「チームメンバーのパフォーマンスが向上しないのはなぜだろう?」
「どうしたら、部下や後輩たちの士気を上げることができるだろう?」
とお困りのリーダーにおすすめしたいのは、ユーモアセンスを身につけること。
部下や後輩たちと円滑なコミュニケーションをとり、お互いの意見や価値観が尊重され、和やかな雰囲気のなか、チームメンバーが互いに長所を活かしながらイキイキと活躍する。
そんな理想的な職場環境を実現しているリーダーたちは、じつはユーモアをとても大切にしているのをご存じですか?
アメリカ大統領やノーベル賞受賞者など、世界のリーダーたちの通訳として活躍した村松増美氏は、著書「リーダーたちのユーモア」(PHP研究所, 1999)で、次のように語っています。*1
指導者と呼ばれる人たちにとって、聴き手の注意を、つまり心を捉えるための手段としてのユーモアは、語るメッセージの内容に次いで重要なものとみなされています。
一流のリーダーたちのように、職場でユーモアを効果的に活用できるようになれば、部下や後輩たちとポジティブなコミュニケーションをとれるようになり、チーム一丸となって活躍できるようになるかもしれません。
そこで今回は、リーダーシップがうまくいかずにお悩みのリーダーに、ユーモアに自信が無くても実践しやすい磨き方を、具体例を交えながらご紹介します。
【ライタープロフィール】
上川万葉
法学部を卒業後、大学院でヨーロッパ近現代史を研究。ドイツ語・チェコ語の学習経験がある。司書と学芸員の資格をもち、大学図書館で10年以上勤務した。特にリサーチや書籍紹介を得意としており、勉強法や働き方にまつわる記事を多く執筆している
リーダーはつらいよ
チームリーダーの役割は決して容易ではありません。部下に仕事を丸投げする怠惰なリーダーは論外ですが、真面目すぎるリーダーもチームのパフォーマンスを低下させる可能性があります。
イントランスHRMソリューションズ代表取締役社長の竹村孝宏氏は、著書『部下をやる気にさせるモチベーション・マネジメントの技術』(中経出版, 2010)で、上司と部下の関係性が仕事の成果に与える影響について次のように分析しています。*2
緊張感が強すぎるリーダーは、高圧的な態度で接することが成果を上げる手段だと考えています。(中略)こうなるとメンバーは委縮してしまい、受け身の行動しかできなくなって新しい発想が出なくなります。
つまり、威圧的なリーダーシップは、部下の能力発揮を妨げ、生産性低下と職場の人間関係悪化を招きかねないということです。こうした雰囲気の悪い職場では、チームのパフォーマンス向上は望めません。
また、近寄りがたい雰囲気のリーダーには、部下が相談や意見を言い出しにくくなります。コミュニケーション不足は信頼関係構築を妨げ、部下の主体性やモチベーション向上を困難にします。
結果として、チームの士気とパフォーマンスが低迷し、リーダー自身が過度の負担を抱え込み、健康を害したり、上層部から資質を疑問視されたりする事態に陥る可能性もあります。
こうしたリスクを回避する鍵となるのが、リーダーのユーモアセンスです。たとえ間違いがあっても、おおらかに受け止めてくれる包容力のあるリーダーのもとでは、チームメンバーも安心して自らのポテンシャルを発揮できるようになるでしょう。
ユーモアのパワーを知る
いいアイデアが浮かばず思いつめたり、大きな失敗をして落ち込んだりしたとき、気の利いたユーモアに触れて、ふっと心が救われたことはありませんか?
そんなふうに、ユーモアには、ネガティブな感情を軽減するという効果があるのです。
筑波大学人間系准教授で社会心理学を専門とする藤桂氏らの、職場のユーモアをテーマにした論文では、「お互いの経験をユーモアとして話題に取り上げ他者と交流する」ことが、職場の「心理的安全性」を促進し、「創造性を高めている可能性」があると指摘しています。*3
たとえば、リーダー自ら失敗ネタをユーモア交えてオープンに話してくれると、なんだかホッとしますよね。厳しく叱られたり、批判されたりしないという安心感と信頼感が芽生えれば、立場の弱い人も、次のように自主性を発揮しやすくなるのではないでしょうか。
- リーダーに親しみがわき、相談しやすくなる
- ミスして批判されることを恐れなくてすみ、安心して新たなアイデアにチャレンジできる
実際に、『ユーモアは最強の武器である: スタンフォード大学ビジネススクール人気講義』(東洋経済新報社, 2022)の著者でアメリカの行動科学者ジェニファー・アーカー氏らは、リーダーのユーモアセンスが部下良い影響を与えることを示した調査を紹介しています。*4
多少なりともユーモアのセンスがあるリーダーは、冗談を言わないリーダーに比べて27%多く、部下のモチベーションを高め、尊敬を得ていた。部下のエンゲージメントは15%高く、創造性に関わる課題を解決するチームの数は倍以上だった。
すなわち、リーダーのユーモアセンスで、部下が自然に笑える状態にあることで、パフォーマンスが向上するわけです。
その理由は、笑うと脳内で次のような反応が起こるから。
→ 「ストレスを和らげ、気持ちを穏やかにする」*4
・「エンドルフィン」の分泌を増進
→ ストレスを軽くする。「ランナーズハイに似た状態を起こす」*4
・「オキシトシン」の分泌を増進
→ ストレスを軽くする。「他人に対する信頼感を増加させる」。別名「愛情ホルモン」*5
ストレスから解放され、ポジティブな気分に満たされ、職場の仲間同士信頼し合い、チーム一丸となって仕事に取り組める。そんな明るく楽しい環境なら、成果がぐんぐん上がりそうですよね。
職場のメンバーのパフォーマンスを向上させるには、ユーモアの力が必要不可欠なのです。
ユーモアを磨くための活動
とはいえ、「自分にはユーモアのセンスがなくて……」とお困りの方もいるかもしれません。しかし、ユーモアはスキルなので磨くことができるのです。
前出のアーカー氏らは、「ユーモアは魔法のように感じるかもしれないが、習得することができる」として、「三段落ち」という手法をご紹介しています。三段落ちとは「最初に単純な気づきを話して皆の注意を逸らしておき、最後に自分が気づいた本命の『おかしなこと』を明かすというもの」*4
始めの2つ目まではまともなことを言い、3つ目でボケて笑いを取るといった、落語や漫才などでもお馴染みのテクニックですね。
アーカー氏らは、次のような三段落ちのユーモアの例を挙げています。*4
オフィスで仕事していた頃が懐かしいです。休憩室で話をしたり、皆の机に励ましのメッセージを置いたり、それにパジャマのズボンではないものを履いていましたよね
休憩室の会話や机のメッセージなど、オフィスの日常風景をイメージしたところにで、いきなりパジャマのズボンがでてきたら、不意を突かれてクスっと笑ってしまうのではないでしょうか?
たとえば、大事な会議前にリーダーがチームメンバーを鼓舞するために語りかける場面で三段落ちの手法を用いるなら、次のようなセリフが考えられます。
「最後のひとつは、私が最初に会議に出たときの失敗談です。しかし、思いがけず逆さまスライドが参加者のインスピレーションを刺激し、新たなアイデアが生まれるきっかけになりました」
「ビジネスの可能性は予想外のところから生まれるものです。たとえ会議でちょっとしたアクシデントが起きたとしても、そこから生まれる意外な発見やアイデアを楽しみましょう!」
会議にありがちなことを2回聞いたあと、3回目にまさかの上司の失敗談がで出てきたら、部下やチームメンバーの張りつめていた心は、びっくりついでにフワッと和んでしまうのではないでしょうか。
ユーモアに苦手意識があるのなら、3段落ちのテクニックがおすすめ。上記の例を参考にしながら、「チームメンバーの心をひとつにするとき」「落ち込む部下をはげましすとき」などを想定し、自分が言いやすい3段落ちのセリフを考えてみてくださいね。
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仕事ができるうえにユーモアセンスのあるリーダーは、部下にとって親しみやすく魅力的なもの。チームメンバーがポテンシャルを発揮できるよう、ぜひあなたのユーモア力をみがいてみてくださいね。
*1引用元:amazon|リーダーたちのユーモア
*2引用元:日経クロステック|威圧するリーダーも放任のリーダーも部下の成果を下げる
*3カギカッコ内引用元:J-Stage| 職場ユーモアが創造性の発揮に及ぼす影響 ―心理的安全性の役割に着目して―
*4引用・カギカッコ内引用元:DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー|職場のユーモアは従業員のパフォーマンス向上に不可欠だ
*5カギカッコ内引用元:テルモ生命科学振興財団|ストレスと脳