学びっぱなしはもったいない。「プロテジェ効果」を利用して学習効果を爆増させる方法

図書館にいる3人の人々

PCの前で資格の参考書を開いたまま、ぼんやりと画面を見つめる午後3時。「昨日まで理解できていたはずなのに……」とため息が漏れる。

夜、散らかった机の上のノートを見返しながら、焦りが込み上げてくる。「毎日こうして勉強しているのに、試験に出そうな部分を聞かれても答えられない……」。オンラインセミナーも、ビジネス書も、結局は学びっぱなしで終わっている。

じつはこれ、「勉強の方法」を変えるだけで解決できる問題かもしれません。

多くの人が「インプットを増やせば理解が深まる」と考え、ただ学習時間を増やそうとします。しかし、効果的な学習アウトプットこそが定着への近道。なかでも「プロテジェ効果」という現象を活用すれば、学んだ内容の理解と定着が大きく変わることが研究で明らかになっています。

本記事では、このプロテジェ効果の仕組みと、ひとりでもできる効果的な学習アウトプットの方法をご紹介します。忙しいビジネスパーソンでも実践できる、確実な勉強の定着メソッドをお伝えしていきます。

なぜ「教えること」で学習が深まるのか

プロテジェ効果とは、「教えること」で学習効果が高まる現象のことです。「勉強を教える」というと、まず教える側の人物が十分に理解していることが前提だと思われがちです。しかしじつは、教えることそのものが、最も効果的な学習方法のひとつなのです。

「教える」ことの驚きの効果

この「教えることで学ぶ」という効果は、2009年にスタンフォード大学教育学部の研究で科学的に実証されました。生徒を対象とした実験で、半数は通常の自習、もう半数は仮想キャラクターに教えるために勉強をしました。その結果、教えるグループの方が学習意欲が高まり、成績の低かった生徒を中心にテストの点数が向上。プロテジェ効果の有効性が明らかになったのです。*2
さらに注目すべきは、実際の人に教える必要がないという点です。仮想のキャラクターやAIに教えるだけでも、勉強の定着効果が得られることがわかりました。

プロテジェ効果が生まれる3つの理由

明治大学法学部教授の堀田秀吾氏は、教えることで学習が深まる理由を次のように説明しています。

  1. 理解の必要性による集中力の向上
    「教えるためには、内容をしっかりと理解する必要がある」ため、「より緊張感や集中力、注意深さを持って学習に取り組む」ようになります。*1

  2. 教えることによる整理と定着
    堀田氏は日々教鞭をとっている経験から「教える行為そのものに、頭の中を整理して、自らの理解を深める効果がある」と指摘します。*1 相手に伝えるために内容を構造化することで、効果的な学習アウトプットが実現するのです。

  3. 弱点の発見と克服
    相手に伝えようとする過程で、説明できない部分が自分の理解が不十分な箇所だとわかります。これにより、効果的な復習のポイントが明確になるのです。

たとえば、研修会の内容をあとで上司に報告するよう言われたとします。わからないことがあったり内容を忘れたりしては報告ができないため、自然と集中して話を聞き、疑問点があれば質問や検索をするようになります。その結果、なんとなく参加した研修よりもしっかりと勉強内容が定着するのです。

このように、「教えること」には学習効果を高めるさまざまな要素が含まれています。次章では、この効果を最大限に活用するための具体的な方法をご紹介します。

コーヒーを飲みながら話すふたり

プロテジェ効果を最大化する2つの具体的ステップ

効果的な学習アウトプットとしての「教える」には、準備と実践という2つのステップがあります。ここでは、それぞれの具体的な方法をご紹介します。

ステップ1:「教えるフリ」で整理する

アメリカの医師国家試験でトップ1%の成績を収めた安川康介氏が実践していたのは、「ブツブツ呟きながら教えるフリをして書き出す」という独特の勉強法でした。*3

この方法は、シンプルながら非常に効果的です。たとえば、プロテジェ効果について学んだ場合、次のように進めていきます。

【書】プロテジェ効果とは「教えることで理解を深める」こと

【話】人に教えることで自分の理解が深まることを、プロテジェ効果といいます。

【書】「教える」責任感で意欲・集中力アップ

【話】自分が理解していなければ教えることができないため、しっかり理解して忘れないようにしようと、勉強への集中力や意欲が高まることが理由だとされています。

このように、まず要点を書き出し、続いてそれを誰かに説明するつもりで言葉にしていくのです。注目すべきは、この段階ではノートの完成度を気にする必要がないという点です。安川氏は「後に残すためのノートを作るわけではない」と指摘します。*3

むしろ、説明しながらつまずいた部分こそが、自分の理解が不十分な箇所であり、重点的に復習すべきポイントだととらえることができます。

ステップ2:「教える」を実践する

準備ができたら、実際に誰かに教えてみましょう。ここで重要になるのが「モニタリング」という考え方です。公認心理師の羽田野健氏は、教える際に以下の3つの観点で自己観察を行なうことが重要だと指摘しています。*4

  • いま自分が何をわかっているか・自分の考えが本当に正しいのか(自己理解)
  • 相手はどのくらいわかっていそうか(他者理解)
  • 自分と相手の違いはどういうところにありそうか(自他差異)

これらの観点を意識しながら教えることで、「新たな学習課題の発見や、自分の成長の実感」につながると羽田野氏は説明します。*4

実際、勉強仲間との教えあいや、家族・友人への説明、さらにはオンライン上での質問への回答など、さまざまなかたちで実践が可能です。最近では、AIチャットボットを相手に説明する方法も効果的だとされています。

特に重要なのは、相手のレベルに応じて説明方法を変えることです。初学者に教える際は基本概念をわかりやすく説明する必要があり、これは自分の理解を整理するいい機会となります。一方、同レベルの相手との専門的な議論では、より深い理解や新しい視点の獲得につながります。

さらに、相手の反応を見るだけでなく、積極的に質問や疑問を引き出すことも効果的です。相手からの「なぜ?」「どうして?」という問いかけに答えることで、自分の理解をより深く、確実なものにすることができます。また、説明の途中で思わぬ質問が出ることで、新たな視点に気づくこともあります。

このように、「教える」という行為は、準備の段階から実践まで、一貫して深い学習効果をもたらします。次章では、この方法をより効果的に活用するための環境づくりについて見ていきましょう。

座って複数の相手に話す場面

ひとりでもできる「教える」環境の作り方

プロテジェ効果を活用した学習を実践したくても、すぐに教える相手が見つからないことは多いものです。しかし、現代ではテクノロジーを活用することで、ひとりでも「教える」環境を作ることができます。

自分の姿を教材に

特に効果的なのが、ビデオを活用する方法です。スマートフォンのカメラの前で勉強内容を説明し、それを録画します。この方法のよさは、自分の説明を客観的に振り返られる点にあります。*5

説明中は「うまく話せている」と感じていても、実際の映像を見返すと、言い淀みがあったり、説明が不十分な箇所が見つかったりするものです。これらは、まさに自分の理解が曖昧な部分を示すサインとなります。つまり、ビデオ撮影は「教える」練習であると同時に、効果的な復習ポイントの発見にもつながり、学習を定着させます。

オンラインでつながる学習コミュニティ

もうひとつの方法が、SNSを活用した学習アウトプットです。X(旧Twitter)やnoteなどのプラットフォームで、学んだ内容を整理して投稿してみましょう。これは単なる発信ではなく、じつは「不特定多数に教える」という行為なのです。

特に興味深いのは、同じ内容を学んでいる人とのつながりが生まれる可能性です。投稿をきっかけに質問が来たり、さらに詳しい人からアドバイスをもらえたりすることも。このような相互作用は、教えることの効果をより高めることにつながります。

このように、テクノロジーを活用することで、物理的な「教える相手」がいなくても、プロテジェ効果を活用した学習を実践することができます。大切なのは、継続的に実践できる方法を見つけることです。自分に合った方法を選んで、効果的な学習習慣をつくっていきましょう。

スマートフォンを使う人の手元

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本記事では、プロテジェ効果を活用した効果的な学習アウトプット方法をご紹介してきました。「教える」という行為は、私たちの学びにさまざまなメリットをもたらします。自分の理解を整理し、知識を定着させ、さらには新たな気づきを得る機会にもなるのです。

そして何より重要なのは、この方法が特別な環境や準備を必要としないことです。ひとりでビデオを撮影するところから始めても、オンラインで仲間を見つけることから始めても構いません。あなたに合った方法で、「教える」を学習習慣に取り入れてみてください。

確実な知識の定着を目指す人、効率的な学習方法を探している人、学んだことを実践に活かしたい人――。「教える」という新しい学習アプローチが、あなたの学びをより確かなものにしてくれるはずです。

※引用の太字は編集部が施した

【ライタープロフィール】
藤真唯

大学では日本古典文学を専攻。現在も古典文学や近代文学を読み勉強中。効率のよい学び方にも関心が高く、日々情報収集に努めている。ライターとしては、仕事術・コミュニケーション術に関する執筆経験が豊富。丁寧なリサーチに基づいて分かりやすく伝えることを得意とする。

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