褒められたのに嬉しくない……いったいなぜ?【アンラッキー君と博士の教室 vol.4】

「褒められたのに嬉しくない」と悩んでいるアンラッキー君

 
 

編集部より

「アンラッキー君と博士の教室」では、日常でつい感じてしまう「運の悪さ」や「うまくいかない感覚」を、科学の視点から読み解いていきます。主人公は、何かとうまくいかないぬいぐるみのアンラッキー君。そして彼を温かく見守る認知科学の専門家、バイアス博士です。

アンラッキー君
うーん……。

デザイン会議を終えたアンラッキー君が、なんとも微妙な表情で席に戻ってきました。

「どうしたの?」と同僚が声をかけると、アンラッキー君は首をかしげながら答えます。

アンラッキー君
部長から『デザインが可愛いね! もともとおしゃれだもんね!』って褒められたんだけど……なんだかモヤモヤするんだよね。
同僚
褒められてるじゃん。嬉しくないの?
アンラッキー君
うん……。僕が一番頑張ったのは、機能性とユーザビリティなのに、そこは全然言及されないし……。可愛いとかおしゃれとか、そこじゃないんだよな。

こうして、アンラッキー君はいつものネガティブモードに突入してしまいました。

褒められても嬉しくないなんて、プライドが高いのかな? 
人として欠陥がある? いや、そもそもこの仕事が向いていないんじゃ……
 
 

 

ぐるぐると考え続けるアンラッキー君の視界に、見覚えのある白衣が入ってきました。

博士
博士
ほほう、褒められて困っておるのか。
アンラッキー君
博士! そうなんです、どうせ僕はだめなんですよ……。なにもかもアンラッキーになる星のもとに生まれてきたんです……。
博士
博士
アンラッキー君よ、それはアンラッキーではないぞ。じつは、褒め方にはコツがあるのじゃ。そのコツを外しているから、アンラッキー君の心には響かなかったんじゃな。
アンラッキー君
褒め方にコツが?
博士
博士
そうじゃ。コツを押さえていない褒め方では、相手は嬉しくならない。むしろ『雑音』になってしまうのじゃよ。

なぜ褒め言葉が響かないのか?

博士はいつものように、ホワイトボードに図を描き始めました。

博士
博士
人間は、自分自身が『ここはよかった』と納得しているところを褒められると嬉しくなる。脳の報酬系が刺激されるからじゃ。 じゃが、『なんでそこ?』と思うところを褒められても、報酬系が働かず、嬉しくならないのじゃ。*1
アンラッキー君
そうか、『機能性』を褒めてほしかったのに『デザインの可愛さ』を褒められたから、報酬系が働かず、心に響かなかったのか!
博士
博士
その通り! さらに、『何を褒めるか』によって、褒められた側の行動が変わることもあるのじゃ。

博士は説明し始めました。

博士
博士
『能力』を褒める場合と、『努力』を褒める場合。このふたつがもたらす結果には大きな違いがあるんじゃ。

研究によると、『頭がいいね』『もともと賢いんだね』というように『能力』を褒められると、その後自分を賢く見せるために間違いを恐れ、チャレンジしなくなるということがわかっているんじゃ。*2

アンラッキー君
え、褒めることが逆効果になることもあるんですか?
博士
博士
そうじゃ。『頭がいい』のように、もともとの能力を褒められるより、自分が『努力』して現状を変えたという点を褒められるほうが、もっと頑張ろうという気持ちにつながるんじゃ。
アンラッキー君
なるほど。頑張ったところを褒められるほうが嬉しいのはわかる気がするな。
ホワイトボードを使って解説する博士

あなたも経験ありませんか?

このように「褒められてもピンとこなくて、モチベーションが上がらない」という経験をしたことはありませんか? 身近な例を紹介します。

 

◇努力を見ないで、能力を褒められる
例:新人教育のマニュアルをつくり直し、新人の定着率を上げた

👤 上司

「やっぱり頭がいいから簡単にできちゃうね! さすが〇〇大卒!」

👔 あなた

(いや、働いて得た知見を活かして、たくさん試行錯誤した結果なんだけどな……)

 

◇「なぜそこ?」というところを褒められる
例:会議で「ユーザビリティを改善し、アプリの離脱率を半減した」という報告をした

👤 リーダー

「スライドがきれいで読みやすかったよ!」

👔 あなた

(たしかにそこは気をつけてるけど、いま評価してほしいのは改善の成果なんだよなあ)

褒められたのにモヤッとしたときは……

アンラッキー君
相手に悪気はないのはわかるんだけど、このモヤモヤをどうすればいいんだろう?
博士
博士
そんなときは、自分で自分を褒めればいいのじゃ

自分が褒めて欲しい『褒め方』を相手に要求するのは至難の業。そこで、自分のことは自分で褒めるようにしてみましょう。

「自分で自分を褒めたって、嬉しくないんじゃないか?」このように思う方もいるかもしれません。

しかし、公立諏訪東京理科大学工学部教授で脳科学者の篠原菊紀氏は「自分で自分を褒めることでもやる気は出る」と述べています。*3

「脳は主語を理解しない」というのは有名な話。誰かから褒められるのも、自分で自分を褒めるのも、脳から見れば同じことなのです。

さらに篠原氏は、褒めることを繰り返すと、脳の線条体(行動と快感を結びつけるやる気の中枢)が『これをしたら褒められる』と予測し、活性化するようになると説明しています。*3

つまり、自分が「ここは頑張った、よくなった」と思うところを、具体的に褒めることを繰り返せば、気分がよくなるだけでなく、作業が捗る効果も期待できるというわけです。

自分で自分を褒めれば、モヤモヤは力に変わる

アンラッキー君
僕がモヤモヤしていたのは、相手が悪いわけでも僕がアンラッキーなわけでもなく、褒めるポイントがズレていただけなんですね。
博士
博士
その通り!ちなみに、自分で自分を褒めることは、モヤモヤを晴らすばかりではない。

『頑張った点・よくなった点』を言語化できるようになり、会議でもわかりやすくアピールできるようになる。

そうすれば、周囲からもっと納得のいく褒め方をされるようになるじゃろう。

アンラッキー君
よーし!ノートに『機能性を高めることができた。日々の研究の成果を出せた』って書いておきます!なんだかやる気が出てきました!
博士
博士
元気なアンラッキー君に戻ってなによりじゃ。

 

(参考)

*1 東洋経済オンライン|東大卒であることが不安になった…中野信子が「頭がいいんですね」と褒められてもうれしくなかった理由
*2 Mueller, Claudia M. and Carol S. Dweck (1998), “Praise for intelligence can undermine children's motivation and performance,” Journal of Personality and Social Psychology, Vol. 75, No. 1, pp.33-52.
*3 日経Gooday|自分で自分を褒めるとやる気が出るって本当?

【ライタープロフィール】
柴田香織

大学では心理学を専攻。常に独学で新しいことの学習にチャレンジしており、現在はIllustratorや中国語を勉強中。効率的な勉強法やノート術を日々実践しており、実際に高校3年分の日本史・世界史・地理の学び直しを1年間で完了した。自分で試して検証する実践報告記事が得意。

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