- 勉強したいのに、あまりにも眠くて手につかない……
- やる気はあるのに、眠気に勝てない……
このような経験は誰にでもあるはず。勉強の大敵・睡魔には、どうしたら太刀打ちできるのでしょう? 勉強中に眠いと感じたとき、シャキッと目を覚ましてやる気を回復するテクニックをご紹介します。
勉強すると眠くなるのはなぜ?
「眠い」という感覚は生理的なものなので、勉強へのやる気だけでは振り払えません。眠気が生じる具体的な原因としては、以下のものが考えられます。
睡眠の不足
夜に十分な睡眠をとれていなければ、日中の眠気という「ツケ」が回ってきます。1日当たりの睡眠不足はわずかでも、1週間、2週間と続けば深刻な「睡眠負債」になるのです。睡眠とパフォーマンスを専門とするハンス・ファン・ドンゲン教授(ワシントン州立大学)らによる2003年の研究では、「6時間睡眠を2週間続けた人の認知機能は、2晩徹夜した人と同程度」という実験結果が得られました。
医学博士で睡眠に詳しい西野精治氏によると、週末の「寝だめ」で睡眠負債を返済することはできないそう。日頃から十分に眠ることが大切なのです。
酸素の不足
血液中の酸素が足りなければ、脳の働きが悪くなって眠気が生じます。内科医の成田亜希子氏によると、酸欠の原因は以下のとおり。
- 換気不足
- 長時間の同じ姿勢による血行悪化
- 呼吸の浅さ
- 鉄分不足による貧血 など
あくびが出るときや、車酔いのような気持ち悪さを感じるときは、酸欠の可能性を疑いましょう。
血糖値の急上昇
糖分をとりすぎて血糖値が急上昇したときも、眠くなりやすいタイミングです。その理由は、急上昇した血糖値を抑制するために「インスリン」が大量分泌され、血糖値が急激に低くなってしまうから。すると、エネルギー源である糖分が脳に供給されなくなり、眠気が生じるのです。
糖分をとりすぎて糖分不足になるなんて、皮肉ですよね。ごはん・パン・麺類などの炭水化物や、甘いお菓子を食べる際は、量と頻度に注意しましょう。
アフタヌーンディップ
前出の西野氏によると、昼食後の眠気は「アフタヌーンディップ」というそう。私たちの身体は、活動時間の真んなかあたりで眠くなるようプログラムされています。7時に起きて23時に寝る人は、14~16時に眠くなりやすいのです。
勉強中に眠いと感じ、やる気が出ないときは、以上の原因を疑ってみてください。
勉強したいのに眠いときの対処法
勉強したいのに眠い、やる気が起きない――そんな問題は、どうすれば解決できるのでしょう? 8つの対策をご紹介します。
必要な睡眠時間を知る
十分な睡眠を確保するため、自分に必要な睡眠時間を把握しましょう。普段の睡眠時間が「必要な睡眠時間」とは限りません。本当は8時間眠るべきなのに、7時間睡眠で十分だと思い込んでいるかもしれないのです。
睡眠医学を研究する三島和夫氏によると、「自分の必要睡眠時間」を知るには特殊な実験が必要とのこと。しかし、以下の方法なら簡易的なチェックができるそうです。
- 平日の平均睡眠時間を計算する
- 週末は遮光カーテンを閉め、アラームを設定せず好きなだけ寝る
- 週末の平均睡眠時間を計算する
週末の平均睡眠時間が平日より3時間以上長いなら、平日の睡眠が足りていないそうですよ。
ストレスを解消する
心療内科医・田中奏多氏によれば、ストレスがたまると眠りが浅くなるそう。結果として、日中に眠くなってしまうとのことです。以下のようにすると、ストレスが解消されて眠りやすくなるそうですよ。
- 毎朝同じ時間に起きる
- 日光をたっぷり浴びる
- 20~30分ほど軽く運動する
- ぬるめのお風呂にゆっくりつかる
- ボーッとする時間をもつ
- 趣味の時間をつくる
- 寝る1時間前からスマートフォンやパソコンを見ない
- 寝室にアロマをたく
- ストレスに感じていることを紙に書き出す
- 大声を出す
朝の入浴・ランニングを見直す
目を覚ますため、朝の入浴やランニングを習慣にしていませんか? 入浴や運動は体温を上昇させるので、身体を活動状態にするのに効果的ですが、長時間の入浴や激しい運動はおすすめできません。
前出の西野氏によれば、体温が大きく上がると、下がったときに眠くなるそうです。以下のように置き換え、体温が上がりすぎないようにしましょう。
- 朝の入浴→朝のシャワー
- 朝のランニング→朝のウォーキング(早足)
仮眠をとる
眠すぎて勉強に集中できないときは、いさぎよく仮眠しましょう。睡眠専門医の坪田聡氏によれば、理想的な仮眠時間は20分程度。それ以上だと、起床後に頭がボーっとしてしまうそうです。眠れない場合でも、目を閉じているだけで脳の疲れがとれます。
坪田氏は、仮眠前にコーヒーを飲むことを推奨しています。カフェインの覚醒作用は約30分後に現れるため、ちょうど仮眠が終わる頃に効き始め、目覚めがスッキリするのです。仮眠を終えたあと、日光を浴びる、身体を動かす、水で顔を洗うなどすれば、すばやく活動モードに戻れますよ。
◆仮眠のポイント
- 20分程度
- 目を閉じるだけでもOK
- アイマスクや耳栓を使い、光・音を遮断
- あらかじめコーヒーを飲む
- 起きたあと、日光を浴びたり身体を動かしたりする
手や首の後ろを冷やす
手や首の後ろを冷やすことで、眠気を簡単に覚ませます。「新橋スリープ・メンタルクリニック」院長の佐藤幹氏によれば、その理由は以下のとおり。
手を冷やすと毛細血管が収縮し、熱の放散が抑えられることで、深部体温(脳や臓器の体温です)を高く保ちやすくなります。深部体温は、低くなれば眠りやすく、高くなれば覚醒度を保ちやすくなります。また、体温中枢がある首の後ろを冷やすと、ひんやりとした刺激が交感神経を刺激して覚醒度を高めてくれます。
(引用元:朝日新聞デジタルマガジン&|長い仮眠はかえって危険! 専門家に聞く、安全運転に役立つ睡眠法 太字による強調は編集部が施した)
眠いときは、冷たい水で手を洗ったり、保冷剤で手や首の後ろを冷やしたりしてみましょう。
身体を動かす
『一流の睡眠』(ダイヤモンド社、2016年)を著した医学博士の裴英洙氏は、日中眠くなったときの対策として「身体や口を動かしながらアウトプット」をすすめています。席から立ち上がって歩き回るだけでも、眠気が解消されるはず。家族・友だちと対面や電話で話したり、参考書や問題集を音読したりするのもいいでしょう。
また、消化器外科医の中山祐次郎氏によれば、アゴの筋肉を使うと神経が刺激され、眠気が払えるとのこと。口を大きく開けてあくびをしたり、ガムをかんだりするといいそうですよ。
◆眠気を払う動作
- 立ち上がる
- 歩き回る
- 階段を昇り降りする
- ストレッチする
- 肩や首を回す
- 家族や友だちと話す
- 音読する
- ガムをかむ
- あくびをする
脳に酸素を供給する
酸欠による眠気を払うには、以下のような対策をとり、脳に酸素をたっぷり送りましょう。
- 部屋を換気する
- 深呼吸する
- 身体を動かす
酸欠の原因には、姿勢の悪さも含まれます。呼吸器内科医の大谷義夫氏によると、前かがみでは肺が圧迫され、深い呼吸ができないそう。勉強中は背筋を伸ばし、呼吸しやすい姿勢を維持しましょう。
呼吸生理学を研究する医学博士・本間生夫氏によると、悪い姿勢を続けることによって「呼吸筋」という筋肉群が硬くなってしまうそう。以下のストレッチを3~6回ずつすれば、呼吸筋がほぐれ、深い呼吸がしやすくなるそうですよ。
◆「吸う筋肉」のストレッチ
- 足を肩幅に開いて立つ
- 両手を胸の前で組む
- 鼻から息を吸いつつ背中を丸め、腕を前に伸ばす
- 口から息を吐きつつ姿勢を戻す
◆「吐く筋肉」のストレッチ
- 足を肩幅に開いて立つ
- 両手を腰の後ろで組む
- 鼻から息を吸う
- 口から息を吐きつつ腕を下に伸ばす
血糖値の急上昇を抑える
食後の眠気を防ぐには、血糖値の急上昇を抑えましょう。お米やパンの量を減らすのはもちろん、血糖値上昇スピードがゆるやかな「低GI食品」を選ぶのも有効です。
管理栄養士の岡田明子氏によると、「GI」とは食後に血糖値が上がる速さを数値化したもの。ブドウ糖を100とし、低ければ低いほど血糖値の上昇がゆっくりになります。岡田氏がおすすめしている低GI食品は、以下のとおり。
【主食】
- 玄米
- そば
- 全粒粉のパン・パスタ
【副食】
- 肉
- 魚介
- 海藻
- ほとんどの野菜
- キノコ
【おやつ】
- ナッツ
- プレーンヨーグルト
- イチゴ
- かんきつ類
- ナシ
岡田氏によれば、米を食べるときでも、乳製品や納豆、お酢などと合わせるとGIが下がるそう。そのほか、最初に野菜を食べたり、よくかんでゆっくり食べたりすることでも、血糖値の急上昇を抑えられます。
◆血糖値の急上昇を抑える方法
- 糖質を控える
- 低GI食品を選ぶ
- お酢・乳製品・納豆・とろろなどと一緒に食べる
- 野菜から先に食べる
- よくかんでゆっくり食べる
- 食後に歩く
勉強中に眠いと感じ、やる気が出ないときは、上記の方法をお試しください。
***
どれほどやる気に満ちていても、眠いときは勉強が手につかないもの。眠気の要因を徹底的に排除しつつ、それでも睡魔に襲われたら、仮眠をとる・身体に刺激を与えるなどの方法で撃退しましょう。
(参考)
朝日新聞GLOBE+|寝だめ、実は要注意 スタンフォード大・西野教授に聞く「睡眠負債を作らない方法」
Van Dongen, Hans P. A., Greg Maislin, Janet M. Mullington, and David F. Dinges (2003), "The cumulative cost of additional wakefulness: dose-response effects on neurobehavioral functions and sleep physiology from chronic sleep restriction and total sleep deprivation," Sleep, Vol. 26, No. 2.
Medicalook|なぜ?急に眠くなる…原因はストレス?病気?病院は何科?医師監修
女の転職type|あくびは危険信号! 原因の“酸欠状態”から脱する3つの方法【医師監修】
幻冬舎ゴールドオンライン|医師「放置しないでほしい」食後に眠い…は脳の危険信号だった
西野精治 監(2021),『眠れなくなるほど面白い 図解 睡眠の話』, 日本文芸社.
スリープクリニック|睡眠の代表的な病気
プレジデントオンライン|「一日に必要な睡眠時間は8時間」は都市伝説
東洋経済オンライン|「14時頃に眠くなる人」が知らない睡魔の正体
朝日新聞ボンマルシェ|仕事も家事も能率UP!“パワーナップ”、始めてみませんか?
SBクリエイティブオンライン|「仮眠」は目的によって長さを変えるのが正解
朝日新聞デジタルマガジン&|長い仮眠はかえって危険! 専門家に聞く、安全運転に役立つ睡眠法
ゆかしメディア|医師が教える日中の眠気を覚ます効果的な方法
Yahoo!ニュース|なぜ食後は眠くなるのか 医師の視点
NIKKEI STYLE|悪い姿勢が招く「隠れ酸欠」 呼吸筋ほぐして深い息に
ダイヤモンド・オンライン|ダイエット、食事を減らさず成功も!おすすめ「低GI食品」
ダイヤモンド・オンライン|医者が教える「昼食後に眠くならない食べ方」
【ライタープロフィール】
佐藤舜
大学で哲学を専攻し、人文科学系の読書経験が豊富。特に心理学や脳科学分野での執筆を得意としており、200本以上の執筆実績をもつ。幅広いリサーチ経験から記憶術・文章術のノウハウを獲得。「読者の知的好奇心を刺激できるライター」をモットーに、教養を広げるよう努めている。