「インプットすればするほど、どれが正しい知識なのかわからなくなる……」
「ビジネスのセミナーに通い続けているけど、キャリアアップに本当に役立つのかな?」
このような悩みを抱えていませんか? 識者は、学びにおける “モヤモヤした状態” は、知性を育むために必要なものだと説きますが、どうしたらそこから賢くなっていけるのでしょうか。
今回の記事では、勉強で「モヤモヤを感じるとき」にやるといい3つのことを紹介します。
- 1. 情報が多くてどれが正しいのかわからないとき⇒「時間のかかるインプット」をする
- 2. 学びが役立つのかわからないとき⇒学問で「経験」を整理する
- 3. 勉強のマンネリ化を感じるとき⇒「道具や方法」を変える
1. 情報が多くてどれが正しいのかわからないとき⇒「時間のかかるインプット」をする
勉強のためインプットに力を入れているけれど、情報が溢れていて、どれが正しい知識なのかわからずモヤモヤする……。
そんなときは、あえて時間のかかるインプットをするのが大切。何が正しいのかわからないというモヤモヤに対して、すぐに答えを出す必要はないのです。
脳科学者の中野信子氏は、「納得できるまで、考えることをやめない姿勢」が大切とし、「もやもやした感覚を『楽しめること』が本当の頭の良さを育んでいく」と述べています。(カギカッコ内引用元:STUDY HACKER|もやもやした感覚を楽しめることが「本当の頭の良さ」を育む。真の知的体力を高めるための大切な習慣)
たとえば、部下の管理方法について学んでいて、「具体的に指示を出すほうがいい」「部下の自主性を尊重して自由にさせたほうがいい」などの対立した考えに触れることがあるでしょう。いずれも一理ある考えであり、どちらが正しいかという答えをすぐに出せるものではありません。いまいる部下の場合はどうだろう、自分の職種に合っているのはどっちだろう……などとモヤモヤしながらも自問し続けることで、“本当の頭のよさ” がつくられていくのですね。
そのうえで中野氏がすすめるのが、「時間がかかるインプット」を心がけること。これには、脳に備わる以下「ふたつの意思決定機構」が関係していると言います。
- 「速いシステム」:「情報や出来事にすばやく対応しようとする」
- 「遅いシステム」:「理性的かつ論理的に物事を判断する」
このうち前者の「速いシステム」には、「目につきやすい情報や、簡単でわかりやすい情報に飛びつきやすくなってしまう」という問題点があるのだそう。
(以上カギカッコ内引用元:同上)
たとえば、「AIが仕事を奪う! 〇〇産業の危機?」という記事はわかりやすく、直感で正しいものだと思う人は多いでしょう。これこそが「速いシステム」の問題点。
そこで、「本当にそうなのだろうか?」と、一度「遅いシステム」を使って論理的に考えるクセをつける必要があるというわけなのです。
中野氏がすすめる「時間がかかるインプット」の一例は、「信頼できるメディアだけを閲覧する」ことと、「複数のメディアを比較して検討する」こと(カギカッコ内引用元:同上)。以下で詳しく紹介します。
情報源は「信頼できるメディア」に限る
信頼できるメディアの選定には、元NHK記者で、ファクトチェックのメディアInFact編集長・立岩陽一郎氏のやり方が参考になるでしょう。
- 「情報源を確かめ」る
- 「一次情報を確認」する
- 「『事実』と『意見』の違い」を考える
立岩氏いわく、これらのうち「ひとつを意識するだけでも大きな変化」が望めるそう。
(カギカッコ内引用元:ソフトバンク ニュース|ネットのデマにもうだまされない。今日からできるフェイクニュース対策【勉強編】)
たとえば、
- 匿名ブログではなく、公式サイトや信頼性のある新聞社のサイトだけを見るようにする
- ネットニュースの発信者名に注目し、当事者や識者によるものか、公式声明かどうかチェックする
- 具体的な出来事や統計データと筆者の主観を分けて考える
などを心がけてみてはいかがでしょうか。
複数のメディアの「比較検討」を忘れない
信頼できるメディアを見つけられても、とあるメディアのひとつの意見だけに頼るのでは不十分です。
例として、「商品の価格設定」について情報を得るため、複数メディアを比較検討するときの考え方を挙げてみましょう。
- Aメディアの主張「低価格のプライベートブランドが人気。価格は安いほどいい!」
- Bメディアの主張「価格を安くすれば、ブランドの価値(信頼)が下がる」
これらの方法を使い、あえて「遅いインプット」を心がければ、思考が深くなります。モヤモヤしながらでも質の高いインプットをすることで、“本当の頭のよさ” に近づくはずですよ。
2. 学びが役立つのかわからないとき⇒学問で「経験」を整理する
学び直しの必要性を感じつつも、変動の大きい現代において「どの学びが役立つのかわからない」というモヤモヤを抱えている人も少なくないはず。
従来の働き方を変える時期が到来していることにみな気づいてはいても、「それに代わる新しいもの」が見えていないのが現状だ――こう語るのは、東京大学大学院教授の柳川範之氏。「学び直しを終えた先に、何があるのか」とモヤモヤ感を抱いている人が多いのではないかと述べます。(カギカッコ内引用元:東洋経済オンライン|柳川東大教授「日本人が抱えるモヤモヤ感の正体」)
たしかに、たとえば何かの資格を取得しても、その資格が将来本当に役立つかどうかは保証しきれないものですよね。
ではこうしたモヤモヤを打破するには、どうしたらよいのでしょうか?
柳川氏は、次のように述べています。
別に大きな成果を得なくてもいい。私たちは誰もが大きな成功を収めるために生きているわけではありません。
先行き不透明な時代だからこそ、面白いと思うことをやりましょう。そうすれば、今までよりはるかに機会が広がったり、出口が見えてきたりする。好奇心を持てる事柄についてスキルアップをして、自分の満足できる人生の100年を考える。
こういった方向で生き残りについて考えるほうが、私はずっと建設的だと思います。
(引用元:同上 ※太字は編集部が施した)
つまり、勉強は「意味のあるもの」「成果になるもの」でなければならないと、硬直的にとらえる必要はないわけです。すぐキャリアに活かせなくとも、あえて “寄り道” をして自分の興味が湧くものを探すのも大切なのですね。
そうして経験を重ねることに加えて、「自分の知識や経験を一般化」することも有効だそうです。ここで柳川氏が推奨するのが、「経済学や経営学、法学など社会科学系の学問」を学ぶこと。学問を使って自分の経験や知識を整理すれば、「『今まで自分がやってきたことは、この理論のことだ』と実体験に基づいて理解しやすい」というメリットがあると言います。(カギカッコ内引用元:同上)
試しに筆者が、心理学のモチベーション理論でこれまでの仕事の経験を整理してみましたよ。
心理学の理論と筆者の経験を比較できるように、ノートは2分割しました。左側にはモチベーション理論、右側には現職と前職の経験を書いています。
心理学を用いていままでの経験を整理すると、ある共通点が。筆者の場合、現職と前職どちらの仕事においても、金銭的報酬よりも「他人からの承認」や「貢献度」がモチベーションを支えていると気づきました。
学問を使って自らの「経験」を整理すると、学びの ”自分事化” が可能に。さらには俯瞰して考えられるため、自己分析にも使え、有意義な学びになりますよ。何を学べば役に立つのかわからない……というモヤモヤはいつしか消えることでしょう。
3. 勉強のマンネリ化を感じるとき⇒「道具や方法」を変える
勉強を継続するうちにマンネリ化に陥り、「やる気が出ない……」とモヤモヤすることも少なくないもの。そんなときは、 ”少しの変化” をつけてみてはいかがでしょう。
オックスフォード大学で日本人初の教育学博士号を取得した、東京外国語大学大学院教授の岡田昭人氏は、「自分が慣れ親しんだ習慣を続けていると退屈」してしまうと語ります。
そこで有用なのが、「方法・手段・道具を変える」こと。
(カギカッコ内引用元:朝日新聞GLOBE+|人が必ず突き当たる、『やる気が出ないとき』の対処法)
具体的には、以下のような例が挙げられるでしょう。
- 自宅で勉強するのに退屈したら
⇒「見晴らしのいい図書館のラウンジ」で勉強してみる - ノートにまとめるのに飽きたら
⇒「別のノート術」を試してみる - いつも同じ文房具を使っているなら
⇒「脳に刺激を与える紙質のノート」「持ちやすいペン」に変える
自分で意欲を高めるのは難しくても、道具や方法を変えるのはそう難しいことではないはず。「モヤモヤしてはかどらない……」と感じるなら、まずは勉強の一部分を少しだけ変えてみてはいかがでしょうか。
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“モヤモヤしている” 状態は、知性を成熟させるために必要な段階です。今回紹介したものをひとつでもいいので取り入れて、あなたの賢さをさらに磨いてくださいね。
STUDY HACKER|もやもやした感覚を楽しめることが「本当の頭の良さ」を育む。真の知的体力を高めるための大切な習慣
ソフトバンク ニュース|ネットのデマにもうだまされない。今日からできるフェイクニュース対策【勉強編】
東洋経済オンライン|柳川東大教授「日本人が抱えるモヤモヤ感の正体」
朝日新聞GLOBE+|人が必ず突き当たる、『やる気が出ないとき』の対処法
青野透子
大学では経営学を専攻。科学的に効果のあるメンタル管理方法への理解が深く、マインドセット・対人関係についての執筆が得意。科学(脳科学・心理学)に基づいた勉強法への関心も強く、執筆を通して得たノウハウをもとに、勉強の習慣化に成功している。