品質管理など、業務管理における継続的な改善方法である「PDCAサイクル」を知らないビジネスパーソンは、ほぼ皆無に等しいでしょう。しかし、「きちんとPDCAサイクルを回せていますか?」と聞かれたら、答えに困る人もいるのではないでしょうか。「効果的なPDCAサイクルの回し方を知らない人は意外なほど多い」と言うのは、人材・組織開発コンサルタントとして活躍する大西みつるさん。成果に直結する、PDCAサイクルの回し方を教えてもらいました。
構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/玉井美世子
【プロフィール】
大西みつる(おおにし・みつる)
1961年生まれ、大阪府出身。人材・組織開発コンサルタント。株式会社ヒューマンクエスト代表取締役CEO。立命館大学経営学部客員教授。立命館大学経済学部に入学し、硬式野球部に所属。卒業後、本田技研工業に入社。ホンダ鈴鹿硬式野球部でプレー後、戦略マネージャー、監督を歴任。チームを都市対抗野球大会で日本一に導く。その後、社業に専念してからは、日米双方で人材開発や管理職のリーダーシップ開発に取り組む。自らの体験からリーダーシップ開発の重要性を強く感じ、働きながら筑波大学大学院ビジネス科学研究科で経営とリーダーシップを学ぶ(経営学修士)。2009年、企業のリーダー育成トレーニングと企業変革を支援する株式会社ヒューマンクエストを設立。大手民間企業の従業員を中心に年間延べ4,500人以上のリーダーと向き合い、「自分にリーダーシップを!」のビジョンに向かって活動中。著書に『新しいリーダーシップをデザインする(共著)』(新曜社)、『はじめて部下を持った人のための 超リーダー力』(ぱる出版)、『ビジネス×アスリート・トレーニング式 最高の自分のつくり方』(日本能率協会マネジメントセンター)がある。
あなたの「PDCAサイクルのレベル」は?
ビジネスパーソンのみなさんなら、「PDCAサイクル」を知らないという人はまずいないでしょう。では、次の質問に答えてみてください。じつは、この質問により、あなたの「PDCAサイクルのレベル」がわかるのです。
解説するまでもないかもしれませんが、PDCAサイクルとは、「Plan(計画)」「Do(実行)」「Check(評価・検証)」「Action(改善)」の4つのプロセスを繰り返すことで、業務を改善・効率化していくビジネスメソッドです。
先の質問に戻ると、「2. PDCAサイクルを基本通りしっかり使っている」を選んだ人がおそらく多数派だと思われます。まずは目標を設定して、具体的な計画を立てます。そして、計画通りに実行し、それを検証したうえで改善につなげていく。こうした4つのプロセスを繰り返していけば、もちろん一定の効果はあります。
しかし、その効果は一定程度にとどまるものであり、大きな効果は得にくいのです。このPDCAサイクルの回し方のどこに問題があるかと言うと、「PDCA」の順に「P」から始めるために、「Plan(計画)」「Do(実行)」に多くの時間を割きがちな点です。
もちろん、「P」「D」も重要な要素であることは疑う余地がないでしょう。しかし、「P」「D」に対する意識が強すぎるため、「Check(評価・検証)」「Action(改善)」がおろそかになるケースがよく見受けられるのです。「その計画と実行がどの程度の成果を挙げたのか」「期待通りの成果を挙げられなかったのなら、原因はどこにあったのか」と、きちんと評価・検証して改善にまで落とし込めなければ、せっかくのPDCAサイクルの効果も大きく下がってしまいます。
新たな計画を立てるときも、「Check(評価・検証)」から始める
実際、そうしたケースは、人材・組織開発コンサルタントとして私が関与する企業にもよく見られます。達成できなかった「売上を前期比150%にする」という目標について振り返るのに、未達成に終わった原因や課題をしっかりと洗い出すこともなく、性懲りもなく、同じ「売上を前期比150%にする」という目標を設定するようなことです。
現場の人間からすると、まともな改善策も示されておらず、「いやいや、前期も全力で頑張って達成できなかったのに、これ以上なにをどうすればいいの?」と困惑するだけでしょう。おそらく、その目標を達成できる可能性は限りなくゼロに近いはずです。
そこで実践してほしいのが、先の質問の回答「3」にあたる、「P」ではなく「C」から回す方法です。すでに実行している計画にPDCAサイクルをもち込むのなら、その計画にどれほどの効果があったのかということの、評価・検証から始めるのは自然だと考えられます。
また、新たな計画をつくるタイミングであっても、「C」から始めるべきであると思います。なぜなら、ビジネスにおいて新しく計画を立てようと考える場合、そのほとんどに「解決したい問題」がすでに存在しているからです。たとえば、「新規顧客への営業訪問件数が少ない」という問題がなければ、「新規顧客への営業訪問件数を増やす計画を立てよう」とは考えませんよね。
「Check(評価・検証)」する際は、「リソース」の観点から分析する
おろそかになりがちな「C」「A」のうち、特に重要なのは「C」です。目標達成の障害や課題を明確にできなければ、改善策を考えることもできません。
そして、肝心の「Check(評価・検証)」をする際には、できる限り「見える化」することを心がけましょう。頭のなかで評価・検証しようとしても、「あれが問題だったのでは?」「こんなところにも問題が潜んでいそうだ」というように思考が分散し、課題をきちんと認識できません。
数字にできるものはデータ化する、そうできないものもとにかく書き出してみる。そうすることで、状況を客観的に分析し、課題を的確に認識できるようになります。
さらに、そこに各種リソースに関する観点があると、なおよいでしょう。ビジネスにおけるリソースは、「ビジネスを進めるための資源」といった意味ですが、主に「人」「モノ」「カネ」「情報」「時間」に大別されます。
たとえば、「人」の観点から見た場合、「上司との関係性がよくなく、『報連相』がうまくできていなかった」といった課題が浮かび上がってくるかもしれません。そこから、「まず上司との関係性を改善する」といった打ち手も見えてくるはずです。
【大西みつるさん ほかのインタビュー記事はこちら】
結果を出せる人は、問題を絶対に放置しない。いま、重要性が増している「修正力」
企画書は「試作品」だ。意識すべきは「5割主義」、最初から完璧を目指さない
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。