たった5分の“文章力トレーニング”法。「部分書き写し」があなたの文章力を上げるワケ

本が並んだ空間でペンを持ち書く女性

ビジネスパーソンのみなさんの中には、効果的な文章力トレーニングをさがしている、という方も多いのではないでしょうか。

文章は、仕事における重要なコミュニケーションツールです。メール、報告書、企画書など、1日のうちでも様々な文章を書く機会があります。

しかし、「文章をまとめるのが苦手」「相手に伝わらない」といった悩みを抱える方は少なくありません。そのために文章作成に時間がかかりすぎたり、意図が正しく伝わらず仕事に支障をきたしたりすることも。

そんな方におすすめなのが「部分書き写しトレーニング」です。優れた文章を書き写すことで、効率的に文章力を鍛えることができます。本記事では、このトレーニング方法の具体的な効果と、すぐに始められる実践手順をご紹介します。

文章力トレーニングに「部分書き写し」が効果的な理由

文章力トレーニングとして、部分書き写しには大きくふたつのメリットがあります。それぞれ詳しく解説しましょう。

文章構造を理解できる

作家の文章や、大勢のプロが関わって出版された本の文章は「読みやすい」と感じるのではないでしょうか。それは、テーマや主張などが伝わりやすい文章の構造になっているからです。書き写しを通じて、この文章の組み立て方を学ぶことができます。

『エンパシーライティング®』を提唱し、文章術に関する複数の著書をもつ中野巧氏も「文章全体の構造を把握するのにも、書き写しは効果的」だと述べています。「同じ内容でも、どのような順番で展開していくかによって、読者の印象は変わ」るため、文章構造を学ぶことは重要だというのです。*1

例として、以下の文章を比べてみましょう。

  1. 先日、情報リテラシー研修に参加しました。講師から基礎知識の説明を受けたあと、実践ワークショップで情報検索と信頼性の判断方法を学びました。
  2. 情報検索と信頼性の判断方法について、具体的なスキルを習得しました。これは、講師の基礎知識講義と実践ワークショップを通じて学んだものです。

1は時系列で書かれており、正確で分かりやすい印象を与えます。2は重要なポイントを冒頭に置くことで、読者の関心を引き、主張を強調する効果があります。

どちらが間違った文章であるということではありません。文脈によって、どちらの構造の文章も引き出せるようにしておいたほうが表現の幅が広がります。

さまざまな文章を書き写せば、こうした構成パターンが見えてくるはず。「文章だとうまく伝わらない」「何から書けばいいかわからない」といった悩みも解決できるでしょう。

ノートに書き込む人の手元

文章のリズムをつかめる

効果的な文章力トレーニングには、「リズム」の習得も重要です。読みやすい文章には、心地よいリズムがあります。このリズム感を学び、自分の文章に活かせる点も書き写しのメリットです。

『嫌われる勇気』などの著書をもつライターの古賀史健氏によると、文章のリズムには語尾や文末表現が関連しています。語尾には「です・ます調」「だ・である調」「体言止め」があり、文末表現には「~です」(断定)、「~でしょう」(推量)、「~だそうです」(伝聞)などがあります。*2を参考にした 

これらの組み合わせが、文章にリズムを生み出すのです。具体例をみてみましょう。

  1. 夏目漱石の『こころ』は、日本文学の傑作として評価されています。本作では、人間の内面が深堀りされています。時代を超えてもなお、人々の心を打っています
  2. 夏目漱石の『こころ』は、日本文学の傑作です。本作では、人間の内面が深掘りされています。時代を超えてもなお、人々の心を打ち続けるでしょう

古賀氏は「連続する文で語尾が重複してしまうと、リズムを損ない、稚拙な印象を与え」ると指摘します。*2 実際、すべての文が「~います」で終わる1に比べ、「です」「います」「でしょう」と変化をつけた2のほうが読みやすく感じる人が多いのではないでしょうか。

とはいえ、文章を読むだけではこうしたリズムに気づきにくいものです。書き写すことで「読点の位置に驚いたり、語尾や文末表現のゆたかさ」に気づいたりできると古賀氏は言います。

そのため「自分が気持ちいいと思う文章を筆写」し、「『自分とはまったく異なるリズム』を発見」することが大切。これにより「自分の(文章の)癖やリズム」も見えてくるそうです。*2

文章で相手の関心を引きたい人、最後まで読んでもらえる文章を書きたい人は、リズムを意識しながら書き写しをしてみましょう。

デスクに置かれた本やノート

部分書き写しの具体的な練習ステップ

文章力トレーニングの実践方法として、書き写しトレーニングは非常にシンプルな手法です。お手本となる文章を選んで書き写すだけ。小説、啓発本、新聞など、教材は自由ですが、お手本を選ぶ際は「マネのしやすさ」を意識しましょう。

前出の中野氏は、自分の「キャラクター」と「レベル」に合った文章を選ぶことをすすめています。文章には個性が出るため「あまりにも自分自身とかけ離れた文章を書き写しては、ちぐはぐとした印象」になってしまうからです。*1

たとえば『日本国憲法』は、難しすぎて日常の文章に活かしにくいため、お手本としては適していません。自分が「読みやすい」「こんな文章を書きたい」と感じる文章を選びましょう。

また、時間は短くてもいいので、何回もトレーニングをすることが重要。伝える力【話す・書く】研究所所長の山口拓朗氏は、1日5〜10分の短時間でも継続することが大切だと指摘します。継続的な練習により、文章を書くコツがつかめ、「自分も書けそうだ」という意欲も生まれやすくなるというのです。*3

実際に、筆者が「こんな文章を書きたい」と憧れている芥川龍之介の『蜜柑』を5分間書き写してみたところ、4文ほど書くことができました。B6サイズのノートで余白をとりながら書くと、1ページ弱の量になります。

筆者が「書き写し」をしたノート

画像は筆者が作成した

5分間でこのくらいの量であれば、負担に感じずに続けられると思いました。1冊の本を少しずつ書き写していったり、その日の新聞で気になったニュースを書き写したりと毎回違う文章を書き写せば、さまざまな文章構成や語尾のパターン、リズムを発見できそうです。

書き写し後の振り返り

文章力トレーニングの効果を最大限引き出すには、振り返りが重要です。筆者は文章が長くなる傾向があったため、簡潔に文章を書く力を身につけたいと考えていました。書き写しトレーニングを行なった結果、お手本の分析と自分の文章との比較ができました。

1回のトレーニングで書き写したのは、4つの文章だけ。読むだけなら1分もかからない文章です。しかしそれを書き写すことで、じっくりと文章に向き合って、文末表現やリズムに注目できました。

たった4文の短い文章でも、書き写すことで文章の特徴が見えてきたのです。

たとえば、お手本は「自分の状況」「周囲の様子」「外の景色」と、情報を段階的に展開する構成でした。筆者なら「自分の状況」と「周囲の様子」を、ひとつの文に詰め込んでしまいそうです。この比較から、ひとつの文にいくつもの要素を詰め込むのではなく、一文にはひとつの内容だけを入れると文章がすっきりすることを学びました。

こうした学びを今後に活かすため、筆者は書き写しが終わったあとに気づきを赤ペンでメモしておきました。

筆者が「書き写し」したノートにポイントを書き込んだ様子

画像は筆者が作成した

古賀氏によると、書き写しは手書きが望ましいが、手打ちタイピングでもかまわないそうです。*2 筆者が行った手書きは、文章をじっくり分析でき、メモも残しやすいのがメリット。ただし、最も大切なのは継続することなので、やりやすい方法で無理なく続けていきましょう。

ノートに書き込もうとする人の手元

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「部分書き写しトレーニング」により、文章力を鍛えることができます。相手に伝わる文章を作成するために、「書き写し」のトレーニングをぜひ取り入れてみてください。

※引用の太字は編集部が施した

【ライタープロフィール】
藤真唯

大学では日本古典文学を専攻。現在も古典文学や近代文学を読み勉強中。効率のよい学び方にも関心が高く、日々情報収集に努めている。ライターとしては、仕事術・コミュニケーション術に関する執筆経験が豊富。丁寧なリサーチに基づいて分かりやすく伝えることを得意とする。

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