
本を読むとき、ほとんどの人は「ひとり」で完結させています。静かな部屋で本を開き、読んだら閉じて終わり。もちろん、それでも知識は増えます。けれど、それだけではもったいない。
いま、世界では「読む」を共有する動きが広がっています。
アメリカで人気の「Silent Book Club」や「Reading Rhythms(読書パーティ)」では、参加者が集まり、30分ほど黙って本を読み、そのあとに感想を交換します。SNSに疲れた若い世代や、集中の仕方を忘れたビジネスパーソンが集い、会場は不思議な熱気に包まれるといいます。
つまり「ひとりで閉じていた読書を、誰かと分かち合う」というシンプルな行為が、いま新しいムーブメントになっているのです。そしてこれは、ただ楽しいだけの余暇活動ではありません。ビジネスパーソンにとって強力なスキルアップの場になるのです。
共読とは何か

「共読」とは、その名の通り “読むことを共有する” こと。形はいろいろあります。
読書パーティ(Reading Rhythms)/Silent Book Club
集まって静かに読む → 感想を一言シェア。Instagramで日時と場所だけを伝えるスタイルで、アメリカで始まり、2020年以降全米に拡大。日本でも同様の活動が始まっています。*1
読書会・ブッククラブ
同じ本を事前に読んでディスカッション。欧米ではクラシックな読書会も根強い人気を保っています。日本ではビジネスパーソンの学習サークルの一環で開催される例も。
親子(家庭)共読
親子やパートナーで本を一緒に読む。「家読」の文脈からも、親子で本を読む効用は以前から指摘されていますが、多くが子ども視点からでした。しかし、親=ビジネスパーソンにとっても、親子の共読には深い意義があります。
共通するのは「本を一人で閉じない」こと。読んだ内容を誰かに語る、誰かの視点を聞く。その繰り返しが、読書を「知識」から「スキル」へと変えていきます。
共読がビジネスパーソンに効く4つの理由

共読はさまざまスタイルがありますが、読んだあとに感想や意見を言い合う点は共通しています。それがなぜ、どのようにビジネスに効いてくるのでしょうか。
要約力・説明力が鍛えられる
誰かに「この本どうだった?」と聞かれると、ぼんやりした感想では足りません。内容を整理し、一番面白かった部分を端的に伝えようとする。これはそのまま、ビジネスで求められる「要約力」や「説明力」です。
難しい専門書でなくてもいい。小説でも、新書でもいい。要は「誰かに伝える前提で読む」ことで、アウトプット力が自然に磨かれます。また、説明することで内容への理解も深まります。*2
発想力が広がる
読書会で驚かされるのは、他人の感想です。「そんな見方があるのか」と思わされる瞬間が、発想の幅を広げます。
ビジネスでは、同じ資料を見ても異なる角度からアイデアを出す人が求められます。共読は、その「異なる角度の存在」を実体験できる場。イノベーションの種は、ここから芽生えます。*3
対話力・傾聴力が磨かれる
共読の場は、発表や議論ではなく「感想のシェア」です。だから安全に話せるし、相手の言葉に耳を傾けやすい。これは一種のダイアログ・ラーニング(対話学習)のようなもの。
ビジネスで必要とされる「聞く力」「相手の視点に立つ力」を鍛えるには格好の練習場です。*4
多様性理解・思考の柔軟性
同じ本を読んでも、人によって解釈はまるで違います。その違いを否定せず「なるほど」と受け止める。これはそのまま、多様性を受け入れる態度につながります。
組織で働く以上、価値観の違いは避けられません。共読は「違いを楽しむ練習」とも言えるのです。*5
共読は多角的に検証されており、ほかにも、朗読タイプの共読なら記憶に定着しやすい、小説などのフィクションは共感力を高める訓練になる、幸福度が増すなど、さまざまなメリットがあることが分かっています。
つまり共読は「なんとなくいいこと」ではなく、脳科学や心理学でも裏付けられた「学びのブースター」なのです。
明日からできる!共読3ステップ

「読書パーティ」と聞くとハードルが高いかもしれません。でも、「共読」はもっと小さく始められます。
知っている誰かと本を読むのは気恥ずかしい、という方は、思い切って、「Silent Book Club Japan」や、地域の読書パーティに参加してみるのもおすすめです。
【応用編】親子共読は大人の “問う力” を鍛える

共読は、同僚や仲間との学びにとどまりません。
お子さんがいる場合は、家庭での「親子共読」にも応用でき、ビジネスパーソン自身の “問いを立てる力” を伸ばす格好の場になります。
親と子の対話的読書では開かれた問いが重視されており、「読む→問う→聴く→言い換える」という流れは、そのまま会議のファシリテーションでも通用します。今夜本を読み終えたあとに5分だけ、親は “問い役” になってみましょう。
- 『主人公はなぜそうしたんだろう?』
- 『だれが・どこで・それをしたんだろう?』
- 『もし自分なら?』
問いを投げかけることと、答えを促すことで、やり取りが続けばOK。これを週に2回程度続けるだけで、問いを立てる力が目に見えて培われていきます。共読は、家族の時間でありながら、明日の仕事を強くする最短ルートなのです。*6
姉妹サイトの「こどもまなび☆ラボ」では、親子による「共同読書」についてさらに詳しく解説しています。子どもへの好影響とともに、リバースメンタリングになるなど大人にとっての効果も紹介しています。
『なぜなぜ黄金期』を親子の成長エンジンに! メリットだらけの絵本と ”親子の会話” 3つの方法と3つの効果
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本を一人で閉じて終わるのは、知識を「インプット」にとどめてしまうこと。共読は、インプットをアウトプットに変え、学びを実践知に変えてくれます。
必要なのは、大げさな準備ではありません。「10分読んで、一言感想をシェアする」。それだけで、読書は学びと対話の場に生まれ変わります。
AI時代だからこそ、本を読むことが価値を持つ。そして「読む」行為を誰かと共有することが、その価値を何倍にも広げてくれるのです。
*1 REAL SIMPLE|Want to Read More This Year? Try a Silent Book Club to Stay Motivated Without the Pressure
*2 Pub Med|Theories of the generation effect and the impact of generation constraint: A meta-analytic review
*3 Pub Med Central|Self-care perspective taking and empathy in a student-faculty book club in the United States
*4 Pub Med Central|Implications for Social Impact of Dialogic Teaching and Learning
*5 HARVARD GRADUATE SCHOOL OF EDUCATION|Literature Circles
*6 Institute of Education Sciences|WWC Intervention Report
STUDY HACKER 編集部
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