「本や参考書を速読できたら勉強や仕事の効率を上げられそうだけど、本当に効果があるの?」と疑問に思っている人は多いのではないでしょうか。今回は、速読の科学的根拠を探りつつ、本当に効果的な速読術をご紹介します。
速読とは
まず、速読とは何なのか、普通の読み方と速読の違いをご説明します。
速読術には、斜め読み・スキミングなど、さまざまな種類が存在しています。速読法をマスターすると、普通の読み方をするのに比べて、どれくらい速読みできるようになるのでしょうか。
速読で読める文字数・ページ数の目安をご紹介しましょう。速読の最速記録としては、1990年のギネスブックに世界記録として認定されたアメリカのH・S・バーグ氏による1分間に25,000字という、にわかには信じがたい驚異的な数字があるようです。また、『速読日本一が教える すごい読書術』(ダイヤモンド社、2018年)の著者・角田和将氏によると、1ページを1秒で、1冊を1時間で3回読むくらいが理想的なのだそう。日本一のレベルもかなりのスピードに感じますね。
「1分間に2万字以上も、内容を理解しながら読めるなんて本当?」「ただ猛スピードでページをめくっているだけなのでは?」と疑念を抱く人もいるかもしれません。多くの人は、広島大学教授・森田愛子氏の論文「速読は有益か―速読に対するニーズの調査―」に示されているように、通常の2~3倍くらいの速さをイメージするのではないでしょうか?
内容をちゃんと理解しながらの速読では、1分間に平均してどのくらいの文字数が読めるのでしょう。医学博士・横山聡氏による、普通の人の読書速度と速読法で訓練した人の読書速度の違いを調べた研究結果をご覧ください。
- 普通の読み方:500~1,000文字/分
- 無駄な視覚運動を省いた読み方:3,000文字/分
- 文字情報の音声化を省いた読み方:8,000文字以上/分
速読スキルのレベルが高い人は、普通の読み方をする人に比べて約3~16倍の基準で読め、しかもある程度内容が理解できているようです。
どんな練習をすれば速読が可能になるのでしょう? 2017年に放送されたNHKの教養番組『テストの花道 ニューベンゼミ』から、実例をご紹介します。
「脳科学に基づく速読」を提唱し、速読や記憶術の教室やセミナーを東京・大阪などで開催しているSP速読学院の学院長・橘遵氏の指導のもと、問題集と小説を使った速読レッスンに高校生たちが挑戦しました。まず普通の読み方で計測を行なったあと、パソコンと教材を使った5つのプログラムで約2時間トレーニングします。内容を簡単にまとめると、次のようなものです。
- 文章を単語ではなく、意味の固まりで見る。
- 「返り読み」の癖を取り除く。
- 単語のイメージをインプットする。
- 文字を景色のように眺める。
- 文章を固まりごとに見る。
トレーニング後の計測では、約2~14倍も読みのスピードが上がりました。速読とは、最初から最後まで一字一句文字を読み進める普通の読み方と違い、文字をスピーディに読み取るために複数の技術を駆使する読書術なのですね。
速読のしくみ
速読を可能にするのはどのようなしくみなのでしょう?
公立はこだて未来大学教授の川嶋稔夫氏と、同大学共同研究員の小林潤平氏による「読みの速度と眼球運動」の実験(2018年)では、視線に無駄な動きが少ないことが読み速度の向上に必要であると示されました。また、横山氏の研究によると、読書の際の内容理解には、イメージなどを司る右脳が関係しているそうです。
横山氏の研究では、速読時のイメージが以下のように語られています。
熟達者が本実験後のインタヴューで「速読時は一つ一つの文章ではなく、例えばある情景の中で登場人物があたかも実際に動く様が浮かぶ」と述べるのに比べ、音声化過程負荷時は「自分の声(頭の中の声)に気を取られ、そういった視覚的なイメージが浮かびにくく、かえって話の筋が読み取り難い」と述べることが多かった。
(引用元:横山聡(1992),「速読者の脳波FFT解析による読書についての考察」, 日本医科大学医学会雑誌, 1992年第59巻3号, pp.30‐42. 太字による強調は編集部が施した)
一文字一文字を音声化しながら目で追うのではなく、視線の無駄な動きを少なくし、イメージを司る右脳の力を使って文章全体の内容を絵を見るように読むことが、速読のしくみであるようです。
速読は効果的なのか?
1冊を1分で読むというような、極端な速読トレーニングの効果をアピールする宣伝に触れ、うさんくさいと感じたり、「内容をしっかり理解できる速読なんて、嘘なのでは? 」「一瞬で1ページ分の内容を理解するなんて無理」と、疑いを抱いたりする人もいるのではないでしょうか。内容を理解できる速読は本当に不可能で無意味なのか、科学的根拠に基づいて検証していきます。
2011年、早稲田大学教授の宮田裕光氏らが、読書速度と内容理解の関係を調べるため、一般の成人と速読法中級レベルの成人を対象とした実験を行いました。被験者にパソコン上で短編小説を一読させ、眼球運動をアイカメラで計測し、内容に関する質問に回答してもらったところ、読みの速度が速いほど内容の理解度が低くなるという結果が出たそうです。
また、カリフォルニア大学サンディエゴ校の教授・心理学者の故キース・レイナー氏らは、2016年に公開された論文の中で、速読と内容の理解に関する実験データを検証し、読みの速さと内容の理解度はトレードオフ(両立し得ない)の関係にあることを報告しています。パラパラとページをめくるスピードを速くすればするほど、中身が頭に入らない・内容が理解できない状態になるという結果から、速読は「効果なし」であることが示されたようです。あまり速く読みすぎると内容をじゅうぶんに理解できない、というデメリットがあるのですね。
ただし、レイナー氏らいわく、本の内容について読み手側に基礎知識があるのなら、速読が意味のないスキルだとは言い切れないとのこと。レイナー氏らは、効果的な速読トレーニング法として、さまざまなテキストを読んでボキャブラリーを増やすことを勧めました。
スピードだけにこだわり内容理解をおろそかにするのなら、たしかに速読は無意味だといえるでしょう。けれども、レイナー氏らが指摘しているように、内容を理解しつつ読書スピードを今よりも上げることが可能となる、有効な速読のコツは存在するのです。次章以降では「本当に効果のある速読術」を3つ紹介します。
本当に効果のある速読術1:高速大量回転法
高速大量回転法という速読術をご存じですか? やり方はとても簡単。ネットサーフィンをする感覚で、好きなところだけ高速で読み切るのを繰り返すだけです。
高速大回転法の開発者でトレスペクト教育研究所代表の宇都出雅巳氏によると、実践するうえで大事なポイントは以下の3つ。
- 速く読む
- 繰り返す
- 途中で止まらない
読書とは、読み手側が持っている記憶(ストック)で行なうものなので、ストックが多いほど内容理解を伴う速読が可能になります。好きなところを繰り返し読むだけでもストックが蓄積され、内容理解につながるのだそうです。詳しい方法は、Study Hackerの記事「読書にも勉強にも! “高速大量回転” のやり方とは?——「高速大量回転法」生みの親・宇都出雅巳さん特別インタビュー」をぜひ参考にしてみてください。
高速大量回転法は、特別なトレーニングが不要のうえ、ネットサーフィン感覚ですぐ取り組むことができるので、「速読は疲れるかも」と二の足を踏んでいる人にオススメしたい効果的な速読術です。
本当に効果のある速読術2:フォトリーディング
フォトリーディングとは、脳が持つ高度な画像情報処理能力を活用することによって、本の情報をまるごと脳にインストールする速読術です。
フォトリーディングによる速読の手順を簡単にご説明します。
- 読む目的を決める。
- 目次に目を通す。
- 文字に焦点が合わないよう注意しつつ、本文の内容を写真に撮るようにインプットする。
- 気になる言葉や著者に対する質問を書き出す。
- 目的に合わせて読み方を変えつつ本文を速読する。
読み方には以下のような例が挙げられます。
- 高速リーディング:難しいところだけ意味がわかるようスピードを落として読む。勉強や精読が目的の場合など。
- スキタリング:知りたい部分だけをひろい読みする。新聞の記事など。
フォトリーディングシニアインストラクターの山口佐貴子氏によると、フォトリーディングには以下をはじめとするたくさんのメリットがあるそう。
- 1冊を20~30分で読める
- 読解力が上がる
- 暗記の時間が短縮できる
高速で何度も本のページをめくる、文字を書き出すという手間はありますが、ウェブ上の情報や電子書籍でも実践できますし、習得すれば大きなメリットが期待できますよ。Study Hackerの記事「未来が劇的に変化する『フォトリーディング』速読術」に、詳しい内容を掲載しているので、参考にしてみてはいかがでしょう。
本当に効果のある速読術3:メンタリストDaiGo氏の速読多読術
人の心理に詳しいとして評判のメンタリストDaiGo氏による速読多読術をご紹介します。DaiGo氏は、速読とは読むべき本を選別するための手段であるとして、自ら実践して本当に効果のあった速読経験をもとに、必要な知識だけ手に入れる読み方を勧めています。
DaiGo氏による速読術のポイントをまとめると、次の通りです。
- 目次を見て、読むべき本か確認する。
- 知らない情報が半分くらい載っていて、太字の表記がある本を選ぶ。
特に速読初心者は、1秒で必要な単語を追うことに慣れるため、重要な箇所が太字で強調されている本を選ぶ。 - 本の中から得たい知識を3つ決める。
- 読みたい部分を絞りながら、ペースを変えて4回読む。
1回目:1冊を約5分で読み切る。太字部分を探しつつ、1ページを1秒でめくる。
2回目:1章を約3分で読み切る。太字のみに注目し、1ページを3秒でめくる。
3回目:1章を約10分で読み切る。太字周辺の文章にも目を向け、1ページを10秒でめくる。
4回目:内容をよく理解したいページのみ、約5分かけて読む。1ページを30秒で熟読する。
Study Hackerの記事「知識が高速で身につく! メンタリストDaiGoがすすめる『速読多読術』を実際にやってみた」のライターは、1時間で200~300ページ程度の本を2冊読めるようになったそうです。確実に実践可能で効果のある速読術をお探しの人におすすめです。
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内容が理解できる本当に効果的な速読のポイントとは、本を読む目的を決める・目次に目を通し読みたい部分に目星をつける・スピードを上げて何度か読み返すことでした。ご紹介した速読術を、ぜひ試してみてはいかがでしょう。
(参考)
横山聡(1992),「速読者の脳波FFT解析による読書についての考察」, 日本医科大学医学会雑誌 59(3), pp.30‐42.
森田愛子(2015),「速読は有益か―速読に対するニーズの調査」, 読書科学 56(3-4), pp.113-123.
小林潤平, 川島稔夫(2018),「日本語文章の読み速度の個人差をもたらす眼球運動」, 映像情報メディア学会誌 72(10), pp.J154-J159.
山口佐貴子(2013),『超一流の人がやっているフォトリーディング』, かんき出版.
「『勉強はめんどくさい』あなたのための『勉強しない勉強法』」, プレジデント, 2018.7.2号, pp.76-77.
Donald McFarlan and Norris D. McWhirter (1989), Guinness book of world records, 1990, New York City, Sterling Pub.
Rayner, Keith, Elizabeth R. Schotter, Michael E. J. Masson, Mary C. Potter and Rebecca Treiman (2016),”So Much to Read,So Little Time:How Do We Read and Can Speed Reading Help?”, Psychological Science in the Public Interest,Vol.17, No. 1, pp.4-34.
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【ライタープロフィール】
上川万葉
法学部を卒業後、大学院でヨーロッパ近現代史を研究。ドイツ語・チェコ語の学習経験がある。司書と学芸員の資格をもち、大学図書館で10年以上勤務した。特にリサーチや書籍紹介を得意としており、勉強法や働き方にまつわる記事を多く執筆している。