勉強や仕事を頑張らないといけないけれど、なかなかやる気になれない……そんなときに試してほしい、テンションを上げるおすすめの方法を紹介します。
どうにも気分が乗らなかったり、ストレスでイライラしてしまったりするのには、脳内で分泌されている「ドーパミン」や「セロトニン」といった神経伝達物質が影響しています。つまり、神経伝達物質をコントロールできれば、仕事や勉強に活き活きと取り組めるようになるのです。
音楽を聴く、手を動かすなど、脳科学的に効果のある方法を10個、詳しく紹介します。自分なりのテンションを上げる方法を確立し、仕事にも勉強にも積極的に取り組めるようになりましょう!
「テンション」とは
テンションを上げる方法を紹介する前に、まずは「テンション」という言葉の意味を明らかにしておきましょう。
「テンション」は、本来、「不安」や「緊張」を指す言葉です。しかし、日本では「気持ちが高まっている状態」という意味で一般に広まりました。すごく嬉しい、めちゃくちゃ楽しい、興奮している、元気が出た……など、ポジティブな意味で使われています。
本記事では、「仕事や勉強に対して精力的に取り組んでいる状態」あるいは「仕事・勉強へのやる気に満ちている状態」を指す言葉として「テンションが高い」という表現を用いることにしました。テンションを上げる方法を知り、仕事も勉強も効率的にこなしましょう。
テンションを上げるメリット
テンションを上げる方法の前に、テンションを上げる意味を解説しておきましょう。
テンションの高低によって仕事・勉強の効率が大きく左右されることは、あなたも日々実感しているはず。気分がよく、やる気に満ちていると作業ははかどりますが、気分が沈んでいると、遅々として進まないものですよね。
テンションが高いと生産性も上がることは、脳科学的に説明できます。テンションが高い状態だと、脳内に「ドーパミン」という神経伝達物質が分泌されているのです。
ドーパミンは、報酬を期待するときや、快感・喜びを感じるときなどに分泌されるため、「脳内麻薬」という俗称もあるほど。脳科学者の澤口俊之氏によると、ドーパミンは、やる気だけでなく思考力や決断力を向上させるそう。
つまり、テンションが高い状態だと、脳のパフォーマンスが高い状態で仕事・勉強に取り組めるのです。ぜひ、テンションを上げる方法を知りたいところですね。
テンションを上げる4つのアプローチ
テンションを上げる方法には、4方向のアプローチがあります。
東京大学薬学部教授の池谷裕二氏によると、テンションを上げるためには、脳の「淡蒼球(たんそうきゅう)」という部位を動かす必要があるのだそう。淡蒼球は、やる気をコントロールする部位で、得られる報酬の量を予測して行動を引き起こす役割をもっています。
池谷氏によると、淡蒼球を刺激するアプローチは、以下の4つ。
- 「身体」からのアプローチ:生活リズムや作業場所などの身体的条件
- 「経験」によるアプローチ:脳が活性化するような新鮮な経験
- 「報酬」によるアプローチ:目標をクリアすることで得られる報酬
- 「イデオモータ」によるアプローチ:脳裏に思い描く成功イメージ
これから、テンションを上げる方法を10個紹介します。上記の4つのうち、どれが今の自分に欠けているか考え、ぴったりの方法を選んでください。
テンションを上げる方法
では、テンションを上げる具体的な方法をひとつずつ解説していきます。
大声を出す
テンションを上げる1つめの方法は、大声を出すこと。カラオケで大声で歌ったり、スポーツ中に叫んだりすると、気分がたかぶり、スッキリした感じがしますよね。精神科医の樺沢紫苑氏によれば、大きな声を出すと脳が刺激され、興奮物質・アドレナリンが分泌されるため、一瞬でテンションを上げられるのだそう。
アドレナリンが分泌されると、気分が盛り上がるばかりでなく、集中力や判断力が増し、筋力が瞬間的に5~7%も向上すると言われているため、スポーツ界では「シャウティング」という技術が取り入れられています。たしかに、ハンマー投げの室伏広治選手や卓球の福原愛選手をはじめ、スポーツ選手のみなさんは大きな声を出し、自らを鼓舞している印象がありますね。
樺沢氏によると、アドレナリンを分泌させるには、中途半端な発声だと効果がありません。腹の底から絞り出すように全力で叫ぶべきなのだそうです。テンションを上げる方法としては、オフィスや学校、自宅だと難しいかもしれませんが、カラオケに行ける機会があれば、ぜひ意識してみてください。
無理にでも笑う
テンションを上げる方法としては、シンプルですが、「笑う」ことも効果的です。お笑い番組を見て笑うのでもいいですし、感情のともなわない「つくり笑い」でもかまいません。とにかく表情筋を動かし、笑顔を浮かべることが大切なのです。
池谷教授によると、脳は「入力」よりも「出力」を重視するのだそう。「笑顔」をつくると、その出力に見合った感情(=楽しさ)が生まれ、自然と愉快な気持ちになってくるとのことです。つまり、「楽しいから笑う」のではなく、「笑うから楽しくなってくる」というわけですね。
カンザス大学のタラ・クラフト博士が2012年に公開した論文でも、笑顔をつくることでストレスが緩和されると実証されました。170人の被験者に「無表情」「つくり笑い」「心から出た本物の笑顔」の3種類の表情をさせ、ストレス度合いを測ったところ、「つくり笑い」と「本物の笑顔」の場合に心拍数が低下し、ストレス度合いが下がったそうです。
「つらいときこそ笑え」とはよく言われますが、きれい事でも精神論でもなく、テンションを上げる方法としては科学的に有効なものだったのですね。
かわいいものを眺める
かわいいものを眺めるのも、手っ取り早くテンションを上げる方法としてオススメです。暇な時間に猫の写真を検索したり、好きなアイドルの動画を見たりして、癒やされている方は多いのではないでしょうか。
大阪大学大学院人間科学研究科教授・入戸野宏氏によると、かわいいものを見るといい気分になるのは、ドーパミンが分泌され、脳の報酬系が刺激されるからなのだそう。
また、入戸氏によると、かわいいものには集中力を高めてくれる効果もあるのだとか。たとえば、かわいい猫の写真を見ていると、くりくりとした目ややわらかそうな毛並み、ぴんと立った耳など、つい細部まで味わうように眺めてしまいますよね。「もっと見ていたい」という心理になり、自然と意識が対象に集中するのです。このようにして、一度つくり出された集中状態は、仕事・勉強に戻っても維持されます。
ただし、かわいいものを長時間見つめすぎていると、仕事や勉強に戻る気が起きなくなってしまうので、1分~1分半程度に留めるのがベストだそう。テンションを上げる方法としては、かなり簡単に行なえますね。
身体を動かす
身体を動かすことも、テンションを上げる方法として有効です。ウォーキングやジョギング、筋トレなど、心地よく感じられる運動であればなんでもかまいません。
『できる人の脳が冴える30の習慣』(中経出版、2011年)の著者で医師の米山公啓氏によれば、運動をすると、活動性をつかさどるノルアドレナリン、意欲や幸福感をつかさどるドーパミン、安心感をもたらすセロトニンなどの神経伝達物質が分泌されるのだそう。ミシガン大学も2018年に、運動と幸福感には強い相関性が認められたという研究結果を発表しています。
運動すると、脳の血流量が増え、脳のエネルギー源であるブドウ糖が多く供給されるため、脳の働きを活性化させる効果も期待できます。米山氏によると、複雑に身体を動かすダンスのような運動だと、脳を活性化する効果はより高いそうです。
どうも気分がシャキッとしないなぁ……というときは、テンションを上げる方法として、散歩に出かけたりスクワットをしたりしてみましょう。
コーヒーを飲む
テンションを上げる手軽な方法としては、コーヒーを飲むのも効果的。
精神科医の樺沢紫苑氏によると、カフェインの興奮作用は30分で現れるそう。コーヒーが苦手な方や、普段カフェインをとらない方も、どうしてもテンションが上がらないときは、コーヒーの力に頼ってみてはいかがでしょうか。
ただし、注意点があります。まず、午後2時以降はコーヒーを控えること。樺沢氏によれば、午後2時以降にコーヒーを飲むとカフェインの興奮作用が夜まで残ってしまい、睡眠に悪影響が及びかねないのだとか。
また、試験やプレゼンテーションなど大事なイベントの前にも、コーヒーは避けましょう。カフェインには利尿作用があるため、尿意を催して、イベントに集中できなくなるからです。
とはいえ、飲む量やタイミングに気をつければ、コーヒーは仕事や勉強の強い味方。テンションを上げる方法としてはお手軽なので、上記の注意点を守り、適度に付き合いましょう。
音楽を聴く
好きな曲やアップテンポな音楽を聴くことは、テンションを上げる方法の代表格。仕事中や勉強中、好きな音楽を再生して気分を高めている方は多いのではないでしょうか。
ただし、池谷教授によると、メールや企画書を書くような「考える仕事」のときは、作業効率が落ちる恐れがあるのだそう。脳の情報処理能力の一部が音楽に割かれてしまうため、脳のパフォーマンスが低下するのです。
それでも、池谷氏は仕事中、常に音楽を流しているのだそう。疲れて集中力が切れたとき、音楽が気晴らしになり、作業を中断せず続けやすくなるからとのことです。つまり、音楽によって集中力が少し低下してしまうかもしれないものの、作業中の苦痛を減らし、やる気を維持することには役立つというわけ。
作業の性質や、その日の気分にもよりますが、退屈な作業に取り組むときは、音楽の力を借りるのも、テンションを上げる有効な方法です。
とにかく手を動かす
どうしても仕事や勉強を始める気になれない……というときは、とにかく手を動かしてみるのが、テンションを上げる方法としてオススメです。
医師で経営コンサルタントの裴英洙氏は、心理学の「作業興奮」という概念を紹介しています。作業興奮とは、文字通り「作業をするうちに芽生えてくる興奮」のこと。部屋の片づけをするとき、最初はしぶっていたのに、いつの間にか熱中し、すみずみまで徹底的に整理してしまったという経験が、あなたにもあると思います。
「手を動かしているうちになぜか熱中していく」という現象が、作業興奮です。どうしても気乗りしないとき、しぶしぶにでも着手してみたら、作業にのめり込んでいけるはず。テンションを上げる方法としては地味ですが、作業興奮の効果を信じてやってみてください。
報酬を用意する
テンションを上げる方法としては、自分に報酬(ご褒美)を用意しておく、というのもあります。
脳科学者の澤口俊之氏によれば、「報酬への期待感」を感じると、ドーパミンが分泌され、やる気が出るのだそう。たしかに、「今日の仕事が終わったら飲みに行けるぞ!」「資格試験に合格したら昇進できるぞ!」など、近い将来得られるであろうご褒美を想像すると、テンションが上がりますよね。
1週間や1カ月といった大きな単位でのご褒美だけではなく「このタスクが終わったらチョコレートを1個食べよう」「午前中に問題集を終えられたら、ランチにはおいしいものを食べよう」など、短いスパンでもご褒美を設けておくといいでしょう。そして、テンションが下がってきてしまったときには、あとで得られるご褒美を思い浮かべるという方法で、再びテンションを上げることができるはずです。
将来のビジョンを描く
将来の目標を描くという方法でも、テンションを上げることができます。
「35歳までに年収1,000万円になりたい」「結婚して円満な家庭を築きたい」「○○の資格をとりたい」「来年、ワーキングホリデーでオーストラリアへ行きたい」など、なんでもかまいません。とにかく、自分がワクワクできる目標であることが大切です。
「将来のビジョンなんて思い浮かばない」「思いついたビジョンにワクワクしない」という方もいるかもしれません。『逆算手帳の習慣 ふわふわした夢を現実に変える』(ダイヤモンド社、2018年)の著者で、GYAKUSAN株式会社CEOのコボリジュンコ氏が紹介する、以下のやり方を試してみてください。
1. 現実的な未来を描く
まず、「いまのままだと、こうなるだろう」という、「ありそうな未来」を書き出してみてください。「しばらくはいまの会社に留まって、30代のなかばくらいには結婚して……」というようなものです。
2. 悲観的な未来を描く
次は、「こんなことになってほしくない」と感じるシナリオを描いてみましょう。あえて悲観的な未来を想像することで、自分の望みを知ることができます。
たとえば、悲観的な未来のシナリオとして「災害が起きて、まわりの人が死んでしまう」「昇進できず、早期退職を促され、東京で仕事を見つけられず実家に戻る」を思い浮かべたのなら、「家族や友人に囲まれ、ずっと健康に暮らしていたい」「いまの会社で頑張っていきたい」と願っているのでしょう。
3. 楽観的な未来を描く
いよいよ、これが本題。「こんなことになったら、幸せすぎて笑っちゃう」と思うような、明るく楽しい未来を想像してみてください。たとえば、「自分で興した会社が順調に成長し、お金もちになって赤坂の高級マンションで暮らす」というものです。馬鹿馬鹿しいと感じるかもしれませんが、恥ずかしがらず、自分の望みを素直に書いてみましょう。
4. やりたいことを100個書き出す
最後に、やりたいことを100個書き出します。1~3と違い、時間がかかるかもしれません。
コボリ氏によると、やりたいことを100個も書き出すのは、「心の底の本音」をあぶり出すためなのだそう。10個や20個では、普段の考えを書き出すことにしかならず、心の深層に隠された望みまではたどり着かないのです。
「もう何も浮かばない」と思っても、100個まで頑張って絞り出しましょう。やり終える頃には、自分が本当は何を望んでいるのか把握でき、未来への希望で気分が高まってくるはずです。テンションを上げる方法としては時間がかかるものの、効果が長続きするでしょう。
「できたことノート」をつける
テンションを上げるため、日常にあふれるポジティブな要素に気づく方法をご紹介しましょう。
人材育成コンサルティングを提供する株式会社ネットマン代表・永谷研一氏は、ポジティブ思考を身につける手法として「できたことノート」を提唱しています。一日の終わりに、「その日できたこと」を振り返ってノートに書くというものです。
- 【月曜日~土曜日】寝る前にノートを開き、その日「できたこと」を3つ書き出す(3分程度)
- 【日曜日】1週間の「できたこと」を振り返る(10分)
これだけのことを続ければ、物事のポジティブな面に目を向ける習慣が身につき、自己肯定感や幸福感が高まります。「できたこと」をなかなか見つけられない人は、永谷氏が紹介する、以下の基準を意識してみましょう。
- 他人の反応:関わった人が自分に示したポジティブな反応を振り返る
例)「上司に仕事の出来をほめられた」「電車で席を譲ったら感謝された」 - 数字:達成できたことを数値で振り返る
例)「契約を10件とれた」「今月は5万円も貯金できた」「ひと月で1キロ痩せられた」 - 気分:ポジティブな気分になった出来事を振り返る
例)「英会話教室でいつもより上手に話せて嬉しかった」「昔の知人と久しぶりに話して楽しかった」
上記の基準を意識して振り返ると、何かしらの「できたこと」が見つかるはず。永谷氏によれば、「できたことノート」を少なくとも3週間ほど書き続けると、「できたこと」の発見を習慣化できるのだそう。テンションを上げる方法として、ぜひ試してください。
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テンションを上げる方法を10個紹介しました。何によってテンションが上がるかは人それぞれですから、さまざまな方法を試しつつ、自分に合ったやり方を見つけてくださいね。
池谷裕二(2012),『脳には妙なクセがある』, 扶桑社.
樺沢紫苑(2018),『いい緊張は能力を2倍にする』, 文響社.
Zhang, Zhanjia and Weiyun Chen (2019), "A Systematic Review of the Relationship Between Physical Activity and Happiness," Journal of Happiness Studies, Vol. 20, pp.1305-1322.
Kraft, Tara and Sarah Pressman (2012), "Grin and Bear It: The Influence of Manipulated Facial Expression on the Stress Response," Psychological Science, Vol. 23, No. 11, pp. 1372-1378.
THE21オンライン|脳科学から見えてきた!やる気を高める4つの方法
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佐藤舜
大学で哲学を専攻し、人文科学系の読書経験が豊富。特に心理学や脳科学分野での執筆を得意としており、200本以上の執筆実績をもつ。幅広いリサーチ経験から記憶術・文章術のノウハウを獲得。「読者の知的好奇心を刺激できるライター」をモットーに、教養を広げるよう努めている。