私たちは、「はい」か「いいえ」の答えを迫られる場面に毎日のように遭遇します。時には友人からの誘いかもしれません。またある時には職場での上司からのお願いかもしれません。
もちろん自分が望んでいる、もしくは納得のいくことであれば、それらには二つ返事をすることでしょう。しかしそれらは時として、気乗りのしないものであったり、それどころか一方的に不利であったりすることもあります。にもかかわらず私たちは時折、悩んだ挙句に気の進まない「はい」を選んでしまうのです。
早く帰って趣味や勉強をしたかったにもかかわらず上司や同僚に仕事を頼まれてしまい、もやもやとした気持ちになる。出たくないパーティーや飲み会の誘いを断ることができず、無駄な時間を過ごしてしまう。「そろそろ時間だし帰りたいな」と思っていても、周りの人はまだ帰る気配がないので帰れない。皆さんにもこのような経験があると思います。
ノーを言えない人は、周りからは「いい人」という評価を受けるかもしれません。しかし、それはもしかしたら都合のいい人かもしれません。
「でも断ったら悪いし、悪く思われそう……。」それは本当なのでしょうか? 今回の記事では、断ることが持つ大きな力、そして、ノーをうまく伝え、自分の人生を生きる方法をお伝えしていきます。
断ることは本当に悪いこと?
断ると相手に悪い印象を与えるのではないか。嫌われるのではないか。たしかに、相手の善意やどうしてもあなたに頼りたい気持ちを無下にしてしまえば、相手は傷つくかもしれません。しかし、断ることは必ずしも悪いことなのでしょうか?
実は断ることには、時間をコントロールできること、そして自己アピールができるといったメリットがあります。
1.時間ができる 例えば、キャリアアップにつながる勉強をしたい人は、飲み会を断ることで自分のための時間を作ることができます。無駄な時間を捨てて、自分を磨くことができます。無駄な残業を断ることで家族との時間を大切にすることもできます。
2.主体的な自分を伝えられる もしあなたが自由に誘いや頼みを断れるとしたら、どのような場面でしょうか。それは、あなたの価値観に照らし合わせたとき、受け入れがたいことなのではないでしょうか。
つまり断るということは、基準に沿って行った意思決定を相手に示すということであり、それを相手に伝えるということは自分の判断基準を伝えることでもあるのです。
例えば、飲み会に誘われて、それを家族との時間に使いたいという理由で断れば、その価値基準は仲間や上司に伝わるでしょう。自分の価値観を正しく伝えられれば、コミュニケーションは円滑になりますし、何より自分がやっていることに対する納得感も大きくなり、自信につながることでしょう。
「断りの公式」を活用しよう
カウンセラーの塚越友子さんは、断るのが苦手な人に対して以下のようにアドバイスをします。
人の頼みを断れない人は、「断る」のではなく「交渉する」のだという気持ちに置き換えると効果的です。相手の要求を100%飲むのではなく、「90%やるとしたら、何ができるか?」と考えましょう。
(引用元:リーダーたちの名言DB|塚越友子の名言)
これは非常に興味深い視点です。そして、実際に交渉するにあたって塚越さんは「断りの公式」という概念を提唱します。それは、以下のような要素から成り立ちます。
「謝罪または感謝+理由+断り+代替案」
(引用元|NIKKEI STYLE|ついつい引き受けてしまう人に 角の立たない断り方)
最初の謝罪、または感謝の部分で下手に出ることによって、断る際に相手が不愉快な思いをする可能性は大きく減らせます。また、納得のいく理由を伝えられれば、相手側も「しょうがないか」という気持ちになるでしょう。そして、断った後に代替案を提案することによって、自分は相手の気持ちを汲んでおり、頼みごとを無下にするつもりはないのだということが伝わります。
では、この公式を生かして様々な場面における断り方を考えていきましょう。 1.飲み会に誘われた場合 「誘ってくれてありがとう(=感謝)。本当に申し訳ないんだけど(=謝罪)、明日はプレゼンの準備しないといけないから(=理由)行けそうにないんだ。(=断り)また飲み会があるときに誘って!(=代替案)」
2.飲み会の2次会、3次会に誘われた場合 「ごめんなさい。(=謝罪)明日午前中から用事があるから(=理由)申し訳ないけど帰ります。(=断り)また近いうちにご飯でも行こうよ!(=代替案)」
3.上司から仕事を頼まれた場合 「すみません。(=謝罪)頼んでいただいて大変ありがたいのですが(=感謝)、子供を迎えに行かなければならないので(=理由)、今は引き受けられません。(=断り)明日の午前中でしたら引き受けられるのですがいかがでしょうか。(=代替案)」
あまり乱用するべきではありませんが、もしなんとなく気乗りがしないというのであれば、理由の部分でコントロールできない外的な要因を伝えて断ることもできます。例えば、飲み会を断る際に、肝臓が悪いから医者に止められてるんだ、と言ったり、妻に小遣いを管理されてて今月はもう行く余裕がないんだ、と言ったりしてもいいでしょう。
「断る」ということは、ただノーを突き付けることを意味しません。自分の意志を伝え、交渉によって相手の期待値をコントロールするということなのです。これまで断るということが苦手だった人が突然この公式を使いこなすことは難しいかもしれませんが、少しずつ自分を出していくきっかけとして、この公式は非常に有用なものとなると言えます。
*** 他人の評価に自分の成果を任せるのではなく、自分がすべきことを考えて自分のために生きることが豊かな人生を作ります。そのための「断る力」を持っておくようにしましょう。
(参考) リーダーたちの名言DB|塚越友子の名言 NIKKEI STYLE|ついつい引き受けてしまう人に 角の立たない断り方 東洋経済オンライン|仕事のできない人は「断り方」がなってない! 多湖輝(2008), おだやかに「断わる」技術, 新講社