毎日が忙しく、気の休まる時間がほとんどない。仕事を早く終わらせるため、常に焦っている。それなのに、思うほど成果が上がらない……。
そうお悩みならば、いまあなたに一番必要なのは「空白」です。それがなければ仕事がよくならない理由と、「空白」をつくるタイミングについてお伝えします。
空いているスペースが行動を柔軟にする
トヨタの生産現場が強いわけ
仕事を早く効率的に終わらせたいからといって、「Aの合間にBを行い、フィードバックを待つあいだ、Cを行おう!」といった具合に、仕事をぎちぎちに詰め込んではいませんか? その仕事の進め方は、むしろ効率を悪くしてしまう可能性があります。
ノンフィクション作家の野地秩嘉氏によると、トヨタの自動車工場では、あえて空きスペースを用意しているそう。
一般的な工場であれば、空きスペースは残らず活用すべしと、すぐに部品や荷物を置いてしまいます。しかし、トヨタは生産ラインをフレキシブルに保つため、あえて余裕スペースを設けているのだとか。野地氏は、トヨタの生産現場が強い理由のひとつに、この「余裕スペース」を挙げています。
なぜ「余裕」が必要なのか?
では、なぜトヨタは生産ラインに「余裕スペース」を設けているのでしょう? それは、生産ラインを引き直す必要がある場合、スペースに余裕があると実施しやすいからです。では、なぜラインを引き直す必要性が生じるのか?
一般的な工場では、効率が悪くなるからと、一度引いたラインはそのまま使い続けるのが常です。ところがトヨタは「改善」のためなら、ラインを引き直すことにも躊躇はしないそう。ゴミ箱の位置でさえ、日々「改善」していくのだとか。それが、「世界のトヨタ」と呼ばれる所以です。
つまり、一見すると非効率に見える都度の改善も、結果的には成果を上げる要因になるということ。そして、それには「余裕スペース」が必要だということです。これは物理的な話ですが、時間も同じだといえます。
改善によりスピードアップできる可能性があっても、仕事を隙間なく入れてしまったら目の前の仕事をこなすのに忙しく、その機会を逃してしまいます。成果を上げるには、どんなに忙しくても、一度立ち止まる「空白」の時間が必要なのです。
「まとめて休憩」よりも「こまめな休憩」
また、時間に余裕がないからといって、パソコンの前に座りっぱなしで仕事をしていると、余計に効率が悪くなってしまう可能性があります。「ランチでしっかり休憩したから」という考えも、おすすめできません。
コロラド大学アンシューツ・メディカル・センターとジョンソン&ジョンソン・ヒューマン・パフォーマンス・インスティチュートの研究チームが30人の参加者に3つのテストを行ってもらった結果、「1日の始まりに30分歩き、その後は座っていること」と「6時間座っているが、1時間ごとに5分間は軽く歩くこと」は、「6時間座りっぱなし」よりもエネルギーと活力を増加させたとのこと。
しかし、30分まとめて歩いた際にはその好影響が持続せず、1時間ごと5分間こまめに歩いた際には1日じゅう効果が持続したそうです(International Journal of Behavioral Nutrition and Physical Activity にて2016年11月3日に公開)。
東京大学の池谷裕二教授が中学生を対象に行なった研究でも、適度な間隔で休憩を挟みながら勉強することで、集中力が回復することが示されたそう。長期的な記憶固定にも効果を発揮するそうです。
つまり、どんなに忙しくても、たとえば1時間に5分は時間の「空白」をつくり、席を立って窓の外を見ながら体をほぐしたり、軽く歩いたり、コーヒーでも飲みながら同僚と会話したりするほうが、元気と活力を生み、集中力を高めるということです。
何もしない時間が思考を柔軟にする
時間の「空白」という概念においては「何もしない時間」も大切です。米ラジオ番組の人気キャスターであるマヌーシュ・ゾモロディ氏は2017年に「TEDトーク」でプレゼンした際に、「退屈なときこそ新しいアイデアが生み出される」と主張しています。
その仕組みの鍵となっているのが、脳のネットワークの一種であるDMN(デフォルト・モード・ネットワーク)です。DMNとはわたしたちが何もせず「ぼーっとしている」ときに見られる脳の活動で、何かに集中しているときの何倍も脳ネットワークのエネルギーを消費しているといわれています。
その理由は、その空白の時間に「記憶の検索」や「情報の整理」が行われているから。「何もしない時間」は思考を柔軟にしてくれる、大切な時間なのです。
「空白」をつくるタイミング
仕事において、いかに「空白」が大切であるか説明しました。ここから「空白」をつくるタイミングについて説明します。
1.「改善のための空白」
もしも仕事が思うように片づいていかない、進まないというときは、「改善のための空白」を設けてください。たとえば簡単にできるはずの資料づくりを頼まれ捗らないとき、いったん作業の手を止めて指示の内容を確かめ、それに対して自分の進め方が適切であるか確かめるのです。
捗らないと感じる理由は、大概「指示内容をしっかり把握していないから手探り状態になっている(それを自分自身も感じとっている)」「自分の作業に何か違和感がある(だから先も見えない)」場合です。もしも、しっかり腑に落ちていれば、時間がかかりそうでも先が読めるので、捗らないとは感じません。「改善のための空白」を設けることで、そのあとのスピードも仕上がりもグンと変わるはずですよ。
2.「休憩のための空白」
「休憩」は、自分自身でルールを設けましょう。“自身が休憩を習慣づけられること”が何よりも大切なので、先述した実験のように「1時間ごとの5分間休憩」でもいいですし、「少しでも集中力が途切れたなと感じたら席を立ち休憩」でもかまいません。自分に合うものをお選びくださいね。
ちなみに、筆者の場合は両者をミックスして、1時間ごとに何かしら席を立つように心がけつつ、集中しているときにはそのまま作業を続行します。いずれにせよ、「こまめな休憩」は欠かせません。それが、持続性の高い元気と活力になり、集中力を高めます。
3.「ぼーっとするための空白」
考えがまとまらない、いいアイデアが出ないというときは、いったん仕事の手をとめ、一時的に視覚から仕事の情報が入らないようにすることが大切です。廊下を歩く、階段を上り下りする、窓の外を眺めるもよし、休憩時間を絡め、飲み物を用意して別の場所にいく、コンビニに何か買い出しに行くのもいいでしょう。
デスクに座ったままだとしても、無意識に行えるほど単純な整理(色分けする、重ねて入れるだけなど)をする、パソコンや書類から目を離し、自分の手のひらや甲を何の気なしに眺め、手を開いたり閉じたりする、といった方法も有効です。意外にも後者は効果バツグンですよ。
大切なのは、DMN(デフォルト・モード・ネットワーク)を働かせることなので、基本は「ぼーっと」することです。その間、わたしたちの脳はパワフルに働いて「整理」と「検索」を行ってくれるはずです。
*** 「空白」はビジネスパーソンの「余裕(ゆとり)」ともいえます。「あの人は仕事ができるから、何だか余裕があるなぁ」と感じたら、そのデキるビジネスパーソンは、どんなに忙しくても「空白」をつくり出しているのかもしれません。
(参考) Daily Mail Online|Taking hourly breaks at work to walk for just 5 MINUTES improves your mood and energy, and can even squash food cravings The New York Times|Work. Walk 5 Minutes. Work. International Journal of Behavioral Nutrition and Physical Activity | Effect of frequent interruptions of prolonged sitting on self-perceived levels of energy, mood, food cravings and cognitive function プレジデントオンライン|トヨタの工場は"切れた電灯"が1つもない Study Hcker|良いアイデアが生まれる「環境」と「習慣」と「思考法」。一流の発想術を『TED Talks』に学ぶ。 Study Hcker|勉強が捗る休憩のとりかた。休憩時間を制する者が勉強を制す!