目標を立てることの大切さは、手を変え品を変え、あらゆる場面で語られてきました。目標をたて、その達成に向けて最大限の努力をすれば、たいていの目標は達成できる。そのような言葉を聞いたことがある人は多いと思います。とはいえ、私たちは日々多くの失敗を経験するもの。そのたびに、失敗はある程度仕方ないことなのではないかという気分にもなりますね。
しかしながら、世の中にはミスが許されない人々も存在します。たとえば、医療関係者や軍の指揮官。彼らは、非常に強いプレッシャーの中で正確な意思決定を下すプロです。たしかに彼らは、ミスをしにくい能力を持っているのかもしれません。その一方で、ミスを防ぐためのノウハウというものも存在するのです。今回の記事では、ミスを確実に防ぎ、成功を導くための方法論を紹介していきます。
失敗から逆算する、「プレモータム・シンキング」という方法
失敗を確実に防止する方法として今回紹介するのは「プレモータム・シンキング」という方法です。
「プレモータム」という言葉は、医学用語の「ポストモータム」に由来するもの。「ポストモータム」とは、医療の改善などのために、遺体の検死や解剖を行うことを意味します。それに対し、「プレモータム」は「事前検死」と訳される言葉。患者がそもそも死に至らないようにと、事前にその患者の健康状態などを観察し、対策を講じるというものです。
この「プレモータム」に用いられる思考法は、絶対に失敗が許されない場面において絶大な威力を発揮します。例を挙げて言うと、プロジェクトが失敗することをまず先にイメージし、それが失敗し得る原因を考えるという方法です。事前に失敗をイメージするところから出発して、ありうる失敗の要因を先につぶして行くのが、このプレモータム・シンキングなのです。
プレモータム・シンキングのための4ステップ
では、より具体的に、プレモータム・シンキングに必要なステップを見てみましょう。
1. 未来の失敗をイメージする 立てた目標に対して失敗するイメージを浮かべるということは、ともすれば罰当たりなことに聞こえてしまいます。しかし、失敗を未然に防ぎ成功を導くためには、これが最も大事なステップです。むしろ、どこまで失敗を具体的に思い浮かべることができるかが、成功の分かれ道なのです。
失敗を鮮明にイメージするためには、失敗を時系列に従ってイメージしていくとよいでしょう。失敗してしまうその直前から、失敗した後に待っているであろう悪影響までを、感情をこめてリアルにイメージすることが大切です。
2. 失敗の原因や問題点を抽出する 失敗のイメージができたら次は、その原因を一つ一つ考えていきます。
ここでも必要になるのが、時系列を通じて考えることです。失敗に至るまでの経緯の中で、中間地点をいくつか設定しましょう。失敗する場合、Xデーの前までに失敗の要因が少しずつ蓄積しているはず。設定した中間地点において、どのように準備に失敗しているかを考えていくのです。そうすることで、さらにリアルに失敗までの道のりが見え、失敗し得る原因が把握しやすくなります。
3. 対策と新しいプランの立案 失敗につながり得る問題点が見えてきたら、次は、その対策を行います。問題を解消して成功を導くために必要なことを検討するのです。
やり方としては、2で設定した中間地点で、成功するならどの程度達成しているべきなのかを考えます。それは、2で考えた、中間地点でうまくいってない自分の真逆の状態になるはずです。
4. 新しいプランに労力を注ぐ 失敗を防ぎ成功を導くための新しい計画が作れたら、今度はそれを遂行していくのみ。モチベーションの理論によると、人間はうれしい感情よりも、苦痛に対してより強く反応します。そのため、ただ単に成功を思い浮かべるよりも、プレモータム・シンキングによって失敗を想像したほうが、成功率はぐっと高くなるのです。
プレモータム・シンキングの活用例:資格の取得の場合
ここまで説明したプレモータム・シンキングのステップを、「昇進にかかわる資格試験の勉強」という状況で考えていきましょう。
1. 最初は、資格取得に失敗した未来を時系列順で想像します。
・試験の出題傾向が変わった ・出題範囲がカバーできなかった ・徹夜で詰め込んだが、整理されておらずあいまい ・徹夜したため、眠くて集中できない ・昇進のチャンスを逃し、惨めな思いをする ・上司から嫌味をいわれる ・部下に対して面目を失ったような気分になる ・同期が先に出世していく ……
2. 失敗した未来が想像できたら、次は、失敗に至るまでの過程における中間地点を想像していきましょう。準備に失敗している様子をイメージします。
試験1週間前: 「あまり知識が定着しないままここまで来てしまった。直前のもしでも散々な結果だった。でも、どんな問題が出るのかはわかっているし、これからは過去問を中心に取り組んでいけばカバーできるだろう。」というように考えている。 試験2週間前: 「まだ半月ある。この週末は疲れていて何もしなかったけど、これからやろう。でもまだ半月もあるし、焦ることはないだろう。毎日2時間くらいは時間がさけるはず!」と考えている。
3. 2で設定した中間地点でどの程度準備しておくべきかを考え、失敗しないように計画を立てます。
試験1週間前: 知識が8割がた定着し、直前の模擬試験で対応できなかった部分を確認すれば良い状態にまで持っていく。 試験2週間前: 一通りの範囲が学び終わり、試験対策を本格的に開始できる状態にする。
4. 3で立てた計画を実行します。もし怠けてしまう癖があるのだとすれば、同期や友人と一緒に勉強したり、上司や家族に勉強を宣言したりして、ある程度強制的に毎日勉強するタイミングを作ると良いですね。また、独学でこなすことにこだわらず、予備校に通うということも有効な手段となるでしょう。
*** 失敗を想像すると非常に気持ちが重くなるものですが、それで失敗を防げるのであれば儲けもの。みなさんも「失敗の達人」を目指していきましょう。
(参考) 山崎裕二著(2018),『先にしくじる 絶対に失敗できない仕事で成果を出す最強の仕事術』,日経BP社. ダニエル・カーネマン著,村井章子訳(2014),『ファスト&スロー(上) あなたの意思はどのように決まるか?』,早川書房. riskology|The Pre-Mortem: A Simple Technique To Save Any Project From Failure