異常気象や自然災害、感染症の拡大に、世界情勢の不安など――人々はこの数年間、とても大きなストレスを感じ続けているのではないでしょうか。こうした状況は、仕事や勉強、もちろん日常生活にも、さまざまな弊害をもたらすはずです。
しかし、私たちには “言葉” という「思考の道具」があります。気持ちを落ち着かせるという方眼ノートに、イライラやモヤモヤなどをすべて書き出して、脳も心もスッキリさせてみませんか? 専門家の言葉と、筆者の実践を交えて詳しく説明します。
書き出せば正体がわかる
ブレークスルーパートナーズ株式会社の共同創業者である赤羽雄二氏は、自分の問題や気になることを徹底的に書き出すことにより、心の動きが見えてくると言います(赤羽氏のロングセラー著書『ゼロ秒思考』より)。
特に嫌なこと、理解に苦しむこと、腹が立つこと、意気消沈するような出来事があったときに20分くらい(あるいは納得するまで)メモに吐き出すと、スッキリするうえに冷静さも取り戻せるのだとか。
頭のなかのモヤモヤをうまく表現できず、気分が悪いときにも、感じていることすべてを書き続けていると、気分が変わってくるそうです。赤羽氏いわく、モヤモヤの正体がわからないと悪いほうに考えがちだが、モヤモヤを吐き出すことで正体が見えてくると、「なんとかなりそうだ」と前向きに考えられるとのこと。
言葉には「思考の道具」としての働きがある
脳生理学者の有田秀穂氏も、書くことは脳にいい影響を与え、心の整理やストレスの軽減に役立つと伝えています(2013年8月1日公開の「NIKKEI STYLE」内記事より)。たとえば特定のノートになんでも書き出すなど、“素直な気持ちを吐き出す場所” をつくると、ストレスがぐっとラクになるのだとか。
こうした効果は、言葉に “伝える以外の働き” があるからこそ、生まれるのかもしれません。広島大学教授(2008年当時)の森敏昭氏は、2008年出版の『児童心理』(金子書房)のなかで、言葉には以下ふたつの働きがあるとしています。
- 「コミュニケーションの道具」としての働き
- 「思考の道具」としての働き
1は「他者に自分の気持ちや考えを伝える働き」のことで、2は「メタ認知の働き」を指すのだとか。
東京大学大学院 総合文化研究科 教授の四本裕子氏らが執筆した脳科学辞典(原稿完成日:2012年11月7日)によれば、「メタ認知」とは、自分の知覚・感情・記憶・思考といった認知活動を客観的にとらえて、見定め、コントロールすること。
これらをふまえると、“頭のなかにあるものを紙に書き出す行為” は、自分を客観的にとらえて適切にコントロールするために、いったん自分を、自分から切り離すようなものだと言えます。
脳と心が元気になるノートの書き方
書くことで、思考の道具としての言葉の働き(メタ認知の働き)がスムーズになり、ストレスの軽減、頭の整理、前向きな考え方になるなどの効果が発揮されるとわかりました。では、例にもれずストレスを感じている筆者も、さっそくやってみようと思います。
前出の有田氏がすすめるノート術は、脳と心をスッキリさせてくれるそうです。また、順天堂大学医学部教授の小林弘幸氏は、マス目に沿って書ける方眼ノートは文字が整いやすいので、書いているうちに気持ちが落ち着いてくると伝えています(2018年4月12日公開の「@DIME アットダイム」内記事より)。罫線があれば線や図も描きやすいですよね。
そこで今回は方眼ノート(8mm方眼罫・6号)を使い、有田氏式「脳と心が元気になるノート」を書いていくことにしました。筆者が実践しながら5つのステップを説明していきましょう。
STEP1:いまの気分を数値で表す
最初は「イライラ・ムカムカ・モヤモヤ・ワクワク・ハッピー」といった5つの気分を数値にして、グラフ(レーダーチャート)にまとめます。
最も強く感じる場合は「5」、あまり感じない場合は「1」、何も感じない場合は「0」といった具合にそれぞれを評価し、線でつなげて五角形をつくります。この五角形のバランスを見て、自分の状態を把握するのだそう。筆者の場合はこんな感じでした。
自分がいかにバランスの悪い状態であるか、ハッキリとわかります。
STEP2:いまの気分をなんでも書き出す
次は、同じノートの空いている場所に、思っていることをなんでも書き出してみます。有田氏によれば、書く際のポイントは次のとおり。
- 気分のままに書く(たとえばイライラは書きなぐる、嬉しいことなら大きく書くなど)
- 素直に書く(「こんな内容はダメだ」などと自分を抑制しない)
筆者は、文字そのもので表現するというより、線で強調したり、気分に合ったマーク(花丸)を入れたりしてみました。
STEP3:気分の原因を探る
STEP1で数値化した気分(イライラ・ムカムカ・モヤモヤ・ワクワク・ハッピー)の原因になったことを、それぞれ思いつく限り書き出し、最も大きな原因だと感じたことは丸で囲みます。
上の画像は “モヤモヤ” について書いたものです。ちなみに、複数の気分に対して同じ原因が思い浮かんだ場合は、そのまま同じ内容を書いてもいいとのこと。
STEP4:自分の対処を思い出す
次は、その気分が生まれたとき、自分がどう対処したのか思い出してみます。メールの履歴やToDoリスト、SNSの履歴などを参考にすると、無意識のうちにとった行動も認識できるとのこと。
(※上画像内の「楽しめることを見いだす」「1日ひとつでも、達成感を覚えることをする」は、正しくは「楽しめることを見いだそうとした」「1日ひとつでも、達成感を覚えることをしようとした」です)
STEP5:対策を考える
最後は、今後のために対策を考えておきます。ここまでくると、だいぶ頭が整理されてきたのではないでしょうか。
筆者はモヤモヤ気分の対策として、発想の転換になる思考法(いまできることに目を向ける・何をしたら楽しいか思考をめぐらせる)を書きました。
有田氏は具体的な対策を考えるよう説いているので、たとえば「違う視点をもつ人に助言をもらう」「仕事のリズムが整うまで、いったん単純作業に切り替える」といった、より具体的かつ物理的な方法を挙げるのもいいかもしれません。
脳と心が元気になるノートを書いてみた感想
このノート術をやってみて最も強く感じたのは、“自分のこと” というより “誰かほかの人の気分” について、深々と掘り下げている感覚です。これは「書く行為」+「適切なステップ」により、メタ認知がしっかりと働いたことを意味するのではないでしょうか。
また、おもしろいことに「私はすでに自分を管理・コントロールする方法を知っている」と感じられました。これについては、自分があらゆる経験から知り得たことを、このノート術が思い出させてくれたと推察しています。
少し手間はかかるけれど、頭をスッキリさせてくれるうえに、「きちんと “自分” を制御できる “自分”」を思い出させ、自信も与えてくれるノート術でした。おすすめです!
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じつはこのノート術は、1週間分の気分を振り返るノート術として紹介されているのですが、期間を意識せずここ最近の気分を書き出した筆者でも、十分に効果を感じましたよ。まずは気軽にお試しくださいね。
(参考元)
ダイヤモンド・オンライン|心の中の「もやもや」の正体が分かる!「『ゼロ秒思考』のメモ書き」を使いこなすコツとは?
森敏昭(2008),「思考と言葉の力 : メタ認知の育成法」,金子書房,児童心理,62巻,13号.pp.1163-1168.
@DIME アットダイム|手帳やノートが乱雑な人は自律神経が乱れ気味?
NIKKEI STYLE|脳もココロも元気になる「ノート習慣」
脳科学辞典|メタ認知
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