な視点」を養えます。ビジネス書が「知識」を与えるとすれば、小説が与えるのは「感覚」です。
ゴールデンウィークのまとまった時間に、気になった小説を手に取ってみませんか?
「ゴールデンウィークとはいえ自分の時間がとれない」「疲れすぎて読書は気が重い」――そんな人には、ひと区切りが短くて読みやすい短編集(『絶対泣かない』『木曜日にはココアを』)がおすすめですよ。
📚 紹介した本をまとめてチェック
※リンク先はAmazonページです
📚 もっと読みたい
よくある質問(FAQ)
Q1. ビジネスパーソンはビジネス書だけ読んでいればよいのでは? なぜ小説を読む必要があるのですか?
ビジネス書は「知識」を効率よくインプットするのに優れている一方で、小説は「感覚」――共感力や、多面的に物事を捉える視点を養うのに役立ちます。神経科学の研究でも、文芸小説が共感力や心の理論(相手の立場に立って考える力)、クリティカル・シンキングを養うことが示されています*1。職場の人間関係や交渉、マネジメントといった「人」が関わる場面で活きるスキルは、小説からのほうが得やすい部分も多いのです。
Q2. ゴールデンウィークに1冊だけ読むなら、どれがおすすめですか?
目的によって異なります。自分のあり方を腰を据えて見直したいなら、全7巻と読み応え充分な『史記 武帝紀』。短時間で複数の視点に触れたいなら、短編集の『絶対泣かない』や『木曜日にはココアを』。マネジャー・リーダーとしてチーム運営に悩んでいるなら『俺たちの箱根駅伝』、現代社会のコミュニケーションを問い直したいなら『踊りつかれて』がおすすめです。
Q3. 普段あまり小説を読みません。最初の1冊として手を出しやすいのはどれですか?
連作短編形式で1話ずつ区切りながら読み進められる『木曜日にはココアを』や『絶対泣かない』が読みやすいでしょう。150年以上読み継がれてきた古典の『クリスマス・キャロル』も、ストーリーが明快で初心者向きです。いずれも疲れているときでも少しずつ進められる構成になっています。
Q4. チームでひとつの本を読み合うとしたら、どの本が向いていますか?
『ブレイクショットの軌跡』は、ひとつの問題を複数の視点から描く構成のため、読み手によって受け取るメッセージが変わります。チームで感想をシェアし合うと、メンバーの価値観の違いが浮き彫りになり、対話の良いきっかけになるでしょう。『俺たちの箱根駅伝』もチームビルディングをテーマにしており、リーダー層の読書会題材として適しています。
Q5. EQ(心の知能指数)を高めるには、小説を読むだけで本当に効果がありますか?
小説を読むことで他者の内面に触れる体験を重ねれば、現実の人間関係でも「相手の立場に立つ」習慣が育ちやすくなります。ただし、本記事で紹介した小説はあくまでも一つのきっかけ。読みっぱなしにせず、「自分の職場の人間関係に置き換えるとどうか」と考えながら読むことで、より実践的な気づきが得られます。
*1 DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー|ビジネスパーソンが小説を読むべき理由
*2 児童発達支援スクール - コペルプラス|心の理論とは? 相手の気持ちを考える力はいつ育つ?
*3 直木賞のすべて|直木賞-選評の概要-第173回
*4 日本テレビ|俺たちの箱根駅伝
*5 本屋大賞|2012年 第9回本屋大賞
*6 映画.com|今はちょっと、ついてないだけ : 作品情報・キャスト・あらすじ・動画
*7 三省堂書店神保町本店特設サイト|「木曜日にはココアを」 青山美智子著
澤田みのり
大学では数学を専攻。卒業後はSEとしてIT企業に勤務した。仕事のパフォーマンスアップに不可欠な身体の整え方に関心が高く、働きながらピラティスの国際資格と国際中医師の資格を取得。日々勉強を継続しており、勉強効率を上げるため、脳科学や記憶術についても積極的に学習中。