全力で仕事し終わったあとの消耗感、頑張り続けているのに成果を得られない空回り感……。
これらが蓄積されていくうちに、仕事に対する充実感を得られなくなってしまった経験は誰にでもあるのではないでしょうか。
近年、企業経営の世界では「サステナビリティ」が重視され、「ESG経営」という考え方が注目を集めています。
これは、「Environment(環境)」「Social(社会)」「Governance(ガバナンス)」の3つの頭文字をとった言葉で、「企業の持続的な成長により市場価値を向上させること」を指す企業経営の考え方です。*1
実は、この企業向けの概念を個人の働き方に応用すると、頑張りすぎて限界を感じるような状況から抜け出すヒントが見つかるかもしれません。
本記事では、通常は企業経営で用いられるESGの考え方を個人に当てはめて、消耗感や空回り感を減らし、長期的に充実感をもちながら働く方法をお伝えしていきます。
- 「非サステナブル構造」に陥っていない?
- 持続可能な働き方 1:(E / 環境)脳のエネルギー配分を意識する
- 持続可能な働き方 2:(S / 社会)他者を巻き込む
- 持続可能な働き方 3:(G / ガバナンス)自分ガバナンス(自己管理)を強化する
「非サステナブル構造」に陥っていない?
頑張れば頑張るほど疲弊していく――このように、成果よりも自己消耗が先に来る人は、働き方における「非サステナブル(持続可能でない)構造」が隠れているかもしれません。
つまり、自分自身のエネルギーを無理に消耗し続けながら働いているのです。
ここで大切なのは、成果を出そうと努力すること自体が悪いわけではなく、成果を追い求めるあまり、気づかないうちに自分自身を犠牲にしていることが問題だと言えます。
現代の企業経営においては、ESG(環境・社会・ガバナンス)が重要視されており、このESGという視点は、環境への配慮、社会への貢献、そして企業ガバナンスの向上を目指すものです。
これを個人の働き方に応用することで、よりサステナブルな(持続可能な)働き方を実現できるのではないでしょうか。
具体的には、個人の働き方にも「環境(パフォーマンスを維持)」「社会(他者との協力)」「ガバナンス(自分自身を管理する)」という視点を取り入れ、無理なく持続可能な働き方を追求していくことができます。
- 朝から全力疾走で、夕方にはぐったり
- 「全部自分でやらなきゃ」と思い、常にキャパオーバー
- 常にタスクに追われてバタバタ
こんな状態に心当たりがあるのなら、いまの働き方にESGの視点を取り入れてみませんか?
持続可能な働き方 1:(E / 環境)脳のエネルギー配分を意識する
企業が環境への配慮を重視するように、私たちも自分の「エネルギー環境」に配慮する必要があります。
私たちのエネルギーは有限であることを忘れてしまうと、消耗感が蓄積されてぐったりしてしまうからです。
そこでまず取り入れるといいのが、「脳のエネルギー配分を意識する」ということ。
脳にはリズムがあります。そのリズムに合わせて仕事に取り組むのが「脳のエネルギー配分を意識」することであり、疲労をためないコツなのです。
作業療法士の菅原洋平氏は、脳のリズムを次のように説明しています。
午前中:脳のコンディションがいい時間帯/重要な案件や企画書作成、アイデア出しといった知的作業が向いている
12時〜14時頃:脳の休憩時間/単純作業が向いている
夕方:脳のテンションが上がる時間帯/スピード感をもって手際よく進めていける仕事が向いている
*2を参考にまとめた
とはいえ、日々さまざまな業務や人と携わるなかで、スケジュールのコントロールが及ばない部分もでてくるでしょう。
しかし、時間帯ごとの脳の特性をふまえつつ、現実との折り合いのつけ方=リズムに逆らわない工夫という視点で整理すると、こんなアプローチが考えられます。
- 12時〜14時(脳の休憩時間)に、難しい案件のミーティングが入ってしまった
→脳がさえない前提で、事前準備を徹底しておく - 午前中(知的作業に向く)に雑務やメール対応が詰まっている
→「いまやるべきこと」明確にし、それ以外は午後にまわす
それすら難しいようなら、5〜10分だけすきま時間を確保し、あとで集中したいことの仕込みをする(会議で使う資料のタイトル案だけ考える、企画メモを1行だけ書いておく、などの知的作業系のタスク)
このように、仕事のパフォーマンスを左右する「脳の働き」をうまく活かす環境を作り、持続可能な働き方を実現していくのです。
持続可能な働き方 2:(S / 社会)他者を巻き込む
「みんな忙しそうだから、迷惑をかけられない」
「すべて自分で完了させて、能力を認められたい」
こんな思いから、多くの仕事を一人でこなそうとして、過度な負担を抱え込んでいませんか? その結果心身ともに潰れてしまっては、元も子もありません。
企業の持続可能な成長には、ほかの企業やコミュニティとの協力が不可欠であるように、個人においても、他者との関わりが不可欠です。
グロービス経営大学院経営研究科の副研究科長である村尾佳子氏は、「上手く他者の力を借り、協力し合いながら進めることができれば、想像以上のプラスのシナジーが生まれますし、一人では成し遂げられない成果をあげることができ」ると話します。*3
孤立して仕事を進めると、自分の限界に気づかないうちに過度なストレスを抱え込んでしまいかねません。
しかし他者の力を借りれば、それぞれが分担した範囲で成果を上げられます。その積み重ねは長期的なパフォーマンスの維持にもつながるでしょう。
それだけでなく、お互いに協力し合う地盤が整うことで人間関係も円滑になり、心理的にも働きやすい環境を築けます。
人は関わり合いながら成長するという意識をもって、助けてもらうことを恐れないことが大切です。
持続可能な働き方 3:(G / ガバナンス)自分ガバナンス(自己管理)を強化する
ガバナンスは、組織が自らの行動を責任をもって管理することですが、これを個人の働き方に当てはめると、自分の行動を見直し、適切にコントロールすることが求められるでしょう。
自己管理が難しいもののひとつに、「タスク」が挙げられます。ビジネスパーソンは日々タスクに追われて余裕がなくなってしまうことが多いですが、それはコントロールを失っている状態です。
自己管理できるようになるには、タスクにコントロールされるのではなく、タスクをコントロールする必要があるでしょう。
自分ガバナンスのために:「やらないこと」を決める
そのためには、「やらないこと」を決めることが重要です。
コンサルティングを行なう株式会社川越コンサルタント代表取締役小川哲也氏は、「『やるべきこと』を実践する。これは裏返せば『やるべきでないことを探す』ということ」だと述べています。*4
そうは言っても、渦中にいるときはすべてのタスクが重要に思えてしまうかもしれません。
そこで、「やるべきこと」と「やらないこと」を判断する癖をつけるために、やらないことの棚卸しを週1回実施してみるのはいかがでしょうか。
たとえば、毎週金曜の夕方、5分間の時間を作り「今週、やらなくてよかったこと」を振り返るのです。
筆者は毎日、その日行なったことをメモしています。「今日は忙しかった」と感じる日のメモを振り返ると、「この作業は別日でもよかったのでは?」と気づきを得ることも。
「いま一番達成したいことはなにか?」をふまえて過去のタスクを見直すと、「いまやらなくてもいいこと」が明確になり、優先順位をつけやすくなると感じます。
そうすると、忙しいという状況に支配されて消耗するのではなく、自分で状況を支配している感覚を得られ、無駄な疲れが減りました。
自分ガバナンスを強化するのは無駄な消耗を防ぎ、持続可能な働き方につながるのです。
以下はあくまで一例ですが、振り返りの際のフォーマットの参考にいかがでしょうか。
やらなくてよかったかもしれないこと
1. ________________________
2. ________________________
3. ________________________
やらなくてよかったかもしれないことの例:
- じつはやらなくても影響がなかったこと
- 誰かに任せられた/今後任せてみること
- まとめて処理できたかもしれないこと
- 別の方法に変えられそうなこと(例:定型化・自動化など)
- 来週の「やらない」方針メモする → 来週は〇〇しない、減らす など
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ESGの考え方をもとに、パフォーマンスを維持し(E)、他者と協力し(S)、自分自身を管理する(G)ことで、持続可能なペースで仕事を進められます。そしてそのことが最終的には自分の成長と成果につながるのです。消耗し空回りしていると感じている方は、ぜひこの考え方を取り入れてみてください。
※引用の太字は編集部が施した
*1 カオナビ人事用語集|ESG経営とは? 注目の理由やメリット、取り組み方、事例を簡単に
*2 日本経済新聞|時間医学で解明 脳リズムを生かす最強の24時間生活
*3 グロービスキャリアノート|周囲を巻き込む力とは?他者の協力を得るコツと磨いておくべきスキル
*4 ZUU online|思い切ってやらないだけで生産性はグングン上がる
澤田みのり
大学では数学を専攻。卒業後はSEとしてIT企業に勤務した。仕事のパフォーマンスアップに不可欠な身体の整え方に関心が高く、働きながらピラティスの国際資格と国際中医師の資格を取得。日々勉強を継続しており、勉強効率を上げるため、脳科学や記憶術についても積極的に学習中。