みなさんには、やってみたいけど、後回しにしていることってありませんか。 例えば、留学、海外旅行、趣味に本気で取り組むなど。 しかし、なぜやりたいことなのに後回しにしているのでしょう。 こう尋ねるとだいたいの人は、忙しいからと答えます。 しかしこの理由、アドラー心理学からすると、本当ではないのです。
その理由本当?
アドラー心理学とはオーストリア出身の心理学者アルフレッド・アドラーが提唱した心理学です。 この心理学では、原因論ではなく、目的論を主張します。 原因論とは、原因から結果が生まれるという考え方。 目的論は、ある目的のために、自分で原因を作り上げているという考え方。 例えば、Aさんが頭が痛くて勉強できないと主張したとします。 これを原因論では、「頭が痛いという原因があるから勉強できない」と考えます。 しかし、アドラー心理が唱える目的論では、「勉強をしないために、頭が痛いという原因を作り上げている」と考えるのです。 では、「忙しくてやりたいことができない」というのはどうでしょう。 アドラー心理学の考え方からすれば、これは、「やりたいことをしないために、忙しいという理由をでっち上げている」というふうになるわけです。 ここでおかしな点が出てきます。 やりたいことのはずなのに、やらない理由を作りだすという矛盾。 この矛盾は、以下の2つの場合に生じると考えられます。
本当はやりたいことではない
一つ目は、あなたがやりたいと思っていることが、あなたが本当にやりたいことではないという場合です。つまり、周りの意見や流行に影響され、やってみたいと思い込んでいるだけということ。 一度、それは本当に自分がやりたいことかどうか、じっくり考えてみましょう。
失敗を恐れている
二つ目は、失敗を恐れて、やりたいことに挑戦するのを後回しにしているという場合です。 留学なら、現地で馴染めなかったらどうしよう。 趣味に本気で取り組むなら、才能がなかったらどうしよう。 それがやりたいことであればあるほど、こういった恐れは大きいはずです。 そんなとき、忙しいという言い訳によって、これらの恐れから逃れることができるのです。 この場合、例え忙しくなくなったとしても、別の言い訳を作りだすでしょう。 アドラー心理学で大切とされているのは「勇気」。 もし失敗したとしても、前進することはできます。 失敗した原因を探ってもう一度チャレンジするもよし、自分には向いていなかったと他の分野に目を向けるもよし。次のステップには確実に進むことができるでしょう。 自分でできない理由をつけて逃げるのではなく、本当にやりたいことなら必ず挑戦するべきです。
中島敦の山月記で、自尊心を傷つけられることを恐れ、優れた詩人になる努力から逃げ続けた結果虎になってしまった主人公は以下のように語ります。
才能の不足を暴露(ばくろ)するかも知れないとの卑怯(ひきょう)な危惧(きぐ)と、刻苦を厭(いと)う怠惰とが己の凡(すべ)てだったのだ。己よりも遥かに乏しい才能でありながら、それを専一に磨いたがために、堂々たる詩家となった者が幾らでもいるのだ。虎と成り果てた今、己は漸(ようや)くそれに気が付いた。それを思うと、己は今も胸を灼(や)かれるような悔を感じる。
(引用元:「山月記」中島敦)
あなたも後悔する虎にならぬよう、本当にやりたいことにはきちんと向き合ってみてください。
参考 岸見一郎,古賀史健(2013)「嫌われる勇気 自己啓発の源流「アドラー」の教え」ダイヤモンド社 青空文庫|山月記