「いい人すぎる」が職場を壊す? 優しい人が無意識にやっている2つのNG行動

オフィスで話している男女

誰かの表情や状況にすばやく気づき、さりげなくフォローする。揉め事があればあいだに入り、誰もやりたがらない雑務も引き受ける。空気を読み、余計な軋轢を生まないように立ち回る……みんなのためにやっているつもりなのに、なんだか息苦しい。

もし、こんな状況に心当たりがあるなら、できることから変えてみませんか。

この記事では、「優しすぎる人」が知らず知らずのうちにはまりがちな落とし穴と、チームも自分も守るためのヒントをお伝えします。

「優しい人がいるとチームがうまく回る」は本当か?

「〇〇さんがいてくれて本当に助かる」

「あの人がいるとチームが穏やかになる」

このように、職場ではなにかと優しい人が頼られがち。

たしかに、優しい人がチームにいると、場の空気が安定し、トラブルも起きにくくなります。しかし長期的に見ると、その「優しさ」がチーム全体のパフォーマンスを低下させ、組織を脆弱にしてしまうケースも少なくないのです。なぜこんなことが起きるのでしょうか?

  • 優しい人に仕事が集中することで、ほかのメンバーが「誰かがやってくれる」という受け身の姿勢になり、当事者意識や問題解決能力が低下する
  • 摩擦や対立を避けて表面的な調和が保たれる結果、本来議論すべき重要な問題や改善提案が埋もれてしまい、組織の成長機会を逸する
  • 特定の人にノウハウが蓄積される一方で、他のメンバーのスキルアップが阻害され、チーム全体の底上げができなくなる

——このように、「優しい人」のもたらす「場の安定」は表面的なものであり、実際にはチーム全体の機能不全を覆い隠してしまうこともあるのです。

精神科医の和田秀樹氏は、「優しさというのは、相手のためにならなければ、優しさにはならない」と語っています。*1 「みんなのために」と思って行なっている行動が、結果的にチームの自立性を奪い、将来的な競争力を削いでいるとしたら——むしろ「偽りの優しさ」と言えるでしょう。

もし心当たりがあるなら、できることから変えてみませんか? 次項から、「優しい人」がやりがちなNG行動とその問題点、そして具体的な対処法を紹介します。

Kindnessという単語に蛍光ペンで線を引いている

NG行動1:頼まれたらなんでも引き受けてしまう

「〇〇さん、急だけどこれ明日までにお願いできるかな?」

退勤直前にこんな依頼をされることが多く、そのたびに「まあ、誰かがやらなきゃいけないなら仕方ないか……」と引き受けてしまっている。こんな経験はありませんか?

「優しい人」は、無理な依頼や突発的な雑務、チーム内の調整役、さらには同僚の愚痴を聞く感情労働まで、あらゆることを頼まれやすい傾向があります。そして「断ったら迷惑をかけてしまう」「自分がやったほうが早い」という思考パターンから、ついすべてを引き受けてしまうのです。

一見、チームの潤滑油として機能しているように見えますが、この状態が続くと、次第にチーム全体のバランスが崩れてしまいます。

NGの理由:業務が可視化されず、役割分担が不明確になるから

「優しい人」がなんでも簡単に仕事を引き受け続けると、ほかのメンバーは「自分がやらなくても誰かがやってくれる」と無意識に依存するようになり、主体性を失っていきます。

特に問題となるのは「誰がやるか明確でない業務」の存在です。会議室の予約、来客対応、備品の補充、新人のフォロー、クライアントへの謝罪対応……。こうした「名前のない業務」を一人が引き受け続けることで、いつの間にかその人の業務として固定化されてしまいます。

結果として、本来の業務に加えて見えない業務まで抱え込むことになり、一人だけ大きな負担を背負うことになるのです。

しかし、これらの業務は評価対象になりにくく、周囲からも見えにくいため、ほとんどのメンバーはその不均衡に気づきません。むしろ「今日もスムーズに業務が回っている」と錯覚してしまうのです。

本来なら可視化して平等に役割分担すべき業務が隠れてしまい、チーム内での責任の所在が曖昧になってしまいます。

💡 対処法
❶ 仕事の見える化で、頼みにくい状態をつくる

産業医・精神科医の井上智介氏は「今抱えている仕事のToDoリストを机の前に貼って」おくことをすすめています。*2 もし社内で共有しているタスク管理ツールがあるなら、それを活用するのもいいでしょう。
「いま、どの程度の負荷がかかっているか」をほかのメンバーにも見えるかたちにしておくことで、「いつでも頼めそうな人」という認識を変えることができます。ちなみに、「ToDoリストには、その案件に関わる上司の名前を書いておく」と、業務の割り込みで誰に迷惑がかかるかわかるため、依頼者への牽制になると井上氏は述べています。*2

❷ 即答を避けて、時間の猶予をつくる

それでも無理な依頼をされた場合はどうすればよいでしょうか。まず大切なのは、その場でふたつ返事で引き受けないことです。一呼吸置いて、冷静に状況を判断する時間をつくりましょう。
以下の3つの要素を組み合わせた「調整のためのテンプレート」を事前に用意しておくと、いざというときに感情的にならずに対処できます。*2

  • 現在の状況を具体的に説明する
  • 「役に立ちたい」という前向きな気持ちを示す
  • 代案を提案する

たとえば……

「現在は〇〇プロジェクトの締切対応で手一杯のため、お役に立ちたいのですが、明日までの依頼ですと品質を保てない可能性があります。もう少しお時間をいただければ、しっかりとした成果物をお渡しできるのですが、いかがでしょうか?」

このような言い回しなら、協調性を保ちながらも適切な境界線を引くことができます。「できない理由」ではなく「より良い成果を出すための提案」として伝えることで、相手との関係性も良好に保てるでしょう。

オフィスでパソコンを前に会話している男女

NG行動2: 理不尽に耐え、我慢してしまう

「多少のハラスメントはどこにでもあるから、受け流さないと」

「自分がやった仕事だけど、〇〇さんの成果になっている……でも仕方ないか」

このように、明らかに一線を超えた周囲の行動を「波風を立ててはいけない」「大人の対応をしなければ」と黙認していませんか?

「多少の理不尽にも黙って耐えれば、いつか評価されるときがくる」「我慢強い人だと思われたい」と考えているなら、それは大きな誤解です。グレーな環境ほど「優しい人」が標的にされやすく、理不尽な扱いがエスカレートしていくもの。そして最終的には、貢献度に関係なく使い捨てられてしまうことも珍しくありません。

さらに深刻なのは、このような行動が本人だけでなく、チーム全体に悪影響を及ぼすことです。

NGの理由:不均衡なパワーバランスや不正を助長するから

理不尽な状況に対して声を上げないことは、周囲に対して「この行為は問題ない」「この程度なら許容される」という「不正や不平等な状況を容認するメッセージ」を送ることになります。理不尽な言動が常態化し「それがこの職場のルール」になってしまう可能性があるのです。

具体的には、以下のような悪循環が生まれます。

 
上司の不適切な発言が放置されることで、それが「この職場では普通のこと」として定着する
成果の横取りや責任の押し付けが見過ごされることで、同様の行為を行なう人が増える
無理な業務指示や理不尽な叱責が常態化し、「それがこの職場のルール」として新入社員にも引き継がれていく

長期的には、職場全体で心理的安全性が失われ、本来の能力を発揮できない人が続出する可能性も。結果として、優秀な人材の離職、組織全体のパフォーマンス低下といった深刻な問題を引き起こします。

つまり、理不尽に耐え続けることは、むしろ職場に新たな被害者を生み出す原因にもなりうるのです。

 

💡 対処法
❶ 抑圧していた自分の気持ちや欲求に向き合う

「優しい人」は、理不尽な出来事に直面すると、反射的に「自分にも非があるのでは」「相手にも事情があるはず」と自分を納得させようとしたり、「職場の平和のため」と感情を押し殺そうとしたりする傾向があります。
心理カウンセラーで心理相談研究所オールイズワン代表の石原加受子氏は、このようなときは「自分の気持ちや欲求に立ち返ってみる」といいと語っています。*3
理不尽な出来事に対して、建前ではなく本音ベースで「自分は本当はどう感じているのか」「どのような状況を望んでいるのか」を明確にすることから始めましょう。
周囲への配慮も大切ですが、まずは自分の心の声に素直になる時間をつくってみてください。

❷ 自分にできる対処をする

精神科医の片田珠美氏が、理不尽な相手のタイプ別に対処法を紹介しています。いくつか抜粋して紹介します。*4

  • 「手柄の横取り」タイプ
    重要な作業や提案は、必ずメールで関係者全員に共有し、記録として残す習慣をつけましょう。プロジェクトの進捗報告も定期的に行ない、自分の貢献を可視化することが重要です。

  • 「デリカシーのないハラスメント」タイプ
    感情的にならず、事実ベースで自分の受けた影響を伝えることが効果的です。
    その際、「自分を主語にすること」と「クッション言葉」を組み合わせることで、相手を必要以上に追い詰めることなく、境界線を示すことができます。
    (例:「場を和ませようとしてくださったのだと思いますが、私は傷つきました」)

現在は職場のハラスメント対策や理不尽な状況への対処法について、多くの専門書籍やウェブ記事、さらにはAIツールの活用も含め、相談の選択肢が広がっています。一人で抱え込まず、積極的に情報収集することも大切です。状況を改善するために、「小さなNO」を繰り返し伝えることが、あなたとチームのために必要なのです。

***
自分と他人のあいだに境界線を引くことは、健全なチームづくりに欠かせないこと。「都合のいい人扱いされることが多い」と感じているなら、一度自分の行動を振り返り、できることから始めてみましょう。あなたを中心に、少しずつチームも変化していくはずです。

 

【ライタープロフィール】
柴田香織

大学では心理学を専攻。常に独学で新しいことの学習にチャレンジしており、現在はIllustratorや中国語を勉強中。効率的な勉強法やノート術を日々実践しており、実際に高校3年分の日本史・世界史・地理の学び直しを1年間で完了した。自分で試して検証する実践報告記事が得意。

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