「勉強してもすぐ忘れてしまうから、試験の点数がなかなか伸びない……」
「気持ちがモヤモヤして、勉強がはかどらない。でもどうすればいいんだろう……」
こんな悩みのある人は、「勉強内容」と「感情」をセットで記録してはいかがでしょうか。今回は医師が推奨する「5行日記」に、人材教育で使われる「ムードメーター」をドッキングし、勉強に活用してみました。記録が学習に与える影響を解説するとともに、筆者による実践の結果もお伝えします。
「5行日記」が勉強にもたらす効果
脳神経内科医の長谷川嘉哉氏がすすめる「5行日記」とは、その日の出来事を振り返って5行で書くシンプルな日記術。長谷川氏いわく、脳の機能を回復させることができるそうです。
というのも、パソコンやスマートフォンばかり使うのに比べ、「手書き」をするほうが、以下のように脳の広範囲を働かせられるから。
記憶をつかさどる海馬から、書くべき内容に関する記憶を引っ張り出す
→引っ張り出した記憶を、前頭葉で文章として組み立てる
→指に至る運動神経と連動しながら、「文字を書く」ための指令を出す
また、漢字・ひらがな・カタカナを使い分けるだけでも、それぞれ異なる脳の部位が働くそう。
5行日記が脳によいということは、「ワーキングメモリ」の観点からも説明できます。
ワーキングメモリとは、脳に入ってきた情報を一時的に保存し、優先度をつけて処理する領域のこと。長谷川氏によると、ワーキングメモリの容量は限られているため、たくさんの情報を抱えると働きが鈍くなり、必要な記憶を引き出しにくくなるのだとか。そこで、情報を書き出してワーキングメモリの容量を空けると、脳がより活発に働くようになるのです。
長谷川氏いわく、上記のように脳を活発に使うことは記憶定着に効果的だとのこと。実際、次のような実験結果もあります。
ノルウェー科学技術大学による研究で、タイピングよりも手書きのほうが、脳が活発に動くと判明。実験の責任者であるオードリー・バンデルメーア氏によれば、手書きの行為が五感を刺激することで、脳のさまざまな領域が稼働し、記憶力と学習効果が高まったのだそう。
したがって、5行日記は、勉強で成果を挙げるのにぴったりなのです。
「5行日記」は勉強のメタ認知に最適
5行日記で記録をつけると、メタ認知もできるようになります。
メタ認知とは、自分自身を第三者的な視点で見ること。奈良教育大学によれば、メタ認知は、よりよい勉強法を模索したり課題に対処したりするのに役立つそうです。
一例として同大学が挙げるのが、算数の授業の最後に「算数日記」を書くという取り組みです。授業で学んだこと・思ったことを記録すると、子どもたちは理解が不十分だった理由や今後知りたい内容などをすすんで考えるようになるそう。算数日記の習慣がメタ認知的活動を促すことにつながるのです。
大人の勉強でも、同じことが言えるでしょう。「さっきの問題、なぜ間違ったんだろう。どうしたら克服できるんだろう」といった感じで、日記を通じて自分の現状や課題を分析すれば、成果につながる的確なアプローチを見つけられるはずです。
「感情の把握」が勉強にもたらす効果
学習効果は、「感情の言語化」によってさらに高められます。じつは、感情が学力向上に役立つ可能性を示す実験結果があるのです。
株式会社NTTドコモらが2020年に行なった共同実験(早稲田大学教授の上淵寿氏が監修)で、被験者の小中学生を、怒り・喜び・悲しみなど14の感情をもっている状態に誘導。そのあとに記憶力テストを実施したそうです。
すると、「興奮」「興味」「喜び」の感情をもたせた状態でテストに臨んだとき、得点が特に高くなったとのこと。さらに、それらの感情が学習内容とは無関係でも、学習効率を高められるとわかりました。
この事実からは、「大人も、自分が不快な感情になっていないかを確認し、いい感情をもった状態で勉強するとよい」ということが言えるはず。
そうはいっても、私たちはモヤモヤして曖昧な気持ちを抱えていることも多いもの。いまの自分が勉強に適した感情をもてているかを確認するには、どうしたらいいのでしょう……?
感情の言語化には「ムードメーター」が役立つ
自分の気持ちを上手に言語化するのに役立つのが、「ムードメーター」というものです。
これは、アメリカにあるイェール大学の感情知性センターが開発した、自分の感情を知るツール。以下の日本語版は、EQ(感情知性)を取り入れたコンサルティングを手がける株式会社アイズプラスによって作成されました。
(画像引用元:STUDY HACKER|いまの状態を「100の感情」から選び言語化する習慣で、パフォーマンスが最大化する理由)
ムードメーターでは、横軸のフィーリングレベルと縦軸のエネルギーレベルを10点満点でそれぞれ換算し、感情を言語化します。たとえば、朝食に好物を食べたからフィーリングレベルは8点で、寝不足気味だからエネルギーレベルは6点。それらが交わるところを探すと「Hopeful(希望に満ちた)」となります。
同社代表取締役の池照佳代氏いわく、ムードメーターによって感情を明確に認識し、それがパフォーマンスにどう影響するかを知れば、「この気分のときは、こんなふうに行動しよう」と対処できるようになるとのこと。まさに先述の、感情の把握が勉強にもたらす効果と通じていますね。
このムードメーターがあれば、100の感情から選ぶだけで、自分の気持ちを簡単に言語化できます。「“なんとなく” いい気分・悪い気分」ということが減り、感情に対するアクションも定めやすくなるでしょう。
5行日記で「勉強内容」と「感情」を記録してみた
筆者も、ムードメーターで感情を言語化しつつ、5行日記を実践してみました。勉強内容はアニメーションソフトの参考書を読みながら、ソフトを操作するというもの。仕事で使うソフトの使い方を覚えられず悩んでいたので、5行日記を取り入れながら勉強することにしたのです。記録したのは、次の5項目。
- 勉強内容
- キーワード
- 成果(できたこと・できなかったこと・疑問点など)
- 感情
- その感情に至った理由
感情を抱いた理由も書いたのは、自分の行動や状態をあとから振り返りやすくするためです。筆者が書いた5行日記がこちら。
勉強内容と感情を5行日記に記録したら、記憶力と勉強のパフォーマンスが上がった!
およそ1週間、5行日記をつけて感じたことや提案したいことを以下にまとめます。
1. 勉強したことを覚えられた
5行日記で勉強内容を記録し続けると、1週間前に学んだ内容であってもきちんと覚えていられるようになりました。感情と勉強内容が結びつき、記憶定着に貢献したのだと思います。
たとえば「ジムに行って『Cheerful(愉快)』の感情だった日には、このエフェクトについて勉強したな」といったように、よい感情が知識を思い出す際の手がかりになりました。
2. 勉強のパフォーマンスが安定した
パフォーマンスのムラが減った実感もあります。筆者はこれまで、気分によって勉強の時間や密度にかなり差がありました。しかし5行日記で感情を記録するようになってからは、自分のコンディションを把握して対処できるようになったのです。
たとえば、仕事量が多く慌ただしかったとき、ムードメーターをチェックするとエネルギーレベルが「7」、フィーリングレベルは「5」。感情は「Annoyed(いらいらする)」で心に余裕がないとわかったので、ToDoリストを整理して気持ちを落ち着けてから勉強に取りかかる、という対処をすることができました。
今後は、エネルギーレベルが低く体が不調なときは、休息を積極的にとってから勉強するといった対処もできそうです。
3. 勉強法や計画の見直しにも役立つ
5行日記を通じてメタ認知の経験を積んだことで、勉強法や計画の見直しも自然とできるようになりました。
筆者は5行日記の実践中に、エフェクトの名前を覚えるのが苦手だと気づきました。そこで、エフェクトの名前と効果を別のメモ帳にまとめて記憶するように勉強のやり方を調整したところ、苦手で不快な感情をうまく軽減させ、学習効率を高められたのです。
みなさんも勉強がはかどらないときは、メタ認知をうまく利用すれば、より成果につながる勉強法を探せるはずですよ。
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5行日記は紙とペンさえあればできるうえに、時間もかかりません。簡単に実践できて得られる効果はたくさんあるので、勉強の成果が出なくて悩んでいる方はぜひ挑戦してみてくださいね。
(参考)
STUDY HACKER|医師「手書きが脳にいいのは当然」――脳を刺激する “最高のアナログ習慣” してますか?
転ばぬ先の杖|脳神経内科医がおすすめ!「5行日記で脳を蘇らせよう」
介護ポストセブン|記憶力が劇的に回復するメモ術5行日記|あれあれ症候群や認知症対策にも!
Norwegian SciTech News|Why writing by hand makes kids smarter
奈良教育大学|メタ認知に関心のある方へ
奈良教育大学|算数・数学作文(日記)とは何ですか?どのように書かせればよいですか?
STUDY HACKER|いまの状態を「100の感情」から選び言語化する習慣で、パフォーマンスが最大化する理由
PR TIMES|「興奮」「興味」「喜び」の感情が学習中の記憶力を向上させることを証明
【ライタープロフィール】
藤真 唯
大学では日本古典文学を専攻。現在も古典文学や近代文学を読み勉強中。効率のよい学び方にも関心が高く、日々情報収集に努めている。ライターとしては、仕事術・コミュニケーション術に関する執筆経験が豊富。丁寧なリサーチに基づいてわかりやすく伝えることを得意とする。