「次の会議まであと30分...この資料、何とか頭に入れなきゃ」
「通勤電車でTOEICの単語を覚えようと思うけど、スマホを見ているだけで全然定着しない」
「新しい部署に異動して覚えることだらけ。でも、仕事終わりの疲れた頭じゃ...」
こんな経験、ありませんか?
私たちビジネスパーソンの多くは、リスキリングやスキルアップの必要性を強く感じています。しかし、限られた時間のなかで新しい知識を効率的に吸収するのは、想像以上に難しいものです。
「記憶術」で検索すると、数え切れないほどの方法が出てきます。
- イメージ記憶
- ゴロ合わせ
- マインドマップ
- 記憶の宮殿法 ...などなど。
でも、「どの方法が自分に合っているのか?」「本当に効果があるの?」「忙しい毎日で続けられるの?」という疑問が湧いてきますよね。
そこで今回は、これまでSTUDY HACKERで紹介してきた記憶術のなかから、特に以下の3つの基準で厳選した5つの方法をご紹介します。
✓ 科学的根拠があり、効果が実証されている
✓ 忙しいビジネスパーソンでも無理なく続けられる
✓ 仕事や資格試験など、実践的な場面ですぐに使える
並行して学ぶ?
リーブ学習
リコール
「通勤時間を活用したい」「会議の合間に効率よく覚えたい」「帰宅後の限られた時間で成果を出したい」...そんなあなたのための、実践的な記憶術をお届けします。
1. 分散学習
まとまった勉強時間がとれないから勉強できない、という思い込みを覆してくれるのが「分散学習」です。
日本女子大学人間社会学部心理学科教授の竹内龍人氏によると、分散学習とは「『同じ内容、あるいは似通った内容の学習はあいだを空けて行なう』学習法」のこと。*1
たとえば、単語を暗記するとき、朝晩それぞれ10分ずつ暗記にあてることを繰り返すのが分散学習です。それに対して、たとえば2時間だけ集中して一気に勉強することを集中学習といいます。集中学習のほうが効果的だと思いがちですが、竹内氏は「分散の間隔が1分でも1週間でも1か月でも、総学習時間が同じ場合には、分散学習のほうが学習効果は高い」と話します。*1
つまり、週に2時間勉強にあてるのなら、日曜日に2時間勉強を行なうより、6日間20分ずつ勉強するほうがしっかり記憶できるというわけです。
細切れで勉強するほうが、一気に集中して勉強するよりも記憶に残りやすいと聞くと、忙しくても勉強できる気がしてきませんか? もし暗記したいことがあるなら、スキマ時間を見つけて短時間の勉強を繰り返すのがおすすめですよ。
- 通勤電車での英単語学習
→朝の電車で10分、帰りの電車で10分、寝る前に5分で復習 - 新規プロジェクトの業界用語習得
→朝会前に3つ、昼休みに3つ、夕方に復習 - プログラミング言語の構文暗記
→朝のコーヒーブレイク、昼休み、夜の学習時間で分散して練習
2. インターリーブ学習法
先ほど紹介した分散学習にぜひ付け加えていただきたいのが「インターリーブ学習法」。学習中に、関連性はあるが違う何かを混ぜることを、認知心理学ではインターリーブと呼びます。*2
たとえば英語学習であれば、文法(10分)→リスニング(10分)→単語練習(10分)→会話練習(10分)のように、同じ科目のなかで、異なる勉強内容を混ぜて行なうのがインターリーブ学習法です。文法だけをみっちり勉強するよりも、このようにさまざまな内容を混ぜながら勉強するほうが記憶に残りやすいのです。
前述の分散学習を行なう際、間隔をあけて単語などを勉強してももちろん効果が見込めますが、インターリーブ学習法を取り入れてみるのもおすすめです。
- 資格試験対策
→1日30分の学習を3つのパートに分割
例)FP試験:金融(10分)→税金(10分)→保険(10分) - プレゼンテーションスキルの向上
→スピーチ原稿作成(10分)→発声練習(5分)→ジェスチャー練習(5分) - 語学学習
→単語(7分)→文法(7分)→リスニング(7分)→スピーキング(7分)
3. アクティブリコール
勉強する際、インプットだけでなくアウトプットをすることが重要であるという話は、さまざまなところで耳にしますよね。アウトプットをして記憶を定着させる方法としておすすめなのが「アクティブリコール」。
米国内科専門医の安川康介氏は、アクティブリコールとは「勉強したことや覚えたいことを、能動的に思い出すこと、記憶から引き出すこと」を指すと述べています。*3
このように、情報を思い出す作業をすると、長期記憶に残りやすくなる現象を、認知心理学では「テスト効果」とよび、効果的な方法であることがわかっています。*3
安川氏は、アクティブリコールを使った具体的な勉強法を紹介しています。
- 覚えたい情報を読んだあと、それを見ずに白い紙に書き出す
- 理解できていない・覚えていない部分を確認する
- 1と2を繰り返す
- 時間をおいて、1~3を繰り返す *3
時間をおいて同じ内容を繰り返すというのは、前述した分散学習と重なりますね。
テキストを読むだけ、単語を眺めるだけというインプットで終わらせず、思い出しながら書くというアウトプットを行なうことで、しっかり記憶することができるのです。ちなみに、白い紙に書き出す際、声に出して書いたり、誰かに教えるフリをしたりするとさらに効果的です。*3
- 商談前の提案内容の確認
→電車で資料を読んだ後、メモ帳に要点を書き出す - 社内プレゼンの準備
→スライドを見ながら1回説明した後、白紙の状態で説明を練習 - オンライン研修の内容定着
→各セクション終了後に、学んだ内容を自分の言葉でまとめる
4. 音読・人に教えるフリをする
前述のアクティブリコールのなかで、声に出して書いたり、誰かに教えるフリをしたりするとよりよいと書きましたが、これ自体もおすすめの記憶術なのです。脳内科医の加藤俊徳氏は、音読が記憶術として効果的である理由をふたつ述べています。
ひとつめは「聴覚は視覚よりも記憶に直結し、記憶の一時保管庫である海馬にアクセスしやすいという特性がある」から。ふたつめは、音読をすることで、脳の視覚系・伝達系・運動系・聴覚系など、複数の脳の部位が同時に働くようになるから。複数の脳の部位が働くほど、記憶が定着しやすくなるのです。*4
勉強するときは、黙々とテキストを読んだり、ノートに書き出したりしている読者の方も多いのではないでしょうか。しかし、効果的に記憶するには、声を出して勉強するほうがいいのです。
「そうはいっても、環境的に声に出して勉強することは難しい」という方もいると思います。そんなときは、頭のなかで誰かに教えているつもりで勉強してみましょう。
加藤氏は「『読んだ内容を誰かに説明する』と意識するだけでも効果的」であると述べています。*4
記憶を定着させるには、複数の脳の部位を同時に活性化させればいいわけです。「勉強内容をあとで誰かに教えるとしたら……」と考えながら勉強すると、伝達系・思考系・理解系の脳の部位が活性化するので、この方法でも効率的に記憶することが可能です。*4
ひとりの空間が確保できるときは音読、まわりに人がいるときは誰かに教えるフリをする、というように使い分けてみるのはいかがでしょうか。
- 在宅ワーク中の資料確認
→企画書を声に出して読み、内容を整理 - 早朝の自主学習
→参考書を音読しながら重要ポイントをチェック
- オフィスでの隙間時間学習
→資料を黙読しながら「後輩に説明する」イメージで理解を深める - 通勤中の復習
→「同僚に説明する」つもりで頭の中で要点を整理
5. 感情を動かす
最後に紹介するのが「感情を動かす」勉強法。
勉強に集中するあまり、つい真面目に取り組みすぎていないでしょうか。じつは、効果的に記憶したいのなら、感情を動かしながら勉強するのがおすすめなのです。
一般社団法人記憶工学研究所(MEI)所長で、「記憶力日本選手権大会」最多優勝者の池田義博氏は、「感情が大きく動いて扁桃体が強く反応したときには、『これは重要な情報だ』と海馬が判断し」長期記憶に残るようになると述べています。*5
感情を動かす勉強法、というと難しく感じますが、簡単なことでいいのです。たとえば、覚えたい単語を発音してみて「はじけるような元気なかんじがするな」などとイメージを膨らませてみたり、経済のテキストを読みながら、その知識を織り交ぜて堂々とプレゼンする自分の姿を想像してみたりするのです。
くすっと笑えたり、ワクワクしたりすれば、海馬が重要な情報だと判断して積極的に記憶に残してくれるというわけです。
池田氏は、感情を動かして記憶する方法として「A4・1枚記憶シート」を紹介しています。つくり方は簡単です。
A4の用紙を4分割し、左上から時計回りに、「覚えたい事柄に対する問い」「答え」「気づき」「イラスト」を書き込みます。完成したら、問いだけが見えるように折りたたみ、答えを思い出します。*6
特に重要なのが、気づきとイラストの項目。答えを見ながらイメージを膨らませて書くことで、感情をしっかり動かすことができるのです。
筆者は以前、この方法を実践したのですが、数ある記憶術のなかで最も効果を感じました。中国語のフレーズを暗記している際、通常は1フレーズにつき20回ほど復習を行なっています。しかし、この方法で覚えた中国語フレーズは、4回ほど復習しただけで、完璧に覚えることができました。いまでもすぐに言うことができます。
シートを作成するのはやや手間なのですが、それだけの効果は期待できます。
また、この記憶術のポイントは、いかに自分にとってしっくりくるイメージを考え出せるかにあると感じました。どんな暗記物にも使える方法なので、ぜひ一度試してみてほしい記憶術です。
- 新規事業の市場データ暗記
→数字を見て「すごい市場規模だ!」とワクワクしながら覚える - 英語プレゼンの準備
→「カッコよく決まるぞ!」とイメージしながら練習 - IT用語の習得
→「これが分かれば業界の最前線にいける!」と意欲を持って学習
【気づき】「まるで魔法のように、世界中どこからでもデータにアクセスできるなんて未来的!」
【イラスト】雲の上でダンスする社員たちのかわいいイラスト
→楽しい気持ちで覚えることで記憶が定着
***
おすすめの記憶術を5つ紹介しました。どの記憶術も科学的根拠があり、非常に効果的かつ実践しやすいもの。ぜひ試してみてくださいね。
*1 STUDY HACKER|あえて、「あいだを空けよ」。効率的で学習効果を高める、多忙な人のための「分散学習」
*2 ダイヤモンド・オンライン|反復学習よりも効果大!学習に変化を取りいれる「インターリーブ」のすごさ
*3 プレジデントオンライン|これが科学的根拠に基づく「最高の勉強法」である…「白紙を前にして繰り返し思い出す」が究極といえる理由
*4 プレジデントオンライン|いちばんのオススメは音読だが…声の出せない環境でも定着率を高められる"脳科学的な記憶術"
*5 STUDY HACKER|記憶力がいい人は「2つの記憶」を使い分けている――どういうことか “記憶のプロ” に聞いてみた
*6 東洋経済オンライン|「1年で日本一」44歳が人生逆転"忘れないメモ術"
柴田香織
大学では心理学を専攻。常に独学で新しいことの学習にチャレンジしており、現在はIllustratorや中国語を勉強中。効率的な勉強法やノート術を日々実践しており、実際に高校3年分の日本史・世界史・地理の学び直しを1年間で完了した。自分で試して検証する実践報告記事が得意。