脳は「人助け」で覚醒する。忙しい時のちょっとした手伝いが、「あなたのため」になる理由

忙しくてパニックになっているビジネスパーソンと、それを助けてあげようかと思っている同僚

山積みのタスク、迫る締め切り、鳴り止まないチャット通知。「今日も終わらない……」と感じながら、とにかく目の前の仕事をこなすのに必死——。

そんなとき、同僚から「ちょっといいですか」と声をかけられたら、正直「いまは無理」と思いますよね。

でも、じつはそんなときこそ “ちょっとした人助け” をすると、ストレスが和らぎ、時間のゆとりまで生まれ、仕事のパフォーマンスが上がります。にわかには信じがたい話ですが、これは複数の研究が示している事実です。

一見すると完全に逆効果に思えるこのアプローチ、いったいなぜそんなことが起きるのでしょうか。今回は「ヘルパーズ・ハイ」という現象とその活用法を、具体的にご紹介します。

ヘルパーズ・ハイとは何か?

ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン名誉教授のノリーナ・ハーツ氏は、ヘルパーズ・ハイについてこう説明しています。*1

見返りを期待せずに人助けをすると、人間の身体には生理的に好ましい反応が起こる。「ヘルパーズハイ」と呼ばれるエネルギッシュで、強くて、温かくて、落ち着いた感覚を得られるのだ。

この「心地よさ」は身体的な変化もともなうもので、ストレスに関わるコルチゾールやエピネフリンの低下も認められています。*1 忙しいからこそ、ちょっとした人助けが自分を助けることになる——その仕組みを、次のセクションで具体的に見ていきましょう。

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人助けがもたらす3つの効果

① ストレスが和らぐ

忙しい日に “ちょっとした人助け” をするだけで、ストレスの悪影響が和らぎます。ストレスが多い日でも、人助けをした日は気分が落ち込みにくく、メンタルの状態が安定しやすいのです。つまり、忙しい日こそ、誰かのためにちょっと動いてみることが、自分のメンタルを守ることにつながります。

② 時間的なゆとりが生まれる

「時間がない」と感じているとき、他人のために時間を使うと、逆に時間的ゆとりを感じやすくなります。「自分は誰かの役に立てた」という自己効力感が高まり、同じ時間でも切迫感が薄れるためです。いつも「時間がない」と追われている人こそ、試してみる価値があります。

③ 自信がつき、仕事がスムーズになる

人助けで自己効力感——「自分ならできる」という感覚——が高まると、仕事への取り組み方も変わります。自信をもって仕事に臨めるようになり、忙しいときでも的確な判断がしやすくなるでしょう。

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忙しいときでもできる、プチ人助け3選

とはいえ、「忙しいのに人助けなんてしている時間はない」と感じるのは当然です。ここで紹介するのは、いずれも数秒〜1分以内で完結する行動です。本来の仕事を圧迫せず、それでいてヘルパーズ・ハイの効果を得られる——そんな「ちょうどいい人助け」を3つ挙げます。

1. ドアを開けてあげる

自分が移動するときに、率先してドアを開けてあげましょう。エレベーターでは「何階ですか?」と聞いてボタンを押してあげるのもおすすめです。

たった数秒の行動ですが、相手から「ありがとう」と言われる体験が積み重なると、自己効力感が少しずつ高まっていきます。

2. 資料にふせんを貼る

資料を渡すとき、重要な部分や確認してほしい箇所にふせんを貼って手渡してみましょう。「ふせんを貼ってある部分を見てほしいです」と一言添えると、相手にとってより親切な資料になります。

相手の手間を先読みして動く習慣は、「気が利く人」という評価にもつながります。自分への信頼が積み上がることで、仕事上の自信にもなっていきます。

3. 「~もしましょうか?」の提案

  • コピーを取りますが、○○さんも何か印刷するものはありますか?
  • 飲み物を買いに行きますが、何か要りますか?
  • A社に打ち合わせに行きますが、なにか言伝はありますか?

自分が何かをするついでの申し出は、ハードルが低く、相手も頼みやすいもの。断られても気まずくなりません。小さな「ついで」の積み重ねが、職場での関係性を少しずつ豊かにしていきます。

⚠ 人助けをするときに意識したいポイント

短時間で完結する人助けとはいえ、誰にでも何でも引き受けていては消耗します。大切なのは「他者志向」を意識すること——自分の利益も大切にしながら、いつ・誰に・どう与えるかを選ぶことです。

集中したいときや手が離せないときは「いまは難しい」と伝えて大丈夫。また、必要以上に他者の仕事を肩代わりしたり、いつも手伝いをして「あなたがやるのが当たり前」という状況をつくったりしないようにしましょう。自分ができるときに、できるだけ。それがヘルパーズ・ハイを長く続けるコツです。

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「なぜそうなるのか」が気になる方のために、研究の背景を紹介します。

UCLAおよびイェール大学医学部のエリザベス・B・ラポサ氏(現フォーダム大学 心理学部 准教授)らは、18歳から44歳までの77人を対象に2週間にわたる調査を行ないました。その日のストレスの量、行なった人助けの量、精神的健康スコアを毎日記録したところ、人助けが多い日はストレスの悪影響が和らぎ、メンタルの状態が崩れにくいことが示されました。*2

時間的ゆとりについては、ペンシルベニア大学ウォートン・スクールのキャシー・モギルナー氏(現UCLAアンダーソン・スクール・オブ・マネージメントの教授)らの研究があります。他人のために時間を使うと「主観的な時間の豊かさ」が高まることが明らかになっており、その背景には自己効力感の向上があるとされています。*3

また、ペンシルベニア大学ウォートン・スクール教授のアダム・グラント氏は、人間の行動パターンを「テイカー(受け取るだけ)」「マッチャー(バランス派)」「ギバー(惜しみなく与える)」に分類し、どのタイプが最も成功しているかを調べました。最も成功した人も、最も成功しにくかった人も「ギバー」だったといいます。両者の差は、自分の利益も大切にしながら戦略的に与えられるかどうかにありました。*4

***

ヘルパーズ・ハイを使いこなせれば、周囲からの信頼を得ながらパフォーマンスも高められて一石二鳥の効果が期待できます。忙しさに飲み込まれる「被害者」から、状況をコントロールする「提供者」へ——まずは今日、ドアを一枚開けてあげるところから始めてみてください。

よくある質問(FAQ)

Q. ヘルパーズ・ハイとは何ですか?

A. 見返りを期待せずに人助けをしたときに得られる、温かくエネルギッシュな心地よさのことです。ストレスホルモンの低下など、身体的な変化もともないます。

Q. なぜ忙しいときほど人助けが効果的なのですか?

A. 他人のために時間を使うと自己効力感(「自分ならできる」という感覚)が高まり、時間的な切迫感が薄れることが研究で示されています。忙しいときこそ心の余裕を取り戻す効果が期待できます。

Q. 人助けをしすぎて疲弊しないためにはどうすればいいですか?

A. 自分の利益も大切にしながら、いつ・誰に・どう与えるかを選ぶ「他者志向的なギバー」を意識しましょう。集中したいときは断ってOK。無理のない範囲で行なうことがポイントです。

Q. 職場で簡単にできる人助けにはどんなものがありますか?

A. ドアを開けてあげる、資料にふせんを貼って渡す、「~もしましょうか?」と "ついで" の提案をするなど、1分以内でできる小さな行動で十分に効果があります。

【ライタープロフィール】
藤真唯

大学では日本古典文学を専攻。現在も古典文学や近代文学を読み勉強中。効率のよい学び方にも関心が高く、日々情報収集に努めている。ライターとしては、仕事術・コミュニケーション術に関する執筆経験が豊富。丁寧なリサーチに基づいて分かりやすく伝えることを得意とする。