エメットの法則とは、仕事を先延ばしにすると、実際に仕事をこなすよりも多くの時間とエネルギーを消耗する、などの法則です。リタ・エメット氏によって提唱されました。
やるべき仕事や勉強をつい後回しにしてしまう、やろうと思ってもなかなか着手できない、という悩みがあるなら、ぜひ本稿でエメットの法則について学びましょう。今回は、エメットの法則とは何なのか、どうすれば先送りグセを改善できるのか、詳しく解説していきます。
エメットの法則とは
エメットの法則(Emmett's law )とは、経営コンサルタントのリタ・エメット氏が『いまやろうと思ってたのに… かならず直る―そのグズな習慣』(光文社、2001年)(原題:The Procrastinator's Handbook)で提唱した概念です。エメットの法則には、以下に挙げる2つがあります。
- タスクを行なうことへの不安は、タスクの実行そのものより、多くの時間とエネルギーを消耗する。
- 完璧主義こそ、先送りグセの原因である。
それぞれについて詳しく見ていきましょう。
第1の法則:タスクへの不安はタスク実行より多くの時間とエネルギーを消耗する
エメットの法則によれば、課題を先延ばしにしたままだと、すぐにとりかかった場合に比べて多くの労力・時間を消耗してしまうそう。
プレゼンテーション用のスライドを作成する場合を考えてみましょう。面倒だからといって、作成の作業を先延ばしにしていると、当初思い描いていた完成イメージや図のアイデアなどを、時間とともに忘れてしまいます。いざ作業を始めたときには、どんなスライドを作ろうとしていたのか思い出したり、どんな工程で作業を進めるか決め直したりなどの二度手間が生じてしまうのです。
エメットの法則は、勉強にも当てはまります。授業やテキストで学んだことを翌日すぐに復習すれば、スムーズに記憶できるでしょう。しかし、復習を何日も先延ばしにしていると、せっかく得た知識や、ノートに書いたメモの意味などがわからなくなるので、ゼロから学ぶのと同じくらい労力がかかってしまうのです。 要するに、「作業に取りかかるなら、早いに越したことはない」というのが、エメットの第1法則なのです。
第2の法則:完璧主義こそが先送りグセの原因
エメットの法則における第2の法則は、「先送りの原因は完璧主義である」というもの。心当たりがある方も多いのではないでしょうか。
完璧主義の傾向がある人は、なるべく綿密なプランを立ててから作業に取りかかろうとします。筆者も、学生時代に英語の勉強をしているとき、「もっと楽に英単語を覚えられる方法はないか?」「英文が読めるようになるコツはないか?」などと調べているうち、1日が終わってしまったという経験がありました。今思えば、その時間を使ってひとつでも多くの英文を読んでいたほうが、よっぽど英語が身についていたことでしょう。
もちろん、作業の前にある程度のプランを立てるのは大事です。しかし、そのプランを「完璧な」ものにしたいと思うと、膨大な時間がかかってしまいますし、仮に立てたとしても、作業に入ったらいくつも変更点が出てくるでしょう。
エメットの法則に従うなら、準備段階では細かい点にこだわりすぎず、一刻も早く課題に着手することが重要なのです。
エメットの法則を活かす方法1:面倒なことほど先にやる
では、エメットの法則を知ったところで、仕事や勉強にどう活かせるのでしょう? まずは、「面倒な課題から順番に片づけていく」ことです。
私たちはつい、面倒な課題を後回しにしがち。そして、後回しにすればするほど、その課題にかかる労力はどんどん増していき、いっそう手をつける気が起こらなくなる……という悪循環に陥ってしまいます。
この負のループを断ち切り、課題を放置するリスクを回避するには、「面倒な課題ほど先に取りかかる」というルールを決めておきましょう。……と、口で言うのは簡単ですが、なかなか実行できないという方も多いはず。面倒な課題にスムーズに着手するコツを、以下に2つご紹介します。
頭頂部にミカンを乗せる
まずは、頭の上にミカンを乗せるという方法。ミカンがなければ、ペンケースでもティッシュの箱でも、とにかく頭に乗るものなら何でもかまいません。
脳研究者の池谷裕二氏によると、私たちの意識は、広く周囲の状況を把握するため、いつも分散している状態なのだそう。作業を始めてもすぐに集中できないのは、そのためなのです。
ところが、目を閉じて頭にものを乗せ、手を離して再び目を開けると、意識が頭頂部という一点のみに集中するため、スムーズに作業を始めやすくなるのだそう。話だけ聞くと信じられないかもしれませんが、実際にやってみると、効果を実感できるはず。
実際にものを頭に乗せなくても、30秒ほどイメージするだけでも効果があるそうなので、「いまいち集中力がないな」と感じるときには、ぜひ試してみてください。
義務感を手放す
なかなか課題に着手できない原因のひとつは「義務感」です。『「めんどくさい」がなくなる本』(フォレスト出版、2015年)などの著者で、行動心理コンサルタントの鶴田豊和氏によると、「○○しなきゃ」という義務感をもつと心の負担が大きくなり、「面倒臭い」という感情が生まれやすくなるのだそう。「毎朝10キロ走ろう」「年間100冊本を読もう」などのルールを決めたとたん、ランニングや読書を趣味として楽しめなくなってしまった経験は、あなたにもあるのではないでしょうか。
鶴田氏は、義務感を捨てるコツとして、「○○しなきゃ」という思考を「○○しなくていい」「○○したい」などに置き換え、その理由を挙げていくことを推奨しています。ランニングの場合、以下のような感じです。
「ランニングしなきゃ」
→「ランニングしなくていい」……なぜなら、走ったところで1円ももうからないからだ。
→「ランニングしたい」……なぜなら、爽快感が得られるからだ。
言い換えることで義務感が消え、「○○したい」という気持ちが自然に沸き起こりやすいのだそう。筆者自身、ランニングを健康などのためでなく「気が向いたときだけやればいい」と気楽に捉え直した結果、容易に習慣化することができました。
紹介した2つの方法を用い、エメットの法則に陥るのを回避しましょう!
エメットの法則を活かす方法2:完璧より完了を目指す
エメットの法則を活かす2つ目の方法は、「完璧より完了」を意識することです。
先述したとおり、「完璧に仕上げよう」という思いをあまりに強くもってしまうと、作業に着手するまでのハードルが高くなってしまったり、作業効率が落ちてしまったりする恐れがあります。課題を最初から完璧にやり遂げようと目指すのではなく、「まずは終わらせる」ことを目標にしましょう。
以下では、元臨床心理士で作家のアリス・ボーイズ氏が紹介する「完璧主義を手放す方法」を紹介します。
成功事例から学ぶ
完璧主義者は、失敗にばかり目が向きがち。成果物はいつも100点満点でなければならず、ほんの少しのミスさえあってはならない、と思い込んでいるのです。
しかし、世の中で成功事例と言われている仕事を見てみると、完璧なものばかりではないはず。たとえば、営業成績が社内トップの同僚でも、何かしらの不完全な部分はもっているでしょう。大繁盛している外食チェーン店も、品質やサービスにはまだまだ改善の余地があるかもしれません。
また、学校のテストや資格試験では、合格ラインは60~80点に設定されているはず。満点でなければ合格できない試験というのは、ほとんど存在しませんよね。
大切なことは、「完璧かどうか」ではなく、あくまで「結果が出るかどうか」。世の中の成功事例や自分の成功体験を分析してみると、「100点満点の出来じゃなくても、十分な結果は出せるんだ」と客観的に理解できるので、過度な完璧主義を取り払うことができるのです。
現状から1%改善する方法を考える
完璧主義者は、最初に100点満点の完成形を思い描き、その理想像を目指して仕事を始めます。そのため、たとえ80点という合格点が出せたとしても「あと20点も足りない」と感じ、常にネガティブな感情にとらわれてしまうのです。
そこでオススメなのが、最初に100点満点のイメージを描くのではなく、むしろ現状を基準にして「あと1%だけ改善するにはどうすればいいだろう?」と考える方法。ボーイズ氏によると、たった1%の改善という「ごく小さな目標」に的を絞ることで、完璧主義では気がつきにくかったシンプルな解決策が見つかりやすくなるのだそうです。
完璧主義の傾向がある方は、エメットの法則を念頭におき、余計なこだわりで作業が遅れてしまっていないか意識してみましょう。
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エメットの法則は、シンプルながら、仕事・勉強を効率的に進める極意を教えてくれます。自分は課題を無駄なく進められているかどうか、エメットの法則を参考に、今一度見直してみてはいかがでしょうか。
Rita Emmett|Quotes from THE PROCRASTINATOR'S HANDBOOK: Mastering The Art Of Doing It Now (Walker & Co. 2000)
日刊SPA!|仕事は締め切りギリギリまで手を付けられない…サボリ癖から抜け出す方法
ピアーズ・スティール著, 池村千秋訳(2012), 『ヒトはなぜ先延ばしをしてしまうのか』, CCCメディアハウス.
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佐藤舜
大学で哲学を専攻し、人文科学系の読書経験が豊富。特に心理学や脳科学分野での執筆を得意としており、200本以上の執筆実績をもつ。幅広いリサーチ経験から記憶術・文章術のノウハウを獲得。「読者の知的好奇心を刺激できるライター」をモットーに、教養を広げるよう努めている。