独学で機械工学を学びT型フォードを開発した、起業家のヘンリー・フォード。
読書による独学で鉄鋼王にのぼり詰めた、アンドリュー・カーネギー。
成功を収めた人のなかには、「独学力」をもつ人が多くいます。
彼らの例を見ても「時代が違う」と感じますか? いいえ、時代はまったく関係ありません。昔もいまも、成功するには独学力が必須。早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター顧問の野口悠紀雄氏は、「大成功を目指すなら学歴より独学を極めるべき」と言います。
そこで今回は、ビジネスパーソンとして成功するための力を独学で得たいと考えている人に、「独学力」を高めるための3つの要素をご紹介しましょう。自主的にこれから勉強を始めようとしているあなたには、独学力が備わっているでしょうか? この機会に確認してみてください。
本物の知性は、独学で磨かれる
医師であり、自身も独学に励む和田秀樹氏は、そもそも独学とは「既成の権威や価値に左右されないところにある勉強」だと言います。つまり、資格を取得する、有名な教授の講座を受講する……というところには重きを置きません。
和田氏の言葉をふまえ、この記事では「独学力」を「受け身にならない勉強ができる力」と定義してみました。既成の価値観にとらわれず、本当に自分に必要なことを学ぶ。教えられた内容をうのみにせず、自分なりに解釈して表現する。このようにひとつひとつ自分で考えながら勉強できる人は「本物の知性」が得られると、和田氏は伝えています。しかし受け身の勉強だと、「ただの物知り」になるだけで終わってしまうのです。
独学によって本物の知性を磨くためには、3つのステップごとに要点を押さえなければなりません。その3つのステップは、以下のとおり。
- テーマ選び
- インプット
- アウトプット
それぞれのステップについて、詳しくは次の項目以降で紹介します。
【1】独学で学ぶものは「テーマ×ジャンル」で選ぶ
独学では、自分で学びたいテーマを選ぶことができます。ただし、独学で成果を上げるためにはその選び方を軽視してはいけません。
独学のテーマ選びというと、「歴史を学ぶ」「経済学を学ぶ」といったように、ただ漠然としたイメージで選んでしまいがちです。しかし、これでは体系的な知識を一方的に受け取るかたちに陥りやすく、理想的な学びとはほど遠いものになってしまうでしょう。
そこで、独立研究者の山口周氏は、自分がなりたい姿や追い求めているものを「テーマ」とし、またそのテーマについて学ぶための手段を「ジャンル」とする、「テーマとジャンルのかけ合わせ」をすすめています。
たとえば、「リーダーシップを磨きたい」がテーマの場合。主なジャンルとして、歴史や組織心理学などが挙げられます。これらをかけ合わせると、企業の経営史や経営戦略、組織論について書かれた本を読み、リーダーシップについて学ぶといった具合になるでしょう。一方で、ジャンル選びは自分の興味を軸に選ぶことも大切とのこと。したがって、スポーツが好きなら団体競技を観戦したり、監督・選手らの著書を読んでみたりしてリーダーシップの要素を学ぶのもひとつの手です。
このように、複数のジャンルからテーマについて学ぶと、さまざまな解釈に触れながら、自分なりの正解を導き出せるようになります。既存の価値観にとらわれない、自分にとって本当に必要な学びが得られるのです。また、自分が興味あるものを主軸にしているため、独学を継続しやすくもなりますよ。
【2】独学のインプットは、「読解力」が大事
次に、独学におけるインプットで重要なのは、一方的に教えを受け取るかたちにしないこと。和田氏はこれが独学の醍醐味だと言います。たとえば、歴史書を読んで「なるほど」で終わらせるのではなく、「本当にこの政策は評価できるものだったのか?」と疑問を抱き思考をめぐらすことも、インプットだと言えるそう。
独学でさまざまなジャンルの本を読むなかで、疑問を抱き、自分なりの正解を見つけるためには、本の内容をまず正しく理解することが大切です。だからこそ、独学のインプットでは読解力が重視されます。和田氏によれば、無理なく読み解くために、まずは入門書から読み始めてアウトラインをつかむことが必要だそう。
また、読解力を高めるには、アンダーラインを引くことが効果的です。「読解力があれば、独学の効果は勝手に高まる」と説く大東文化大学教授の山口謠司氏は、次の3点に着目しながら ”2ページに1か所” を目安に、本にアンダーラインを引くことをすすめています。
- 問題が提起されている部分
- 自分が知らなかった具体例
- 具体例から導き出された論理的な部分
さらに、山口周氏は共感できない部分にも引くとよいと言います。共感できないということは、その情報に自分の価値観が反映されている証であり、自分の思考を深めるのに役立つからです。時には批判を交えつつ、本に線を引いてみましょう。
【3】独学のアウトプットは、「話す」「書く」が大事
そして最後のステップは、「話す」「書く」といった手段でのアウトプット。自分なりの解釈を周囲に伝え、フィードバックを得て再考するのも、独学における大事なアウトプットです。
資格勉強や大学の講義では、試験を受けたり、問題集を解いたりすることがアウトプットの中心になりますが、独学では自らアウトプットする機会をつくらなければなりません。精神科医の樺沢紫苑氏いわく、結果を出している人ほど、インプット以上にこのアウトプットを重視しているのだそう。
樺沢氏によれば、アウトプットのメリットは、学習した内容が記憶に残りやすくなる点です。これには脳の働きが関係しており、「話す」「書く」といった運動神経を使って筋肉を動かすアウトプットでは、小脳を経て海馬を経由し、大脳連合野に記憶が蓄積されます。このように多くの神経細胞が働くため、忘れにくくなるのです。
樺沢氏が説くアウトプットの最も簡単な方法は、先ほどからお伝えしている「話す」ことです。自分の感想や気づきも交えながら話すと、より効果的とのこと。「あなたの感想に対して自分はこう思う」と、フィードバックももらえるでしょう。加えて、人に教えることを前提にインプットすれば、記憶力が高まります。
そして、「話す」以上に記憶に残す効果があるのが「書く」ことです。実際に手を動かして書くと、脳の司令塔と呼ばれるRAS(脳幹網様体賦活系)を刺激し、脳全体が活性化していくと樺沢氏は述べます。「本にアンダーラインを引くこと」は、インプットの方法でありながら、じつは初歩的なアウトプット方法でもあるのです。
また、慣れてきたら、章の終わりごとに40文字程度の要約を書くことを山口謠司氏はすすめています。たとえば、山口謠司氏の著書『自分一人で学び、極める。』の第2章(「読解力」がすべての勉強の土台である)を40文字くらいで要約すると、「読解力を深めるには、通読や精読のみならず、批評的精神をもって吟味することが大事である。(43文字)」となります。これに自分の感想を加えてSNSなどで公開すれば、フィードバックも得られるでしょう。
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挫折しがちなイメージもある独学ですが、それは漠然と学ぶ対象を決めていたせいかもしれません。「どんな自分になりたいか」というテーマと「自分が興味あるものは何か」というジャンルをかけ合わせ、インプットとアウトプットのサイクルを何度も繰り返してみてください。あなたの独学力はきっと高まるはずです。
(参考)
プレジデントオンライン|大成功を目指すなら学歴より独学を極めろ "非常識"なアプローチが重要になる
NIKKEI STYLE|「独学こそ社会人に最高の勉強法」 野口悠紀雄氏
和田秀樹(2017),『勉強したくなった人のための 大人の「独学」法』, 大和書房.
山口周(2017),『知的戦闘力を高める 独学の技法』, ダイヤモンド社.
山口謠司(2019),『自分一人で学び、極める。』, フォレスト出版.
樺沢紫苑(2018),『学びを結果に変えるアウトプット大全』, サンクチュアリ出版.
【ライタープロフィール】
かのえ かな
大学では西洋史を専攻。社会人の資格勉強に関心があり、自身も一般用医薬品に関わる登録販売者試験に合格した。教養を高めるための学び直しにも意欲があり、ビジネス書、歴史書など毎月20冊以上読む。豊富な執筆経験を通じて得た読書法の知識を原動力に、多読習慣を続けている。