「仕事でアイデアを出したり解決策を考えたりすることが苦手……」
「相手からの質問に対し、うまい返答をすることができない……」
こうした悩みから、「自分は頭の切れが悪い。もともとの才能がないから……」と諦めていませんか?
じつは、考え方を少し変えれば、頭の切れをよくすることは可能。今回は、頭が切れる人たちが身につけている思考習慣を3つご紹介します。
1.「因数分解」する
そもそも、「頭が切れる人」とはどのような人を指すのでしょうか? デジタル大辞泉によると、「頭が切れる」ことは次のように定義できるようです。
物の考え方が鋭い。問題をみごとにすばやく解決できる。頭の回転が速い。
(引用元:コトバンク|頭が切れる)
上記のうち、まず「問題をみごとにすばやく解決できる」という要素に注目してみましょう。
ビジネス数学教育家の深沢真太郎氏によれば、問題を解決するには「因数分解という考え方が極めて有効」なのだそう。深沢氏は例として
(信頼)=(信頼を高めるもの)-(信頼を下げるもの)
という引き算の式を挙げたうえで、
前者は増やす(高める)ものであり、後者は減らす(改善する)ものとなります。それぞれ増やす(減らす)ためには何をどうするのかを考えることこそ、まさにビジネスパーソンに必要な問題解決力にほかなりません。
(※筆者注:前者は「信頼を高めるもの」、後者は「信頼を下げるもの」を指す)
と説明しています。このような考え方を、深沢氏は「因数分解思考」と呼んでいるそう。(上記カギカッコ内・枠内引用元:東洋経済オンライン|問題解決が苦手な人は「因数分解」をわかってない)
つまり問題を構成する要素と、それぞれの要素の関係性がわかると、具体的な解決策も見えてくるわけです。
筆者も因数分解思考を試すべく、「人材育成がうまくいかない」という場面を想定し、「人材育成」をこう因数分解してみました。
(人材育成)=(信頼関係)×(必要スキルの伝達度)×(時間)
この3つの構成要素を見てみると、
- マイナスとなりうる「信頼関係」をプラス変えるには、どうすればいいか?
- 相手によって変化しうる「必要スキルの伝達度」を大きくするには、どうすればいいか?
といったことを考えればいいとわかりますね。
もちろん、これだけで問題が解決するとは限らず、のちのちさらに細かい要素に分ける必要も出てくるかもしれません。とはいえまずは、このように問題を因数分解する習慣をつけておけば、頭が切れる人に近づけるはずですよ。
2.「分類」する
前出のデジタル大辞泉によれば、頭が切れる人は「頭の回転も速い」とのことでした。では、頭の回転を速くするにはどうすればよいのでしょう。
世界記憶力グランドマスターの池田義博氏によれば、「頭の回転が速い人は分類能力に長けている」とのこと。「人気のコメンテーター」のような「頭の回転が速い人」の特徴を、池田氏はこう説明しています。
彼らは、何か意見を求められたり、お題を与えられたりすると瞬時に的確な答えを返せます。これは頭の回転が速いからこそなせる業です。このとき彼らは、与えられた課題のポイントを素早く見つけ、それと共通点がある話を瞬時にたくさん頭に思い描いているのです。後はその中から話すことをピックアップするだけ。
つまり彼らに備わっているのは「情報を分類して、共通点を探し出す意識」(略)です。
(上記カギカッコ内・枠内引用元:東洋経済オンライン|頭の回転が速い人とそうでない人の圧倒的な差 ※太字は筆者が施した)
どういうことか、例を使って考えてみましょう。とある部下が上司から、こんなことを聞いたとします。
「最近リモートワークが増えて、全体の進捗が遅れがちだなぁ……」
つまりこれが、相手から与えられた課題です。この課題のポイントは「進捗管理が十分にできないこと」となるでしょう。この状況に共通する話として、
- そういえば取引先のX社でも、以前同じことで困っていたと聞いたっけ。クラウド型進捗管理ツールを導入したら、状況が改善したらしいな……。
- Y社の人からは、ツールを使えば離れた相手とも進捗共有が容易にできていいと聞いた。うちの会社の問題も改善できるのでは?
などといったことがパッと思い浮かべば、上司に「うちもクラウド型進捗管理ツールを試してみませんか?」と提案できますね。この例は比較的簡単なものでしたが、こうしたコミュニケーションが何度も重なれば、上司や周囲から「頭が切れる人だな」「考えが鋭いね」と評価してもらえるようになるかもしれません。
情報を分類して共通点を探すなんて、難しそうだ――と思う人は、池田氏がすすめる、分類能力を鍛えるトレーニングをやってみましょう。「名詞を1つ設定し、その言葉の上位概念か下位概念の名詞を探」すというものです。「共通点を探し出す意識」があると、自然と「情報量を圧縮でき」、情報を覚えやすくなるメリットがあるのだとか。(カギカッコ内引用元:同上)
“この話は、ほかのどんな話と似ているのだっけ?” と考える引き出しが増えるイメージでしょうか。
筆者も練習として、ちょうど目の前にあった「ハンドクリーム」の上位概念を考えることに。池田氏は「最低2段階先まで」考えることをすすめていたので、筆者はこう整理してみました。
「ハンドクリーム」<1段階上「ハンドケア」<2段階上「ボディケア」
思いつくまでに4分ほどかかり、想像よりも難しいと感じたので、日常生活で気づいたときにコツコツ練習するとよいかもしれません。
3.「仮定」する
いい企画がなかなか思いつかない、同じようなアイデアしか浮かばない……。そんな人は、思い込みを外す必要があるかもしれません。
思考心理学者の樺旦純氏は、科学者のような頭が切れる人たちの共通点として、「思考が柔軟で常識にとらわれない」ことを挙げています。固定観念に縛られないので、思考の切れがよく、斬新なアイデアを生み出せるのだとか。
固定観念に縛られず考える秘訣は「もしも」の精神だと樺氏。「もしも○○だったら」と考えてみると、発想の転換がしやすくなるそうです。(参考・引用元:樺旦純 (1998), 『頭のキレをよくする本 創造力、記憶力を高める心理テクニック』, PHP研究所.)
たとえば、「コーヒーに関する新商品を考える」とき。
「コーヒー=飲み物」
といった固定観念があると、思考の範囲が食品に限られてしまい、アイデアの幅も狭まります。一方、
「コーヒー=もしも香りを楽しむものだったら?」
「コーヒー=もしも染料として使ってみたら?」
というように考えられれば、より幅広い発想ができますよね。
加えて樺氏は、ブレインストーミングを考案したアメリカの実業家、A. F. オズボーン氏による「オズボーンのチェックリスト」を使うこともすすめています。以下の9項目に沿って、思考の切り口を変えながらアイデアを考えるのです。
- ほかの利用法はないか?
いまのまま、別の使い方ができないか? - ほかのものからアイデアを借りられないか?
似たものはないか、ほかの業種や分野のアイデアを取り入れられないか? - 変えてみたらどうか?
意味、形、色、動きなどを変えてはどうか? - 拡大したらどうか?
サイズ、時間、頻度、長さ、強さなどを拡大したらどうか? - 縮小したらどうか?
何かを省いたら、軽くしたら、分割したらどうか? - 代用したらどうか?
ほかのものや人、過程、場所、材料にできないか? - 入れ替えたらどうか?
順番、ペース、要素、日程などを変えられないか? - 逆にしたらどうか?
上下、プラスマイナス、役割などを逆転したらどうか? - 組み合わせたらどうか?
ほかのものと組み合わせたら、目的やアイデアを結合したらどうか?
(同上書籍よりまとめた)
このリストをいつでも見えるようにしておいて、アイデアに詰まったときに参照すると役立つはず。
筆者も今回、「アクセサリー」をテーマに、オズボーンのチェックリストを使って案を出してみました。仕事で画期的なアクセサリーを思いつきたいと考えていましたが、アイデアがなかなか浮かばず、悩み続けていたのです。
実際にやってみると、9項目が手がかりになり、視点をうまく変えて幅広いアイデアを出すことができました。拡大や縮小、逆転など、普段は考えが及ばないようなところまで思考を巡らせることができたのです。
また「クライアントに提案できるようないいアイデアを」などと最初から意気込みすぎず、アイデアのもとを探すようなイメージで取り組むと、発想しやすいと感じました。「現実的かどうか」「実際にやるかどうか」といった点はあまり気にせず、取り組んでみるとよいと思います。
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「頭の切れのよさは、もともとの才能だ……」と考えていた人でも、ご紹介したトレーニングをすれば、頭の切れをよくしていけるはず。やることは、考え方を少し変えるだけです。3つの思考習慣を身につけて、頭の切れをアップさせましょう。
(参考)
コトバンク|頭が切れる
深沢真太郎 (2022), 『あらゆる悩みを自分で解決!因数分解思考』, あさ出版.
東洋経済オンライン|問題解決が苦手な人は「因数分解」をわかってない
東洋経済オンライン|頭の回転が速い人とそうでない人の圧倒的な差
樺旦純 (1998), 『頭のキレをよくする本 創造力、記憶力を高める心理テクニック』, PHP研究所.
【ライタープロフィール】
藤真 唯
大学では日本古典文学を専攻。現在も古典文学や近代文学を読み勉強中。効率のよい学び方にも関心が高く、日々情報収集に努めている。ライターとしては、仕事術・コミュニケーション術に関する執筆経験が豊富。丁寧なリサーチに基づいてわかりやすく伝えることを得意とする。