自己肯定感が高い人は、「ありのままの自分」に価値を認められるため、
「自分なら大丈夫」
「自分には幸せになる価値がある」
「自分の人生にはきっといいことがある」
……というポジティブな感情で過ごすことができます。努力の継続に意欲的で、他者に対しても寛容なため、仕事や人間関係、さらには人生全体で成功を収めやすいのも特徴です。
自己肯定感が低い人や、失敗して自信を失ってしまった人、ネガティブ感情にとらわれやすい人、自分や他人の短所ばかりが気になる人は、ぜひ本記事を一読し、「自己肯定感が高い人」の心理や言葉、振る舞いを学んでみてください。なお、「自己肯定感とは? 自己肯定感が低いとどうなるの?」では、自己肯定感という言葉の意味を詳しく解説しています。
「自己肯定感が高い」とは
「自己肯定感が高い」と聞くと、「自分大好きな自信家」をイメージするかもしれません。しかし、両者は大きく違います。「自信家」と「自己肯定感が高い人」の差異を確かめつつ、「自己肯定感が高い」とはどのような状態か把握しましょう。
存在そのものの肯定
自信とは、能力や外見、社会的地位など、自分が手にしているものを誇る感情です。このような「成果」は目に見えるため、他者からの評価につながるもの。自己肯定感に関する研修や講演を手がける一般社団法人・日本セルフエスティーム普及協会代表理事の工藤紀子氏によると、このような客観的評価に基づく肯定感情は「社会的自己肯定感」と呼ぶそうです。
社会的自己肯定感の反対は「絶対的自己肯定感」。自分の能力や他者からの評価を根拠としないものです。欠点があっても、仕事がうまくいかなくても、「それでも自分には価値がある」と存在を肯定します。工藤氏によると、絶対的肯定感こそが「本来的な自己肯定感」なのだそうです。
単なる自信家がもつのは、社会的自己肯定感。状況によっては揺らぐデメリットがあります。一方で、絶対的自己肯定感をもつ人――つまり、本来の意味で「自己肯定感が高い人」は、安定した愛を自身に注げるのです。
他者の存在も肯定
「自信がある人」と「自己肯定感の高い人」は、他者への接し方でも異なります。
自信家には、自分より地位の低い人を見下すなど高圧的に振る舞う人もいますよね。「自分のほうが上だぞ」とアピールし、自信(社会的自己肯定感)を守ろうとする示威行動です。
反対に、自己肯定感(絶対的自己肯定感)が高い人は、他者への攻撃などまずしません。他者に関係なく自分に価値を見いだしているため、「自分のほうが上だぞ」と威圧する必要がないのです。むしろ、自分自身と同じように他者の存在を認め、温かく受け入れます。
このように、自己肯定感が高い人は、単なる「自信家」「ナルシスト」と異なり、懐が深くて大らかなのです。
◆自己肯定感が高い人
- 社会的評価にかかわらず自分を愛せる
- ダメな部分も含め、自分を丸ごと愛せる
- 他者を受容する
◆自信がある人
- 社会的評価に基づいて自分を愛する
- 自分の長所や評価されている部分だけ愛する
- 他者に対立する
お手本は「鶴瓶」と「炭治郎」
「自己肯定感が高い人」のイメージがつかめるよう、有名人の例を挙げてみましょう。
筆者がまず思い浮かべるのが、落語家の笑福亭鶴瓶さんです。いつもニコニコほがらかで、一流の芸人でありながらも自分の地位や人気をひけらかしません。価値観が合わない人も「おもろいなぁ」と笑って流す寛容さがあり、自己肯定感が高い人なのだろうと感じます。
フィクションですが、漫画『鬼滅の刃』の主人公・竈門炭治郎(かまどたんじろう)も、自分にも他人にも等しく愛を注げる、自己肯定感が高い人物ではないでしょうか。
自己肯定感が高い人の特徴
自己肯定感が高い人には、主に4つの特徴があります。
立ち直りが早い
自己肯定感が高い人は、失敗からの立ち直りが早く、逆境に強いもの。「自分なら大丈夫」といい意味で楽観的なため、落ち込んだ気分をすぐ切り替え、困難を前向きに乗りきります。
反対に、自己肯定感が低い人は、失敗を引きずって自己否定を繰り返してしまうことも。失敗を反省することは大切ですが、過度に自分を責め、ダメージを深めるのは禁物です。
前出の工藤氏は、自己肯定感を車のエンジンに例えています。自己肯定感というエンジンが小さいと、重い荷物を載せたら車は減速してしまいますが、エンジンが大きければ困難も乗り越えられるのです。
努力を楽しく継続できる
自己肯定感が高い人は、意欲に満ち、ワクワクした気持ちで努力を続けられるため、夢や目標を実現・達成しやすいものです。
自己肯定感が低い人も「ダメな自分を変えたい」と努力しますが、「自己否定型」の努力には大きな苦痛がともなうため、挫折してしまうケースも。たとえば、「英語ができて当たり前」と思い、「できない自分はダメだ」と責めながらの勉強は苦行でしかなく、継続できないでしょう。
しかし、自己肯定感の高い人は、「英語ができなくても全然OK。でも、できるようになったらもっと嬉しい」と考えます。「できなくてもOK」という安心感がベースにあるため、苦手なことでもあまり苦痛を感じず、意欲的に努力できるのです。
「自分のダメなところを肯定したら、努力しなくなるのでは?」と思うかもしれませんが、その心配はありません。自己肯定感が高いと、「自分ならできる」というポジティブな感情が湧くため、やりたいことが自然と生まれるはず。
自己肯定感の低い人は、「穴を埋めよう」という自己否定型のモチベーションで、自己肯定感の高い人は「山を登ろう」という自己肯定型のモチベーションで動くと言えるでしょう。
◆自己肯定感が低い人
英語が苦手
→「こんな自分じゃダメだ。克服しよう」
→勉強が苦しい・続かない・結果を出せない
◆自己肯定感が高い人
英語が苦手
→「それでもOK。でも、得意になればもっと嬉しい」
→勉強が楽しい・続けられる・結果を出せる
良好な人間関係を築いている
自己肯定感が高い人は、自分だけでなく他者も尊重できるので、良好な人間関係を築きやすい傾向にあります。異なる意見も寛容に受け入れられるため、言い争いを起こしにくく、人間関係を円満に維持できるのです。もめ事が起きたとしても、楽観性からすぐに相手を許し、和解することができます。
しかし、自己肯定感が低い人は、違う意見を出されると自分の存在が否定されたように感じ、怒りをあらわにするケースも。自分の意見をはっきり主張するほうが、自己肯定感が高いように思うかもしれませんが、実際は逆であることが多いのです。
初対面の人と話す場面でも、自己肯定感が低い人は、「嫌われたらどうしよう」と萎縮して壁をつくりがち。一方、自己肯定感が高い人は、「きっと受け入れてもらえるだろう」という安心感から堂々と振る舞えるので、気さくで親しみやすい印象を与え、すぐに打ち解けやすいのです。
主体的に行動する
自己肯定感が高い人は、自分の価値を他人からの評価で決めません。そのため、他人に振り回されたり周囲の目を気にしすぎたりせず、主体的に行動できます。
たとえば、転職するときも、「この仕事がしたいから」「この企業が好きだから」と自分の価値観のみに従って判断します。「社会的ステータスが欲しい」「有名な大企業に入りたい」とは思いません。評価されたい、認められたいといった欲求に流されないのが、自己肯定感が高い人間なのです。
反対に、自己肯定感が低い人は、自分の価値を肯定できないため、代わりに周囲から評価を得ようとします。もちろん、人の目を気にしたり、気を遣ったりすることが悪いわけではありません。しかし、他人を意識しすぎると、不本意な行動を選ぶことになり、幸せを遠ざけてしまうかもしれません。
自己肯定感が高い人と低い人の違いをまとめると、以下のとおりです。
◆自己肯定感が高い人
- 楽観的
- 失敗からすぐ立ち直れる
- 失敗をバネに成長できる
- 努力のモチベーションは「向上心」
- 努力を楽しく継続し、目標を実現できる
- 他者に対して寛容
- 円満な人間関係を築ける
- 他人に対してオープンで、親しみやすい
- 他人の目を気にせず、主体的に行動できる
- 自然体である
◆自己肯定感が低い人
- 悲観的
- 失敗を引きずる
- 失敗すると心が折れてしまう
- 努力のモチベーションは「自己否定」
- 努力が苦痛で続かず、目標を実現できない
- 他者に対して不寛容
- もめ事や言い争いを起こしやすい
- 心に壁をつくり、他人と打ち解けられない
- 他人の目を気にし、主体性がない
- 無理をしている
自己肯定感の高い国/低い国
さて、みなさんの自己肯定感は高いでしょうか、それとも低いでしょうか? どうも、日本人は自己肯定感が低い傾向があるようです。
上の図は、内閣府が2018年に実施した「我が国と諸外国の若者の意識に関する調査」の結果の一部。日本を含む7ヵ国の13~29歳が、「自分自身に満足している」という項目に回答した結果の割合です。
日本以外の6ヵ国では「そう思う」「どちらかといえばそう思う」が70%以上。なかでも、アメリカは「そう思う」だけで50%を超えています。自己肯定感が特に高い国だと言えるでしょう。
一方の日本では、「そう思う」「どちらかといえばそう思う」を合わせても、50%に届きません。「そう思う」と答えた人はたった10.4%と、ダントツの最低値です。日本人の自己肯定感は、なぜここまで低いのでしょうか?
心理カウンセラーの大嶋信頼氏は、「控えめさが美徳である社会」を要因に挙げています。自己肯定感が高いことをデメリットだと感じ、謙虚に振る舞う人が多いそうです。
そんな私たちは、どうしたら「自己肯定感の高い人間」になれるのでしょうか?
自己肯定感の高い人間になるための質問
自己肯定感の高い人間になるには、自分の心としっかり向き合い、尊重してあげることが大切です。精神科医の井上智介氏が推奨する「4つの質問」を自分に投げかけてみてください。
ポジティブな面を見ているか?
落ち込んだときやつらいときは、「ポジティブな面を見ているか?」と自分自身に問いかけましょう。どんなに悪い状況でも、いい面が何かしらあるはずです。
たとえば、「仕事でミスをした」という出来事だけを考えると落ち込んでしまいますが、「ミスから学び、一歩成長できた」とすれば、気持ちを切り替えられます。ポジティブな面に目を向ければ、自己肯定感が回復し、困難を乗り越える意欲が湧いてくるはずです。
◆ポジティブな面に目を向ける例
- 仕事でミスしてしまった。でも、そのおかげで大きな学びを得られた
- 体調不良で寝込んでしまった。でも、たっぷり休息をとれたし、健康管理の大切さを再確認できた
- 思うように勉強の成果が出ない。でも、勉強法を見直すいいきっかけだ
本当にやりたいことは何か?
私たちは、他人の評価や建前を気にするあまり、本音を抑えることが多いもの。しかし、それでは自分の心を踏みにじることになり、自己肯定感が低下してしまいます。
自己肯定感を取り戻すには、「本当にやりたいことは何?」と自分の胸に問いかけ、ありのままの思いを尊重してあげましょう。やりたい仕事や夢などの大きなテーマだけでなく、読みたい本、行ってみたい場所など、ささやかな望みでもOKです。紙とペンを用意し、思いつくまま書き出してみてください。
◆やりたいことを書き出す例
- 高収入に惹かれていまの会社を選んだが、本当はファッション業界で働きたい
- 本当は、ビジネス書よりマンガを読みたい
- 友だちと会うより、本当はひとりでゆっくりしたい
本当はやりたくないことは何か?
自分の本音と向き合うには、「やりたくないこと」を書き出すのも効果的です。「やりたいこと」があまり思い浮かばない方は、「やりたくないこと」から書いてみましょう。
たとえば、「残業したくない」という本音を書き出したら、「じゃあ、いつも残業している時間を使って何をしたいのか?」とさらに考えてみましょう。本を読みたい、映画を観たい、ゲームをしたいなど、自分でも気がつかなかった「やりたいこと」をあぶり出せる可能性があります。
◆やりたくないことを書き出す例
- 断りきれず毎日残業しているが、本当はやりたくない
- 昇給のために資格取得を目指しているが、本当は勉強したくない
- 片道1時間かけて会社に通っているが、本当はそんなにかけたくない
わがままを言えているか?
自己肯定感を守るため、時には「わがまま」も大切です。嫌われるかもと気にしすぎず、言いたいこと・やりたいことを素直に表現してみましょう。
人に大きな迷惑をかけるようなことはいけませんが、「仕事を手伝ってほしい」「ランチに中華を食べたい」程度の主張なら、誰も不快に思わないはず。些細なことでも「わがままを出せている」と自覚できれば、自分自身を尊重する感覚が得られ、自己肯定感が高い状態をキープできます。
◆ちょっとした「わがまま」の例
- 「仕事を手伝ってほしい」と同僚に頼んでみる
- 「ランチには中華を食べたい」と主張してみる
- 「荷物を持ってほしい」と人に頼んでみる
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自己肯定感が高い人は、毎日をいきいき過ごし、常にポジティブに前進していく強さをもっています。自分を好きになり、豊かな人生を送るためのヒントとして、本記事の内容をぜひお役立てください。
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佐藤舜
大学で哲学を専攻し、人文科学系の読書経験が豊富。特に心理学や脳科学分野での執筆を得意としており、200本以上の執筆実績をもつ。幅広いリサーチ経験から記憶術・文章術のノウハウを獲得。「読者の知的好奇心を刺激できるライター」をモットーに、教養を広げるよう努めている。