「自分の部署よりも、隣の部署の方が楽しそう」 「友達の勤めている会社の方が楽しそう」 こんな風に、隣の芝生が青く見えたことはありませんか? 業務も所属している人も違いますから、そう感じてしまうのも無理はありません。
しかし、単に業務や人の違いだけで生じる差なのでしょうか? 本当に生き生きした組織とはどうやって作られるのでしょうか?
今回は、“パタン・ランゲージ”という理論をもとに、あなたが所属している組織を生き生きとさせてみましょう。
都市計画理論「パタン・ランゲージ」
パタン・ランゲージとは、都市計画家のC.アレクサンダーが提唱した、都市計画の理論です。
彼はまず、人々が「心地よい」と感じる空間のパターンを調査し、まとめ上げました。そのパターンの数は253にも上ります。
例えば、「座れる階段」や「街路を見下ろすバルコニー」、「目に留まる植栽」などです。みなさんも、階段に座って友達とのんびり過ごした経験があるのではないでしょうか?
階段とは、本来通行のために作られるもの。しかし、人々はそこに違う役割を見出し、心地よい空間を作り出していきました。当然、それを設計する建築家は、階段を昇降の道具としてだけでなく、人々がくつろぐ場所だとも認識して設計する必要が出てきます。
建築家がかっこいいと思う都市像(都会の高層ビル群など)を押し付けるのではなく、そういった小さな心地よい空間を積み重ねることで、本当に生き生きした都市が生まれるのでしょう。これが、彼の提唱した「パタン・ランゲージ」です。
コミュニティの形成
ここで「なぜ都市計画の話をするのか」と、不思議に思った方も多いでしょう。
実は、都市計画とは、人々のコミュニティの形成とも密接に関わっています。都市計画の分野を考えるとき、重要になってくるのが人々の形成するコミュニティなのです。
生き生きした都市を作るというのはすなわち、生き生きしたコミュニティが形成されるような都市を作る、ということなります。
ですから「パタン・ランゲージ」は、より良いコミュニティ形成のための理論といっても過言ではないのです。
誰かが理想とする組織形態をみんなで体現するのが理想の組織ではなく、そこで仕事をしている人間が「心地よい」と感じる行為の積み重ねによって、その組織は生き生きとしたものになるといえるでしょう。
言語化する大切さ
「心地よい」行為を組織で積み重ねるためには、アレクサンダーが行ったように、その行為をパターン化することが必要になってきます。そのためには、あなた自身の経験がとても大事です。
アレクサンダーが都市に住まう人々の行為を記録したように、その組織に所属するあなたが「心地いい」と感じた行為は必ず記録するようにしましょう。
どうして言葉にして記録することが必要なのか、その理由は以下の3つです。 1.環境の変化に対応できる 記録に残しておけば、組織のメンバーが入れ替わったり、自分が違う組織に入ったとき、それを参考にすることができます。それを参考に自分が行動することで、その組織を生き生きしたものに変えることができるでしょう。
2.相手に伝えられる せっかく手に入れた貴重なパターン。自分だけで使うのはもったないですよね。それをしてもらった相手や、別の人に言葉で伝えることによって、組織全体の行為の質を高めることができます。
アレクサンダーの「パタン・ランゲージ」も、世界の各地で参考にされて、生き生きした都市を作る助けとなっています。実は日本でも使われている理論であり、埼玉県川越市は、67のパターンで形成された「川越一番街 町づくり規範」を参考に街づくりを進めているのです。
3.「なんとなく」を再認識できる なんとなく心地の良い行為って、ありませんか? 例えば、朝の元気な挨拶。「彼は朝の挨拶が元気だ」なんてわざわざ口に出して言わないかもしれませんが、知らず知らずのうちに、それがあなたの朝のやる気スイッチになっているかもしれません。
それを言葉にしてアウトプットしたときに初めて「私のやる気が出ていたのは、あの元気な挨拶のおかげだったのか」と認識することができます。何気ない行為の価値を再認識するためにも、そういった記録は欠かさないようにしましょう。
*** 単に記録するだけでは味気ないので、日々良かったことを日記の形で残していくのもおもしろいかもしれませんね。より良い組織にするために、小さな幸せを集めていきましょう。
(参考) 長澤泰(2011),「建築計画(改訂版)」,市ヶ谷出版社 Alexander, C. (1967). A city is not a tree. Ekistics, 344-348. 日経ビジネスオンライン|“工員A”と“工員B”はどうすれば出会うのか