「なぜスマホを見てしまうんだろう...」 「また無駄な時間を過ごしてしまった...」
こんな後悔、毎日していませんか? 実は、この「やめられない習慣」には、あなたの成長のヒントが隠されているかもしれません。
私たちの多くは、仕事中のSNSチェックや締切直前のだらだら作業など、生産性を下げる習慣を持っています。でも、単に「やめよう」とがんばるのは逆効果。なぜなら、その習慣の背景には必ず何らかの理由があるからです。
本記事では、そんな「やめたい習慣」を「成長につながる新しい習慣」に置き換えるアプローチをご紹介します。行動分析学の「ABCモデル」を使って、具体的な方法をお伝えしていきましょう。
やめられない習慣の"正体"を暴く「ABCモデル」とは
やめたいと思っている行動習慣、例えば、「仕事や勉強の合間にスマートフォンでSNSなどをチェックしてしまう」などの習慣をやめたいと思っている人は、もしかしたらスマートフォンを別室に置く、見る時間を制限するなど、いろいろな方法を試しているかもしれません。
それでもやめられないのであれば、自身の「やめたい行動」をフレームワークを用いて分析してみてはいかがでしょう。その際に役立つのがABCモデルです。
ABCモデルとは、行動分析学の創始者B.F.スキナー氏が確立した、人間の行動パターンを解析するためのフレームワーク。このモデルでは行動を以下の3つの要素に分解します。
- A(Antecedents):行動のきっかけとなる先行刺激
- B(Behavior):実際に起こる行動
- C(Consequence):その行動がもたらす結果
医学書院サイト内にある「喫煙行動」を例に挙げた図と、大阪大学大学院人間科学研究科准教授・平井啓氏の説明を参考にすると――喫煙者はストレスを感じる(先行刺激)から⇒タバコを吸い(行動)⇒ストレス解消(結果)しています。
しかし、それには発がんリスク(結果)がともなうので、以下のように「喫煙」が「運動」に置き換わることが望ましい行動変容です。運動もストレス解消になり、それでいて発がんリスクはともなわないからです。*1
この説明のなかで平井氏は、たとえば喫煙の代替となる運動が、その人にとって継続できるものかどうかわからないので、適切な行動を見つけるためには、新しい行動を何度か試す必要があるとしています。*1
スマホ依存からの"起死回生"の一手
そこで、筆者も「仕事や勉強の合間に、ついついスマートフォンを手に取り、SNSなどをチェックしてしまう行動」を、ABCモデルで分析してみることに。
すると、いままで変えたい行動=「悪習慣」にだけに目を向け、その「行動が起こる理由」や、その「行動によって何を求めているのか」をよく考えてこなかったことに気がつきました。
改めて考えてみた結果、仕事や勉強の合間にスマートフォンを手に取ってしまうのは、なんとなく脳が飽きてしまうからだと判断。この場合のA(先行刺激)は「飽きる」ということです。
そして、その先行刺激を受けて、刺激をもとめます。具体的なB(行動)として、スマホを見ることで別の情報を得て、飽きを解消しようとしているわけです。
スマホを見ると、C(結果)として「気分転換による飽きの解消」は確かに得られます。しかしその一方で、「集中力の低下」というネガティブなC(結果)も発生してしまっているということが整理できます。*2
ABCモデルで分析すると、以下の構造が明らかになったわけです。
- A:先行刺激:仕事や勉強をしていて脳が飽きると
↓ - B:行動:ついついスマホでSNSなどをチェック
↓ - C:結果:気分転換になる◎
C:結果:集中力が低下する×
先の図に当てはめるとこうです。
図を見ると、「スマホを見る」というB(行動)を他のことに置き換えればよいということがわかります。
A(先行刺激)自体は変えようがありません。飽きるのは仕方がないことです。たいせつなのは、B(行動)を置き換えれば、C(結果)が変わるということです。
つまり、Aの「飽きる」を解消しつつ、Cの「気分転換」を満たす。かつ、「集中力低下をともわない」ようなB(行動)を探さなければなりません。
単純に考えると「スマホを見る」⇒「運動(気分転換できて集中力が低下しない)」ですが、それが成立するとは思えませんでした。脳が飽きてきたから、運動をしようというのはハードルが高すぎて実現性が低いと言わざるを得ません。
そこで、もっと魅力的な行動はないかと調べた結果――スウェーデン流の休憩にたどり着いたのです。
実はスウェーデンの会社員たちは、1日5回も「さぼって」います。 でも、それが逆に生産性を上げているというから驚きです。 その秘密が「fika(フィーカ)」という習慣にありました。
スウェーデンでは「fika(フィーカ)」と呼ばれるコーヒーブレイクが習慣になっており、1日に平均5回、15〜20分ほど、同僚、上司、部下など誰とでも会話を楽しみながらサッとお茶をして、パッと仕事に戻るといいます。*3
それでもスウェーデンは、この30年(2019年の情報)で1人当たりのGDPは右肩上がり。世界ランキングでは日本よりずっと上位です。*3
つまり、fika(フィーカ)は気分転換できるうえに、むしろ仕事に集中しやすくなる可能性が高いわけです。
これなら「スマホでSNSをチェック」するより遥かに魅力的。仕事や勉強の合間の悪習慣を変えられる気がしてきました。
行動を変えるために必要なこと
前出の平井氏は、健康のために行動を変えるよう患者を説得する医療従事者と、なかなか行動を変えられない患者を例に挙げ、次のように述べています。*1
医療従事者はその行動(たとえば喫煙)がよくないと繰り返し患者に説明して理解させようとするが、患者は、その行動が自分にとってよくないことはすでに理解している。
だから、なぜ正しいことだと理解しながら行動を変えられないのか、それを阻害している理由は何なのかを想像したり、情報収集したりする必要がある。*1
筆者もこれまでは「スマホを見る習慣をやめなければ」と思うばかりで、なぜその行動を変える必要があるのか、どんな状態を目指しているのかを整理できていませんでした。
ABCモデルで分析してみて初めて、「脳が飽きた時の気分転換」という本質的なニーズに気づき、それを満たしつつ生産性も高められる代替行動を見つけることができたのです。
シンプルなフレームワークですが、自分の行動を冷静に分析し、より良い方向に導いてくれます。ぜひ一度お試しください。
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やめたい習慣は、実は「あなたが何かを必要としているサイン」かもしれません。
その声に耳を傾け、より良い方法を見つけることで、
私たちは新しい成長のステージに進めるのです。
あなたの「やめたい習慣」は、どんな可能性を秘めているでしょうか?
*1: 医学書院|行動変容の基本的考え方 わかっているけど変えられない
*2: 大正製薬|集中力や記憶力が落ちていませんか?「スマホ脳疲労」に注意
*3: FRaU|スウェーデン文化から学ぶ、日本も真似たい「自分ファースト」な働き方
上川万葉
法学部を卒業後、大学院でヨーロッパ近現代史を研究。ドイツ語・チェコ語の学習経験がある。司書と学芸員の資格をもち、大学図書館で10年以上勤務した。特にリサーチや書籍紹介を得意としており、勉強法や働き方にまつわる記事を多く執筆している。