たくさん努力しているのに、仕事のパフォーマンスが思うように上がらないと感じたら、足りないのは「幸福度」かもしれません。人は幸福度が高いと、創造性や生産性が高まるといいます。興味深い研究とともに、活用法を探ります。
幸福度が高いと物を探すのが速くなる!?
NICT脳情報通信融合研究センター(CiNet)の山岸典子主任研究員らのチームは、2週間にわたり実験参加者33名の幸福度を、独自に開発したスマートフォンのアプリで記録すると同時に、そのアプリで視覚探索を行ってもらいパフォーマンスを計測しました。
その結果、人の幸福度はそれぞれ一定ではなく、また、刻々と変化していることが分かったそう。そして、幸福度が高くなると、視覚探索(障害物の中のターゲットを見つけること)が速くなると分かったそうです。あの、有名な「ウォーリーをさがせ!」も視覚探索のひとつですよね。
ちなみに従来の研究では、音楽・映像・報酬といった外的要素で、人の幸福度を変化させていましたが、この研究では「自然な気分の変化」を利用したとのこと。
AIが幸福度を高めるためにアドバイス
センサーとAI(人工知能)を使った、幸福度に関係する研究開発もあります。日立製作所は、名札型センサーでわずかな動きを捉えて「幸福度(ハピネス度)」を測り、幸福度を高める行動を個々にアドバイスするという技術を開発しました。なぜならば、幸福度の高い組織は、パフォーマンスや業績が向上するからです。
通常、ビジネスパーソンがオフィス内で無意識に繰り返すごくわずかな動き(振動)は、「継続する時間帯と、静止する時間帯」が繰り返されるとのこと。しかし、幸福度が低い(元気がない)組織は、「振動が継続する時間帯」の発生頻度が低くなるのだとか。
この技術は、センサーとAIを使って幸福感を与える行動パターンを特定し、スマートフォンアプリ「働き方アドバイスアプリケーション」の画面にアドバイスを表示することで、個々の幸福度を高め、組織のパフォーマンスや業績の向上につなげていくという仕組です。幸福度を高める行動は十人十色なので、AIのアドバイスは、「上司と1日5回は会話しましょう」、「朝は同僚のAさんと話しましょう」、「デスクワークの時間を増やしましょう」と細かく異なるそう。
なお、日立がこの技術の実証実験を約600人を対象に行ったところ、アプリの閲覧時間が長かった組織の幸福度は、短かった組織の4倍以上を記録し、幸福度が高い部署は、翌四半期の業績が向上したそうです。
とはいえ、誰もがこのアプリを活用できるわけではありません。私たちが職場で幸福感を高め、仕事のパフォーマンスを上げるには、どうしたらよいでしょう。
幸せだとよく動く? 良かったことを書けば幸せになる?
人は幸福度が増すとよく動く
東海大学医学部内科教授・川田浩志氏の著書『人生を楽しんでいる人は歳をとらない』には、日立製作所中央研究所の矢野和男氏らの研究が記されています。
実験参加者を2グループに分け、片方のグループには、その週に経験した3つのことを何でも、もう片方のグループには、その週に体験した3つの「良かったこと」を、それぞれ5週間にわたり書き記してもらったそう。その際、実験参加者には加速度センサーが装着されており、後にそこから得られる膨大なデータを分析しました。
その結果、「人は幸福度が高くなると、よく動くようになる」と確認できたのだとか。さらに、個々の活動量が増加すると、組織全体の業績や生産性までも向上すると分かったそう。この結果が前項のAI開発にもつながっているのですね。ちなみに米国バーモント州立大学の研究者たちも、「幸せな人ほど、一定期間内に移動する距離が増える」と明らかにしているとのこと。
毎晩「良いことを3つ」書けば幸福度アップ
もうひとつ興味深いことがあります。ペンシルバニア大学・セリグマン教授らの研究では、毎晩寝る前に「良いことを3つ書く」という行動を1週間継続するだけで、その後半年間にわたって幸福度が向上し、抑うつ度が低下するという結果が出たそうです。
矢野氏らの実験でも、「今週の良かったこと3つ」を書き記したグループは、書かなかったグループに比べて、明らかに幸福度が高まったといいます。
幸福度を高め、仕事のパフォーマンスを上げるには
これまでのこと踏まえると、幸福度が増えると活動量が増え、活動量が増えるとパフォーマンスが上がる、そして、活動量を上げ幸福度を増す行動は、それぞれ異なるということが分かります。また、体験した「良いこと」を(書くなどして)意識することが、幸福感を高める行動に向かわせると考えられます。
そこでおすすめしたいのが、仕事のあとや寝る前に、今日の職場での「活動」と「良かったこと」について意識することです。簡単な手書きのメモでも、PCや携帯電話のメモ帳機能でも構いません。面倒であれば、頭の中で考えるだけでもいいでしょう。次のように質問形式にします。
Q1.今日はたくさん活動できた? Q2.今日の良かったことは何? Q3.明日は何したい? Q4.それでたくさん活動できそう?
たとえば以下のように答えます。
A1.できた A2.Aさんと初めてたくさん喋って楽しかった。 A3.またAさんとたくさん喋りたい。 A4.できる
あるいは……、
A1.できなかった A2.あまりない A3.B先輩に不安を打ち明けたい A4.できるかもしれない
たわいないと感じるかもしれませんが、日立製作所のセンサーとAIを使った開発技術での事例を見てみると、一人ひとりの幸福度を上げ、パフォーマンスを上げるのは、以下のように身近で些細なことなのです。
アウトバウンドのコールセンターでは、昼休みにオペレーターが同僚たちと会話を楽しむ時間が長いと、幸福度が高くなり、受注率が高くなると判明したそう。また、インバウンドのコールセンターの場合、休憩時間にひとりで静かにリラックスしていると幸福度が向上し、組織パフォーマンスが上がると確認されたのだとか。
したがって、先述したQ&Aを行い、日々の活動状態やポジティブ要素への意識を高めていけば、変化が生まれやすくなるはずです。
*** 自分の活動量が上がっているか、自分の幸福度を上げるものは何かを把握して、ぜひパフォーマンスを向上させてくださいね!
(参考) NICT-情報通信研究機構|幸福度が高い時はターゲットを見つけるのが速い JBpress(日本ビジネスプレス)|組織の「幸福度」を測りパフォーマンスを向上 センサーとAIを使い幸福度を高める行動を各人にアドバイス 川田浩志(2015),『人生を楽しんでいる人は歳をとらない』,ディスカヴァー・トゥエンティワン. 関沢洋一・吉武尚美(2013),「良いことを毎日3つ書くと幸せになれるか?」,独立行政法人経済産業研究所.