- 資料をつくりながらメールをチェックする
- 事務作業をしながら企画書の内容を考える
……こんな「マルチタスク状態」で仕事を進めていませんか? じつは、マルチタスクは人間の脳に不向きなんです。
マルチタスクには、作業効率の低下・IQの低下・脳細胞の損傷など、さまざまなデメリットがあります。そんなマルチタスクの概要や、マルチタスクをやめる方法を詳しくご説明しましょう。
マルチタスクとは
まず、マルチタスクという言葉の意味を確認しましょう。マルチタスクとは、複数(マルチ)のタスクを同時に処理している状態。言い換えれば「ながら作業」です。
◆マルチタスクの例
- 資料をつくりながらメールのチェックをする
- 事務作業をしながら企画書の内容を考える
- クライアントと電話しながら別件の請求書をつくる
- テレビを見ながら勉強する
- 料理をつくりながら子どもの相手をする
マルチタスクの反対語は「シングルタスク」です。マルチタスクとは逆に、一度にひとつずつ作業を処理していくことを指します。
脳はマルチタスクができない
マルチタスクという言葉を、「バリバリ仕事をこなしている」「業務を効率的にさばいている」とポジティブにとらえていませんか? これは大きな誤解です。
精神科医の樺沢紫苑氏によると、人間の脳はマルチタスクができないのだそう。事務作業をしつつ企画書の内容を考えているとき、脳は「事務作業→企画書→事務作業→企画書→……」とタスクを目まぐるしく切り替えているだけ。マルチタスクができているわけではありません。
「マルチタスク能力」が高そうな人がいたとしても、情報を “同時処理” しているわけではないのです。いわゆる「マルチタスクができる人/できない人」の違いは、「作業の切り替えが得意か/苦手か」でしかないと言えるでしょう。
マルチタスクのデメリット
マルチタスクを行なおうとすると、脳をものすごいスピードで切り替え続けることになるため、さまざまなよくない影響があります。実験心理学を扱う『Journal of Experimental Psychology』に掲載された2001年の論文では、マルチタスクで生産性が40%も低下しうると示唆されました。
また、英国の心理学者グレン・ウィルソン博士が2005年に発表した実験では、携帯電話が鳴ったりメールが届いたりする環境でIQテストを受けると、静かな環境に比べて平均点が約10点も下がったそうです。複数の用事を意識することで、気が散ってしまうと考えられるでしょう。
さらに、脳神経科学者の枝川義邦氏によれば、マルチタスクはストレスホルモン・コルチゾールの増加も招くのだそう。コルチゾールが多い状態が続くと、脳細胞の死滅や脳機能の低下にすらつながるとのことです。
◆マルチタスクのデメリット
- 生産性が低下する
- IQが(一時的に)下がる
- ストレスを感じる
- 脳がダメージを受ける
このように、マルチタスクには多くのデメリットがあります。なるべくマルチタスクを避け、タスクはひとつずつこなしましょう。
マルチタスクを回避する方法
マルチタスクを回避し、効率的に仕事を進めたいなら、以下のテクニックを実践してみてください。
ToDoリストをつくる
無計画に仕事を始めれば、「いま何をやるべきなんだろう?」と迷いが生まれます。資料作成中にメールをチェックしたくなったり、企画書づくりが進まないからと別の作業をやりたくなったりするでしょう。
そのようなマルチタスクを防ぐには、始業前にその日やるべき作業を洗い出し、ToDoリストをつくります。「9時半まではメールチェック」「10時までは企画を考える」と決め、その時間はひとつの作業に集中しましょう。
類似のタスクをまとめる
習慣化コンサルタントの古川武士氏は「同じような種類のタスクをまとめる」というテクニックを提案しています。たとえば、このように仕事をしていませんか?
メールAに返信→顧客Aに電話→メールBに返信→顧客Bに電話
メール→電話→メール→電話とタスクを切り替えるため、マルチタスクのような状態です。以下のようにまとめてみましょう。
メールAに返信→メールBに返信→顧客Aに電話→顧客Bに電話
これなら、マルチタスクになりませんね。仕事の段取りを組むときは、同系統のタスクをまとめ、「切り替え」の回数を減らすよう意識しましょう。
20分は集中する
マルチタスクの悪影響を最小化する方法として、教育コンサルタントのケンドラ・チェリー氏は「20分ルール」をすすめています。少なくとも20分はひとつのタスクに集中する、という方法です。途中でほかのタスクに手をつけたくなっても、20分経過するまでガマンしましょう。
似た手法に「ポモドーロ・テクニック」があります。「25分の集中作業+5分休憩」を繰り返す、集中力・効率アップを目指した有名なテクニックです。詳しくは「時短にも効果あり! 25分間の超集中法『ポモドーロ・テクニック』を実際にやってみた。」をご覧ください。ポモドーロ・テクニック専用のタイマーやアプリケーションも便利です。
関係ない情報を遮断する
リーダー向けコンサルティングを手がける「エグゼクティブコーチ」のピーター・ブレグマン氏は、「マルチタスクの誘惑に抵抗する方法」として、集中を妨げるものの遮断をすすめています。「いまはこの作業に集中する」と決めたら、その作業に無関係なものが目に入りづらい環境を整えるのです。
資料をつくっている最中に新着メールが通知されたり、別件の資料が目に入ったりすれば、気になってつい手をつけてしまうかもしれません。目の前の作業に集中するため、通知を切る、いまは使わない資料をしまっておくなどして、余計な情報を遠ざけましょう。
◆無関係な情報を遮断する方法
- メールやチャットの通知を切る
- スマートフォンをカバンにしまう
- 使わない資料を片づける
- 関係ないウインドウを閉じる(最小化する) など
「パーキングロット」をやってみる
エグゼクティブコーチのデボラ・ザック氏は「パーキングロット(駐車場)」というメモ術を紹介しています。作業中に思いついたこと・思い出したことをメモ帳に書き留め、頭のなかから追い出し、目の前のことに集中するテクニックです。
- メールを打っているあいだ、別件のアイデアを思いついた
- 資料の作成中に、別件の用事を思い出した
- 会議中、プライベートの用事を思い出した
こんなときは、思いついたことをメモ帳に書き残しておきましょう。大切なアイデアや用件を忘れる心配がなくなり、目の前のタスクに集中できます。マルチタスクを回避できるのです。
マルチタスクについて学べる本
最後に、マルチタスク・シングルタスクについて深く学べる本を3冊紹介します。
『SINGLE TASK 一点集中術』
前出のザック氏による『SINGLE TASK 一点集中術』。ザック氏は、100以上の企業・団体に指導を行なったほか、米コーネル大学経営大学院の客員教授を15年以上も務めた、経験と実績の豊富なコンサルタントです。『SINGLE TASK 一点集中術』では、ザック氏の知見や、脳科学・心理学の研究成果をふまえ、以下のような内容が盛り込まれています。
- マルチタスクの弊害
- 一点集中状態をつくる方法
- スケジュール管理術
- 「シングルタスク度」診断テスト
仕事の成果を最大化する「シングルタスク」をマスターしたい方におすすめです。
『大事なことに集中する』
コンピュータサイエンスの研究者、カル・ニューポート氏の人気ブログを書籍化した『大事なことに集中する』。原題は『Deep Work』です。
ディープ・ワークとは、ニューポート氏の造語。何にも邪魔されず、重要な作業や思考に没頭した状態です。
ニューポート氏によると、現代人は常に大量の情報にさらされ、注意散漫になりやすいそう。そのため、ディープ・ワークの時間を確保する重要性が、ますます高まっているとのことです。
『大事なことに集中する』では、過去の偉人が実践していた仕事術を例に挙げつつ、ディープ・ワークの価値、ディープ・ワークに入るための方法やトレーニングが詳しく紹介されています。仕事中に気が散りやすい方や、深く集中するコツを知りたい方にとって、大きなヒントとなるでしょう。
『ワン・シング 一点集中がもたらす驚きの効果』
起業家・ビジネス書作家として知られるゲアリー・ケラー氏の『ワン・シング 一点集中がもたらす驚きの効果』。ケラー氏によると、大きな成果を効率的に上げるには、すべてのタスクに平等に注力してはいけないそう。仕事における「急所」を見つけ、そのポイントに精力を傾けるのが肝心とのことです。
『ワン・シング 一点集中がもたらす驚きの効果』では、急所を見つける極意や、効率的に仕事をさばくためのマインドセットが詳しく解説されています。「一生懸命やっているのに、なぜか仕事が遅い」「マルチタスクのクセがなかなか抜けない」という方は、一読してみてください。
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仕事がはかどらず悩んでいる方は、ご紹介したテクニックや書籍を参考にしてマルチタスクをやめ、シングルタスクの習慣をつけてみましょう。
(参考)
樺沢紫苑(2018),『学びを結果に変えるアウトプット大全』, サンクチュアリ出版.
Glenn Wilson|Infomania experiment for HP
American Psychological Association|Multitasking: Switching costs
プレジデントオンライン|人間は本質的に"マルチタスク"はできない
ダイヤモンド・オンライン|研究で判明!毎朝「○○」から始める人は仕事が遅い
プレジデントオンライン|マルチタスクは「シングルモード」で最速処理
Rubinstein, Joshua, David Meyer, and Jeffrey Evans (2001), "Executive Control of Cognitive Processes in Task Switching," Journal of Experimental Psychology: Human Perception and Performance, Vol. 27, No. 4, pp.763-797.
DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー|マルチタスクをやめる方法と、やめるべき理由
ダイヤモンド・オンライン|いつも「集中できない」人は脳が縮んでいる!?
【ライタープロフィール】
佐藤舜
大学で哲学を専攻し、人文科学系の読書経験が豊富。特に心理学や脳科学分野での執筆を得意としており、200本以上の執筆実績をもつ。幅広いリサーチ経験から記憶術・文章術のノウハウを獲得。「読者の知的好奇心を刺激できるライター」をモットーに、教養を広げるよう努めている。