「原因が大好きな英語、理由に触れたがらない日本語」

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「自動詞と他動詞の区別がいまいちピンとこない」

「文法は知っているのに英語らしい表現ができない」

——英語学習者なら、こんな悩みを一度は抱えたことがあるのではないでしょうか。

じつはこれらの悩みは、日本語と英語の根本的な発想の違いから生まれているのです。スタディーハッカーのシニアリサーチャー時吉秀弥氏が、身近な例を使って、目から鱗の説明をします。

「なぜ英語は原因が大好きなのか」「なぜ日本語は理由に触れたがらないのか」という言語の特性に迫り、文法書では決して教えてくれない英語の本質を明らかに。英語の本質をつかむヒントが満載です。

「焼きそば」と「焼けそば」から見る自動詞と他動詞の違い

高橋: 時吉先生、多くの方が「自動詞」と「他動詞」の概念に苦しんでいますよね。学校では「目的語を取るかどうか」という形式的な説明だけで、本質的な意味がわかりにくいという声をよく聞きます。

時吉: 目的語がある、ないだけでは自動詞と他動詞を「判別」できても「理解」できたことにはなりません。なぜならそれは「形を識別しているだけ」だからです。

たとえて言えば、elephantという綴り字だけを知っていてその意味を知らないのと同じですね。文法を理解するということは、文法が持つ形だけでなく、それが表す「意味」を知らないといけません。

ということで、今回は自動詞と他動詞がもつ「意味」を考えていきましょう。自動詞と他動詞の違いを理解するために、まず質問させてください。「焼きそば」「焼けそば」、どちらを食べたいですか?

高橋: もちろん「焼きそば」です。「焼けそば」だと失敗して焦げてしまったイメージがありますから。

時吉: そうですよね。次に「焼き豚」と「焼け豚」ではどうですか?

高橋: 「焼き豚」ですね。「焼け豚」も何だか失敗した感じがします。でもこれが自動詞・他動詞とどう関係するんでしょうか?

時吉: ここに自動詞と他動詞の感覚的な違いがあるんです。「焼きそば」という言葉からは、誰かが意図的にコントロールして調理したイメージが湧きます。一方「焼けそば」は、意図せず焦げてしまった、コントロールできなかったというニュアンスがありますよね。

私の実体験なんですが、家族で墓参りに行ったとき、近くの休憩所で焼きそばを頼んだんです。しばらくして出てきたのがちょっと「焼き」が入りすぎた焼きそばで、弟が「焼きそばというより焼けそばだね」と言ったんです。なるほどな!とすぐメモしました。

「焼く」は他動詞で、他者(ソバ)に対して働きかける動きです。自分がコントロールして、対象物の状態を変化させようとしています。「焼きそば」と言うと、ちゃんと食べるのに美味しい程度に焼けているような印象を受けますよね。

一方、「焼ける」は自動詞で、勝手にそうなってしまうという感覚です。「焼けそば」と聞くと「ちょっと焼けすぎちゃった」という印象を受けます。

高橋: 「家を焼いた」「家が焼けた」でも、ニュアンスが全然違いますね。「家が焼けた」の方が一般的で、意図せず火事になったという感じがします。

時吉: そうなんです。「家を焼いた」と言うと、故意に放火したようなニュアンスになってしまいます。「家が焼けた」は、勝手にそうなってしまった、コントロールできなかったという自動詞的な感覚なんです。

ただし、すべての自動詞がコントロール不能というわけではありません。「歩く」「走る」も自動詞ですが、これらは自分の意思でコントロールできる行為です。「怖い怖い、勝手に自分が歩いちゃってる」とはならないですよね。自動詞の中にも様々な種類があるということです。

高橋: 確かに「歩く」のような自動詞は、自分で制御できますね。

時吉: そうです。でも「歩く」も「走る」も、自分自身が動作をしているだけで、他者に対して何かを働きかけているわけではないんです。そこが他動詞との違いです。

「焼きそば」と「焼けそば」の比較画像

見方の違いによる表現の変化

高橋: 同じ現象でも、見方によって自動詞と他動詞の使い分けがあるんですね。

時吉: その通りです。たとえば「家が建つ」「家を建てる」を考えてみましょう。実際には家は人が建てないと建たないのですが、表現の仕方が変わるんです。

「ここは昔は空き地だったのに、いっぱい家が建ったな」と言う場合、家が勝手にニョキニョキと生えたような捉え方をしています。誰が建てたかという視点ではなく、結果として家ができているという状態に注目しているんです。

高橋: そういうときには「家を建ててきたね」とは言わないですよね。

時吉: そうです。自分が何もしていない場合、「建てた」とは言いません。でも視点が変わると表現も変わります。たとえば、毎日作業している大工さんたちが見えていれば、「あそこのチームはよく働くね。もうここにも家を建てたし、あそこにも家を建てたよ。今度は大手町のほうに大きな建物を建てるんだって」というように、「建てる」という他動詞を使います。

「ドアが開く」と「ドアを開ける」も同じです。ドアに注目すれば「ドアが開く」ですが、誰が開けたかに注目すれば「彼がドアを開ける」となります。

高橋: この前もお話しいただいた「壊す」と「壊れる」の例も同じですね。

時吉: そうです。"The cup broke."(カップが割れた)は「割れた」という結果だけを述べています。これは自動詞の世界です。一方、"Jane broke the cup."(ジェーンがカップを割った)は、誰が割ったのかという原因を示しています。これは他動詞の世界なんです。

自動詞と他動詞の比較画像

日本語と英語の根本的な違い

高橋: この自動詞・他動詞の区別は、日本語と英語の言語構造にも関わってくるのでしょうか?

時吉: まさにその通りです。日本語は「自動詞優勢」の言語で、英語は「他動詞優勢」の言語なんです。この違いが日英語の本質的な違いの一つなんですよ。

高橋: それはどういう意味ですか?具体例があれば教えてください。

時吉: たとえば、日本語では「驚く」という自動詞表現が一般的です。「わあ、びっくりした」と言いますよね。これは自分がそうなったという感覚が強いからです。

一方、英語では"He surprised me"(彼が私を驚かせた)というように、他動詞表現が好まれます。原因が私に働きかけてきたという意識が強いんです。

高橋: たしかに日本語で「彼が私を驚かせた」という言い方も間違いではないですが、日常会話ではシンプルに「びっくりした」と言いますね。

時吉: もうひとつ例を挙げると、日本語では「台風のせいで電車が遅れた」と言います。「台風のせいで」という原因を表す部分は文の要素としては重要ではない副詞、つまり修飾語の位置に置かれています。

しかし英語では"The typhoon delayed the trains"(台風が電車を遅らせた)と、原因が主語になります。文の中で最も重要な位置に原因が来るんです。

高橋: なるほど。英語では原因を主語に持ってくる傾向があるんですね。これは前回お話しいただいた謝罪の仕方の違いとも関連していますね。

時吉: そうです。私はこれを「原因大好きな英語」「理由に触れたがらない日本語」と呼んでいます。日本語の謝罪は「すみません、すみません」という感情表現が中心で、理由の説明は言い訳のように聞こえがちです。

一方、英語の謝罪では「何が原因でこうなったか」という理由をはっきり述べることが求められます。原因・理由への関心の違いが、言語構造にも現れているんです。

高橋: 英語には「無生物主語」というものもありますよね。要するに原因を主語にする構文です。日本語では違和感がある表現ですが。

時吉: そうです。「バスはあなたを公園に連れていってくれるだろう」とか「鍵がドアを開けてくれるだろう」といった表現です。日本語で言うとかなり不自然ですよね。

もっと微妙な例を挙げると、英語では"The new policy caused a lot of discussion in the company"(新しい方針が会社で議論を引き起こした)と言いますが、日本語では「新しい方針が発表されて、いろんな議論が会社で起きた」という言い方のほうが自然です。「引き起こした」ではなく「起きた」という自動詞表現を好むんです。

日本語と英語の根本的な違い

日本語:「自動詞優勢」の言語

  • 結果や状態の変化に注目する
  • 「驚く」「遅れる」など自動詞表現が主流
  • 「理由に触れたがらない」傾向
  • 例:「台風のせいで電車が遅れた」
    (理由は副詞の位置)

英語:「他動詞優勢」の言語

  • 原因や働きかけに注目する
  • "surprise me" "delay the trains"など他動詞表現が主流
  • 「原因大好き」な傾向
  • 例:"The typhoon delayed the trains"
    (原因が主語の位置)

英語における「原因を主語にする」表現

高橋: 英語を話したり書いたりする際に、この違いをどう活かせばいいのでしょうか?

時吉: 他動詞をより多く使うことを意識し、特に「原因を主語にする」表現を心がけるといいでしょう。たとえば「売上が増えました」という自動詞表現ではなく、"Our continued efforts increased the sales."(我々の継続的な努力が売上を増加させました)というように、原因を主語にした他動詞表現を使うのです。

高橋: 具体的にどのような表現を覚えておくといいですか?

時吉: いくつか便利な表現があります。たとえば……

「原因を主語にする」英語表現パターン

動詞 例文 日本語訳
allow
(許可する)
"Social media allows us to express ourselves freely." ソーシャルメディアのおかげで私たちは自由に意見を言える
enable
(可能にする)
"This money enabled her to go abroad." このお金のおかげで彼女は海外に行けた
cause
(引き起こす)

"The typhoon caused the villagers to evacuate."

台風のせいで村人たちは避難せざるを得なかった
encourage
(促す)
"His words encouraged me to try again." 彼の言葉で私はもう一度挑戦する気になった

これらはすべて同じ構文パターン「原因+動詞+人+to不定詞」という形で使えます。だから文を作るときに語順を自動化することができます。

高橋: 自動詞と他動詞の両方で使える単語もありますよね。その見分け方はどうすればいいですか?

時吉: それは少し難しいところですが、文脈から予測することが大切です。たとえば"The cup broke"と"Jane broke the cup"の違いは、後ろに目的語があるかどうかで判断できます。

でも普通の文脈で考えれば、「カップが何かを壊した」と考える人はあまりいないでしょうし、「ジェーンが壊れた」と考える人も少ないでしょう。そういった予測も働いて、瞬間的にこれは他動詞だ、自動詞だと判断できるようになります。

高橋:  「動詞で見ていく」という視点も面白いですね。たとえば、「とにかく明るい安村」さんの "I'm wearing..." というフレーズで、"wearing" のあとに "pants" が来ないと気持ち悪く感じる、という例を以前挙げられていましたよね。
時吉: そうですね。安室奈美恵さんの "CAN YOU CELEBRATE?" という曲名も同じです。「何をセレブレイトするの?」と思ってしまう。後ろに目的語がないと違和感を覚えるのは、他動詞の感覚が働いているからなんです。

本が積み重なっている

日常生活に見る言語の違い

高橋: 日常的な場面で、この日英語の違いが現れる例はありますか?

時吉: 興味深い例として、英語の"It just happened"(そうなっちゃったのよ)という表現があります。これはドラマなどで不倫を問い詰められたときによく使われるフレーズです。

高橋: 「そうなっちゃった」というのは、まさに自動詞的な表現ですね。日本でも不倫の場合、「自分が悪い」と言いますが、理由は深く掘り下げない傾向がありますね。

時吉: そうなんです。日本語では「自分が悪い」と責任は認めつつも、なぜそうなったかという原因・理由には深く触れない傾向があります。英語は原因を明確にする傾向がある言語なのですが、そんな中で "It just happened" は、いかにも言い逃れ的な言い回しかもしれません。

高橋: 日本で記者会見で「そうなっちゃったんです」と言ったら面白いでしょうね(笑)。

時吉: そうですね(笑)。そこは文化的な違いも大きいかもしれません。

謝罪をしている男性

英語上達のための予測力

高橋: 英語に慣れるというのは、具体的にはどういうことだと思いますか?

時吉: 予測ができるようになるということだと思います。読むときも聞くときも、「このあとにこういう表現が来るだろう」という予測が立てられるようになることが重要です。ちなみに生成AIの仕組みはまさにこれです。

高橋: SNSでよく見かける「文章のなかに漢字が混ざっていても気づかない」とか「文字が抜けていても読める」という現象も、予測しながら読んでいるからですよね。

時吉: その通りです。あれは予測しながら読んでいるから、細かいところまでチェックせずに読んでしまうんです。全部読まなくてもある程度読んだら「こういうことを言っているのだろう」という予測で理解できるから、早く読めて楽なんです。

高橋: 英語でも同じことが言えるんですね。

時吉: そうです。英語において素早いリーディングやリスニングのためにはこの予測力がとても大事です。いちいち全部、言葉を見たり聞いたりしてから意味を考えていては遅いからです。

本とノートを開いて机の上に置いている

効果的な英語学習法

高橋: 予測力を高めるにはどうすればいいのでしょうか?

時吉: 「精読」と「多読」の両方が大切です。「精読」は難しいレベルの文章を細かく詳しく読むことです。実際の文章の中で出会った、生きた言い回しや単語、文法を吸収するためには、精読は絶対必要です。これはいわば「わかる部分を増やす」訓練です。

一方、「多読」は自分のレベルより少し下の文章をたくさん読むことです。大量の英文パターンを消化し吸収することで身につくのが、英文に対する「予測力」です。予測力を高めることで、速く大量に英文の情報処理ができるようになるわけですが、これを実現してくれる多読というのは「できる部分を増やす」訓練だと言えます。

高橋: 読む英文のレベルを下げるのが大事なんですね。

時吉: そう思います。自分のレベルより1〜2段階下の文章をたくさん読むことで、単語や熟語よりもさらに大きな「定型表現」というかたまりがたくさん身につきます。より大きな情報のかたまりを処理できるようになるので、これが速読や、ひいてはリスニング力の向上にもつながります。

高橋: 読むことと聞くことは別物と考えがちですが、関連しているんですね。

時吉: 深く関連しています。読むことの延長に聞くことがありますから。予備校講師の安河内先生がよく言われていた言葉に「文字で勉強して復習は音でやれ」というのがあります。まず文字で内容を理解し、仕組みや単語を覚えたら、次に同じ内容を音声で聞くんです。それで音声でも同じレベルで理解できるかを確認します。これはとても効果的な方法だと思います。

精読と多読について説明している画像

英語らしい英語で伝える重要性

高橋: 今日は自動詞・他動詞の違いから、日本語と英語の根本的な違い、そして英語学習法まで幅広くお話しいただきました。

時吉: 日本語が自動詞優勢で英語が他動詞優勢であることを理解すると、英語への切り替えがスムーズになります。英語らしい英語で話すことで、相手に伝わりやすくなりますし、相手もストレスなく聞けるようになります。

以前もお話ししましたが、英語では「説明する側に責任がある」という考え方があります。聞き手が理解できないのは話し手の責任という発想です。

高橋:対して日本語では「聞き手が理解しなければならない」という感覚がありますね。

時吉:その通りです。相手に分かるように工夫するという意味で、英語らしい英語を話すことが大切です。原因を主語にすることで因果関係を明確にする他動詞構文を意識的に使うことは、その第一歩になるでしょう。

まとめ

  • 自動詞と他動詞の違いは単に「目的語を取るか取らないか」という文法的な問題ではなく、物事の捉え方の違い
  • 日本語は自動詞優勢の「そうなった」という結果重視の言語
  • 英語は他動詞優勢の「何がそうさせたか」という原因重視の言語
  • 英語らしい英語を話すために、原因を主語にする構文を積極的に使う
  • 「予測力」向上が英語に慣れる秘訣。そのために多読が効果的
  • 精読は「わかる」ための作業、多読は「できる」ための作業

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【ライタープロフィール】
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