「現実逃避」という言葉を耳にすると、“現状から目を背けている” などネガティブなイメージを思い浮かべる人も多いはず。特に、まじめな人ほど、この言葉を嫌っているに違いありません。仕事がつらい……うまくいかない……そんなときほど、頑張ろうとしてしまうのではないでしょうか。
しかし、方法さえ誤らなければ、現実逃避は心身の負担軽減やパフォーマンス向上に大いに役立ちます。では、「良い現実逃避」と「悪い現実逃避」の違いとは何なのでしょうか。あなたの心を軽くする現実逃避の方法を探ります。
「良い現実逃避」と「悪い現実逃避」が何が違うのか?
『仕事に殺されない アナザーパラダイスの見つけ方』の著者である潮凪洋介氏は、「現実逃避は必ずしも悪いことではない」と述べます。じつは、根がまじめで自分を追い詰めてしまう人ほど、現実逃避は必要なのだそう。
ただし、ただ現状から逃げればいいのかというと、そういう話でもありません。潮凪氏によれば、「良い現実逃避」と「悪い現実逃避」の違いはふたつ。ひとつは、現実逃避のあとにしっかり気持ちを切り替えられること。もうひとつは、自分でコントロールできる世界であることです。
たとえば、仕事で失敗して上司に叱られ、ひどく落ち込んだとします。ここで、帰りに居酒屋へ寄って前後不覚になるほどお酒を飲むのは「悪い現実逃避」です。これでは「よし、明日から気持ちを切り替えて会社へ行こう!」とは思えませんし、そもそもお酒に飲まれている時点で、自分の意思でコントロールできているともいえません。
では具体的に、どのような現実逃避が「良い現実逃避」になるのでしょうか。3つご紹介します。
1. パフォーマンスを上げたい人は「家族や親しい人と過ごす時間を増やす」
仕事の評価やパフォーマンスを上げたいと思うあまり、夜遅くまで残業したり、休日まで出勤したりしていませんか。思い当たる人は、ただがむしゃらに働くよりも「良い現実逃避」が必要かもしれませんよ。
『最強の働き方』の著者であるムーギー・キム氏は、一流ほどオフの過ごし方がうまく、家族と過ごす時間を大切にしているといいます。仕事に熱心すぎるがゆえ、家にいる時間が極端に少なく、家族との団らんも犠牲になっている――これではいけません。ぜひ家族と過ごす時間を増やしましょう。
ある人は、週末は子どもの野球チームのコーチに全力を傾けている。またある人は、ほぼ全週末を子どもとのディズニーランドツアーに費やし、別の人は奥さんや旦那さんと必ずゆっくり食事をとるようにしている。
(引用元:東洋経済オンライン|休日にバレる「仕事も人生も二流の人」の末路)
あるいは家族の代わりに、親しい友人や恋人でもいいでしょう。脳科学の観点で見ても、親しい人のコミュニケーションにより、多幸感を与えてくれるオキシトシンやドーパミンといった物質が脳内で分泌されることがわかっています。
心身が疲弊するほど無理に働くぐらいならば、いっそのこそ親しい人との時間を確保して「良い現実逃避」をしてみてください。良い結果を引き出せるかもしれませんよ。
2. 悩みや問題を先延ばししたい人は「寝逃げをする」
現実逃避したいシチュエーションで特に多いのが、「悩みや問題にぶつかったとき」ではないでしょうか。しかし、こういう場合は、思いきって寝逃げをするのがよいと、睡眠専門医の坪田聡氏はいいます。
こういった寝逃げは、「追想法」や「レミニセンス」とも呼ばれています。新しいアイデアを生み出す手法として、発明家のエジソン博士や、ノーベル物理学賞受賞者の湯川秀樹博士も実践していたのだそう。睡眠中に脳内の情報が整理されて頭がすっきりするため、現実逃避のために寝るという行為は、意外と理にかなっているのです。
「レム睡眠(体の睡眠)」中に、起きていた時間にストックした情報の中から、自分に必要なものだけを抜き出して再処理している。パソコンの「最適化」のようなものだ。
(引用元:ダイヤモンド・オンライン|ノーベル賞級の潜在能力を引き出す「寝逃げ」とは?)
ただし、ただ寝れば問題が解決するわけではないという点に注意してください。つまり、就寝前に、どんな悩みや問題を解決したいのかを頭の中で明確にしておく必要があるのです。
たとえば、作成したプレゼン資料について上司からダメ出しされたとします。ここで「どうせ自分は資料作成が下手なんだ……」「作り直しか……面倒くさいな」などと愚痴ばかり並べていては、寝逃げの効果は期待できませんよ。
上司の言葉をしっかり振り返り、「提案自体は悪くないと褒めてもらえたな」と気づいたら、「明日は伝え方についてしっかり練り直そう」などと問題を明確化させたうえで、寝逃げに入りましょう。
3. 疲れがたまりすぎている人は「あえて運動をする」
頑張りすぎて疲労がたまっているから、暇な時間ぐらいはソファでダラダラしながらスマートフォンをいじりたい……。これも悪い現実逃避のひとつです。
『会社で不幸になる人、ならない人』の著者である本田直之氏は、疲れているときほど、ダラダラするよりもアクティブに過ごしたほうが良いと述べています。たとえば、スポーツの世界のアスリートたちは、本番や試合後すぐに体を休めるようなことはしません。代わりに、少し体を動かしたりトレーニングをしたりしたうえで、疲労回復に入るのです。この仕組みが、私たちにも応用できるということ。
同様に、「疲れているときほど運動が必要だ」というフィジカルトレーナーの中野ジェームズ修一氏は、自宅の近くで行なえる運動を取り入れるのが良いといいます。たとえば、公園でウォーキングをする、近所のボルダリング体験に申し込む、プールで水中歩行をする、などです。
「体さえ動かせばいいのならば、旅行でも問題ないのでは?」と考える人もいるかもしれません。しかし短期間の旅行は、行くまでが億劫に感じたり、帰宅後のストレスや疲労の負担のほうが大きくなったりするので、向かないのだそう。
行った先でウォーキングやトレッキングなどの目的がある場合はまだいいと思います。でも、単なる静養が目的であれば、わざわざ時間を使って疲れに行くよりも、自宅の近くで体を動かすほうが効果的なリカバリーになります
(引用元:日経ビジネス電子版|休日に家でじっとしていても疲れはとれない!)
ちなみに運動は、休日だけではなく、仕事の合間に行なっても効果的なのだそう。たとえば、コピー機を使っている間にかかと上げをする、オフィス内の移動は階段を利用するなど、こまめな運動でつかの間の「良い現実逃避」をするのもコツですよ。
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まじめで自分を追い詰めてしまう人ほど、仕事に没頭しすぎたり、問題を真正面から受け止めてストレスをためたりしがちです。しかし、「良い現実逃避」で仕事や問題からいったん距離を置いてみると、かえってパフォーマンスが向上する可能性もあります。無理を重ねないためにも、ぜひ取り入れてみてくださいね。
(参考)
潮凪洋介 (2015),『仕事に殺されない アナザーパラダイスの見つけ方』, フォレスト出版.
東洋経済オンライン|休日にバレる「仕事も人生も二流の人」の末路
ダイヤモンド・オンライン|ノーベル賞級の潜在能力を引き出す「寝逃げ」とは?
日経ビジネス|休日に家でじっとしていても疲れはとれない!
【ライタープロフィール】
かのえ かな
大学では西洋史を専攻。社会人の資格勉強に関心があり、自身も一般用医薬品に関わる登録販売者試験に合格した。教養を高めるための学び直しにも意欲があり、ビジネス書、歴史書など毎月20冊以上読む。豊富な執筆経験を通じて得た読書法の知識を原動力に、多読習慣を続けている。