「とにかく仕事が多すぎて困っている!」
タスクが次から次へと降ってきて、仕事が終わらない状況で悩んでいませんか? 効果的な対処法が見つからず、チャットに返信しながら資料作成、メールチェックしながら電話対応...。こんな働き方を続けていては、限界が来てしまいます。
「仕事の効率化のためには、マルチタスクでこなすしかない」
そう考えてしまう人も多いはずです。確かに一見、複数の仕事を同時にこなすことが、仕事が多すぎる状況への対処法に思えます。
しかし、「マルチタスクで仕事をこなそう」というその発想自体が、実は仕事が終わらない原因かもしれません。本記事では、効率的な仕事の進め方に悩む方に、意外な解決方法をご紹介します。それは、「明日できることは今日やらない」という逆説的な対処法です。
マルチタスクが仕事を終わらなくする理由
仕事が多すぎるとき、つい複数の作業を同時に進めようとしてしまいます。しかし、この「マルチタスク」という対処法は、かえって仕事が終わらない原因になっているかもしれません。
なぜなら、人間の脳は複数の仕事を同時に処理できないからです。明治大学の堀田秀吾教授は、スタンフォード大学の研究を引用し、興味深い事実を指摘しています。私たちが「複数の仕事を同時に行っている」と感じる時、実際には脳が高速で仕事を切り替えているだけなのです。*1
この「高速切り替え」は、脳に大きな負担をかけます。研究によると、マルチタスクを続けることで、前頭前野の機能が低下し、以下のような症状が現れます。
- 物忘れによるミスが起こりやすくなる
- 判断力や集中力が落ちる
- 自律神経のバランスが乱れて、心身の不調が表れやすくなる *1
つまり、仕事を効率化しようとして行うマルチタスクが、かえって生産性を下げ、仕事が終わらない状況を生み出しているのです。では、仕事が多すぎて困っている場合の効果的な対処法とは? その答えは意外なところにありました。
シングルタスクで仕事が多すぎる状況に対処する
仕事が多すぎる状況で、マルチタスクは解決策にならないとわかりました。では、どうすれば仕事が終わらない問題を解決できるのでしょうか。堀田氏は、「真に生産性を高めたいと思ったとき、私たちが心がけるべきなのは、今、目の前にある一つのこと、シングルタスクに集中すること」であると述べています。*1
シングルタスクとは、一度にひとつの作業にだけ集中する効率的な仕事の進め方です。こうすることで、脳の疲弊を防ぎ、確実に仕事を片付けることができます。
しかし、「仕事の量は変わらない。シングルタスクで進めていたら、終わらないのではないか」という不安を感じる方も多いはずです。
そこで次項では、シングルタスクを活用した、具体的な仕事の効率化方法をご紹介します。
仕事効率化の新しい対処法「マニャーナの法則」
「明日できることは今日やらない」
この言葉を聞いて、「それって単なる先延ばし?」と思われるかもしれません。実際、ビジネス書や自己啓発本では「先送りは最悪の習慣」と散々言われてきました。
しかし、心理学ジャーナリストの佐々木正悟氏が紹介する"マニャーナの法則"は、仕事が終わらない問題の解決策として、この「当たり前」を覆します。
イギリスのマーク・フォースター氏が提唱したこの手法は、あえて計画的に仕事を先送りすることで、驚くほど生産性が向上するというのです。
特に効果を発揮するのは、
- 中長期プロジェクトが複数走っている
- 1つの仕事に数日以上かかる
- 「早めに着手したい」仕事が山積み という状況。
通常なら「できるだけ早く始めよう」と考えるところです。しかし、それこそが落とし穴でした。早すぎる着手が仕事を複雑化させ、仕事効率化の妨げとなっていたのです。
マニャーナの法則の実践方法
実践方法は意外にシンプル。すべての仕事を「今日やること」と「明日以降やること」の2つのリストに分けるだけです。この方法を使えば、仕事が多すぎる状況でも、効率的に対処できます。
具体的な方法として、佐々木氏は以下のように、「今日やることリスト」「明日以降やることリスト」を分けて書くことをすすめています。
Trelloなどのタスク管理ツールを使えばデジタルで管理できますが、アナログ派の方は画像のように2枚の紙に分けて書くのがおすすめです。
私も実践してみましたが、仕事の効率化に大きな効果がありました。以前は「早めに着手」を意識するあまり、仕事が終わらない状況に陥っていました。しかし、今では目の前のタスクに集中できるため、残業時間も減り、仕事の質も上がっています。
ポイントは、「今日やること」のリストは必ず視界に入れ、「明日以降やること」は意識的に見えないところに置くこと。同じ場所に置いてしまうと、つい先の予定が気になってしまい、タスクの切り替えコストが発生してしまいます。タスクを減らしたことで「今日中に終わる」という実感も湧き、心理的な余裕も生まれました。
マニャーナの法則は「先送り」という後ろ向きに思える習慣を、むしろ積極的に活用する効果的な対処法です。仕事が多すぎて困っている方、マルチタスクで疲弊している方は、ぜひ試してみてください。シンプルなリスト分けから、本当の仕事効率化は始まるのです。
先送り可能な仕事の判断基準
仕事が多すぎて困っているときに最も頭を悩ませるのが「どの仕事を先送りしていいのか」という判断です。安易に先送りすれば問題が起きかねませんし、逆にすべてを「今日やる」としてしまえば、仕事が終わらない状況は改善されません。
判断基準 | 今日やるべき | 明日以降でOK |
---|---|---|
締切までの余裕 | ・締切まで2営業日以内 ・中間報告が必要 |
・3営業日以上の余裕あり ・途中経過報告不要 |
依存関係 | ・他メンバーの作業開始に影響 ・チームの判断が必要 |
・他部署からの情報待ち ・単独で完結する作業 |
情報の完成度 | ・必要情報が9割以上揃っている ・追加情報の予定なし |
・情報が8割未満 ・近日中に重要情報が入る |
リスク評価 | ・影響範囲が大きい ・修正が困難 |
・影響が限定的 ・やり直しが容易 |
上の表は、仕事を効率化する方法として、「今日やるべきか」「明日以降でいいか」を判断するための4つの基準をまとめたものです。締切や依存関係、情報の完成度、リスクといった観点から、客観的に判断することができます。
注目してほしいのは、この基準が「仕事の重要度」ではなく「着手のタイミング」を判断するものだという点です。たとえば重要な企画案件でも、必要な情報が揃っていない段階での着手は手戻りを招いてしまい、かえって仕事が効率化できない原因となります。
これらの基準に照らして仕事を振り分けることで、「早めに取り掛かろう」という焦りから解放され、仕事が多すぎる状況への効果的な対処法となるはずです。
***
マニャーナの法則を効果的に実践するために必要な基準を紹介しました。最後に改めて強調しておきたいのは、この手法の本質です。
どんなに仕事が多くても、人間の脳が一度に効率よく処理できるのはひとつのタスクだけ。
「早めに着手」という見せかけの生産性に惑わされず、「計画的な先送り」で、本当の仕事の効率化を実現していきましょう。
※引用の太字は編集部が施した
*1 プレジデントオンライン|なぜ「歩きスマホ」をする人は仕事がデキないのか…最新研究が明らかにした「人間の脳の限界」とは
*2 東洋経済オンライン|「仕事の優先順位はあえてつけない」という提案
*3 FRaU|TO DOリストはこの「優先順位」をつければ劇的に能率が上がる
柴田香織
大学では心理学を専攻。常に独学で新しいことの学習にチャレンジしており、現在はIllustratorや中国語を勉強中。効率的な勉強法やノート術を日々実践しており、実際に高校3年分の日本史・世界史・地理の学び直しを1年間で完了した。自分で試して検証する実践報告記事が得意。