テレビを見ながら勉強しても大丈夫?

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テレビとは、得てして勉強の妨げになることも多いもの。スイッチを入れるだけで簡単に視聴でき、頭を空っぽにして楽しめるーーとなれば、つい見すぎてしまい、貴重な時間を浪費する方も多いのではないでしょうか。

また、静かな部屋にこもって勉強するのが落ち着かず、音楽代わりにテレビ番組を流して勉強することがあるかもしれませんね。しかし、このような「ながら勉強」は、集中力を低下させて勉強を非効率的にするばかりか、自分の脳に大きなダメージを与えてしまうため、なるべく避けるのがベターです。

今回は、テレビを見ながらの勉強がダメな脳科学的な理由や、テレビの視聴時間を管理するコツに加え、テレビを活用した効果的な勉強法もご紹介しましょう。

テレビを見ながらの勉強がNGな理由

テレビを見ながらの勉強がNGな理由は、脳が「マルチタスク」という高負荷の状態になってしまうからです。

マルチタスクとは、複数のタスクを同時に処理すること。いわゆる “ながら作業” です。以下に挙げた例のように、無意識にマルチタスクをしてしまう場面は多いのではないでしょうか。

  • テレビを流しながら勉強する
  • スマートフォンを見ながら歩く
  • 資料をつくりつつ、ときどきメールをチェックする
  • 電話で話しながら、無関係の資料に目を通す

上記のようなマルチタスクは、脳科学的に “百害あって一利なし” だとわかっています。マルチタスクからは、「作業効率が落ちる」「脳にダメージがたまる」という2つのデメリットが生じるからです。

作業効率が落ちる

いくつもの仕事を同時にこなす人は、いかにも “仕事がデキる” 感じがしますよね。そのため、マルチタスクは効率的に思えるかもしれません。

しかし、実際には、マルチタスクによって作業効率が落ちてしまいます。脳神経科学者の枝川義邦氏によると、人間の脳は一度に1つの情報しか処理できないのだそう。A・B・Cという3つの作業を同時に処理している(と自分では思っている)場合、それぞれの作業をすばやく切り替えつつ、1つずつこなしているに過ぎないのです。

そして、A→B、B→Cと頻繁に頭を切り替えるぶん、作業効率が大きく低下します。スタンフォード大学が2009年に発表した論文では、同時に処理するタスクの数が多くなるほど作業効率が低下する傾向が示されました。

脳にダメージがたまる

マルチタスクによるもう1つのデメリットは、脳にダメージがたまること。枝川氏によれば、マルチタスクによって脳にストレスがかかると脳細胞が死滅し、脳機能全般が低下する恐れがあるのだとか。大事な脳を守るためにも、ながら作業はなるべく避け、ひとつひとつの作業に集中するのが吉なのです。

テレビがついていると、どうしても注意が奪われ、マルチタスク状態になってしまうもの。勉強の際は、必ずテレビの電源をオフにし、目の前の勉強に全神経を傾けましょう。

◆テレビを見ながら勉強するデメリット

  • 効率が落ちる
  • ストレスがたまりやすくなる
  • 脳がダメージを受け、脳機能が低下する

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リビング勉強とテレビの関係

「勉強中はテレビを消すべき」という原則に反しそうな勉強法として、「リビング勉強」があります。リビング勉強とは、自分の個室ではなく、家族の集まるリビングルームで勉強することです。

医学研究者の瀧靖之氏が監修した『東大脳の育て方』(主婦の友社、2017年)によると、リビング勉強には以下のようなメリットがあります。

  • 勉強に取りかかるハードルが下がる
  • リラックスできる
  • 気分転換に家族と会話できる

ある程度雑音がある環境のほうがリラックスできるので、むしろ勉強にはよい」というのが、リビング勉強の基本的な考え方なのです。

多くの家庭では、リビングルームにテレビが置いてあることでしょう。テレビを見ている家族の横で勉強することになるかもしれません。リラックスして勉強することが目的なら、リビング勉強ではテレビをつけていてもいいのでしょうか?

専門家のあいだでも、見解はまちまちです。人それぞれの性質やテレビの音量、番組の内容などによっても変わるでしょう。

しかし、本記事の見解としては、やはりテレビをつけての勉強は推奨できません。たいていの人は、テレビがついていると気になるものですし、先述の「マルチタスク」問題もあります。百歩譲るとしても、

  • 勉強を始めるときにテレビをつけ、勉強の調子が出てきたらテレビを消す
  • テレビに気をとられたり、邪魔だと感じたりしたらすぐに消す

など、テレビが勉強の邪魔にならないよう最大限に工夫しましょう。

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テレビに勉強時間を奪われないために

テレビをつい長時間見てしまい、貴重な勉強時間を失うことも多いでしょう。テレビは勉強時間を浸食する “大敵” とはいえ、まったく見ないのはなかなか困難。誰でも好きな番組の1つや2つはあるでしょう。

そこで、精神科医・樺沢紫苑氏による『学び効率が最大化するインプット大全』(サンクチュアリ出版、2019年)を参考に、テレビの視聴時間を上手に管理するためのルールをご紹介します。

リアルタイムでは見ない

1つめのルールは、見たい番組をあらかじめ録画しておき、あとから見ること。リアルタイムではいっさい見ません。

テレビをつけ、リアルタイムで視聴し始めると、見るつもりのなかった番組や、それほどおもしろいとも感じない番組を、なんとなくダラダラと見続けてしまったことはありませんか? 1つの番組が終わればすぐに次の番組が始まるし、チャンネルを変えればいくらでも裏番組があるため、キリがありません。

しかし、「録画した番組だけ見る」というルールを徹底すれば、本当に見たい番組だけ見ることになるため、テレビを視聴する時間を最小限に抑えられます。また、録画であれば好きなときに見られるため、放送時間に合わせて自分のスケジュールが乱れることもありません

注意してほしいのが、最近のテレビやレコーダーに搭載されていることの多い「全録機能」。すべてのテレビ番組を自動で録画してくれる便利な機能ですが、ルールが無意味になってしまうので、全録機能を使わず、本当に見たい番組だけを手動で録画しましょう。

ただし、リアルタイムでないとおもしろさや意義が薄れてしまうスポーツ中継やニュース番組などの場合、ルールの例外としてもOKです。

見ていいタイミングを決める

2つめのルールは、テレビを見ていい時間帯やタイミングを決めておくことです。いつ見ていいのか決めておけば、「勉強するはずだったのに、うっかりテレビを見すぎてしまった」という事態を防げるはず。

タイミングの例は、食事中・通勤の電車内・家事の合間など。つまり、「テレビを見ているだけ」の時間を極力なくすのです。「じっくり集中して見たい」という番組は、あまりないのではないでしょうか。

そもそも、テレビ番組は、ほかのことをしながら視聴できるようつくられています。たとえば、テレビドラマの場合、映画に比べて説明的なセリフが多く、少しくらい見逃しても話を理解できるもの。バラエティ番組でも、話題が短時間でどんどん変わっていくため、途切れ途切れに見てもついていけるでしょう。

樺沢氏は、テレビ視聴のタイミングとして、「運動中」を特にすすめています。室内における定位置での運動中は目や耳が空いているし、好きな番組を見ながらであれば、トレーニングのつらさが和らぐはず。「『さんま御殿』を見るあいだは筋トレをする」のように自分なりのルールを決めておけば、運動の習慣化につながるでしょう。

◆テレビを見るタイミングの例

  • 通勤中
  • 食事中
  • 運動中
  • ストレッチ中 など

とはいえ、 “ながら見” は先述の「マルチタスク」にあたるので、あまり長時間にならないよう気をつけましょう。もちろん、勉強や仕事など、頭を使う場面での “ながら見” はNGです。

以上のように、「リアルタイムでは見ない」「見ていいタイミングを決める」という2つのルールを徹底し、貴重な勉強時間をテレビに奪われるリスクを防ぎましょう。

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テレビを勉強ツールとして活用するコツ

さて、ここまで「テレビ=勉強の妨げ」の前提で話を進めてきましたが、これは一面的な見方に過ぎません。すべてのテレビ番組が害悪なわけではありませんし、むしろ、テレビだからこそ学べることも多くあります。

たとえば、クイズ番組1つとっても、ありきたりで低レベルな問題ばかり出す番組もあれば、知的好奇心をくすぐられるよう良質な番組もありますね。バラエティ番組の場合、「芸人がふざけているだけ」と見るか「笑いのプロたちによる舌戦」と見るかで、得るものがまったく異なるでしょう。

実際、芸人さんのトークスキルを、営業やプレゼンテーションの参考にしているビジネスパーソンも多いと聞きます。テレビが “毒” になるか “薬” になるかは、各々の使い方・向き合い方次第なのです。

私たちにとって最も身近な娯楽のひとつ、テレビ。せっかくなら、何かを学び取ろうとするほうがお得です。そこで、『学び効率が最大化するインプット大全』を参考に、テレビを「勉強ツール」とみなして実生活に役立てるヒントをご紹介しましょう。

メモをとりながら見る

テレビ番組を見ているあいだ、初めて知ったことや感じたことなどをメモするクセをつけましょう。メモをとりながらテレビを見ると、有益な情報を記録しておけるだけでなく、積極的に情報をキャッチしようというアンテナ(感度)が自然と立つので、普段より気づきが多くなるはずです。

講義を聞くかのように身構える必要はありませんが、少なくとも、メモ帳とペンをかたわらに置いておきましょう。紙とペンを用意するのが面倒なら、スマートフォンのメモアプリやSNSで記録するのもOK。樺沢氏の場合、テレビで心に響いた言葉があると、メモをとるだけでなく、SNSやメールマガジンを通し発信することで、忘れないようにしているそうです。

雑談のネタを探す

テレビは、雑談のネタの宝庫でもあります。グルメ・レジャー・ライフハック・スポーツ・トレンド・一般教養など、幅広い視聴者が興味をもてるような「一般性のある話題」を多く扱っているからです。

テレビで得られる情報は、多くの人が食いつきやすいので、雑談のネタとして優秀。情報の「質」だけなら本などのメディアにはかなわないでしょうが、「幅広い相手を楽しませる」「初対面の相手と話を合わせる」といった目的において、テレビに勝る情報源はないでしょう。

テレビ番組で扱われるトピックだけでなく、番組に出演している芸能人や有名人も、「共通の話題」として機能してくれます。たとえば、テレビでよく見かける芸人の松本人志さんや、俳優の堺雅人さんを知らない人は、ほとんどいないでしょう。「トーク番組で、堺雅人さんが○○と言っていたんですよ」と話すだけで、たいていの日本人には伝わる「共通の話題」になるわけです。

ビジネスのアイデアを探す

テレビは、ビジネスのアイデアやヒントを得ることにも役立ちます。売れる商品・サービスをつくるには、市場のニーズを知る必要がありますよね。先述のように、テレビは幅広い視聴者が興味をもつ話題を提供してくれるので、大衆ニーズをつかむのにうってつけなのです。

たとえば、情報番組を見ると流行や新製品の情報を得られますし、反対にテレビがきっかけでブームが生まれることもあります。「誕生日にもらったら嬉しいものは?」「今年のハロウィンはどう過ごす?」などのアンケート結果を放送してくれる場合もあるので、市場動向の手がかりが得られるのです(もちろん、すべての情報をうのみにするのは禁物ですが)。

以上のヒントを参考に、テレビを身近な勉強ツールとして活用し、仕事やコミュニケーションに役立ててみましょう。

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勉強になるテレビ番組6選

テレビを勉強ツールとして活用するにあたり、NHKの教養系テレビ番組を6つご紹介しましょう。各界の識者がおすすめする番組や、長寿番組から選出しました(※情報は2020年10月現在のもの)。

ドキュメント72時間

日本マイクロソフトの元社長で実業家の成毛眞氏イチオシなのが『ドキュメント72時間』。普通のドキュメンタリーと異なり、有名人というわけではない人々にスポットライトを当てているのが特徴です。

最近の放送を見ると、「都内のタクシードライバー」「としまえん閉演の舞台裏」「スポーツジムに通うお客さんたち」など、ユニークなテーマばかり。一般の人々の悩みや生きざま、奮闘ぶりを通じて、仕事や人生について多くのことを考えさせられる番組です。

クローズアップ現代+

教育評論家の水谷修氏は、報道情報番組としておなじみ『クローズアップ現代+』をすすめています。1993年4月から続く長寿番組です。

『クローズアップ現代+』は「社会のいまに正面から向き合い、世の中の関心に応える」をコンセプトに、政治・経済・医療・カルチャーなど、あらゆる分野の “いま” を報道。「コロナ禍における医療現場」「震災復興の現状」「森友問題の続報」など、一般のニュース番組では詳しく扱わない話題も取り上げるので、社会や経済の現状を深く知ることができます。

100分 de 名著

日本心臓病学会の初代理事長・坂本二哉氏が推薦しているのが『100分 de 名著』。国内外の「名著」とされる作品を、25分×4回の計100分で読み解いていく番組です。過去に扱われた本は、以下のとおり。文学や哲学に限らず、多様な分野から選書されています。

  • フョードル・ドストエフスキー『罪と罰』
  • フリードリヒ・ニーチェ『ツァラトゥストラはかく語りき』
  • 太安万侶『古事記』
  • 孔子『論語』
  • ジャン・アンリ・ファーブル『ファーブル昆虫記』 など

解説者として、その本に詳しい学者や専門家が登場。内容を本格的に深掘りしてくれます。かみ砕かれた解説なので、古典になじみがなくても楽しめるはずです。

番組MCであるタレント・伊集院光さんの存在も、魅力のひとつ。伊集院さんが笑いを交えつつ、内容を身近な話に置き換えて、古典と私たちの「橋渡し」をしてくれるので、親しみやすい教養番組になっています。

英雄たちの選択

歴史をドラマチックに学べるのが『英雄たちの選択』。歴史上の人物たちの「心のなか」に分け入るのがコンセプトです。

アニメーションによる再現映像を交えつつ、「土方歳三はどんな葛藤を抱えていたのか」「明智光秀はなぜ織田信長を討ったのか」など、歴史的人物たちの物語をリアルに追体験できます。「もし、あのとき別の選択をしていたら……」という、いわゆる “歴史のif” を真剣に考察していく点も、一般的な歴史ドキュメンタリーとは一線を画すところでしょう。

先人たちの底力 知恵泉

もう1つ、歴史系の番組としておすすめしたいのが『先人たちの底力 知恵泉』。「偉人」とされる人々のエピソードを紹介するだけでなく、実生活に活かせる「教訓」を引き出そうとする番組です。

  • 平清盛に学ぶ「出世術」
  • 源頼朝に学ぶ「組織論」
  • 足利義満に学ぶ「リーダーシップ」

などなど、実用的で興味深い内容が満載。歴史が好きな方はもちろん、仕事や人生を好転させるヒントを得たい方にも役立つ番組です。

BS世界のドキュメンタリー

世界の情勢や文化を知りたい方におすすめなのが、『BS世界のドキュメンタリー』。世界中の良質なドキュメンタリーを放送する番組です。科学・芸術・環境問題・ジェンダー・紛争など、扱われるテーマは多岐に渡ります。最近の放送例は、

  • 各国における「監視社会」の現状
  • WHOの裏側
  • 絵画の真偽をめぐる美術界の騒動

など。国内メディアではなかなか取材できない「世界のリアル」に触れられる番組です。

以上、6つの番組をご紹介しました。教養を身につける手段として、あるいは勉強の入口として、上に挙げたテレビ番組をぜひ活用してみてください。

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上手に活用すれば、テレビは優れた「勉強ツール」となります。今回ご紹介した内容を参考に、テレビとの付き合い方・向き合い方を見直してみてはいかがでしょうか?

(参考)
プレジデントオンライン|人間は本質的に"マルチタスク"はできない
Ophir, Eyal, Clifford Nass, and Anthony D. Wagner (2009), "Cognitive control in media multitaskers," Proceedings of the National Academy of Sciences, Vol. 106, No. 37, pp.15583-15587.
瀧靖之 監, 主婦の友社 知育・教育取材班 編(2017),『東大脳の育て方』, 主婦の友社.
樺沢紫苑(2019),『学び効率が最大化するインプット大全』, サンクチュアリ出版.
現代ビジネス|浅田次郎佐藤優江崎玲於奈天野篤ほか 日本の識者30人が毎回観ている「教養が身につく」テレビ番組——そんな見方があったのか!

【ライタープロフィール】
佐藤舜
大学で哲学を専攻し、人文科学系の読書経験が豊富。特に心理学や脳科学分野での執筆を得意としており、200本以上の執筆実績をもつ。幅広いリサーチ経験から記憶術・文章術のノウハウを獲得。「読者の知的好奇心を刺激できるライター」をモットーに、教養を広げるよう努めている。

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