仕事で周囲も驚くような結果を出してみたい。「この人はどこか違うぞ」と評されたい。そう願うあなたがチャレンジすべきは「アイデアを100案出すこと」です。
発明王エジソンは「すばらしいアイデアを得たいのなら、たくさんのアイデアを出すことだ」と言いました。一流クリエイターたちも、仕事の精度を高め良質な発想をするには「100案出せ」と説きます。
そこで今回は、筆者が実際に100案出してみました。なぜ、100案出せる人が強いのか。そこには納得の理由が詰まっていたのです。
仕事では「100案出せる人」が強い理由
デキる人はなぜ100案出すのでしょう。ふたつの理由を挙げます。
「この案がたしかに正しい」と確認するため
クリエイティブディレクターの三浦崇宏氏によれば、広告代理店の若手コピーライターにとって、100個以上案を出すのは普通のこと。最終的に残るのは100案うちたった1つなのに、それでもわざわざ100個も案を出すのは、「この案は違う。この案も違う」という間違いを “検証” するためだと言います。
たとえ、誰もが「これだ」と思う案がすでに用意されていても、ほかにはたしかに正解がないということを確認して初めて、世に出す。その検証の深さが、プロとアマチュアの違いなのだそう。
リミッターを外して「非凡なアイデア」を生むため
『100案思考』の著者でコピーライターの橋口幸生氏は、「○○とはこういうものだ」という無意識のリミッターのせいで凡庸なアイデアしか出せない状態を打破するために、100案出すことをすすめます。
橋口氏が挙げる例では、たとえば「新しいスマートフォンのアイデア」を出すとき、現実的な予算や実現性などにばかりとらわれていると、「30分長く充電がもつスマートフォン」のような凡庸なアイデアしか出ないそう。結果として、「3分長く充電がもつスマートフォン」というさらに矮小化されたものを世に出すハメになると言います。
そこで重要になるのが、「予算度外視」「実現性度外視」「数こそすべて」の意識でリミッターを外し、100案出すこと。「充電不要で永久に使えるスマートフォン」「象が踏んでも壊れないスマートフォン」など、なんでもありにして楽しみながら発想することで、非凡なアイデアが生まれるのだとか。
実際、広告や新商品、新規事業などの成功事例は、「大量の没案の中から生き残った1案」なのだそうですよ。
100案出すにはどうすればいいか
しかし、いくら100案出すことが大切だと言われても、無策で立ち向かうにはあまりにハードルが高いもの。そこで、100案出すための5つのコツを紹介します。
1. どんなに些細な案でもすべて書き出す
note株式会社代表取締役CEOの加藤貞顕氏は、「いいアイデアだけ」出そうとすると、さえないアイデアが10個程度並ぶことにしかならないと言います。些細な案、イマイチな案、語尾や助詞だけ変化したような案でも良しとすることが大切だそう。
2. 時間を決める
前出の橋口氏は、「タイムリミットを設けると緊張感が生まれ、アイデアが出やすくなる」と述べます。橋口氏自身がアイデア出しの時間と決めているのは、午前8時半からの約1時間半。
脳科学的にも、午前中はアイデアを出しやすい時間帯と言われています。脳科学者の茂木健一郎氏によると、目覚めてからの3時間は脳が創造性を発揮するのに最も適した時間なのだそうです。
3. 組み合わせる
アメリカの実業家ジェームズ・W・ヤング氏が著書『アイデアのつくり方』で記した「アイデアは既存の要素の新しい組み合わせ」という言葉は、ご存じの方も多いでしょう。
橋口氏はその入口として、「ロケットと刺身」「ティッシュと鉛筆削り」のように「まったく関係のなさそうな単語同士を組み合わせる」ことをすすめます。良し悪しの判断はせず、たくさん組み合わせ続けることで、おもしろい組み合わせの “カン” が磨かれるそうですよ。
4. A4ヨコ型の方眼ノート+付箋を使う
ノートでおなじみコクヨ株式会社の社員は、アイデア発想に「A4ヨコ型」の方眼ノートを使うそうです。ノートの中央から上下左右に向かって、マインドマップのような要領でアイデアを広げていくのだとか。罫線にとらわれず自由に書き込める方眼ノートの「ヨコ型」を使うことで、思考をより広げやすくなるのです。
また、付箋も活用するとのこと。情報の分類・整理・削除を効率よく行なえるそうです。
5.「エクスカーション法」で連想ワードを組み合わせる
発想したいテーマとは関係のない、動物・場所・職業系の「連想ワード」をひとつ決め、その特徴を無理矢理テーマに変換するのも有効です。これは、アメリカのロリンズ大学クラマー大学院で教授を務めたジェームス・M・ヒギンズ氏による「エクスカーション法」というもの。意外性のあるアイデアを多く出すためのテクニックです。
たとえば、「新しいスマートフォンのアイデア」を出すために、「ハリネズミ」という連想ワードを設定した場合……
- 背中にとげがある → 手のひらマッサージ機能ついたスマートフォン
- むやみに触ると痛い → 防犯機能として、指紋認証に失敗すると電流が走る
- 夜行性 → 太陽光で充電できる
といったユニークな発想をすることができます。
ポイントは、無関係な連想ワードをヒントにすることで常識の枠を強制的に外すこと。橋口氏の言う「リミッターを外す」のにうってつけのテクニックです。
100案考えてみた
上記のコツを取り入れて、筆者も100案出しに挑戦! テーマは【サイト「STUDY HACKER」のユニークな記事ネタ案を考える】です。
- A4方眼ノート(アイデア出し用)
- A4罫線ノート(アイデアまとめ用)
- 付箋・ペン3色(青・緑・黒)
を用意し、午前8時半~10時半という2時間制限で実行しました。
では、100案に至れるかどうか。ゴールまでの道のりをご覧ください。
開始〜30分
マインドマップの要領で思いついたことをひたすら書きなぐりました。
この時点で出せたのは23案。どうにも質にこだわってしまいます。まだまだ先は長そう……。
30分〜1時間30分
手が止まってきたので作戦変更。思いついた単語を片っぱしから付箋に書き出しました。
だいたい100単語くらい出そろったところで、適当に貼りつけて分類し、連想を書き込み、単語同士を徹底的に組み合わせまくります。
笑うしかないようなアイデアもあるのですが「どんなに些細な案も書き出す」ということを思い出し、「メダカの交尾」+「成長性」=『成長に大切なのは付き合う人』などという具合で数を増やします。一気に76案出そろいました。
1時間30分〜
ラストスパートです。適当に組み合わせるのに行き詰まりを感じたので、「エクスカーション法」に移ります。各単語から連想する特徴を書き出し、無理矢理記事テーマに変換しました。
たとえば、ビジネスリーダー向けコラムを「シュークリーム」の「主役は皮ではなくクリームである」という特徴から発想して、『リーダーは「主役」ではない。部下を輝かせる仕事術』という案を生み出した、という具合です。
悪戦苦闘の末、なんとか100案達成……! かかった時間は2時間10分でした。
「100案出せる人」はやっぱり強い!
実践を通して感じたこと、提案したいことをまとめます。
■ 100案出せる人が強いのは本当だった!
100案出せる人が強い理由がよくわかりました。
筆者は今回、心のおもむくままに案を出してみたのですが……「9割の案は個人ブログのネタにはなるが、企業サイトに載せる商品にはできない」と強く実感。これが、100案出すことの「検証」の効果なのでしょう。100案考え尽くしたからこそ、これと決めた案への迷いが消え、集中力や自信が増す。100案出せる人が強いのも納得です。
9割の案は使えないと思った一方で、開始30分過ぎからの「とにかく数を出す」というマインド下では「これは非常にいい!」という案もいくつか出せました。自分を追い込んでリミッターを外すことが、おもしろい発想につながるのだと体感しました。
■ おすすめは「時間制限+組み合わせ」
これから100案出しを実践する人には、「時間制限を設ける」「単語を組み合わせる」の2点を強くおすすめします。
「些細な案でもいい」と頭ではわかっていても、無意識のリミッターを外すことは容易ではありません。そこで、時間制限を設けて強制的に質より量をとらざるを得ない状況に自分を追い込むのです。
また、「単語を組み合わせる」ことはアイデア発想の最強のトレーニング。筆者は、ランダムに単語を書いて組み合わせる過程で、単語の価値を再定義していることに気づきました。
たとえば、ただ小豆を洗うだけの妖怪「小豆洗い」は「ユニーク人材」。「異世界転生」は「ミスマッチだった人材が転職先で花開いた」――そんな思考を、100パターン近く実践したのです。これは、どんな言葉からでもアイデアを引き出す訓練にほかなりません。100案出しを通して、筆者の発想はかなり柔軟になったように感じています!
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100案出すのはとても大変ですが、やり遂げたときの自信と発見は、今後に大きく活きるはず。どんなテーマでもよいので、ぜひ一度100案出しに挑んでみてください!
アート思考研究会|「すばらしいアイデアを得たいのならたくさんのアイデアを出すことだ」
マイケル・マハルコ著, 加藤昌治監修, 齊藤勇訳, 小沢奈美恵訳, 塩谷幸子訳(2012),『アイデア・バイブル』, ダイヤモンド社.
三浦崇宏(2020),『言語化力 言葉にできれば人生は変わる』, SBクリエイティブ.
橋口幸生(2021),『100案思考 「書けない」「思いつかない」「通らない」がなくなる』, マガジンハウス.
週刊アスキー|いいアイデアは200本ノックから生まれる――「悩まない思考法」
THE21ONLINE|脳科学者が勧める「朝時間」の使い方
ジェームス・W・ヤング著, 今井茂雄訳(1988),『アイデアのつくり方』, CCCメディアハウス.
東洋経済オンライン|コクヨ社員に聞く!方眼ノートの最強活用法
東洋経済オンライン|「付箋+ノート」で仕事がいっきに速くなる
読書猿(2017),『アイデア大全』, フォレスト出版.
月島修平
大学では芸術分野での表現研究を専攻。演劇・映画・身体表現関連の読書経験が豊富。幅広い分野における数多くのリサーチ・執筆実績をもち、なかでも勉強・仕事に役立つノート術や、紙1枚を利用した記録術、アイデア発想法などを自ら実践して報告する記事を得意としている。