「読んだ本を読書ノートに記録しようと思ったけど、書き方がわからないや……」
こんな経験はありませんか? そんな方のため、小説やビジネス書に使える、読書ノートの簡単な書き方をご紹介します。
学んだ知識を整理できたり、記憶を強固にできたりと、読書ノートはメリットだらけ。これからご紹介する書き方を実践し、読書ノートを続けてみてください。
読書ノートのメリット
「そもそも、どうして読書ノートをつけるんだろう?」という方のため、書き方の前に、読書ノートのメリットをご説明します。
知識を整理できる
読書ノートをつけることで、本から得た知識を整理できます。一般的に、本1冊の情報量は10万字以上。読み流すだけでは、これほど大量の情報を処理できませんよね。そこで、
- 要点を書き出す
- 重要な文を書き写す
- 図解する
……といった「書く」プロセスを通じ、情報を自分にとってわかりやすく整理することで、内容を深く理解できるのです。
知識をインプットできる
「書く」プロセスは脳を刺激し、記憶を強固にしてくれます。脳神経内科医の長谷川嘉哉氏によると、「文字の手書き」には以下のように複雑な情報処理プロセスが含まれるそう。
- 記憶を引き出す
- 文章を組み立てる
- 文字の大きさや形、レイアウトを考える
- 指先を細かく動かす など
そのため、脳の広い範囲が活性化されます。ただ読むのに比べ、記憶が定着しやすいそうです。
社会心理学者のパム・ミュラー氏らが2014年に発表した研究でも、手書きのメリットが示唆されています。普段からPCで講義ノートをとっている学生と、手書きでとっている学生を比べると、PCの学生のほうがテストの点が悪い傾向があったそうです。
普段からPCでノートをとっている学生は、講義の内容を一字一句記録する傾向がありました。手書きに比べて情報処理が「浅い」と考察されています。
ざっくばらんに言えば、アウトプットが面倒なほど、記憶が定着しやすいと考えられるのです。
知識が使いやすくなる
本の内容が読書ノートにまとまっていると、必要なときすぐ取り出せます。本の要点が1ページに集約されていれば、「どこに書いてあったっけ……」と本を読み直す必要がなくなりますね。
読書記録には、本そのものに書き込む方法もあります。しかし、知識を手軽に取り出したいなら、ノートやルーズリーフにまとめるほうが適切です。
- 本の知識を仕事で使いたい
- スピーチのネタとして本の内容を引用したい
- 昔読んだ本の内容を簡単に振り返りたい
……など、本の知識を引用・参照したい場面に備え、読書ノートをつくっておくと便利ですよ。
目的意識が生まれる
読書の目的意識を高められるのも、読書ノートのメリットです。「あとでノートに要約しよう!」と読書すれば、ただ読むだけより、ポイントや論理構造をつかもうという意識が高まりますよね。
「読書ノートを書く」という目的があることで、情報収集のアンテナが敏感になるのです。どのような書き方で読書ノートにまとめるのか、本を読む前にイメージしておきましょう。
読書ノートの書き方1:ブックリスト
いよいよ、読書ノートの書き方を具体的に紹介します。まずは、教育学者・齋藤孝氏が実践していた「ブックリスト」。
- タイトル
- 著者
- 出版社
- ひとこと感想
この4項目をリスト形式で書きます。最も簡単な読書ノートの書き方と言えるでしょう。
これなら、1冊当たり2~3行。数分もあれば書くことができます。読んだ本の履歴がリスト形式で蓄積されるため、「もっと読んでリストを増やそう!」という意欲が高まるのもメリットです。
「とりあえず、やってみたい」「ノートづくりに時間をかけたくないな」という方は、読書ノートの入門編として「ブックリスト」という書き方を試してみてください。
読書ノートの書き方2:ねぎま式
元新聞記者で情報整理術に詳しい奥野宣之氏がすすめる読書ノートの書き方は「ねぎま式」。タイトルや著者などの基本情報に加え、以下のふたつを交互に書いていきます。
- 重要/好きと感じた文章の抜き書き
- その文章への感想
抜き書きと感想が交互に来るのが、焼き鳥の「ねぎま」に似ていますね。本全体の感想ではなく特定の文章についての感想という点が独特です。
文章を書き写すだけなので、要約が苦手な方でも大丈夫。ビジネス書から小説まで、あらゆるジャンルに適用できるノート術です。
抜き書きする文章を絞り込むときは、以下のようにします。
1. 通読→ページ上の角を折る
まずは本を通して読みます。「ここは大事だな!」「この部分、いいな」と感じたら、ページ上の角を折っておきましょう。ただし、まだ線は引きません。
奥野氏によれば、「わかる!」と共感できる文章ではなく、「言われてみれば、たしかにそうだ」という発見があった文章を選ぶべきだそう。「わかる」と思うのは、自分がもう知っていること。新たな気づきや学びが得られたわけではないため、読書ノートに残す価値は低いのです。
次からの作業でも、「共感」ではなく「発見」を記録していきましょう。
2. 再読→ページ下の角を折る
読み終わったら、角を折ったページだけ再読しましょう。2回読んでも「いいな」と感じられるページは、下の角を折ります。
3. 再再読→マーキング
最後に、上下両方の角が折られているページを読み返しましょう。3回めでも「いいな」と感じた文章にだけ、ペンで線や印をつけてください。
以上が、「抜き書きする価値のある文章」を絞り込む手順です。「印をつけた文章をノートに写す→感想を書く」を繰り返せば、ねぎま式読書ノートが完成します。
とはいえ奥野氏によると、読書ノートは形式にとらわれすぎず、無理のない範囲で続けるのが大事とのこと。
- 抜き書きしたい文章がどうしてもない→本全体の感想を書く
- 抜き書きはしたが、感想が浮かばない→空欄にしておく
など、自分にとって快適な書き方で読書ノートを続けましょう。
読書ノートの書き方3:図解
内容を図解するのも、読書ノートの書き方として効果的です。知的生産術の専門家として執筆・講演活動を行なう永田豊志氏によれば、図解すると情報がシンプルに集約・構造化され、仕事などで「使える知識」に変わります。
「図解はやったことないな……」という人でも、フォーマットさえ押さえれば簡単にできますよ。永田氏の著書『頭のいい人は「図解思考」で考える! 今までの10倍「記憶力」「理解力」が強くなる』(三笠書房、2017年)から、読書ノートに使える図解法を3つご紹介します。
基本型
まずは、基本の図解法。キーワードを線や矢印で結ぶだけと、きわめてシンプルです。
◆基本型の図解
- キーワードを書き出す
- 因果関係、時系列、移動などの「流れ」を矢印でつなげる
- 類似、言い換え、協調、敵対、血縁などの「関係」を線でつなげる
例として、歴史学者ユヴァル・ノア・ハラリ氏の『サピエンス全史 上 文明の構造と人類の幸福』を図解してみました。「認知革命」というキーワードを軸に、冒頭の一部をまとめています。
まず、キーワードとして「認知革命」「共通の神話」「無数の赤の他人と協力」「宗教」「貨幣」などを列挙。因果や時間の流れを矢印で表現したあと、関係のあるキーワードを線で結びました。
左上の「認知革命→共通の神話」は、「認知革命が起きたことで、ホモ・サピエンスは共通の神話を信じるようになった」という因果関係を表現しています。「宗教・貨幣・法人」は、「共通の神話」の具体例であり、時間的な関係はないため、矢印でなく線で結びました。
このように図解すれば、キーワードどうしの関係が明確になり、情報をすっきり整理できます。
ピラミッド型
主張を支える根拠や論理を、ピラミッドで図解する方法があります。著者は何を主張しているのか、主張にはどんな根拠があるかを整理するのに最適です。
『サピエンス全史』から、私たちホモ・サピエンスの祖先が地球上で生き残り繁栄できた理由を整理してみました。
ピラミッドの頂点に「サピエンスの繁栄」という結論を据えました。その下には結論を支える2つの理由を、理由の下には5つの根拠を記載しています。
左下から上へと続く「火を使った調理→脳の発達→サピエンスの繁栄」という流れに注目してください。「火を使った調理で多彩な栄養素をとれるようになった結果、脳が発達。そのため、生存競争でほかの動物より優位になった」という論理構造を表しています。
論理の構造をわかりやすく表現したいなら、このようなピラミッド型で図解してみましょう。
マトリックス型
マトリックス型は、特徴などを比較するのに役立ちます。マトリックスとは「表」とのこと。比較したい項目を縦軸に、比較の尺度を横軸にし、一定の切り口から複数の要素を比較します。
- 各キーワードの概要・具体例・長所・短所
- 各登場人物の長所・短所
- 各ノウハウの長所・短所
……など、さまざまな要素を比較・整理できますよ。
筆者もマトリックスを使い、『サピエンス全史』から、生存競争に敗れて絶滅したネアンデルタール人(ホモ・ネアンデルターレンシス)とホモ・サピエンスの能力を整理してみました。
ホモ・サピエンスとネアンデルタール人にどんな強み・弱みがあるのか、一目瞭然ですね。「ホモ・サピエンスはネアンデルタール人に比べ身体的・知能的に劣ったものの、“神話の創造” ができたため大人数での団結に長けた」という構造をひとめで見渡せます。
基本型・ピラミッド型・マトリックス型で図解する方法をご紹介しました。この3つをマスターするだけで、読書ノートの書き方の幅がかなり広がりますよ。
読書ノートの書き方を学べる本
読書ノートの書き方や、読書のコツを詳しく知りたい方のため、本を3冊ご紹介します。
『読書は1冊のノートにまとめなさい[完全版]』
『読書は1冊のノートにまとめなさい[完全版]』は、前出の奥野宣之氏が実践する読書ノート術を余すことなく紹介しています。ご紹介した「ねぎま式」をはじめ、テクニックが満載です。
むやみに多読・速読せず、読んだ本を1冊ずつノートにまとめ、確実に血肉とするほうが重要だそう。具体的には、この3つを記録することが推奨されています。
- 内容
- 注目した部分
- 感想
これから読書ノートを始めるなら、入門編としてまず手に取ってみましょう。
『読んだら忘れない読書術』
精神科医の樺沢紫苑氏による『読んだら忘れない読書術』。月に30冊も読むという樺沢氏が医学的な知見をもとに、一度読んだら忘れない合理的な読書テク二ックを紹介しています。
樺沢氏が強調するのは、本で学んだ内容をアウトプットすること。自分の言葉で書いたり話したりすることで脳が刺激され、記憶が強固になります。アウトプットのやり方に加え、
- パラパラ読んで全体を把握する「パラパラ読書術」
- 知りたい箇所から読む「ワープ読書術」
- ワクワク感を高めてから読む「ワクワク読書術」
など、独自のテクニックも豊富です。
『コンサルタントの読書術 確実に成果につながる戦略的読書のススメ』
経営コンサルタント・ビジネス書作家の大石哲之氏が、ビジネスパーソン向けに読書術を解説する『コンサルタントの読書術 確実に成果につながる戦略的読書のススメ』。読書は目的ありきですべきだ、と主張しています。
「この本からは○○を学ぶぞ!」と目的をはっきりさせてから読めば、自分にとって必要な情報・不要な情報もはっきりし、内容をスムーズに吸収できます。目的意識を重視した読書テクニックの一環として、読書ノートやメモの書き方も教えてくれますよ。
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読書ノートの書き方を、「ブックリスト」「ねぎま式」「図解」と3つご紹介しました。そのまま使っても良し、組み合わせても良し。試行錯誤しつつ、あなたにとって理想的な読書ノートの書き方を見つけてくださいね。
【ライタープロフィール】
佐藤舜
大学で哲学を専攻し、人文科学系の読書経験が豊富。特に心理学や脳科学分野での執筆を得意としており、200本以上の執筆実績をもつ。幅広いリサーチ経験から記憶術・文章術のノウハウを獲得。「読者の知的好奇心を刺激できるライター」をモットーに、教養を広げるよう努めている。
(参考)
STUDY HACKER|医師「手書きが脳にいいのは当然」――脳を刺激する “最高のアナログ習慣” してますか?
Mueller, Pam A. and Daniel M. Oppenheimer (2014), "The Pen Is Mightier Than the Keyboard: Advantages of Longhand Over Laptop Note Taking," Psychological Science, Vol. 25, No. 6, pp.1159-1168.
齋藤孝(2014),『大人のための読書の全技術』, KADOKAWA/中経出版.
ダイヤモンド・オンライン|本を読みっぱなしにしない!確実に自分の血肉にする5つの技術
永田豊志(2017),『頭のいい人は「図解思考」で考える! 今までの10倍「記憶力」「理解力」が強くなる』, 三笠書房.
ユヴァル・ノア・ハラリ 著, 柴田裕之 訳(2016),『サピエンス全史 上 文明の構造と人類の幸福』, 河出書房新社.