STUDY HACKERの読者のみなさま、こんにちは。外資系コンサルティングファーム、投資銀行、プライベートエクイティファンドなどの在籍者らを中心に、グローバルに活躍するプロフェッショナルのキャリア形成を支援する「Liiga(リーガ)」の編集部です。
突然ですが、「地頭がいい」ってどういうことでしょうか。あえて「地」頭と表現されていることから、生まれもっての頭の良さというイメージがありますが、鍛えることはできないのでしょうか。
「Liiga」編集部では、教育や採用の分野の有識者、ビジネス界で活躍するプロフェッショナルファーム経験者らに「地頭」について取材し、特集記事を作成しました。今回はその一部を、前後編に分けてご紹介します。
- “地頭ブームの火つけ役” が推奨。「3つの思考力」すべてを使うフェルミ推定
- そもそも「地頭」はいつからある言葉?
- 高みを目指すなら「発想力」を鍛えよ
- 地頭がいい人はなんでも深く思考する
- まとめ:いろいろな定義も鍛え方もある「地頭」。自分に合った方法を見つけよう
“地頭ブームの火つけ役” が推奨。「3つの思考力」すべてを使うフェルミ推定
「地頭力ブーム」の火つけ役とも言われている、『地頭力を鍛える 問題解決に活かす「フェルミ推定」』(東洋経済新報社)の著者でビジネスコンサルタント・著述家の細谷功さんに、地頭について尋ねてみました。
まず、知的能力には次の3種類があるようです。
- 知識力
- コミュニケーション能力
- 考える力
細谷さんによると、1と2は「地頭力」ではないそう。3の考える力が「地頭力」です。
さらに、「地頭力」は次の6つの要素に分解できるとのこと。
- 知的好奇心
- 論理思考力
- 直観力
- 仮説思考力
- フレームワーク思考力
- 抽象化思考力
知的好奇心、論理思考力、直観力が土台で、その上に、仮説思考力、フレームワーク思考力、抽象化思考力が載っている状態だと言います。
(画像はLiigaから転載)
ではそれぞれどのような力なのでしょう。土台となる3つの力については、次のとおりです。
- 知的好奇心――何にでも興味をもって能動的に動く力
- 論理思考力――物事を筋道立てて考える力
- 直観力――いわゆる「ひらめき」
その上に載る3つの力については、細谷さんによると、
- 仮説思考力――結論から考える力
- フレームワーク思考力――全体から考える力
- 抽象化思考力――具体的な経験を一般化したルールにして、それを別のものに適用する力
だとのこと。そして細谷さんは、「重要なのは、これらはストックではなく、フローの力だということです。何かが起こったときに、事前に覚えたり調べたりした知識を使うのではなく、いま知っている限られた情報だけで考える力なのです」と言います。
そんな「地頭力」は、フェルミ推定(※)を使うことで鍛えられると細谷さん。フェルミ推定は、仮説思考力、フレームワーク思考力、抽象化思考力の3つの思考力すべてを使うため、結果として「地頭力」が鍛えられるのです。
(※フェルミ推定…つかみどころのない物理量を、短時間で概算すること。コンサルティングファームの面接試験などで出題される。出題例などはこちら)
そもそも「地頭」はいつからある言葉?
「地頭」という言葉は、いつから使われていたのでしょうか。
辞書で調べてみると、『大辞泉 第二版』(2012年発行)や『広辞苑 第七版』(2018年発行)、それから『大辞林 第四版』(2019年発行)には、「生まれつき備わっている頭の良さ」のようなかたちで、「地頭」が紹介されています。
しかし、それぞれひとつ前の版であると、『大辞泉』(1995年発行)、『広辞苑 第六版』(2008年発行)、『大辞林 第三版』(2006年発行)には、「地頭」が載っていないため、この10年ほどで浸透した言葉と言えるかもしれません。
一方で、こうした辞書に掲載されるより前のタイミングで、「地アタマ」という言葉を用いていた人がいます。慶應義塾大学SFC研究所上席所員の高橋俊介さんです。
高橋さんは、1997年に出版した『いらないヤツは、一人もいない 45歳で「含み損社員」にならないための10カ条』(祥伝社)という本のなかで、すでに「地アタマ」という言葉を使っていました。その定義は、「本質を見極める力、知識やテクニックに頼らずに考え抜く力」とのことです。
高橋さんは「土台にロジカルシンキングはもちろんあると思っていますが、一方でそれだけでは本質をとらえていないことがあります。だから直感も必要です。直感的に本質をとらえることができて、かつ論理的に考えられるのが、地頭がいいということでしょう」と語っていました。
細谷さんや高橋さんによる「地頭」の詳しい解説を知りたい方は、こちらの記事をご参照ください。
高みを目指すなら「発想力」を鍛えよ
では、現在の企業の採用活動などに知見のある識者は、「地頭」をどうとらえているのでしょうか。
株式会社人材研究所の代表取締役社長・曽和利光さんは、「多くの企業が『自社に必要な知的基礎能力』を表すために『地頭』を用いている。すなわちこれは多義的な言葉で、大きく4種類に分類できる」と言います。
- 現状把握力――空気が読める、一を聞いて十を知る、あうんの呼吸ができる力
- 論理的思考力――ある概念から結論まで論理とファクトを積み上げる、数学の証明問題を解くような力
- 表現力――自分のイメージをきちんと他者に伝えるための力
- 発想力――AとBというまったく異なるものから、共通項を見いだしたり、矛盾する論をより高次の段階で統合したりする力
(画像はLiigaから転載)
上の表にまとめたように、業界によって求められる「地頭」が異なるため、得意な部分を伸ばし、武器にして、それを生かせる業界に行くのもいいかもしれません。
しかし、一方で「ひとつの能力しかもっていないと、組織のなかで『部品』として扱われてしまう。だから、20代のような、脳が必要に柔軟に変容していく時期は、苦手な部分を埋めて総合的に伸ばすのがいいだろう」とも言います。
そのうえで、曽和さんは、就活や転職などの市場のなかで、人と自分を差別化し、より高みを目指したいのであれば、4分類のうちの「発想力」を鍛えるために教養を高めるといい、と提言します。
「発想力の源泉は、ひとことで言うと知識の蓄積です。蓄積は、一朝一夕ではできませんよね。いろいろな本を何千冊、何万冊とインプットすることなどで、異質で多様な知識を蓄積する必要があります」。
そのほか、曽和さんの語る「地頭」の鍛え方の詳細が知りたい方は、こちらの記事をご参照ください。
地頭がいい人はなんでも深く思考する
最後に、現役東大生で『「考える技術」と「地頭力」がいっきに身につく 東大思考』(東洋経済新報社)の著者・西岡壱誠さんの考える、地頭の良さについて紹介しましょう。西岡さんによると、地頭の良さとは「思考が深いこと」。「ひとつの事象に対して、簡単に思いつく答えで思考を留めない。わかった気にならないで、問い続けられるということだと思います」。
地頭の良さは、先天的な能力だというイメージがあるかもしれません。しかし、「『技術』として後天的に会得できます」(西岡さん)。そのための方法として、まずは、日常生活で100個、問いをつくり、思考を深めるのがいいと、西岡さんは言います。
西岡さんの「地頭」の鍛え方をより詳しく知りたい方は、こちらの記事(Liiga会員限定)をご参照ください。
まとめ:いろいろな定義も鍛え方もある「地頭」。自分に合った方法を見つけよう
今回は、地頭の歴史や、有識者・現役東大生が考える「地頭」の定義を紹介しました。後編の記事では、ビジネス界のリーダーたちにも、同じように「地頭とは?」を聞いてみたいと思います。
>>後編はこちら『地頭という「立方体」を大きくしよう。ゴールドマン・サックス出身の経営者らが語る「地頭の鍛え方」』
【ライタープロフィール】
Liiga編集部
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