企画書やレポート、見積もりなど、明日までに仕上げなければならないのにパタリと集中力が途切れてしまう……。ことほど、厄介なものはありませんよね。必死に作業しているにもかかわらず時間ばかりが過ぎてしまうと、焦る気持ちのせいで益々集中できなくなってしまいます。
そんな時は、身近にある「1/fゆらぎ」の働きで、集中力を取り戻してみてはいかがでしょう。
「1/fゆらぎ」とは?
「1/fゆらぎ」とは、小川のせせらぎやそよ風、小鳥のさえずり、炎など、自然界に多くみられる“不安定なゆらぎ”の現象で、人間に癒しや心地よさを与えるといわれています。
株式会社脳機能研究所・株式会社ゆらぎ研究所のCEOである武者利光氏の説明によれば、「f」は周波数(frequency)のことで、パワーが周波数に反比例することを「1/f」と表すそう。不規則的な中にも、“一定の法則に沿って「ゆらぎ」が生じる”ことが特徴なのだとか。そして、それが人間に癒しを与える理由は、私たち人間も「1/fゆらぎ」の生体リズムを持っているから。
さまざまなものから観測される「1/fゆらぎ」は謎とされていましたが、1982年に人の心拍間隔のゆらぎが「1/fゆらぎ」であると発見されてからは、研究がさらに加速したそうです。私たちが打つ手拍子も、心拍の「1/fゆらぎ」とまったく同じだといいます。それだけではなく、目の動き、体温の変化、脳波などもすべて「1/fゆらぎ」とのこと。
また、クラシック音楽のなかに「1/fゆらぎ」が潜在していることは比較的有名ですが、人が心地よさを感じる芸術作品や、マンガの描線の配列にも、なんと「1/fゆらぎ」があるそう。
「1/fゆらぎ」は家電や都市計画にも応用
この「1/fゆらぎ」の応用は、環境デザイン、都市計画、繊維素材や照明機器、自然界に近い風を実現した送風機などにまで発展しています。武者利光氏の研究所は、アメリカの交通局から「1/fゆらぎ」で渋滞を予測できないかと相談さたこともあるそうです。
そしてこの「1/fゆらぎ」は、人を癒し心地よくするだけではなく、リラックスさせることによって集中力も高めてくれるのです。
「1/fゆらぎ」の効果
函館工業高等専門学校による実験では、学習時の休憩時間に「1/f ゆらぎ」が含まれているクラシック音楽(ヴィヴァルディの四季より春の第一楽章)を聴いた被験者は、もっとも集中力が持続しやすい傾向があると分かったそうです。
「クラシック音楽を聴く」ことと比較したのは「深呼吸」と「好みの音楽を聴く」ということ。比較的、深呼吸は集中力の低減を少なくしたようですが、クラシック音楽には及ばず。また、好みの音楽は人によって選ぶジャンルが違うため、効果にバラつきがあったそう。
そのほかの心理学的な研究においても、「音響刺激の情動効果はその音響のもつ周波数成分によって決まり、それが1/f型ゆらぎに近いほど、課題遂行への集中が進んだものと考えられる」と記されています。(池田妙子氏発表の『音響刺激による集中性効果と時間の過小評価について 』より)
そこでご紹介したいのが、仕事の途中でも取り入れやすい、私たちの身近にある「1/fゆらぎ」です。
身近にある「1/fゆらぎ」で集中力アップ
私たちの身近には、こんな「1/fゆらぎ」があります。
水の流れる音
小川のせせらぎには「1/fゆらぎ」があるとお伝えしましたが、職場で水が流れる音といえば……、そうトイレです。集中力が途切れて行き詰ったからといって、眉間にしわを寄せ、大急ぎでトイレ休憩を済ませるなんてもったいない。
休憩あとの集中力持続のためにも、資源の無駄づかいにならない程度に水の音と戯れましょう。手を洗う際、水道水の感触を噛みしめるのもおすすめです。仕事で使っていた脳の領域が一時的に休まり、脳の違う領域が刺激されるので、脳の活性化に役立つはずです。
観葉植物
風でゆれる葉っぱの動きにも「1/fゆらぎ」があります。とはいえ、「仕事に集中できないので、風に揺れる木々の葉を見てきます」というわけにもいきません。そこでおすすめしたいのが、 卓上サイズの観葉植物です。
休憩から戻り、仕事を始める前に飲み物でも口にしながら、少しだけオフィス内の人の往来で揺れ動く観葉植物を眺めてリラックスしてください。グリーンの色自体にも癒し効果があるので、一石二鳥ですよ。
木漏れ日
木漏れ日とは、木の葉の間から漏れてさす日の光。これにも「1/fゆらぎ」がありますが、緑の多い空間に身を投じようにも、勤務中となるとランチや休憩という短い時間しかありません。それに、都会では緑がほとんどない場所で仕事をしている人も少なくないでしょう。
それならば、ぜひパソコンで「木漏れ日の画像」を探してみてください。これが意外に効果抜群なのです。見ているだけで不思議と癒されますよ。ただし、なかには加工している画像もあるので、あくまでも自然なままの画像を選び、パソコンの壁紙にするなどして活用しましょう。
木目
不規則さと規則正しさが調和する木目と接すると、人はやわらかく温かい印象を受けます。武者利光氏によれば、柱などの木目や、畳、土壁などを活かした日本の建築様式すべてが、「1/fゆらぎ」を持っているそう。だから、和室、特に茶室は心が安らぐといいます。
もしも集中力が途切れてしまったら、可能ならば内装に木目があるレストランでランチを食べたり、あるいはカフェに飲みものを買いに行ってみてはいかがでしょう。それが無理ならば、木製のパソコン用マウスとマウスパッドを購入し、常に木目を身近に置くという方法もあります!
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いろんな方法で身近にある「1/fゆらぎ」を感知し、自分の生体リズムと共振させてリラックスし、集中力を高めてくださいね。
(参考)
FUTURUS|人間を生かし、 名曲をも生み出す 「1-fゆらぎ」の謎【前編】
FUTURUS|マンガや都市計画、株価予想、生物の進化にも、「ゆらぎ」が必要 【後編】
J-Net21[中小企業ビジネス支援サイト]|自然から学ぶアイデアの源泉 ネイチャーテック|ゆらぎのある暮らし
家電ASCII|1/fゆらぎの風が最高! クーラーでの寝冷えも汗だくの朝も防げる創風機「Q」
キナリノ|リラックスに深くかかわる「1-fゆらぎ」って知ってる?
Study Hacker|休憩時間は歩きまわれ!? “仕事脳” が休まる効果的な休憩のしかた
神原寛昭,栗本育三郎,小林伸彰,柳谷俊一,森谷健二,中川匡弘(2016),『リラックス法が学習時の集中力持続に与える影響』,函館工業高等専門学校紀要,函館工業高等専門学校,vol.50 pp.21-26
池田妙子(1992),『音響刺激による集中性効果と時間の過小評価について 』,The Japanese Journal of Psychology,Vol.63, No.3,pp157-162