「なぜ頑張って覚えても、すぐに忘れてしまうのだろう……」
仕事しながら資格取得や語学学習に取り組むビジネスパーソンなら、誰もが抱く悩みではないでしょうか。
でも、じつは「忘れること」は避けるべき問題ではありません。
最新の科学的研究によると、記憶力向上には意外にも「忘却」が重要な役割を果たしているのです。効率的な学習方法を探る中で、この「忘れる」というプロセスをうまく活用できれば、限られた時間で最大の学習効果を得ることができます。
本記事では、忙しいビジネスパーソンのための記憶力アップ術として、スペースド・リハーサルやテスト効果など、科学的に証明された効率的な暗記方法をご紹介。さらに、ChatGPTを活用した具体的な学習計画の立て方まで、実践的なアプローチをお伝えします。
1. 忘却と記憶の関係
忘れることは、記憶の整理と強化に必要不可欠なプロセスです。
忘れることが記憶を整理するのに重要だと明らかになった研究が『サイエンス』誌で発表されました。その研究によると、忘却できない脳をもつネズミは過去と現在を区別できなくなり、新しい環境に順応できなかったのだそう。*1
つまり、このネズミはこれまで記憶した情報を忘れることができないので、「いま」必要な情報を適切に取り出し変化に対応していくことができなかったのです。
これは学習においても言えることで、たとえ記憶したとしても、それを適切に思い出せなければ意味がありません。したがって、忘却を通して記憶を整理し強化することが重要となるのです。
また、能力開発コンサルタントの高島徹治氏は「一度忘れた後のほうが効果的にインプットできる」と話します。
その根拠となるのは、1913年に心理学者のP・B・バラード博士と共同研究者ウィリアムズ氏が発表した次の実験です。
まず、被験者である小学生に3~4行の短い詩を記憶させ、ふたつのグループに分けます。
- 授業が終わった直後に復習するグループ
- 授業の翌日に復習するグループ
そして7日後に、それぞれのグループがどのくらい記憶を維持できているのかを比べてみました。その結果、翌日に復習したグループのほうがより多くを記憶できていることが明らかになったのです。 *2
以上から、ある程度時間が経って忘れた頃に復習することは記憶するうえで重要な役割を果たしていると考えられます。
2. 忘却を活用した2つの記憶術
では、次に忘却を活用した記憶術をご紹介しましょう。
1. スペースド・リハーサル法
一定の時間間隔を空けて、忘れた頃に復習することで記憶の定着率を高める方法が「スペースド・リハーサル法」です。分散学習法とも呼ばれ、効率的な記憶術の基本となっています。
カリフォルニア大学ロサンゼルス校と南カリフォルニア大学の博士研究員であるヴェロニカ・ヤン氏が、学習を分散させる効果を以下のように述べています。
教科書の章を一度読んだ後、それを脇に置いて他のことに集中し、その情報を「忘れる」 ようにすると、その章をもう一度読み返したときに、記憶力が大幅に向上します。 *3
つまり、学習した内容から離れ、忘れた頃に再度学習すると記憶しやすいということなのです。
筆者は現在中国語の勉強をしていますが、次のようにスペースド・リハーサル法を利用して単語の暗記に取り組んでいます。
1日目:新しい単語を3つ学習
2日目:前日の単語を復習したのち、新しい単語を3つ学習
4日目:2日目までに学んだ単語を復習し、新しい単語を3つ学習
7日目:これまでに学んだ単語のうち、忘れかけているものを復習。新しい単語を3つ学習
これはChatGPTに立ててもらった学習プランなのですが、前日までに学んだ単語を復習しつつ、毎日新しい単語を3つずつ覚えていっています。学んだ翌日以降に復習を続けることで、着実に単語を記憶できている実感があります。
2. テスト効果
テストを受けることで記憶が定着する現象を「テスト効果」と呼びます。試験や模擬問題も、忘れた頃に繰り返し復習することが大切です。忘却と想起を繰り返すことで、記憶の強化が可能だからです。
また、日本女子大学人間社会学部心理学科教授の竹内龍人氏は「テストで学習を繰り返すことにより、蓄えられた記憶が『思い出しやすいかたち』に変形されるのではないかと考えられ」ると話します。*4
つまり、テストを受けることで、学習した内容が記憶から取り出しやすくなるのです。筆者も資格の勉強をしていて、忘れた頃に繰り返し解くようにしていた過去問の内容は忘れにくかった経験があります。これはテスト効果によって記憶が取り出しやすいかたちに変形されていたからだったのだと振り返ってわかります。
3. 忘却を活用するための実践ステップ
脳がもつ忘却のパターンを活用して、学習内容の記憶の強化に取り組んでみます。
1. スペースド・リハーサル法に則った学習計画
次のように、スペースド・リハーサル法に則り分散学習を計画していきます。
より効率的に復習するために、忘れたころに似た問題を出してくれるアプリなど、復習に活用できるツールを使うのもおすすめです。
先述しましたが、筆者はChatGPTに学習計画を立ててもらいました。
入力したプロンプト:中国語の単語を覚えたいです。スペースド・リハーサル法を使った学習スケジュールを立ててください。平日は仕事が忙しくて時間をつくるのが難しいので、1回10分ほどでできる量でお願いします。
ChatGPTでは単語を5〜7個ずつ暗記するように提案されましたが、気軽に勉強を楽しみたかったので、3個ずつに調整しました。
プロンプトを入力する際は、生活リズムなどを具体的に指定してみてもいいでしょう。
2. 定期的な自己テスト
学習計画に沿って定期的に自己テストをし、忘れた頃に記憶を引き出す練習をしていきます。自己テストのやり方はさまざまです。筆者は学習計画に沿ってスマートフォンのリマインダーをセットして忘れないように工夫し、下記のようにChatGPTを活用しました。
- ChatGPTに「覚えた単語をここに記録していきます。単語の復習の際に、記録したものを使って私にテストを出してください。」と指示する
- 学習した単語をChatGPTに記録していく
- 復習したいタイミングで、「〇日目の復習をしたいので、テストを出してください。」と指示する
「〇日目の復習をしたいので、テストを出してください。私が中国語で答えたいです。」のように、どのように問題を出してほしいか指定することもできます。
ほかにも、筆者が語学学習で使っている入力プロンプトを紹介するので参考にしてみてください。
- これまでに覚えた内容をランダムにテストしてください。
- これまでに間違えた内容をテストしてください。
- 中国語の「〇〇」の使い方が覚えにくいです。500字以内で説明してください。
- 上記の単語の使い方を覚えたいので、例文をいくつか出してテストしてください。私が和訳します。
- これまで覚えた単語で〇×クイズを出してください。
- これまで覚えた単語で3択問題を出してください。
このように、どんなテストをしてほしいのか具体的に指示することで、覚えたことを忘れてしまった頃でも楽しく自己テストをできるでしょう。
***
「忘れること」を活用する学習術は、記憶を長持ちさせるための重要な鍵です。スペースド・リハーサル法を取り入れると、効率的かつ持続的に知識を習得できます。忘れることを恐れず、積極的に学びに活かしましょう。
*1 プレジデントオンライン|「一度覚えたら、絶対に忘れない」そんな記憶力を手にしたらどうなるか…ネズミの実験で分かった悲しい事実
*2 ダイヤモンド・オンライン|覚える→忘れる→復習、記憶が最も定着する間隔は
*3 The Learning Scientists|ゲスト投稿: 検索強度と保存強度
*4 STUDY HACKER|活用すべきは「テスト効果」と「系列位置効果」。劇的に効果が上がる学習方法
澤田みのり
大学では数学を専攻。卒業後はSEとしてIT企業に勤務した。仕事のパフォーマンスアップに不可欠な身体の整え方に関心が高く、働きながらピラティスの国際資格と国際中医師の資格を取得。日々勉強を継続しており、勉強効率を上げるため、脳科学や記憶術についても積極的に学習中。