ビジネスでよく使われる「精査」という言葉、意味を正しく理解できていますか?
- 精査って、厳密にはどういう意味?
- 正しい使い方や例文は?
- 「精査して」と指示されたけど、具体的にどうすればいいの?
「精査」に関するこんな疑問をおもちなら、この記事を読めば答えがわかりますよ。
「精査する」の意味
『広辞苑 第六版』 によると、精査の意味は「くわしく調査すること」。ビジネスシーンでは、次のような場面で使われます。
- 資料の内容を詳しく見直す
- 情報の真偽を厳密に確かめる
- トラブルの原因を徹底的に究明する
- 機械を細かく点検する
- 見積もりを厳密に計算し直す
「調査」や「検査」に比べ、「精密に」という意味が強くなります。上司や取引先からの「精査してくれ」「ご精査ください」という言葉には、「ミスがないよう入念に調べてほしい」という意味が込められているのです。
英語なら、close examinationという表現が一般的です(『ジーニアス和英辞典 第3版』)。examinationの代わりにinspectionを使うことも可能。scrutinyという、かしこまった単語もあります。
◆「精査」を表す英語
- close examination
- close inspection
- scrutiny
◆「精査する」を表す英語
- examine closely
- inspect closely
「精査」を英語で表現したい場合、このいずれかを使ってください。
精査の使い方
続いて、複数のシーンにおける「精査」の使い方を解説します。
ビジネス
一般的なビジネスシーンにおける「精査」の使い方は以下のとおり。自分が精査する場合は「精査いたします」、相手から精査される場合は「ご精査のほどよろしくお願いいたします」「精査をお願いいたします」と言えばOKです。
◆「精査」の使い方
- ご指摘いただいた点につきましては、弊社にて精査させていただきます
- 再度、ご精査のほどよろしくお願いいたします
- お送りした書類につきまして、精査をお願いいたします
- 精査の結果、採用と判断いたしました
会計監査
精査は、公認会計士などが使う会計監査用語でもあります。会計監査とは、会社の会計に不正がないかチェックすることです。
日本公認会計士協会によると、会計監査用語としての精査は「すべての取引や項目について監査手続を実施すること」。組織で行なわれた会計処理をひとつひとつ漏れなくチェックする、最も綿密な監査作業です。
会計業務に携わっている人、携わる予定の人は、この意味での「精査」も覚えておきましょう。
健康診断
健康診断で「要精査」(読み方は「ようせいさ」)と診断されたことはありませんか? 要精査とは、おかしな点を見つけたものの、精密検査をしなければ病気の有無を判断できない状態です。
日本肺癌学会によると、病気の兆候を見落とさないよう、少しでも異常があれば「要精査」が下されるそう。要精査の診断を受けたら、必ず病院で精密検査を受けましょう。
精査の類語
精査と混同されやすい、類語との使い分けも見ていきましょう。
同じ “査” の字が入っている「調査」は「ある事柄の実態や事実関係を明らかにするために調べること」(『広辞苑 第六版』、以下同様)。単に調べるだけで、「詳しく」というニュアンスは含みません。「くわしく調査すること」が精査です。
“査” を含む言葉には「検査」もありますね。意味は「ある基準をもとに、異常がないかどうか、適正であるかどうかを調べること」。たとえば、「糖質0.1%未満」という基準があったとして、その基準を満たしているか調べるのが「検査」です。
検査にも「くわしく」というニュアンスはありません。また、「調査」と比べて調べる対象が限定的です。
ほかにも、精査に似た言葉はたくさんあります。正しく使い分けましょう。
◆「精査」に似た言葉
- 調査:ある事柄の実態や事実関係を明らかにするために調べること
【例】どんな商品が需要されているか、市場を調査する。 - 検査:ある基準をもとに、異常がないかどうか、適正であるかどうかを調べること
【例】製品の品質に問題がないか検査する。 - 審査:ある基準で物事を調べ、優劣・合否などを決めること
【例】面接試験によって採用者を審査する。 - 査収:よく調べたうえで受け取ること
【例】送られてきた企画書を査収する。 - 精察:注意して、くわしく観察すること
【例】市場の動向を精察する。 - 検証:調べ、仮説などを証明すること
【例】仮説が正しいかどうか、アンケート調査をして検証する。 - 照査:照らし合わせて調べること
【例】発注通りかどうか、指示書と見比べて照査する。 - 監査:監督し検査すること
【例】不正会計を行なわないよう、会計士が企業を監査する。 - 吟味:くわしく調べて選ぶこと
【例】どの企画を採用すべきか吟味する。 - 究明:調べて真実を明らかにすること
【例】トラブルが起きた原因を究明する。 - 推敲:言葉を考え練ること
【例】広告のキャッチコピーを推敲する。 - 確認:物事を確かめること
【例】リサーチ結果が正しいと確認する。 - 検討:調べ、当否を考えること
【例】どの企画を採用すべきか検討する。
精査の方法1:MECE
上司やクライアントから「精査してほしい」と言われたら、あなたはどうしますか? 「くわしく調べる」とひとくちに言っても、どんな手段で何をすべきか、具体的なところまではわからないかもしれませんね。ここからは、具体的な「精査」の方法をご紹介します。
ビジネス上の課題を精査したいとき役立つのが、「MECE(ミーシー)」というフレームワークです。BtoBセールスに特化したソフトウェアを手がける株式会社Innovation X Solutionsの取締役・内田雅人氏によると、MECEとは、Mutually Exclusive & Collectively Exhaustive(互いに相反する&完全に包括する)の略。「情報を漏れなく、ダブりなく整理する」という意味です。
「自社の顧客にはどんな人が多いか」を精査するとします。つまり、「自社の顧客」という集合体を分類していくわけです。
分類と言っても、年齢、性別、職業など、さまざまな分け方が考えられますよね。MECEを意識しておけば、分類に漏れやダブりが生じず、うまく精査できます。
◎MECEに基づく分類(漏れ・ダブりのない分類)
- 子ども/若者/中年/高齢者
- 男性/女性/それ以外
- 接客業/非接客業
×MECEに基づかない分類(漏れ・ダブりのある分類)
- 子ども/若者/学生/中年/高齢者
※「若者かつ学生」などのダブりがある - 男性/女性/学生
※「男性かつ学生」などのダブり、「いずれにも属さない人」などの漏れがある - 接客業/デスクワーク/肉体労働
※「接客業かつ肉体労働」などのダブり、「いずれにも属さない職種」などの漏れがある
正しく分類・分析するため、漏れ・ダブりを生んではいけません。MECEを徹底するため、以下に挙げる3つの方法のうち、どれか1つを実践してください。
対照概念で分類
1つめは、「○○という条件を満たすか/満たさないか」(対象概念)で分類する方法です。
- 子ども/子ども以外
- 学生/学生以外
- 東日本/西日本(東日本以外)
- 女性/女性以外
- 接客業/接客業以外
という具合に、「A/A以外」で分類すると、漏れ・ダブりがありません。さらに細かく分類する場合も、「A/A以外」を繰り返していきます。
接客業/接客業以外
→接客業以外を「デスクワーク/デスクワーク以外」
→デスクワーク以外を「肉体労働/肉体労働以外」
→……
どこまでも細かく分類できますね。ひとつの細胞が分裂を繰り返し、細かく増殖していくようなイメージです。対照概念での分類はシンプルなので、あらゆるテーマに適用できます。
ひとつの尺度で分類
2つめは、あるひとつの尺度を設定し、数値の大きさで分類する方法です。年齢を尺度とする場合、18歳未満を「子ども」、18~39歳を「若者」、40~64歳を「中年」、65歳以上を「高齢者」と分類すると、漏れ・ダブりがなくなります。数値化できるなら、どんな尺度でもかまいません。
- 年齢で分類
【例】子ども/若者/中年/高齢者 - 年収で分類
【例】300万円未満/300万円以上~600万円未満/600万円以上~1,000万円未満/1,000万円以上 - 来店頻度で分類
【例】週1回未満/週1~3回/週4~6回/週7回以上
因数分解
3つめは、集合体を単純な要素に分解し数式化する「因数分解」という方法です。
「売上高=購入客数×客単価」という式を見たことがありませんか? 「売上高」という集合を、「購入客数」「客単価」というふたつの指標に分解したものです。このように因数分解すると「売上高を増やすには、購入客数と客単価を上げればよい」とわかり、対策を考えやすくなります。
数学の授業と異なり、ビジネスにおける因数分解では、足し算・引き算・かけ算・割り算のいずれを使ってもOKです。
◆因数分解の例
- 売上高=購入客数客単価
- 客単価=売上高÷顧客数
- 売上高=店舗での売上+通販での売上
- 利益=売上高-コスト
以上が、MECEを実践する3つの具体策です。この精査方法を覚えておくと、マーケティングのように重要な場面だけでなく、日常業務の整理などあらゆるビジネスシーンに役立ちますよ。
精査の方法2:ECRS
業務の段取りを精査し、効率化したいときに役立つのが「ECRS(イクルス)」というフレームワークです。マーケティング支援サービスなどを手がける株式会社ショーケースの代表取締役・永田豊志氏によると、ECRSとは4つのキーワードの頭文字。
- Eliminate(排除):業務の目的に必要のない工程を考える
- Combine(結合):同時にできる作業、まとめられる工程を考える
- Rearrange/Replace(交換):作業の順序や担当者を入れ替えて効率化できないか考える
- Simplify(簡素化):作業の一部を省略して同じ成果を出せないか考える
この4つを検討することで、作業の無駄を最小限に減らせるのです。
毎日のメール業務を、「メールを開く→読む→返信→フォルダ分け」という順で行なっているとします。フォルダ分けの必要が特になければ、作業自体をなくす(排除)と時間が節約でき、合理的ですね。また、「いつもお世話になっております」などの定型文が自動入力されるよう設定する(簡素化)ことで、返信が素早くなります。
- 仕事のスケジュールを立てる
- プロジェクトの工程を考える
- 作業マニュアルを作成する
など、ECRSはさまざまなシーンで活用できます。何かの計画を立てるときは、ECRSで精査してみましょう。
精査の方法3:情報の真偽を検証する
調べた情報の真偽を精査する方法をご紹介しましょう。特に、インターネット上の情報は玉石混交。どれが正しくどれがフェイクなのか精査しないと、ミスやトラブルにつながりかねません。
インターネットで得た情報の正確性を確かめる方法として、総務省のWebサイトは以下の方法を推奨しています。
発信元を調べる
まずは、情報の発信元について知ることが大切です。次の2点を確認しましょう。
- どんな組織・個人によって発信されたか
- その組織・個人は信頼に値するか
Webサイトの信頼性を判断するには、URLに含まれるドメインが手がかりになります。ドメインとは、当サイトなら「studyhacker.net」の部分です。ドメインが次のような文字列で終わるWebサイトは信頼性が高いと言えます。
◆信頼性の高いドメインの例
- go.jp(日本の政府機関など)
- lg.jp(日本の地方公共団体)
- ac.jp(日本の教育機関など)
一次情報を参照する
情報が伝聞形で書かれている場合、一次情報にさかのぼって真偽を確かめましょう。
◆信頼性の高い一次情報の例
- 専門家が書いた書籍や記事
- 専門家・専門機関が発表した論文
- 専門機関が公表している資料
時期を調べる
情報の信頼性は高くても、時間の経過によって正確性が損なわれた場合があります。市場調査・アンケート調査などは特に注意してください。その情報がいつ収集・発表されたのか確認し、もし古かったら、新しい情報がないか探しましょう。
ほかと比べる
調べるときは、ひとつの情報をうのみにせず、複数の情報源を参照しましょう。医療で言うセカンドオピニオン、サードオピニオンです。
公的機関や専門家の情報が常に正しいとは限りません。公的機関どうし・専門家どうしで見解が食い違うこともあります(特に昨今は実感されていることでしょう)。
インターネットに限らず、本などで情報収集する際も同様です。1冊だけを信じ込まず、別の人が書いたものと読み比べることで、情報の真偽を精査しましょう。
精査の方法4:その他
精査の方法には、ほかにも次のようなものがあります。
なぜなぜ分析
ミスやトラブルの原因を精査したいときに役立つのが「なぜなぜ分析」。経営改善コンサルティングを手がける有限会社マネジメントダイナミクスの社長・小倉仁志氏が体系化した手法です。
解決したい疑問・問題について「なぜ?」と繰り返し自問し続けます。「計画が遅れてしまった」という問題を「なぜ?」「なぜ?」「なぜ?」と掘り下げていくと、根本的な原因に至るのです。
◆例
「計画が遅れてしまった」なぜ?
→「時間がなかったから」なぜ?
→「ほかの仕事が忙しかったから」なぜ?
→「スケジュールがパンクしていたから」なぜ?
→「スケジュール管理がおろそかだったから」……根本的な原因
チェックリスト
作業のミスがないか精査するには、チェックリストをつくることをおすすめします。
人材育成ソリューションを提供するイントランスHRMソリューションズ株式会社の代表取締役・竹村孝宏氏によると、チェックリストを使えばミスが減り、効率が上がるそう。チェックリストを作成する際は、以下の点に気をつけるべきとのことです。
◆チェックリスト作成のポイント
- 1項目につき1作業
- 具体的な数値で表す
- 手順をひとつに決める
- ミスの防止策を加える
校正機能
誤字・脱字がないか精査する場合、文書作成ソフトなどの校正機能が便利です。「Word」なら、画面上部の「校閲>スペルチェックと文章校正」をクリックすると、誤りの可能性がある箇所をひとつひとつ精査できます。
***
精査とは、あまり意味を考えずに使われがちな言葉でもあります。「精査」の正しい意味と具体的なやり方を把握するため、この記事が参考になれば幸いです。
(参考)
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佐藤舜
大学で哲学を専攻し、人文科学系の読書経験が豊富。特に心理学や脳科学分野での執筆を得意としており、200本以上の執筆実績をもつ。幅広いリサーチ経験から記憶術・文章術のノウハウを獲得。「読者の知的好奇心を刺激できるライター」をモットーに、教養を広げるよう努めている。